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再起(中)

『良くやった、サラ』


 僧侶の首から突き出たナイフを見て驚く冒険者達の、更に向こう側。

 ニヤリと笑みを浮かべるユーゴが見える。

 本当にあの相方は意地が悪いな、とサラは冒険者に同情していた。


 あえて残した人間の痕跡。

 意味深な登場。

 威圧的な格好に態度。

 一騎打ちと見せかけた踏み込み、大きな音、啖呵。


 それらは全て、サラの不意打ちを成功させるための演技だった。


 自分がスカウトを担当していたとしても、同じように動いただろう。

 そしてユーゴに集中し、不意を打たれていただろう。


 教科書通りの冒険者の手法を逆手に取った彼の戦術は、出会ってから磨きがかかる一方だ。

 その頼もしい仲間は二人の戦士と戦いを始めているが、サラも悠長に戦いを見守っている場合ではなかった。


 僧侶の首から、スルリとナイフを引き抜く。

 それだけの簡単な動作だったが、ギリーはぎょっと目をむいた。

 生きた人間の体に突き刺した刃物は簡単には抜けない。骨や筋肉が邪魔をして、引き抜くのも一苦労する。


 抵抗を受けずにナイフが抜けたのは、骨と筋の隙間を綺麗に断っていたのだろう。

 つまり、この女もただの偵察兵ではないのだ。


「ギリー、エルヴィンを守れ!」

「言われなくても!」


 ギリーは腰からククリナイフを引き抜いた。

 だが、敵のほうがエルヴィンに近い。

 どちらが先に魔法使いの元にたどり着くか、サラとギリーの足は同時に踏み出された。


 だが、最も早く反応していたのは、守られるはずの少年だった。


『炎よ!!』


 少年は炎を武器として象らせずに、最速でただバラまいた。

 手にしていた杖の先から炎が撒き散らされる。

 それがサラに届くことはなかったが、近づくこともまた出来ない。


「やるわね」


 火はほぼ全ての生物に有効だ。

 それは人間と同じ肉の固まりであるハイ・レブナントにとっても同様である。

 サラは吹き出す炎を迂回して近づくしかなく、その僅かな時間でギリーはサラとエルヴィンの間に割り込んで、彼女を蹴り飛ばしていた。


「いいぞ、エルヴィン!」


 ギリーは無詠唱で魔法を行使したエルヴィンを褒めた。

 単純に炎を生み出すだけでも、詠唱を行わずにプラーナを練ることが出来るのは高位の魔法使いだけなのだ。それに加えて判断力もある。

 少年が自分と同じ年齢になるころには、一角の人物になっているだろう。

 だが、一番驚いていたのはそのエルヴィン自身だった。


「きっと、プラーナが濃いおかげだと思います……」

「そうなのか?とりあえず、このまま援護頼む」


 言うが早いか、ギリーはサラの間合いに踏み込んで、彼女を盛んに攻め立てた。

 彼が守ってくれるならば安心だ。エルヴィンも今度こそ杖を構えて、しっかりと詠唱の準備に入る。

 ギリーは偵察兵の役割を担っているが、戦闘能力も高い。同じテーブルに同席した冒険者の中にスカウトがいなかったからそれを専門としていただけで、戦士として戦う筋力も才能もあった。


 彼に守ってもらい、エルヴィンがトドメを刺す。

 よくあるいつもの光景になるはずだった。


 だが詠唱を始めたわずか数秒の間に、そのギリーが目の前で圧倒されはじめる。

 女性のナイフ使いの動きは素早くない。

 ゆったりと構えたナイフは真っ直ぐ突き出されるわけでもなく、ゆるやかな弧を描いている。

 だが、それを迎撃しようとしたギリーはことごとく体勢を崩されて、いつのまにか数歩を押しこまれている。

 援護をしなければ。


『エアリアル・カッター!!』


 阿吽の呼吸でギリーは飛びのき、サラを見えない空気の刃が狙う。

 普段ならば切り傷を与える程度の魔法だが、破壊力が増幅されるこの空間ならば、かなりの威力が期待出来た。

 盾も持たないスカウトならばこれでおしまいだ。


 だが、サラの機転は彼らの想像力の更に上を行った。

 ギリーと同じく飛び退いたサラは床から盾(死体)を拾い上げ、あっさりと魔法を防いだのだ。


「てめぇ……!」

「凄いわね、キミ。この部屋の中とはいえ、人間の首をあっさり切り飛ばすなんて。おかげでこの人はもう蘇生出来ないだろうけど、気にしなくていいわ」


 怒りで飛び出したギリーに向かって、サラは手足が無くなって軽くなった死体を投げつける。

 それを受け止めてしまったのが、ギリーの敗因となった。

 姿勢を崩したギリーの首を、サラのナイフが一文字に切り裂いた。

 たった一振りで、これまで苦難を乗り越えてきた仲間の命が奪われる。

 この日まで一人の脱落者も出さなかったパーティーで、唯一得られなかった経験がエルヴィンを襲い、彼は竦んでしまう。

 そしてその一瞬で、エルヴィンの命もまたこの世から消し飛んだ。


「あ゛」


 動きが止まったエルヴィンの首に、暗闇から飛んできた透明な液体が突き刺さっていた。

 スカウトがいなくなり、危機を察知する者がいないのならば、奇襲のし放題である。

 吹き出る血を止めようと首もとを抑えるエルヴィンだったが、もっと致命的なことに気づいた。

 呼吸が出来ない。声を出すことも出来ない。

 声を出そうとすると、喉に入った液体がガボガボと震えた。


(くる……し……)


 足が震えだし、床に倒れたエルヴィンの視界には二人の女性が居た。


「ずいぶんと遅い援護だったわね」

「この子の才能が凄いのは見て分かるでしょ?なるべく傷つけたく無かったんだってばー」

「だからって戦闘中に念話で計画を変えられても困るのだけど」

「サラなら余裕だよ~。なにげに接近戦も強いじゃん!」


 楽しそうな会話は、いまだに戦闘が続いているとは思えないほどのんきなものだった。

 彼女達の会話の意味を考える間もなく、窒息したエルヴィンの視界は黒に染まり、息を引き取った。

 少年が死んだことを確認して、エクセレンも喉に詰めた水に掛けていた魔法を解除する。

 少年の口からこぼれ出す血泡と水をキスしてすするネクロマンサーは無視して、サラは腕を組んでユーゴの戦いを見つめ始めた。


「ふっふ~ん。気になるぅ?」

「……体がそのままなのだから、面影が見えるのは当然よね」


 挑発するようなエクセレンの思惑に乗っかるのも面白くない。サラは冷たく切り返すが、口にした通りだ。

 やはり面影が見えてしまえば、思うこともある。

 彼女は口を閉じ、クラウドの体を自在に操り冒険者達を圧倒するユーゴをただじっと見つめていた。



◆◆◆



 二人の戦士の腕は悪くなかった。それどころか、十二分に強かった。

 ユーゴの肉体が元のままだったら、剣技だけでは一対一でも勝てたかどうか怪しいレベルだ。

 このまま放っておいたら砦にたどり着いてもおかしくないレベルである。


 二刀流ならぬ二斧流の戦士の攻撃は苛烈の一言に尽きた。

 以前、アシッド砦を守っていたオーガ・キュイラスに挑んだ仲間を思い出させる戦いぶりだった。

 残念ながら、武器の振り方や立ち回りまで同じだったので、苦もなく魔剣で霧飛ばしたが。


 だが、リーダーと思われる赤髪の剣士は、それを更に上回る実力者だった。

 攻撃を的確に盾で防ぎつつ、堅実に突きを入れる。フットワークも軽く、魔剣を警戒してかすり傷すら許さない。


 しかし、第四位階の肉体と霧の魔剣を相手にするのは分が悪すぎた。

 超重量の剣は盾で防いでも衝撃に体が浮き、腕が痺れ、動きは鈍くなる。

 剣士が追い込まれていることを自覚して舌打ちしたのをみてとり、ユーゴは勝負をつけるために踏み込んだ。


 行ったのは右足から。

 右手に握った魔剣で水平斬りを"大振り"で盾にぶち当てる。

 コツを掴んできたのだろう、腰をしっかりと落とした防御のおかげで体は地面を離れず、どっしりとした構えのまま耐える。

 それもそのはずだ。ユーゴは彼がそうやって防御出来ることを分かっていたから、そうさせたのだ。


「動きが止まってるぜ」


 右足を軸に体を時計回りに半回転させ、左足で盾を蹴りぬく。

 剣で打ち付けたのとは逆方向だ。

 盾をしっかりと握りこんでいたアルフの体勢が崩れ、体が泳ぐ。


 ユーゴが剣を構え直して追撃をしていたのなら、アルフの迎撃は間に合ったかもしれない。

 だが、ユーゴは振りぬいた左足を地につけると、そのまま時計回りで体をぐるっと回転させた。

 振り上げられた右足のかかとが、勢い良くアルフの側頭部に直撃する。


「うわぁ、最近練習してた回転蹴りだねぇ」

「あんな隙だらけの技を使うくらいなら、魔法でも覚えたほうがいいんじゃないかしら」


 女性陣は楽しそうに観戦していたが、戦闘はそこで終了だった。

 今度こそ床から引っこ抜かれ、アルフの体が宙を舞う。

 数メートル吹っ飛んで着地したアルフの生死は、折れた首の角度を見れば明白だった。


 もって30秒。

 第三位階に上がろうとしていた冒険者の、あっけない幕切れだった。



◆◆◆



 ユーゴは戦士達から、サラとエクセレンは僧侶と偵察兵の肉体に残ったプラーナ・コアをその手で破壊して、溢れ出るプラーナを存分に吸収した。

 特に、戦士二人のプラーナは上質だったのだろう。

 クラウドの体が強力だからか、中々取り戻せなかった懐かしい感覚に、ユーゴは自然と笑みを浮かべていた。


「どうかしら?」

「……あぁ、ようやく戻ってきたぜ」


 粛清隊の襲撃で、ユーゴはレナとクラウドの体を次々と奪っていった。

 プラーナ・コアを魔剣で破壊されたはずなのに生き残った理由は死霊術師であるエクセレンにも、ユーゴ自身にも分からなかったが、結果として彼は他のレブナントが出来ない「他人の体を乗っ取る」という離れ技を習得していた。


 だが、弊害もあった。ユーゴはコアに篭った魂ごと肉体を移動するが、どうやらコアはその度に新しく作られるらしい。

 つまりハイ・レブナントとしてではなく、レブナントの状態になってしまうのだ。

 しかもどうやら元の肉体の強度に比例して、ハイ・レブナントに進化するのに必要なプラーナ量も上昇したらしく、ユーゴは中々ハイ・レブナントに戻れずじまいだったのだ。

 肉体を奪ってから一ヶ月、プラーナサーキットで以前よりも急速にプラーナを充填していたにも関わらず、前と同じだけの時間をかけてようやく生身の肉体を取り戻したのだった。


「やっぱり、肉体が死んでるよりもこっちの方がいいな」

「……何度も死体と生体を行き来した人間なんて居ないでしょうから、あなたしか味わえない特権よ。良かったわね」


 サラの口から出るのは皮肉だが、その表情が柔らかい。

 喜んでくれているからだろうとユーゴは判断して苦笑いを浮かべる。


「でも、強い肉体を奪えてもまたレベル上げをやり直すのはコリゴリだぜ」

「私としては、さっさと他の体に乗り換えてくれた方が嬉しいのだけど?」


 それなりに好もしく思っていた相手が、元恋人の死体を乗っ取ったというのは非常に複雑だった。

 割りきって敵対したはずのその肉体に体を預けるというのは、死体歴数十年のサラといえども躊躇うのに十分な理由だ。


 とはいえ、実利としてクラウドの肉体が有していた戦闘力は軽々と手放せるものでもない。サラもそれをわかった上で小言を言っているのだから、ユーゴには苦笑を浮かべるしか出来ることはなかった。

 話題をそらすために、ユーゴは最後の死体を持ち上げる。


「で、エクセレンはこれが欲しいんだっけ?」

「うんうん!その子は良いよ~。才能もあるし、良い死霊術師に仕立て上げてみせるよ!」

「……そこは育て上げるって言って欲しかったなぁ」


 エクセレンは本当に新人とコミュニケーションが取れるのだろうか。

 一抹の不安を覚えながらも、ユーゴ達は砦に戻り、久々の生身から死臭を洗い流すことにした。

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