第二話 わたしもコーヒー淹れたいです
お師さま曰く、弟子というものは自分の子供も同然らしい。
だから、師が弟子に朝食を作るのも当然のことなのだという。
ときどき、それでいいのかと思うこともあるけれど、まあ、お師さまがいいと言ってくださっているのだから、きっとそれでいいのだろう。
ただ、コーヒーを淹れるのだけは、必ず俺がやるように言われていた。
というのも、お師さまはどうも俺の淹れるコーヒーが相当気に入ったらしいのだ。
もちろん、弟子としては光栄なことこの上ないので、それに不満を覚えるなんてことはありえない。
でも、仕事の方面でも役に立てる弟子になりたいという思いも、俺の中には確かにあった。
いや、そのことはひとまず置いておこう。
いま一番大事なのは、コーヒーだ。
俺は一階に下りるやいなや、さっそくダイニングキッチンへと向かう。
お師さまとレイラさん、それとリゼの三人は、リビングにあるテーブルの前に座って待機。
しかし、これはいつものことなのだけれど、レイラさんがさっそく騒ぎだした。
「シロウ~! もうご飯は並んでるのに、まだ食べちゃダメなの~?」
それに応えるのは、お師さまの渋い声。
「いま渉がコーヒーを淹れにいってくれているだろう。あいつが戻るまで待て」
「ぶ~ぶ~! シロウのケチ~!」
「なぜ、お前はそう落ちつきがないんだ。食い意地が張っているんだ。ほんの数分が待てないんだ」
「別にいいじゃない。どうせ見た目は十歳なんだから~」
「だが、実年齢は今年で二十歳だろう」
お師さまの、実に的確な指摘。
そう、レイラさんの実年齢は二十歳だ。
どこからどう見ても十歳前後の子供にしか見えないけれど、実際はもう二十年近く生きているのだ。
もちろん、そんな人間が自然に生まれるなんてことはありえない。
『人造人間の法』という魔術によって造られた、人工生命。
『シュテルン』の幹部となるべく生み出された、小人型の人造人間。
造られる過程で様々な知識を与えられ、遺伝子的な『産みの親』を持たずに、この世に生を受けた存在。
それが、レイラ・インタラカンチットという少女だった。
そんな彼女と並び立つ地位にいるお師さまが、嘆息混じりに言葉を続ける。
「弟子たちには『常に淑女たれ』などと教えているくせに、お前はまったく……」
「弟子は弟子、私は私よ」
「そこは胸を張るところではないだろう。いや、そもそも、だ」
一瞬にして、リビングの空気がピンと張りつめる。
それは、キッチンにいる俺にも伝わってくるくらいの――。
わかっていた。
唐突に、前もっての連絡もなしにレイラさんたちがやってきたせいで、お師さまはすごく機嫌を悪くしている。
それは、ちゃんとわかっていたのだけれど。
でも、なにもここまで露骨に――
「そもそも、お前はなぜ、まだ朝食を済ませていないんだ。どこかで適当に食べてくればよかっただろう」
そっちっすか、お師さま……。
インスタントコーヒーの瓶を手に、がっくりとうなだれる俺。
いや、てっきり、事前の連絡もなしに訪ねてきたことを、問いつめる気でいるのだろうとばかり思っていたもんだから。
レイラさんの返答は、いたって軽やかなもの。
「だって、シロウの作るご飯、美味しいんだもの」
「だもの、ではない。もしも私たちがすでに朝食を終えていたら、どうするつもりだったのだ」
「改めて、私たちの分も作ってもらうに決まってるじゃない」
「決まっているのか……」
「この屋敷に来ておきながら、シロウのご飯を食べずに帰るなんて、ありえないわ。人の良いシロウのことだもの、頼めば絶対に作ってくれるでしょうし」
「当人を前にして『人が良い』などと言うのはやめろ。せめて『いい人』にしておくべきだ。他者の機嫌を、意味もなく損ねるものではない」
「はいはい。でも、事実でしょう? 『弟子は自分の子供のようなもの』なんて考え方、人が良い人間にしか持てないもの。――あら? どこに行くの? リゼット」
「少し、渉のお手伝いに」
……おいおい。
いらないぞ、手伝いなんて。
「あの、渉」
「もう終わる。リゼは戻っておとなしく待ってろ」
やってきた彼女に顔を向けることもせず、俺はそう返した。
しかし、リゼは聞き入れやしない。
「でも、わたしもコーヒー淹れたいです」
「今度な。本当に、もう淹れ終わるところだから」
「ええーっ! やりたいです! やりたいです! やってみたいですぅーっ!」
「駄々をこねるな! 今度、ちゃんと淹れ方を教えてやるから!」
思わず振り向き、少し強めにそう言うと、リゼはぷうっと頬を膨らませた。
「なんで、いまじゃダメなんですかぁ!? わたし、渉やお師さまのお役に立ちたいのにぃ!」
「腹減ってんだよ、俺は! レイラさんに負けず劣らず、俺も早く朝メシが食いてえんだよ!」
「なら、わたしが代わりに食べてさしあげますから!」
「意味ねえ! ……ああもう、わかったよ! でも、もうほとんど淹れ終わるってのは本当なんだ! だから、いまは見学! 淹れるところを見るだけにしとけ!」
「わかりましたっ! 渉、らぶぅぅぅぅ!!」
うおっ!? いきなり背中に抱きついてきやがった!?
「ちょっ!? 右手にポット持ってるのがわかんねえのか!? 火傷したらどうしてくれんだ!?」
「大丈夫です! 人間、そのくらいじゃ死にません!」
「お前のその価値観は全然大丈夫じゃねえな!?」
まったく、こいつは……!
と、そこで背中にあたっている柔らかいものの存在に、ふと気づく。
リゼが着ているのは、ゆったりとした白いワンピースだ。
当然、身体の線なんて出ておらず、彼女のスタイルもわかりづらかったのだが。
――こいつ、もしかして、けっこう胸デカい?
……って、いやいやいやいや、なに考えてんだ俺は!
それよりも早く離れてもらわんと!!
「リゼ、ちょっと離れろ! 淹れにくい!!」
「え? 家事をしている人と一緒にいるときは、この姿勢でいるのが普通でしょう?」
くうっ……!
さては、これも戦乙女メンバーの入れ知恵か!?
「確かに最初のうちは動きにくいですけど、すぐに慣れますって。少なくとも、わたしはすぐに慣れました」
うん? それは……どういう意味だ?
「戦乙女のところにいたときにも、こんなんやってたってことか? それも、お前が抱きつかれる側で?」
「ああ、いえ。そこは、なんというか……。あ、でもほら、抱きついてるのはわたしなんですから、硬いものがあたって落ちつかない、みたいなことはないでしょう?」
「硬い……? いやむしろ、柔らかいものがあたって落ちつかねえっつうか……」
事実、俺の手元を見ようとリゼが身体を動かすたびに、背中にあたってるものは形を変えるし。
つけてるブラの生地がかなり薄いのか、その感触がやたらと鮮明に感じられるんだよなあ……。
「はい? いま、なにか言いましたか? 渉」
「ああいや、なんでもねえ! ……っと、ほれ、もう淹れ終わったぞ! だからもう離れろ!!」
「……? はい、わかりました」
くそう、今朝のキスのあともそうだったが、こいつ、本当に動じねえなあ。
単なる馬鹿なのか、それとも大物なのか。……いや、後者はねえか。
それとも、あれか? 俺が意識しすぎなのか?
ちょっと抱きつかれたくらいで、焦りすぎなのか?
いやいや、それはないだろう。
ああ、ないとも。
ないに決まってる。
ない……はずだ。
ともあれ、覚えてろよ、リゼに色々と吹き込んでくれやがった戦乙女の面々ども。
次に会ったときには、必ず……!
必ず……いやいや、俺なんかの実力で、なにができると?
戦乙女の構成員は、そのほとんどが『エインヘリアル』から昇格した人間だってのに……。
そんなことを考えながら、四人分のコーヒーをお盆に載せ、俺はリゼと共にリビングへ。
そして、四人がそれぞれテーブルにつき。
ようやく、朝食の時間となったのだった。
◆ ◆ ◆
お師さまお手製のスクランブルエッグをつつきながら、まず口を開いたのはレイラさんだった。
「ねえ、シロウ。いつも思うのだけれど、シロウはなんでワタルのコーヒーを絶賛できるの? いたって普通のインスタントコーヒーじゃない」
紫を基調とした上着に、白いミニスカートという出で立ち。
銀色の髪を腰まで伸ばしている少女は、三年前に俺を拾ってくれたときとまったく変わらぬ姿のままだ。
しかし、それは当然のこと。
小人型の人造人間は、十歳前後で身体的な成長が完全に止まってしまう。
彼女よりもさらに前に造られた人造人間には、他にも『短命』などの欠点もあったのだが、レイラさんの場合は『ようやく造ることのできた成功作』とのことで、寿命自体は普通の人間と変わらないらしい。
それはともあれ、銀髪の少女の問いに、お師さまが答える。
ちなみに、お師さまの名前は不破志郎。
そろそろ白髪も混じり始めてきた、五十一歳の日本人男性である。
「いたって普通、だからこそいいのだ。美月が淹れたものは甘すぎてかなわん。それに、いかに魔道士とはいえ、私とて『肉体』という縛りを持った人間だ。身体を、そして精神を休める時間は欲しい。……それはそれとして、だ。いい加減、私の本名を連呼するのはやめろ、カノープス」
カノープス。
それは、『シュテルン』におけるレイラさんの肩書きだ。
『シュテルン』とは、ドイツ語で『星』のこと。
だから『シュテルン』の幹部は、その全員が肩書きとして星の名前を冠している。
「なあに? じゃあ、いまからでもアケルナルって呼んでほしいの? シロウ」
「カノープス……!」
「別にいいじゃない、シロウ。それともこの会話は、他の組織の魔道士連中に筒抜けになっているとでもいうの? そんなお粗末な結界しか、この屋敷には張られていないっていうのかしら?」
「そのようなことは、ないが……」
「なら、シロウって呼んでも問題はないじゃない。それで、そろそろ本題に入りたいのだけれど――」
「断る、と言ったはずだ。リゼットを預かれ、という件についてはな」
レイラさんの言葉をさえぎって、早々に拒否を口にするお師さま。
銀髪の少女は、それにムッとした表情になって、
「どうしてよ。『エインヘリアル』の面倒を見るのは、性格的にあなたがもっとも向いている。他の『シュテルン』メンバー全員が、そう言ってたじゃない」
「なら問うが、その全員というのは誰だ? ポラリスとスピカ、レグルスがそう言っていたのは事実だが、それでもたったの三人だろう。『この玩具、クラスの友達全員が持ってるから』などとねだってくる子供でもあるまいに」
「むむむむむ……っ!」
「引き続き、お前が面倒を見ればいいだろう、カノープス。女性である以上、戦乙女候補にもなるのだから」
それにレイラさんは、パタパタと手を振ってみせる。
「ああ、それはダメ。半年前の一件で、いい『駒』が手に入ったのよ。『私たちの駒』じゃなくて、『私の駒』になりそうなものがね。私のほうは、当分、それの調教で手一杯になりそうだから、リゼットの面倒までは見ていられないの」
「私情優先ときたか。……半年前の一件のときに手に入ったということは、希望の種か?」
「ご名答。あ、でもリゼットも希望の種だから」
レイラさんに目で促され、お師さまがリゼを一瞥する。
その瞳には、かすかな驚きの色が見てとれた。
あれ? もしかしてお師さま、気づいてなかった?
「――渉。カノープスの言っていることは本当か?」
「え? あ、はい。リゼは確かに俺と同じく希望の種ですよ」
意外な気持ちをそのままに首を縦に振ると、お師さまは「そうか……」と押し黙ってしまった。
ほ、本当に気づいてなかったのか。お師さま……。
と、くいっと裾を引っぱられた。
目を向けてみると、そこには首を傾げているリゼの姿が。
「あの、渉。半年前の一件というのは、一体……?」
「あー……、半年前にな、『破壊と殺戮の王』とかいうのが、この世界に召喚されたんだ。まあ、そいつ自体は瀬川和樹っていう奴が滅ぼしてくれたんだけどな」
もっとも、瀬川和樹は瀬川和樹で、その一件からしばらくが経ってから、どういうわけか行方をくらませちまったんだけど。
まあ、それは蛇足っちゃあ蛇足か。
「ちなみに、『破壊と殺戮の王』が倒されたときにな、勢いあまってなのか、瀬川和樹は『聖なる力の余波』みてえなもんを世界中に飛び散らせちまって――俺やお前を始めとした何十人もの人間が、その『力』を手に入れることになっちまったんだ。……それも、強制的にな」
そうして『力』を手に入れた人間のことを、スペリオル聖教会を始めとした各組織は『希望の種』と呼ぶようになった。
でもって、同種の『力』ってのは惹かれあうようにできている。
だから、希望の種同士であれば出会った瞬間に、そうでなくても、『聖なる力』を持っている人間であれば比較的容易に、その人間が希望の種であるか否かがわかっちまうってわけだ。
意外と理解力はあるほうらしく、リゼはあっさり「なるほど、よくわかりました」とうなずいた。
それと替わるように口を開いたのは、お師さまだ。
「希望の種の『力』は未知数であるため、危険。可及的速やかに抹殺すべし。確か、レグルスはそう言っていたな?」
「ええ。もっとも『『シュテルン』の監視下におき、その『力』が救世のために役立つというのなら、殺害の必要はない。むしろ積極的に保護すべし』という但し書きもあったけれど」
「……アルク――アルクトゥルスはどうだ? 彼自身は魔道士ではないが、面倒見の良さという一点では私の上をいくだろう」
「タツキにリゼットの面倒を見させようって? ……シロウ、本気で言ってるの? いまのタツキはそれどころじゃないって知ってるくせに。息子のカズキが失踪してるんだから。――まあ、もっとも。カズキのほうは、すでに私の部下――ロスヴァイセが行方を突きとめているんだけれど」
なんと。
瀬川和樹の妹や弟を始めとした、彼の仲間たちが血眼になって捜索してるってのに、レイラさんはもう瀬川和樹の居所を探り当てていたのか。
戦乙女のトップという肩書きは、伊達じゃないな。
お師さまはというと、感心よりも呆れの感情のほうが強かったらしく、頭を振って嘆息した。
「アルクに、そうと教えてやればいいものを……」
「教えてあげたところで、どうにもできないわよ。カズキはいま、救世主として異世界に召喚されちゃってるから。じき、ロスヴァイセが彼を連れて戻ってきてくれるでしょうけど、それまでは私だっておとなしく待ってるしかないの」
「ふむ。だとすると、あとは……」
「シロウ、さすがに往生際が悪いと思うのだけれど?」
ここにきて、とうとうレイラさんのジト目がお師さまに突き刺さった。
お師さまは、少々気まずそうに彼女から視線を逸らし、
「……私にも、果たすべき目的というものがある。美月や渉を置いて海外に行くことも少なくない。私に預けようというのなら、自然、面倒を見るのは美月と渉――それも、当面は渉のみということになるが……さすがに渉では経験が不足しているだろう?」
こうもはっきりと言われると傷つくけれど、事実なのでなにも言い返せやしない。
おまけにレイラさんも、
「かまわないわよ、経験が不足してても。何回か実戦に出してみてわかったんだけどね、リゼットは『生きのびること』に特化してるみたいなの。致命傷が致命傷にならないっていうのかしら? だから、言うことを聞かないようなら、殺すつもりで痛めつけちゃっても大丈夫」
この人は、またサラッと物騒なことを……。
……けど、まあ。
「だが――」
「俺はいいですよ、お師さま。もちろん、俺に任せてもらえるのなら、ですけど」
『シュテルン』の監視下に置かれていない希望の種には、命の保障というものがない。
レグルス率いる、戦闘に特化している集団が抹殺に動く可能性もあるのだ。
つまりここまでの会話は、レイラさんによる、お師さまへの一種の脅迫。
お前が面倒を見ないと、リゼット・オーディアールは『シュテルン』の人間に殺されるんだぞ、という。
彼女をこのまま見捨てるのは、お師さまの性格的に難しいだろう。
レイラさんはそこまで見抜いて、今日、リゼを伴ってやってきたのだ。
だったら、彼女のお望みどおり、面倒を見てやればいい。
お師さまの弟子のひとりである、リゼと同じ『エインヘリアル』である俺が。
お師さまのおかげで『シュテルン』の監視下に入れた、彼女と同じ希望の種である俺が。
そもそも、俺はもうリゼに『正しい常識ってやつを教え込んでやるから覚悟しろ!』とか言っちゃってるのだし。
「……わかった。頼むぞ、渉」
「はい!」
渋々ながら、という感じのお師さまの言葉に、俺は力強い返事を返す。
すると、それにレイラさんが茶々を入れてきた。
それも、なんか『にんまり』という表現がしっくりくる笑顔を浮かべて。
「あら、もしかしてワタル、女の子をいたぶるのに興味あるの?」
「ありませんよ!」
なんてことを言うんだ、レイラさんは。
「俺はただ……同じ希望の種として、見捨てるのは忍びないって思っただけです! それだけです!!」
まくしたてるように、大声で言いきる。
と、そのときだった。
「わ、渉ぅ……。――らぶぅぅぅぅっ!!」
「どあああああっ!?」
なぜか、またしてもリゼに抱きつかれる俺。
「な、なんで……?」
思わず呆然と呟いてしまった俺に、レイラさんが捕捉してくれた。
「あ、それ、リゼットの親愛の表現だから。愛情表現とは似て非なるもの、というのがポイントね」
「ラブとか言ってますが?」
「リゼットはライクのつもりで使ってるんじゃないかしら」
「実は戦乙女のメンバーが教えた、とかじゃないでしょうね?」
「あ、その可能性もあるわね。いえ、あるどころか、すごく高いんじゃないかしら」
やっぱりか……。
「まあ、それはいいとして。ワタル、リゼットがここに住むって無事決まったことだし、リゼットと一緒に、ちょっとお買い物に行ってきて」
「はい? お買い物?」
「うん、お買い物。リゼットの服って、いま着てるものしかないから。あ、下着も忘れずに買ってきてね」
うおい。それは健全な高校生男子にはハードル高すぎやしませんかね……。
「制服はサイオンジ経由で用意してもらったのだけどね。あ、硝箱学園への転入手続きなら、ちゃんと済ませてあるわよ? もちろん、ワタルと同じクラス」
「マジっすか……」
ちなみに、今日は日曜日。
つまり、リゼが学園に転校してくるのは明日からってことになる。
どんだけ用意周到なんだよ、レイラさん……。
「同じクラスのほうが、調教もしやすいでしょう?」
「せめて教育って言いましょうよ、レイラさん……」
「似たようなものじゃない。――あ、もう二人ともご飯食べ終わってるわね。なら、すぐにでも出発なさい。時間は有限なのよ? ワタル」
「へ~い……。ほれ、行くぞ、リゼ」
「わかりましたっ!」
俺から離れ、すくっと立ちあがるリゼ。
つーか、ずっと抱きつかれてたのに、そのまま放置してたのか、俺。
なんか、早くもリゼに毒されてきてるなあ……。
そうして、俺たちは。
お師さまとレイラさんに見送られ、屋敷をあとにしたのだった。
目指すは街にあるデパート。
目的は、そこでリゼの服をひととおり……下着まで含めて、三、四日分ほど揃えること。
――あの、このミッションの難易度、いくらなんでも高すぎやしませんかね……?
今回はレイラと志郎を中心に書いてみた結果、どうにも設定説明回っぽくなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
『シュテルン』のメンバーは、必ずと言っていいほど『表の顔』と『裏の顔』を持っているため、本名含めて二つ以上の呼び名があったりします。キャラによっては、肩書きだけでも四つくらいある場合も(汗)。
ちなみにレイラと志郎の会話に関してですが、ぶっちゃけ、志郎はかなり間の抜けたことをやっています。
自分たちが『シュテルン』の人間であることを隠したいのなら、魔術による盗聴が成されていることを前提に、本名で呼び合えばいいだけのことなのに。
肩書きで呼ばなければ、誰に聞かれていようとバレないのに。
でも、志郎にだってちゃんと言い分はあるのですよ、これが。
だって、志郎は五十一歳。対するレイラは外見だけなら十歳前後。
肩書きで呼んでないと、こう、『対等感』を抱けなくなってしまうんですね。
しかも知識量や魔力の強さという点に関しては、志郎よりもレイラのほうが上ときている。
自然、子供扱いしないようにと、意識的に肩書きで呼ぶようにしている、というわけです。
はい、どうでもいい裏設定でした。
あ、そうそう、瀬川和樹関連のことは『同居人は魔法使い~綾編~』でも詳しく触れていますので、もし気が向きましたら、そちらも読んでいただければ、と思います。
渉とリゼの姉弟子にあたる『美月』もメインを張っていますので。
次回は渉とリゼの買い物がメインとなる予定です。
フィッテングルームで色々と、とかいう展開を考えています(笑)。