勇者ですが、仲間がネガティブで困っています。
「勇者様、やはり魔王を倒すのにこの人数では些か心許無いかと。」
魔王城の真っ暗な洞窟を五人で並んで進んでいると、真ん中を歩いていた背の低い年老いた魔法使いが先頭を歩く僕に向かってそう言った。
「そうだよ、ゆうっち!
大体、このパーティで回復魔法が使えるのは、この爺さんだけじゃんか。
私嫌だよ。このエロ爺回復魔法使うとき、私の体ベタベタ触ってくるのよ。」
そう訴えてくるのは、僕の後ろを歩いている女剣士だ。魔法使いのセクハラを訴えているが、露出度の高い服を着ているお前が悪い。
というか、その防具はどこを守るために付けているんだ。
「お、俺もこのまま行くのは、無謀だと思う……よ。」
もじもじとそう言ったのは、しんがりを歩く大男。コイツは魔法使いの二倍ほどの身長と、五倍ほどの筋肉を体にくっつけているのに、とても臆病だ。
だが、戦闘能力は僕のパーティで群を抜いてトップだ。
「やっぱり、私が足手まといなんじゃ。」
大男の前を歩く猫耳少女が、体を小さくして訊ねてきた。大男の前だから、余計に小さく見える。
この子は、この世界で"妖精"と呼ばれる生き物だ。実は彼女がいないと僕は力を発揮できない。
と、一通りパーティメンバーが発言をしたところで、僕は立ち止まり後ろを振り返った。
「お前らネガティブ過ぎるだろ!」
♦♦♦♦♦
僕の名前は宮本タケシ。どこにでもいる普通の高校生だ。
勉強、運動、両親、友達、特技、趣味……どれも特筆すべき長所のない、平凡な人間だ。
そんな僕が、先月ひょんなことから異世界に転成してしまったのだ。しかも、1000年に一度現れる伝説の勇者として。
初めは勿論戸惑った。
いきなり右も左もわからない土地に飛ばされたかと思うと、勇者、勇者ともてはやされるのだ。訳が分からない。
しかし、この世界の惨状を聞くにつれ、その思いも小さくなっていった。
この世界では、人類と悪魔の終わりの見えない戦争が続いていたのだ。
その泥沼の戦争を終わらせるために呼び出されたのが、この僕だそうだ。
迷惑な話だ。
自分達の戦争を終わらせるために、僕を巻き込まないでほしい。
大体、戦争を終わらせたいだけなら白旗を揚げればそれで良い。
わざわざ、伝説の勇者を呼び出したってことは、人類はこの戦争に勝とうとしている。
僕を使って悪魔を殺そうとしている。
それはもう、悪魔となんら変わらないんじゃないだろうか?
そう思ったのだが、状況が良くなかった。
聞いた話によると、僕の世界からこの世界へは魔法で移動できるけど、この世界から僕の世界へは有る特別な宝石が無いと出来ないという。
面倒くさいことに、その宝石は全て魔王が所持しているのだそうだ。
と、言うわけで、僕は元の世界に変えるため、魔王退治へと乗り出した。
王様が直々に選んだという精鋭四人を引き連れて。
と、そこまでは良かったのだ。
どこに出もありそうな、それこそ掃いて捨てるほどある物語だ。
ただ、僕の場合は、少し違っていた。
仲間が全員ネガティブだったのだ。
♦♦♦♦♦
「勇者様、やはりここは城に戻って魔力を蓄え直しては如何か?
実を言うと、先程女剣士の胸をさわっ……回復させたため、あと98回しか回復魔法が使えんのじゃ。」
充分すぎる。
あと、今胸を触ったって言ったな?後でお巡りさんに突き出すからな。
「回復魔法なんてどうでもいいよ。
それよりもこれ見てよゆうっち。
ほらここ、『雷の機械槍』が刃こぼれしちゃったの。
これがなかったら私にはもう、『火山の鎚』と『氷の長弓』と『鉄の手袋』と『緑の二枚刀』と『風の工作具』しかないのよ。
こんなのでどうやって戦えって言うのよ。」
充分です。
というか、その規制がかかりそうな格好のどこにそれだけの武器を隠していたんだ。
後で、隅から隅まで確認させて……何でもないです。
「や、やっぱり怖いよ。
魔王って3mを超える巨大だって聞いたよ。そんなのにかなうわけ無いじゃないか。」
身長3m12cm、体重242kgのお前が言うな。
まったく、すくすく育つにも程があるだろ。魔王の親戚なんじゃないか?
「私は、何時も何時もみんなに守ってもらってて、魔王との戦いでも足手まといになるに決まってる。
私だけでも帰った方がいいんじゃない?」
今更何を言っている。
何度も何度も説明しただろ。
僕の勇者の力は、妖精とキスをした後の10分間しか使えないんだよ。
僕が勇者の力を使うために、毎日どんな努力をしているか知らないだろ。
食後の歯磨きは勿論、時間があればブレスケアをしている。
今だって、ミントハーブという香りの良い薬草を噛んでいる。
最後なんだから、あと一回くらいキスさせてよ。
と、もう一度パーティメンバーの言葉を一通り聞いてもらったが、分かっただろ?
このパーティメンバーには、勇猛果敢に魔王と戦おうとしているものは一人も居ない。
西の山の大蛇「骸骨蛇」討伐の時も、東の谷の「人喰蟻」の大群に囲まれたときも、南の湖で「水湖の霊」との交渉の時も、誰一人進んで行動しようとはしなかった。
いつも、負けたとき、失敗したとき、うまく行かなかったときのことを考えている。
勇者様御一行とは、まるで思えない。
結局、殆どの戦闘で僕一人が戦う羽目になった。
ま、力を使えば使うほど、猫耳美少女とキスができるから良いんだけどね。
「やはり今回も勇者様一人で戦って頂くわけにはいかないでしょうか?」
職務放棄するなエロ爺。
この世界に来たとき、偶然僕の鞄に入っていた五冊のエロ本みせてやらねぇぞ。
「なに言ってんだエロ魔法使い!」
お!珍しく女剣士がまともなことを言いそうだぞ。
「勇者が一人で戦うのは当たり前だぞ!」
期待した僕が悪かった。
まぁ、コイツに戦われるといろんなところがはみ出しそうで冷や冷やするから、逆に邪魔何だよな。
ポロリは好きだけど、それが戦闘中じゃじっくり鑑賞も出来やしない。
「ゆ、勇者一人に戦いを押しつけるのは良くないよ。」
お、大男なら期待できる。
今度こそは、ビシッと言ってくれよ。
「だけど、やっぱり怖いから、長距離迫撃砲で魔王城をぶっ飛ばすのはどうかな?」
帰れ!もう、お前は帰れ!
それは、なんというか、タブーなんだよ。
勇者がそんなセコい戦い方したら駄目なんだよ。
まったく、僕の仲間にまともな奴は居ないのか。
「あ、あの……」
今度こそ頼むぞ。
「もう魔王退治なんて良いじゃないですか。
魔王軍の勢力も全盛期に比べて衰えてますし、この辺りで戦争をやめて和解したらどうでしょう。
ね?いいアイデアでしょ。」
だめだ、どうやらこのパーティメンバーにまともな奴は居ないようだ。
「あーもう、仕方がないなぁ。
それじゃあ、いつものやり方でいいか?
僕がキスをした後、魔法使い、女剣士、大男の三人は猫耳を守りながら安全な所へ避難。僕が魔王と戦う。
そんでもって、キスの効果が切れる十分以内に魔王を倒す。
これでいいだろ?」
こんな戦いを、何度も繰り返してきたことを思い返すと頭が痛くなる。
どこの世界に魔王との戦いを放棄する勇者の仲間が居るってんだ。
目の前だよ!
なんだか泣きたくなってきた。
僕が出した最大の譲歩に、四人は渋々ながら頷いた。
こんな奴らでも、国に帰れば英雄として迎え入れられるのだ。世の中不公平だよなまったく。
まぁしかし、やっとここまで来たのだ。
魔王を倒しさえすれば僕はこんなネガティブな奴らと旅をしなくて済むのだ。
元の世界へと帰れるんだ。
僕はそうやって自分を鼓舞して、魔王城の一番奥の部屋、魔王の間へと足を踏み入れた。
♦♦♦♦♦
「無理だって勝てるわけないだろ。
相手は勇者だぜ?異世界より召還されし救世主だぜ?
そんなバケモノと、なんで俺様なんかが戦わなきゃならんのだ。
大体、この戦争だって、俺様が始めた訳じゃないんだぞ。
軍部が勝手に始めやがって、国民にもなんだか知らないが戦争賛美の風潮が広がってよ。
初めのうちは戦果が上がるから止めるに止められないし、戦争は泥沼化しちゃうしよ……。
俺様は元々、人間と貿易して友好関係を築こうとしてたんだぜ。
爺ちゃんや親父みたいな戦争好きじゃないんだよ。
独裁も三代目になれば丸くもなるさ。
体型の事を言ってるんじゃないぜ。性格のことさ。
どこぞの国の三代目はまん丸だけどよ。
そんなの今はどうだって良い。
重要なのは、俺様がこれから勇者と戦わにゃならんって事だ。
相手は悪魔を絶対的悪だと決めつけてる。
いくら話し合いの機会を設けようとしても、勝手に罠だと思い込みやがる。
少しは俺様の言うことを聞けっての。
大体、俺様を殺そうとしている時点で、勇者も単なる犯罪者だ。
いや、俺様の軍の四天王を倒しているのだから罪は勇者の方が重いくらいだ。
A級戦犯だ。
だけど、あいつら人間は、悪魔を殺すことを毛ほども悔いちゃいない。
俺たちの命を、虫や家畜ほどにしか見ていないんだよ。
まったく、やんなっちゃうよ……」
魔王の間の真ん中で、玉座に座った魔王が頭を抱えてブツブツ言っていた。
「魔王!お前もか!!」
僕の試練は、どうやらまだまだ続くらしい。




