表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

13:彼はいまを生きている


 その日遅くになってから大学の研究室に立ち寄ると、アトリエの明かりがまだ点いているのに気付いた。


「ったく、こんな時間まで残ってるガキはどこのどいつだ」


 悪態を吐いてアトリエに向かう。卒業制作などで遅くなる場合、基本的には大学の方に事前に申請していれば問題はないのだが、こういう大学にくるガキどもは大抵そういう規則には疎いか、知っていても無視を決め込んでいる奴が殆どなので、毎日のように事務の方から苦情が来るのだ。

 別に奴等が遅く残っていようが、それで問題が起きようが俺にとってはどうでもいいことなのだが、最終的にはそのしわ寄せは俺のところに来ることになる。面倒事は断じてご免だった。


「おら、事前申請してないガキどもはさっさと家に帰りやがれ!」


 アトリエのドアを開け放ち、そう怒鳴った俺が見たのは、一人黙々とカンバスに向かう見覚えのない女生徒だった。


「…………」


 無表情――というよりは、冷たさを帯びた顔つきをしていた。他人を拒絶する尖ったような気配を全身にまとっていて、まるで針鼠。黒のジーンズに白いTシャツという格好で、そのところどころに絵の具がこびり付いている。

 似ている――と思った。

 顔とか、雰囲気とか、そういうものじゃなく。

 その本質が。

 だから、たまらなくなった。どうしようもなくなった。そんな姿を見せられて、放っておけるはずがなかった。

 結局――俺はいつも、結末が分かりきっていても、どれだけ遠ざけようとも、正しいことをせずにはいられないのだ。

 そしてどんな傷だって、大切な傷だって過去のものにして、何食わぬ顔をして生きていくのだ。




「絵は、決してお前を、救いやしない」




 だから、俺はその言葉を口にする。間に合わなかった何かを間に合わせるため。

 身体に受けた傷から学び、それを過去にして。

 愕然とした顔で、こちらを振り向いたそいつを見て、ああ、綺麗だな、といつかのように俺は思った。

 



 ――そして、あの日々は、またさらに過去になった。


ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。

この物語はこれで終わりとなります。

少しでも、どこかの誰かの心に残ればいいな、と思いつつ、結びとさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何故感想が一件も投稿されていないのか疑問… 物凄い面白かったです。 栄一郎の最後の絵が間に合っていたら零子も死なずに済んだんじゃないか、そう思わずにはいられませんでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ