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最高のラブレター  作者: シャイニーパステルムーン
6/25

第六章 シーズン

あれから二ヶ月が経ち久里浜は海水浴目当てで、


東京から来た人々で賑わっていた。


今年も猛暑で日差しがきつく、外に出るのも覚悟が要るほど、


厳しい初夏を迎えていた。


学生は夏休みで道行く学生達は、はしゃいでいた。


今日は日曜日。


留美菜と豊は言葉を交わさず、二人で街を歩いていた。


自然と二人は手を繋いだ。


お互い振り向きもせずに。


留美菜は豊と手を繋いだまま、近くのスーパーマーケットを訪れた。


すると会社の女性社員と、ばったり会ってしまった。


それを見た女性社員の、


吉崎 美祢が驚いて、「あんた達、ついこの間まで、


大喧嘩していた仲なのに、どう言う風の吹き回しなの」と、言い放った。


何も言えず、俯く留美菜と豊だった。


美祢、「付き合ってるの」と、問い掛けられると、


留美菜は、「見れば解るでしょ」と、投げ掛けた。


美祢、「所で、どちらにお勤めの方なの」と、尋ねると、


留美菜は、「コンビニの向かい角の、小さなレストランのシェフ」と、告げた。


それを耳にした美祢は即座に思い出して、「デリツィオーゾ」と、応えた。


留美菜、「知ってるの」と、尋ねると、


美祢は、「ちょっと値段は張るけど東京の赤坂のホテルで、


シェフをしていた腕利きが、


最高の創作料理で持て成すと評判で、あー」と、声を上げて、豊を指差した。


豊は頭を下げて、「喜んで貰えて光栄です」と、応えた。


美祢は更に驚いて、「へー、どうしたらこう言う馴れ初めになるの」と、問いかけた。


留美菜、「色々あったの」と、答えると、


美祢は首を傾げ、「喧嘩する程仲が良いとは聞くけど、あの割烹料理屋で、


喧嘩していた姿を見たら、今にも殴り合いに成りそうだったのに、


今では手を繋ぐ仲なのね」と、呆れた。


二人はその時、立場が無かった。


そして買い物を済ませて二人は豊のアパートに居た。


アパートでは豊が台所でバジルを皿に敷き、


その上にホタテ貝を乗せて、細かくトマトを刻んで上に散らした。


ボウルを用意してその中に、醤油とオリーブオイルを混ぜ更に、


バルサミコスと赤ワインを少々入れて、


そのソースを皿に乗せたホタテの上に掛けた。


作って直ぐ台所に一緒に立っていた留美菜に、


フォークを持たせて試食させると、


留美菜は食べた瞬間、「んー、美味しい」と、口にした。




それを耳にした豊だったが、何も言わず次の料理の下準備に没頭していた。


すると留美菜は、「ねえ、私があなたの料理を食べて初めて美味しいと言ったのだから、


何か答えてよ」と、 せがむと、


豊は、「有難う」と、一言答えて料理を作る事に没頭していた。


それを見ていた留美菜は、その料理を作る豊の真剣な眼差しに、


仄かに恋心が増した。


その時、豊は、「初めて俺の料理を、美味いと言ってくれた事に感謝するよ」と、答えると


留美菜は照れ臭くてつい心にも無い事を口にする。


留美菜、「私が負けたと思っているでしょ。


社交辞令よせっかく私の為だけに、


料理を作ってくれるお礼」と、答えて心の中で後悔する留美菜。


だが豊はそんな留美菜であったが、微笑んだのであった。


二品目は冷蔵庫からトリフを出して、細かく刻み、オニオンも細かく刻み、


鍋を暖め同時にやかんに水を入れ、沸騰させていた。


やはりバジルの葉と一緒に、バターを引いて温めた鍋に具材を入れて炒め、


少し焦げ色が出た所で、沸騰したやかんのお湯を鍋に注ぐと、


その香りが台所一帯に漂った。


そして鍋の火を種火にすると、白ワインを入れて、塩と塩黒コショーで調整して、


さじで味見をしそれをカップに移して、仕上げにパセリを細かく刻んで、


カップに散らした。


そして台所の引き出しからスプーンを取り出し、カップの中に入れて、


留美菜の前に置いた。


留美菜はそれを食すと微笑んで、「うまい」と、答えた。


それを聞いた豊も微笑んだのであった。


その微笑んだ姿を見て、次第にその身も許そうとする留美菜。


彼の料理に掛ける想いが、留美菜に伝わったからだった。


彼に恋に落ちた瞬間でもあった。


ふと留美菜は衝動にかられた。


料理をしている豊の背中に腕を回した。


その時すでに留美菜は手を回した事で、豊が何を言うか見当は付いていた。


そう、『今料理をしているから、危ないから離れてくれ』と、怒るだろうと。


だが豊は静かに包丁を置いて 一言告げた。


豊、「君の負けだね」と、呟いた。


それを告げられた瞬間、留美菜は完全に恋に落ちた。


豊は回された留美菜の手を両手でぐっと掴んだ。


留美菜は反射的に拒み引っ込め様としたが、


豊はその手を掴んだまま社交ダンスを踊る様に、


自分の頭の上にその手を掴んだまま通過させ、クルっと体を反転させて、


留美菜の体を抱き寄せて、「愛してる」と、呟いてキスをしたのであった。


キスを終えた後、留美菜を抱き上げ寝室に向かうと、


留美菜をベッドに寝かせた。


そうメインディッシュは豊が頂いたのであった。


お互い最高のメインディッシュを頂いた二人は、


白ワインのグラス片手に近くのペリー公園のベンチに座り、


夕日を眺めていた。


何気なく豊の肩に頭を乗せた留美菜は、「ねえ、さっき『君の負けだね』って言ったでしょ。


私は認めて無いから」と、呟いた。


豊は夕日を見詰めながら、「お詫びに二人でコンビニを訪れた時、


好みのサンドイッチが、一つしか無かった時は君に譲るよ」と、言って。


ワインを口にした。


留美菜、「そう言う意味では無くてさっきの話よ。


台所で君の負けって言ったでしょ。


豊、「解ったよ、料理屋で靴べらを君に優先するから」と、語ると、


留美菜は、「だからその話はどうでもいいのよ。


私はさっきのあなたの態度の事を、言っているの。


あなたは勝った気になっている様だけど、


私は否定しているのよ」と、寄り添いながら、


納得が行かない留美菜であった。


だが留美菜はすでに豊に心を奪われていた。


それが悔しくて堪らない留美菜であった。


悔しい紛れか留美菜は更に、「あれはレイプよ」と、豊に自ら寄り添っている癖に、


意地を張っていた。


すると豊は溜息を付いてベンチから立ち上がり、「そうか悪かったよ」と、


立ち去ろうとする豊かに留美菜は急に泣き出した。


留美菜は意地っ張りなので相手にされなく成ると、


後は泣いて相手の気を引くしか手立ては無かった。


それを見た豊はまたベンチに座った。


座ると同時に留美菜はまた豊の肩に頭を乗せた。


涙が豊の肩に落ちていた。


豊は呆れて、「結局それだろ。


それを見透かされたから男に騙された。


男は君を意地っ張りなだけと見抜いた。


見抜かれたから他に女が出来ても君はあいつに、寄り添うしか無かった。


そして行き着く所まで行き着いてしまった」と、語ると、


留美菜は涙が溢れ出た。


留美菜は豊の肩で泣きながら、「あなただって奥さんを放って置いたから、


後悔しているのでしょう。


同じよ、自分だって人の事を言えない立場よ」と、訴えた。


豊は素直に、「そうだな後悔先に立たずだな。


だから俺はこうして反省している。


今の自分を」と、呟いた。


その時、留美菜は、「意地っ張りな女は、頭の切れは早いの。


だから言い込める事は得意なの。


でもね、寂しがり屋でそれを人に見透かされたら、


死にたくてしょうがないの」と、呟くと、


自分の左手首を豊に見せた。


豊、「決して俺みたいな、我の強い男と恋愛に落ちる事は無かった。


何故なら俺みたいな男が 一番嫌いだから。


言えば言い返して来て、自分の正当性を君に押し付ける。


君にとっては最悪な今まで敬遠して来た男だった。


俺も気づいたんだ。




今まで妻を従わせて来た。


文句も言わず家庭を顧みない俺を許した。


だが俺はそんな自分が嫌になった。


この世の中で 一番正しいと思っていた自分を、脱却したく成った。


妻を亡くし 一人に成ると後悔だけが後を引く。


そう俺はこの世の中で、一番間違えた行動を行って来たシェフだと気づいた。


俺の作る料理は世界中で一番美味いと信じてた。


見習いには自分の感情をぶつけていた。


俺の料理が気に入らない奴は、味音痴な奴だと思った。


でもそれは全て俺の思い過ごしだった。


人に優しく成れるから、料理の味も柔らかで、優しい味に成る。


自分の我が強く成ると、周りの意見も聞こえなくなる。


それが料理にも反映されてしまうと、


やたらインパクトを追求して、甘い辛いの強弱をはっきり付けたがる。


日本人は皆そのどちらでもない、


微妙なさじ加減の味付けを要求する民族なんだ。


その時、親父のオムライスを思い出し同じ味に成るよう研究した。


何度も試行錯誤繰り返し、トマトケチャップの味も追求したが、


あの柔らかい味が出なかった。


その時、お袋が言った言葉は、『あんた、お父さんの作るオムライスは、


業者から買った市販のケチャップを使い、ライスだって小売の個人の米屋から、


仕入れて使っていた物だよ。


でも 一つだけ他の店とは違うのは、業者から買うケチャップは濃厚過ぎて、


胃がもたれる客が居たから普通は赤ワインを使うけど、


炒めているフライパンの中に、少量の白ワインを入れて上げると、


アルコール分で濃厚な味が和らぎ尚且つワインの糖分で、


柔らかな味わいを醸し出す。


そして炒める加減はお父さんしか出来なかった。


火加減と、炒め終わるタイミングはお父さんの長年の勘なんだよ』と、聞かされた。


そして俺はバクチ打ちだった親父を、


お袋と弟子達が何故あんなにも、慕っていたかが痛感出来た。


味は愛情を注ぐ事で深い味わいに成る。


それは料理だけでは無く、誰にでも愛情を与え様とする事で、


料理も自然と優しく、皆に慕われる味わいに成るんだと、


思い知らされたんだ」と、思いに更けたのであった。



二人は黙ったままベンチで黄昏ていた。


立場は違うが、同じ性質である事に確信を抱いていた。


夕日が落ちて行く様を二人は見詰めていた。


そう、誰もが 一度は我が愚かさを振り返り、


後悔する時が来るで有ろうか。


時にしてこの二人は、その境地に立たされている様であった。


すると留美菜、「私ね、小さい頃から捻くれていたから、


直ぐ泣いてしまう子や、自分の弱い所を表に出す子が嫌いだったの。


だからそう言う子をいじめていた時もあった。


直ぐいじける子は誰かが必ず慰めてくれた。


私は周りからは気が強くて何事にも気丈な子と、思われていたから、


それを貫こうと誰にも弱さを見せられなかった。


だから自分の理屈を押し通す、気が強い子だと思われていた。


誰にも悩みは打ち明けられなかった。


その反面大人に成ると、うつ症状が出る様に成り、


薬を頼る様に成ると更に起伏が激しく成り、


人の意見や褒め言葉すらも、素直に受け入れられなく成っていた。


本当は素直に受け止めたいのに、その素直な心が表に出ないの。


照れ臭紛れに反論してしまう行いが、私から人々を遠ざけた。


居た堪れなく成ると地元から離れたく成り、結局この土地を選んだ。


理不尽な理由で訳も無く大学を卒業後、地元の知り合いには何も告げず、


私は新たな街で生活を始めた。


でも新しい街で生活を始めても、性格が変わる訳では無かった。


昔と同じ様に人の意見に反論しては、不快を与える私が居た」。


豊、「人の振り見て我が振り直すとはこれいかにだ。


俺も同じさ。


君を見て自分を振り返った。


コンビニのサンドイッチのジャッチだって、お互いの都合で理屈を言い合えば、


幾らでもお互い、正当なる理由が出て来る。


負けたく無いからお互い譲らない。


でも譲らなければ平行線を辿るだけで答えは出ない。


拗れればお互い怪我をする事に成り、


一生互いに恨んで終わる事に成る」。


すると留美菜は、「私を口説いているの」と、豪語した。


豊、「今更なにを言っているんだ。


それは君を俺が抱く前に言うセリフだろ」と、呆れた。


そう告げられた留美菜は俯き、「ここが私の悪い癖なの」と、自省した。


そして留美菜、「私は馬鹿ね、先ほどの行為がレイプとするならば、


台所であなたに抱き上げられた時点で、


拒否しなければ成立しないわね」と、悟った。


豊、「俺もそんなものさ。


昔は料理長として有名ホテルで威張っていたけど、


ただ人事移動で料理長にさせられていただけの、


しがないシェフさ。


俺の遣り方に気に入らないシェフに直ぐ理屈をこねて、


地位を利用して言い負かせ、それで良しとしていたあの時の俺が、


今は恥ずかしく感じるよ」と、後悔すると、


留美菜は、「あの時のサンドイッチの権利は、


私に有った事を認める」と、尋ねた。


その言葉に豊は素直に、「俺が間違っていたよ。


レディーファーストで、君の物だった」と、答えると、


留美菜は納得行かぬ様子で、「そうじゃなくて、


私の方が手が早かった事を、


認めるかどうか聞いているの」と、強調した。


肉体関係に成ってまで、留美菜にそんな細かなジャッジを追求され、


流石に呆れたが豊は、「俺が大幅に間違っていたよ。


俺が我を張り詰めて、君からサンドイッチを奪った事を、


深く反省する済まん」と、大きく頭を下げた。


すると、まんべんな笑みを浮かべた留美菜であった。


五月のペリー公園は恋のシーズンで、


すっかり日が暮れた公園内には、この二人以外にも、


複数のカップルが寄り添い、恋をしていたのであった。


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