激動
この小説のタイトルは「激動」ですが、この小説はあまり「激動」したりはしません。タイトルの由来は、小説を読んでくだされば分かると思います
人は、成長すると何かと昔を振り返るという、他の動物が行わない行為をするようになる。私も当然例外ではなく、今年で30歳になる私は、最近、学生時代を振り返ることが多くなった。学生時代の何を振り返るのかは、時によってまちまちなのは当たり前であるが、何を思い出す時にも、同時に私はとある同級生を思い出す。
彼女(その同級生は女の子だった)とは、高校3年間同じクラスだった。その上部活も同じ、ということもあって、私と彼女の関係は親密なものだった。どんな「高校生活の思い出」を振り返っても、そこには彼女が出てくるほどに。
こう記すと、あたかも私と彼女が恋人関係になっていたように感じるかもしれない。実際、私の周囲の人たちはそう感じていた節もあったし、また、赤の他人が見ればそう考えてしまわざるを得ないほど、私と彼女は時間をともにしていたし、卒業してから、たしかに私たちは恋人になった。が、高校の3年間はいわゆる「友達以上恋人未満」の関係であると、私も彼女も思っていた。その証拠としては、たとえば高校3年間で彼女とキスしたことは、たったの一回しかないし、その一回も、決して恋人だから、という理由のものではなかった。
私と彼女が親しくなったきっかけは、同じクラスで同じ部活でしかも席も隣同士だったから、といえば納得してくれることだろうと思うが、決してそれだけではないことは了解していただきたい。何より、2人の性格が関係していると私は考えているからだ。
彼女は活発なリーダーキャラでこそなかったが、おとなしすぎてクラスメートに名前さえ覚えてもらえない、ということでもなかった。同級生と話をすることを嫌うわけでもなく、かといって性格が悪くていじめにあったわけでもなく(彼女の性格はむしろ良すぎたほうだ)、なのに彼女は高校に入るまで「親友」というものを持ったことがなかった。私がそう断定できるのは彼女が私にそう話してくれたからであって、もしかしたら彼女が「親友」というものを履き違えていたり、または恥ずかしくて私には嘘をついたのかもしれないが、しかし私と過ごした高校3年間を振り返ると、なるほどそうかもしれないと思える。なにより、私たちの高校は公立高校であり、クラスには彼女と同じ中学校の女子も多数いた。それなのに、高校生活が始まり、部活が始まるや否や面識のない私と行動をともにしていたことが、その証拠といえるかもしれない。
一方の私であるが、自他共に認める平凡な人間であり、かなり控えめな性格だった。「だった」と書いたが、今でもそうである。人前でスピーチをしたりするのは今でも苦手だし、もちろん当時も苦手であった。
そんな私だったから、入学早々、同じクラスの同じ部活の隣に座っている、(見た感じでは)友達が少なそうな彼女と親しくなったのは当然のことであろうと思う。彼女とボチボチ仲良くなり始めていた頃の私は、彼女を「同類」と見なして、彼女と話をしていたものである。
しかし、それだけでは彼女とこれほどまでの仲にはならなかっただろうと思う。「同類」はもちろん男子にもいたわけで、彼らとも僕は仲良くさせていただいたと思っている。しかし、彼女ほど印象には残っていない。彼女と彼らの決定的違い、それは彼女が「同類」ではありながらも「同格」ではなかったことである。
私が、そのことに気づいた経過を、少しづつ振り返るとしよう。
前述のとおり、私が彼女と親しくなり始めたのは、部活動が開始した頃である。私と彼女は、文芸部に所属していた。ひっそりとした部活で、部員も3年生1人、2年生3人、そして1年生は私と彼女2人だけであった。
その文芸部の最初の部活動の日、活動が終わると、彼女はいち早く部室を飛び出し、どこかへ行ってしまった。一方、私は、よく言えば面倒見が良い、悪く言えばお節介な性格の先輩(2年生の先輩の1人)の話に無理やり付き添わされ、早く帰りたかったのに、その先輩と一緒に帰ることになってしまった。
その先輩と話をしながら(実際は、先輩が一方的に喋り、私はただ相槌を打っていただけだったが)、昇降口に行くと、そこでばったり彼女と出会った。私たちよりもずいぶん早く帰ったはずなのに、まだ学校にいたことに私は驚き、なぜだろうと思ったが理由を尋ねるのはやめた。そんな大それたことができる性格は持ち合わせていなかった。すると、例の先輩が躊躇わずに理由を尋ねた。彼女は、「お手洗いに行きたかったものですから……」と、すこし苦笑いしながら答えた。聞くところによると、彼女は部活動中ずっと我慢をしていたらしい。当時の私は、変に律儀な人だなぁぐらいの感想しか持たなかったが、今思えば、彼女らしい話であった。
せっかく合流したのだから、3人で一緒に帰ろうと言う先輩の言葉に従い、3人で帰ることになった。彼女が加わっても、相変わらず先輩だけが1人で話し続けていただけだが。
しかし、3人で帰れるのは校門までのわずかな距離であった。先輩だけ別の方向であった。なんでも電車にのって帰らなければいけないほど家が遠いらしく、私や彼女の家は駅とは正反対の方向であった。
そして、私と彼女は2人で一緒に帰ることとなった。一緒に帰ろうと提案し、1人で喋り続けていた先輩だけいなくなったわけで、なんともひどい話だとそのときの私は思っていたのだが、しかし、それが彼女と最初の会話をした場であり、それをつくってくれた先輩には、どんなに感謝してもしきれない思いである。
「あの……」と、前を歩く彼女が立ち止まって後ろの私のほうへ振り返ったのは、先輩と別れて数分たった後である。それまで2人ともずっと無言だったのだから、2人ともすごく気まずい感じだった。
「これから、よろしくお願いしますね」
と、彼女は頭を下げた。長くて黒い髪が、はらりと垂れる。私は慌てて、
「いえいえこちらこそ」
と、頭を下げた。高校生の男女が道端で頭を下げあっている光景は、なんとも滑稽なものだったろう。しかし、それが私と彼女と関係の始まりだったのだ。しかし、そのときはこんなにも深い関係になるとは思っていなかったが。
それから、1ヵ月ほどは、私と彼女の関係はそうそう特別なものではなかった。まぁ、あまり他人とスキンシップを図らない私にとって、教室で話をした相手、特に異性となると彼女くらいだったから、すでに特別と言えば特別であったが、私は異性と会話するのがどうしても苦手だったこともあって、最初はあまり彼女と会話をしなかった。その頃はまだ「同じ部活の仲間」という枠を出なかったのである。
私と彼女の関係が激変するのは、ゴールデンウィークが過ぎ、1週間ほど経った頃のことである。ゴールデンウィークというのは、人にやたらと転機をもたらすものであるらしい。
私が所属していた文芸部は、月に1回、部員が書いた短編小説をまとめた小冊子を作ることになっていた。というより、活動内容がそれしかなかった。4月は新入部員のことを思って作らなかったそうなので、私のデビューは5月号からということになった。
そして、この「文芸部冊子5月号」に掲載された、ある1つの小説に私は心魅かれたわけである。「激動」というタイトルのその小説の作者が、彼女だった。この小説が、私の高校生活を決定付けた、といっても過言ではない。
内容は、今年社会人になったばかりの新人社員が、社会の「激動」に流され、それを乗り越えていくというものだった。高校生には人気がある、恋愛や、SFの小説の作品でなかったからか、私のクラスでも「クラスメートが書いた小説」ということで少し騒がれたが、それ以上の反響はなかった。むしろ、私が書いた恋愛小説のほうが人気があったようである。
たしかに、内容はあまり面白い、といえるようなものではなかった。それに、高校生が社会人のことを描いても所詮は想像に頼ることしかできないわけだから、高校生が書くものとしては不適切であったかもしれない。
しかし、私にとってこの小説はとてつもなく面白いものだった。いや、実際は面白くないのかも知れないが、「途中で読むのをやめたくなくなる」ように感じた。そして、一気に読みきった。読み終えた瞬間、私の心は何故か満足感でいっぱいだった。また、彼女に小説で完敗したと思った。
しかし、数分後、私の心は疑問でいっぱいになった。はて、私はこの小説の「何」に感動したのであろうか。一体「何」に負けたのだろうか。思い返してみてもわからない。仕様がないから、もう一度読み直してみる。やはり面白い。読み終える。満足する。……何がすごいのか、また悩み苦しむ。
その後、私は、「何か」の正体をひたすらに考えた。主人公の性格だろうか。いや違う。話の内容だろうか。いや、内容は、前述したとおり、むしろつまらない部類に入る。こればかりは、私が負けてるとは思えなかった。文章自体は、読みやすいことは読みやすいが、特筆すべきこともない。では、一体何なのか。
結局、人には「何となく」という感性がある、今回もきっとそれだろうと片付けてしまった。「何となく」では、あんな感動は得られないということがちらっと頭をよぎったが、無理やり押しのけた。そして、解析は諦めた。
そして、その秘密を探るべく、私は彼女と積極的に話をすることにした。恐縮ながら、当時の私は作家というものに憧れていた(おかげさまでその夢は叶い、こうして物書きとして働かさせてもらっている)。だから、何が何でも私を苦しませた「何か」を突き止め、そして得たいと思ったのだ。
こうして、私と彼女の関係が始まった。決して、自然にお互いが仲良くなった先に、私と彼女の関係が生まれたわけではないことは、これでお分かりであろう。
彼女は彼女で、最初に書いたとおり、女子に特別親しい友達を持ったわけではなかったから、私が彼女をいわゆる「独り占め」することによって、何かを妨害してしまうこともなかった。ただ、「お前ら付き合ってんの?」という質問は多数受けることになったが。
私と彼女の話の内容は、大体小説関連のことだった。文芸部に所属している2人にとって、確認も質問もせずに分かり合える共通の話題は小説だったのは、当然のことだろう。それに、私が彼女に聞きたいのは、私を苦しめた、小説における「何か」であったのだから。
彼女と仲良くなって、早速わかったのは、彼女は私とは少し違う、ということだった。同級生の前で発表したりするときも、彼女は私みたいに物怖じするわけでもなく、また、私以外の人、しかもどんな人とも普通に会話をできる。そして、その良好な性格から、クラスの人たちにとの間も、良好であった。
しかし、私が「同類」の匂いを感じたのは間違いではなかった。彼女は、僕と同じくらい、積極性に欠けていた。つまり、絶対に「受動的」なのだ。彼女が自分から人に話しかける、という場面は、例の最初の部活動の日以外見たこともない。あの日も、先輩と別れてから数分間無言だったのは、きっと決心を固めるのに数分掛かったせいだろう。人に話しかけられれば、笑顔で返すが、笑顔で話しかけることはないのだ。
さらに、これが彼女が「親友」を持てなかった理由なのだろうが、趣味が小説を書くことしかなかった。それ以外は、本当に必要最低限しかしない。当然女子であるから、身だしなみを整えるためにショッピングをしたり、また裁縫したり、料理もできるのだろうが(料理に関しては、一度彼女の料理を食べたが、すごく美味しかった)、多分必要以上にはしないのだろう。なんせ、彼女はアクセサリーなども一切自分では買わないそうだ。彼女が筆箱につけているアクセサリーや、携帯につけているストラップは、すべて人からもらったものだそうだ。これは、彼女自身が言っていた。
しかし、彼女欠点と言えるのはそれくらいで、美人だし、スタイルもよく、成績は絶対に平均以上だ。おとなしい人にありがちな、体育だけは苦手、ということも彼女には通用しない。何事も、人並み、もしくはそれ以上にできる。そして、そんな妬みが集中しそうなステータスを持ちながら、どんな人でも彼女を嫌いにはなれないほど、性格も良く、物腰をやわらかく丁寧だ。まさに、人間の鑑みたいな人である。
しかし、どんなクラスメートもそれに気づきながらも、それに着目しなかった。彼女がどんなにすごくいい人だと知っても、彼女がどんなにすばらしい人だと知っても、不思議なことに、彼女に固執したりする人間は私以外は現れなかった。
そんな彼女と、消極的で、しかも異性と会話するのが苦手な私が、勇気を振り絞り、積極的に1ヶ月会話をもちかけたが、どう頑張っても例の「何か」の正体は掴めなかった。別に彼女が秘密にしていた、というわけではなく、彼女は無意識に書いているから、自分ではわからないそうだった。国語科の教師や、文芸部顧問の先生に聞けばわかるかもしれなかったが、私にそんな大それた行為はできなかった。また、私のクラスを担当している国語の教師も、文芸部の冊子を読んだらしく、その感想を授業で言っていたが、その感想は「まぁ両方とも面白かったんじゃないかな」という、取って付けたような感想であったから、彼は「何か」に気づいていないのかもしれなかった。
そして、6月に入り、「文芸部冊子6月号」が出された。他の部員の書いている小説を、制作期間中に見たりすることは禁止であったため、私は冊子が配られるや否や、すぐに彼女の小説が載っているページを開いた。私が「何か」を知りたいがために彼女の小説を食い入るように読んでいることは彼女も知っていたため、私の行動を隣の席で見ていた彼女は、小さく苦笑していた。
今回の作品のタイトルは「激動2」だった。どうやら、私のことを思って、同じ内容で小説を書いてくれたようだった。顔を上げて、隣の彼女に「ありがとう」と彼女に言うと、「いえいえ」と、彼女は笑顔で小さくお辞儀した。美しい動作だった。
早速私は「激動2」を読んだ。内容や文体は、前作と似たようなものだった。もし、これで「激動2」がつまらないと感じれば、それはただ単に、私は「激動」の内容が面白かった、というところに帰結することになる。
しかし、嬉しいことに、今回も僕は「激動2」に魅入られてしまった。むしろ、前作より、この作品のほうが私の心に残った。冊子が配られたのが、帰りのホームルームであったから、私はこの作品を部室で読み終えたのだが、部室でも隣に座っている彼女は、当然「面白かったですか?」なんて自分から言い出さないので、こちらから「面白かったよ」と、彼女に言った。彼女はやはり微笑んで、「そうですか」と答える。「前作より面白かったんだけど、何か変えたのかい?」と聞くと、「私らしさを、前回よりも強く出してみました」と言った。やはり、私は彼女が持っている才能なり何なりに魅かれたことは間違いなかった。
そのやり取りを聞いていた、例のお節介な先輩が、「『激動』の話か?」と、首を突っ込んできた。否定することもなく、頷くと、「『激動』か~」と、呟いてから、「俺はあんま面白いと思わなかったけどな~」と、作者の目の前で悪びれもせずに言った。それがこの人の長所といえば長所だし、短所といえば短所なので、仕方がないことなのだが、私の大好きな小説をけなされたこともあって「いったいどこがつまらないんですか? 面白くないですか?」と、私にしては珍しく食って掛かった。すると、先輩は「いや、だってさ……」と前置きして、
「いやにリアルなんだもん」
と首をすくめながら言った。
それのどこが悪いんだ、と言ってやろうかと思ったとき、私は何かが弾けるような、そんな感じを受けた。そして、反論する代わりに、
「それだ!」
と叫んでいた。私の人生の中で、一番の大声だったかもしれない。
「うぉ!? なんだいきなり!?」
とびっくりしている先輩を尻目に、私は彼女に言った。いや、まくし立てた。
「それなんだ! あなたの小説はリアルなんだ! それもとびきりに! 僕が書く、恋愛小説や、SF小説は、リアルっぽくても、『リアル』ではないんだ! いくら現実と似ていても、そんな世界は存在しないと頭のどこかで思ってしまうんだよ。それに比べて、君の小説はそんなことを微塵も感じさせないんだ! リアルなんだ!」
「は、はぁ……そうですか……」
彼女もしどろもどろという感じであったのを覚えている。彼女が少し引くくらい私は興奮していた。
まったく恥ずかしいことに、私は当時作家を目指していながら、偏ったジャンルの小説しか読んでいなかった。自分が書きたいと思うジャンル、つまり恋愛小説とか推理小説しか読んでいなかった。私が彼女の小説に魅力を感じたのは、彼女の小説が随筆に近い、リアルなものだったからで、そしてそれは私には見慣れないものだった。斬新なものだったからなのだろう。
こうして、私を1ヶ月苦しめた「何か」の正体は、またもやあの先輩のおかげで暴かれたのである。
その後、私と彼女の関係は、いっそう深くなった。彼女は彼女で、私とは反対に、空想の世界を描くことが苦手だった。そのこともあって、お互いにお互いを教えあう関係になり、気づけば、彼女と一緒にいる時間が多くなった。
最初に書いたキスについては、「主人公がキスをしたときの気持ちが知りたい」ということを、彼女にしては珍しく自分からお願いしてきたので、キスをしただけのことだった。しかし、2人とも恋愛関係になっているとは思っていなかったし、たしかに小説以外の話をすることも増えたが、それはほんの些細な日常会話であって、たとえば2人で映画を見に行ったり、たとえばどちらかの家に行ったり、なんてことはついにしなかった。私たちは、あくまで「小説仲間」を貫いたのだ。
しかし、高校3年間が終わろうとしていた頃、私は彼女に魅かれていた。というより、彼女がいない生活が考えられなくなったといったほうがいいかもしれない。とにかく、彼女と離れたくなかった私は、その感情を人生初めての恋だと感じた。3年かかって、やっと気づいたものであった。
しかし、それが叶わぬものであることも知っていた。彼女は、高校を卒業したら、東京の大学に行きたいと常々言っていて、そしてその夢を見事果たした。しかし私は、彼女ほどの学力もなく、やはり地元の大学に進学が決定した。2人は、別々の道に進むことになったのだ。
それでも諦めきれない私は、卒業式の日、彼女に告白した。恋愛小説をよく書く私にとって、このプロポーズは、もっとも理想的なタイミングであった。てっきり断られるものだと思ったが、彼女は受け入れてくれた。いつか僕は東京へ行く、だからそれまで待っていてくれと彼女に言ったら、私が見た中でもっとも素敵な笑顔で、ええ分かったわ、お待ちしていますと彼女は言った。そして、初めて恋人として、彼女とキスをした。そして、遠距離恋愛が始まった。
それから数ヵ月後、彼女は大学生ながら、作家としてデビューした。デビュー作は「激動」だった。たいして売れなかったそうだが、私はとても嬉しかった。彼女の作家デビューを、自分のことのように喜んだ。
そして、私は、冬の長期休暇を利用して東京へ行くことに決めた。彼女に会いたくて会いたくてたまらなかった。
しかし、私が東京へ行くそのわずか3日前に、彼女の母親から電話がかかってきた。「娘が、交通事故にあったようです」と、彼女の母親は泣きながら言った。
私は、彼女の家族とともに、すぐさま東京へ向かった。このとき初めて、彼女に、5歳離れた妹がいることを知った。私は彼女のことを何も知らない自分を嘆き、彼女のことを知ろうとしなかった自分を責めた。
東京の病院についた私たちを待っていたのは、ベッドに横たわる彼女の身体と、「お亡くなりになられました」という、医者の言葉だった。彼女は、私の愛する彼女は、この世を去ったのだ。
医者が、彼女が死ぬ間際に残した言葉を述べた。家族に対する言葉の後、死ぬ直前に、私にもう一度会いたかったと残した、と医者は言った。しかし、彼女の口から、彼女の声でその言葉を聞かなければ何も意味がないように思えた。
結局、私は、自分の恋人のことを何も知らずに、恋人を失ったのだった。
あれから10年が経った。
私は、今でも彼女を忘れられない。結婚もしていない。あれ以来、一度も誰かと恋に落ちたことはない。
私は、彼女を失ってから、彼女に誇れるような、彼女が聞いて喜ぶような生き方をしたいと思って生きてきた。
今でもお前は、私の心の支えとなっているんだよ――――。
――――りさ、君の事を、愛している。
最後はなんかクサくなってしまいました。他に思いつかなかった……
感想等、お待ちしております