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第四章

〜紅の兆し〜



キラービーの群れを何とか全滅させたシグたちはそのままラ・ジェラーデに戻ると精霊の間でファナに説教をしてもらおうと精霊の間に向かっている最中だった。

「あ、ローナちゃんにネルちゃん久しぶり」

「ファ〜ナちゃん、遊びに来たよん」

 ネルとファナはイエ〜イなどと楽しげに手を合わせていたが――

「あの、お二人ともどうしたんですか?さっきからずっと怖い顔をしてますけど…」

 心配するファナに「怒りたくもなるさ」とローナ。そのままこれまでのいきさつを全てファナに語った。

「やっぱり。あの草原から春の力を感じるなとは思ったんだけど…」

「感じているならすぐ僕に言ってくれよファナ。事が大きくなる前に」

 シグは多少キラービーに刺された顔を撫でながらため息をついた。

「まったく。ローナの炎がなかったらけっこうきつい量だったぞあれは」

「ごめんなさ〜い」

 てへへ、と笑う春の精霊にはまるで反省の色がなかった。

「こいつ絶対わかっていないな」

「同感だ」

 ローナとシグは二人してげんなりとした顔をしていた。

「まぁまぁ二人とも。ネルちゃんにも悪気はなかったんですから許してあげてください」

 ネルのあの笑顔を見て本気で悪気がなかったとファナは思っているのだろうか。そういうところは春の精霊らしく暖かな心持なのか、それとも単にファナの性格がぬるいだけなのか。

「それじゃ、あたしはもう行くわ…」

「僕も今日はこれで…」

 げんなりとした表情のシグたちはやってられんと言わんばかりに精霊の間を去っていった。後にはきょとんとした顔のネルとファナだけが残されていた。




 ローナと別れたシグはテイルを連れ、オールゼットに向かっていた。何しろラ・ジェラーデには旅人のための武具屋はもちろん、雑貨屋すらないため、日々の生活用品を買い足しに、シグは定期的にゼル・リアの街に行かなければならなかった。そのついでといってはなんだが、酒場で必要な情報も収集し、モルグナード地方の地図も得た。そして――

「よう」

オールゼットに行く最大のメリットは今、シグに軽く挨拶をしてくれた彼の情報である。酒場より正確であり、かつマリルに調合や細工の材料を頼まれたときの情報源は常に彼によるものであった。

「やぁ」

 シグも片手を上げて挨拶を返す。

「今日も雑貨の買い足しか?」

「ああ。今日は武器屋も見てきたよ」

 シグはそう言って新品の槍をアリルに見せる。

「ところでシグ、前から聞きたかったんだけど」

「何?」

「お前ってよくここに来るけど、実際はどこを拠点にしているんだ?この街の宿屋に出入りしているところは見たことないからなぁ」

「そ、それは……」

 シグは返答に困った。まさか、精霊の住む町で一緒に住んでいますとは言えないし、それにアリルは冒険家だ。ラ・ジェラーデのことを知ったらきっと行きたがるに違いない。

「テイルがいるからなかなか街の中ってわけにはいかないんだ。オストリ屋があれば別なんだけど」

 オストリ屋とはオストリザードを預かってくれるオストリザードの専門店のようなものだ。断じてオストリザードを焼いてどうこうという店ではない。

「確かにそれは難しい問題だな」

 アリルの言うとおりだった。いかにオストリザードが人間に懐きやすいといっても所詮は魔物の一種。いつ人間を襲うかわからないのだ。

「テイルはあんなに人懐っこいのにな」

 アリルはテイルとはこの短期間であった者達の中ではかなり親しかった。

「それじゃ、僕は帰るよ」

「ああ、気をつけてな」

 アリルに別れを告げ、シグはオールゼットの外で待たせているテイルのもとへ向かった……のだが、草の生い茂る台地に大きなオストリザードの姿はなかった。

「テイル?」

 シグは周囲を探してみるが、やはりいない。

「どこにいったんだよ」

 今までテイルがシグに黙って単独行動などしたことはなかったのに。シグはクラース草原を西に進みながらテイルらしき動物の姿を探した。

「テーイル!」

 シグはついに不安になり、その名を草原のど真ん中で叫んだ。返事はてっきり返ってこないだろうと確信していたが、予想外に返事はそんなに遠くない位置から聞こえた。

「テイル!」

 ようやく見つけたテイルはフォルナの森の近くにいた。

「どうしてこんなところまで一人で行くんだよ?」

「キュ、キュ〜!」

 テイルはシグに何かを知らせているようだった。

「この先に何が…?」

 テイルはシグの思案をよそに勝手に森の奥へと歩を進めていく。シグは慌ててそれを追う。

テイルに連れられてきた場所は泉の湧き出る森の最深部だった。そこでシグは倒れている人を発見した。髪の長さからしてどうやら女性のようだ。

「大丈夫ですか!」

 シグは女性の上半身を軽く起こし、何度か声をかけるが反応はない。静かに眠るその顔つきはまだ成人には少し遠い年齢の少女だった。一応防具や武器である杖ももっていることからアリルのような冒険家にも思えた。

「とにかく連れて帰ろう」

 シグは少女をそっとテイルに乗せると、相棒に全速力でラ・ジェラーデに帰るように命じた。

 シグは気がつかなかった。彼らが去った後、森の木々の間から人影が現れたことを。人影は、テイルの足音がまだ遠くなる前から泉の前に立っていた。

「あいつを探しにこの地に赴いてみたら、とんでもない奴が現れたものだな」

 人影、鎧を着けた女性は誰に言うわけでもなくつぶやいた。

「やっと見つけた。やっとあいつを……」

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