終章
〜季節の変わり目〜
(これでいいんだよな…)
夕日を背に去っていく帝国の軍隊のどこかに溶け込んでいるノアの背中を見送りながらシグは立っていた。
「シグ様、ノアさん立派な軍人さんになれるといいですね」
ファナの笑顔は灼熱の砂漠で見ても春の日差しのように暖かかった。そんな彼女にシグは優しく微笑みながら小さく頷いた。山に隠れていく太陽のように、帝国軍人たちの姿も小さくなっていく。
ルミネ・ロックバース。
帝国本国からの要請を受け、逃亡したノアを連れ戻しに来たシグと同期の軍人。彼女の真意はついにシグに伝わらないままに終わっていた。しかし、ルミネはきっと諦めずにシグを追う旅に出るだろう。そして今度こそ……
「ヘイヘーイ、暗いぞお前ら!」
「うわぁ!?」
「きゃ!?」
アリルとネルの背後攻撃に二人は思わず声をあげた。
「仲間の門出なんだ。最後まで笑顔で送ってやらなきゃな」
「そうそう。パァーっとはしゃごうよー!」
「お前ははしゃぎすぎだっての!」
ローナのげんこつを受けてネルはいつものように撃沈する。
「二人がそーんな顔をしていたらノアも勇んで国に戻れないでしょ?」
「マリスちゃん…」
「ノアさんはきっと私たちのところに帰ってきてくれますよ。いつになるかはわからないけど、絶対に」
「うん、そうだね」
シグは小さく頷いた。
「さぁ、帰ろうぜ。そんでもって、今夜は宴会といこうぜ。ラ・ジェラーデの住人にゼル・リアの酒の上手さを教えてやるぜ!」
「わぁーい!さすがアリル!」
「ネルちゃん、あんまり飲んじゃだめだよ。ここ数日修行をサボったんだから急いで他の皆に追いつかないと」
「わかってまーす!」
ネルははしゃぎながらアリルと二人で砂漠でと競走なんか始めている。
「やれやれ、本当にわかっているのかな?」
「シグ、あれがわかっている反応なわけないだろう?」
「絶対明日になったら酔いつぶれているだろうねぇ」
「今から胃に優しいものを作ったほうがいいでしょうか…」
ローナたちの会話にファナはクスクスとおかしそうに笑った。
「私の周りは本当に面白い人たちばかりですね」
「それって僕も含まれているのかい?」
「フフフ、秘密で〜す」
「参ったな…」
苦笑しながら後ろ頭を掻くシグにテイルが愉快そうに高い声で一声鳴いた。
「そうだね。帰ろう、皆が待つ場所へ」
太陽が沈んだグレム砂漠の空には今日も満天の星空が広がっていた。
明日もきっと晴れるだろう。