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第七章

〜冒険〜


 待ち合わせの場所では既に準備を整えたアリルが今か今かとシグたちの到着を待っていた。

「よう、来たな」

「ああ、皆もつれてきた」

「皆も……って、ノアちゃんだけじゃないか。後の四人はどうした?」

 言ってからしまったと思った。ノアもどうフォローしようかとシグの顔をチラチラと横目で見ている。

「あ、え〜っと、彼女たちはその、これないみたいでさ…」

「そ、そうか。彼女たちにもいてもらいたかったんだがな。それに可愛い娘ぞろいだし」

 アリルはにっと白い歯を見せて「もちろんノアちゃんも可愛いぜ」と笑った。彼は、よもやその四人がシグの体の中にいるとは微塵にも思わないだろう。

「まぁ、来れないのならしょうがないな。三人で行くか」

 アリルは特に気にした様子もないようだった。ホッと胸をなでおろしたシグは改めて彼に目的地の場所を尋ねた。

「今回の目的地は水晶の洞窟だ」

「「水晶の洞窟?」」

 モルグナードに来て日が浅い二人は揃って首をかしげた。

「ケサパの丘を越えて北に行ったところにある洞窟さ。その名の通り、洞窟の中には水晶がごろごろ生えている」

 水晶がごろごろ生えている、というのはなかなか想像しにくい光景であるがシグたちはとりあえず頷いた。

「結構綺麗な場所で特に女性冒険家に人気の場所だ」

「へぇ、どんな場所なんだろう…」

「そこで問題が起こったのか?」

 シグの問いに「ああ」とアリルが頷く。

「クエストの目的自体は洞窟内にはびこっている魔物を討てっていうそれだけなんだが、洞窟内部の仕掛けに手間取っているんだ。まぁ、詳しいことは目的地についてから話すぜ」

 いつものようにオールゼットの外で待たせているテイルに乗り、一行は一路水晶の洞窟を目指した。

 水晶の洞窟はオールゼットからケサパの丘を越えて北の孤立した島の上にできた洞窟で、周囲は霧に囲まれた、ただでさえ寒い孤島に拍車をかけていた。

「キュ〜……」

 テイルは弱々しくシグに助けを求める。

「オストリザードは寒さに弱いって言うからな。そこはさすがリザードだよな」

「キュ!」

「わぁ、いてて!別にお前を馬鹿にしたわけじゃないって!」

 噛み付かれたアリルは必死にテイルの口の中から自分の右手を引っ張った。

「しかし、この寒さは人間でも結構耐え難いものがあるな…」

「ええ…」

 シグの一言にノアも手に息をかけながら同意した。外套を着ているというのに、この寒さは尋常ではない。

 スポン――という擬音が一番適切だろう――とテイルの口からようやく解放されたアリルは唾液と歯形まみれの右手をハンカチで拭きながら微笑して言った。

「その寒さもすぐに忘れるって。上を見上げてみな」

 アリルの言うとおりにシグとノアは霧の中を見上げてみると、そこには無数の水晶が霧の中だというのに綺麗な輝きを放っていた。

「うわぁ…」

「きれい」

 あまりの美しさに二人は感嘆の声しか出せなかった。少し進むとやがて洞窟の入り口がぽっかりと口を開けて待っていた。

「テイル、この先は危険だ。お前は島の入り口の暖かいところで待っていてくれ」

「キュウ」

 わかったと言わんばかりにテイルは頷くと、そのまま来た道を引き返して行った。

「よし、行くか!」

 霧で完全にテイルの姿が見えなくなった後、三人は水晶の洞窟攻略を開始した。

 水晶は洞窟の入り口から三人を歓迎するかのごとくまばゆい光を発していた。

「うわぁ、綺麗ですね。水晶でできた花ですよ」

 ノアは滅多に見られない形の花や石にすっかり夢中のようだ。シグたちはそんな彼女を眩しそうに眺めながら慎重に洞窟の中を進んでいった。洞窟はところどころ別れ道が存在したが、すべて最後には一本に繋がる道になっていたため迷うということはまずなかった。

「それで、問題の箇所はどこなんだ?」

「この先だ。三つの別れ道があって、正解ルートは真ん中なんだが……」

「右と左の道に謎解きがあるってわけか」

「そういうこと」

 会話をしてまもなく、噂の別れ道に遭遇した三人。

「さっきも話したとおり真ん中が正解ルートなんだが、少し進むと氷の壁で阻まれているんだ」

「ということは右と左の別れ道に仕掛けがあるってことですね」

「ああ。変な機械がおいてあって俺一人ではどうにもならなかったんだ」

「とにかく行ってみよう」

 三人はまず、左の別れ道を進むことにした。ずっと一本道の直線で途中に谷もあったが、なんなく奥地までたどり着く。別れ道の終点には隅っこのほうに人が一人は入れるくらいのカプセルのようなものが一台設置してあるだけで他には何もなかった。

「これがアリルの言っていた機械か」

 シグは軽くカプセルの周囲を見回してみるが、スイッチのようなものは何一つ見つからない。

「入ってみたんですか?」

 ノアの問いにアリルは小さく頷いた。

「だが、何の反応もしなくてな。もしかしたら魔力に反応するんじゃないかなと思ったんだ」

「なるほど。よし…」

 シグはカプセルの台に足をかけた。

(魔力に反応するのなら、彼女たちの力にも反応するはず…)

 シグはカプセルの中に入り、目を閉じた。刹那、シグの頭に激痛が走った。

『きゃっ!?』

『わわ!!』

 それはどうやら彼の意識の中にいる彼女たちも同じようだった。

『何これ?魔力が反応して…』

(皆、大丈夫か?)

『シグ様!』

『大丈夫じゃないけど、痛いってわけじゃないな』

『あたしたちの魔力がこの機械に反応している』

(じゃあ、アリルの仮説は当たっていたみたいだね)

『そういうことになるね』

 頭の激痛も最初ほどではなく、徐々に収まってきている。同調しているということだろうか。

「おい、大丈夫か!」

「シグさん!」

 仲間に名前を呼ばれ、シグはうっすらと目を開けた。

「二人とも…?」

「シグさん、よかった…」

 ノアはへなへなとその場に座り込んでしまった。

「何の反応も示さねぇからびっくりしただろうが」

「ごめん。それで、機械は?」

「あ?ああ、低い音をたてながら動いているみたいだぜ」

「仕掛けの解除は成功だね。よし、右のほうの仕掛けも解きに行こう」

 そう言って、シグがカプセルから離れるや否や、機械は再びゆっくりと機能を停止した。

「止まっちまったぞ?」

「本当だ…」

「もしかして、右の機械と同時に魔力を送らないといけないのかしら?」

「え?」

「アリルさん、右の別れ道にも同じ仕掛けがあるんですよね?」

「ああ。これと同じ機械があった」

「ということはもう一台は私が動かさないといけない」

「ノア、やってくれるか?」

「もちろんです。さぁ、行きましょうアリルさん」

 さっきのシグの例もあって流石に断られるかと思っていたが、それはシグとアリルの思い過ごしのようだった。数分後、二台のカプセルに乗った二人の魔導師の魔力が送られ、中央の扉が地響きを起こしながら開いた。

「この奥に目標の奴がいなかったら拍子抜けだな」

 アリルは軽口を叩きながら扉の奥へと進む。扉の奥も今まで同様やはり迷路のように分岐はしていたが、全て一本の道へと繋がる道ばかりだった。道を進む途中、三人は水晶とは違う輝きを放つ球体を見つけた。

「あれは?」

「さぁ、魔物とは違うみたいだけど?」

「俺が調べてきてやる!」

 アリルはゆっくりと球体に近づいた。

(すごい光だぜ。売ったらどのくらいの値がつくかな?)

 頭の中でそろばんを弾きながら、そっと手を伸ばした。刹那、球体が急にアリルを鋭く睨みつけた。

「!!」

 球体はまばゆい光を発しながら粉雪のようなものをアリルに吹き付ける。

「ぐわああ!」

「アリルさん!」

 ノアが悲鳴を上げるように叫び、シグは槍を構えて敵に突きを加えた。球体は特にダメージを受けた様子もなくシグたちから距離をおくように宙を泳ぐ。

「大丈夫か?」

「ああ、平気だぜ。まさか魔物だとは思わなかった。しかも、今の粉雪からしてどうやらビンゴのようだぜ」

「じゃあ、あれが討伐する魔物?」

 シグは改めて宙に浮く球体を凝視した。みたところウィスプ系の魔物のようだが、好戦的でしかも能力は桁違いに高い。本来のウィスプ系とはまったく逆の性質を持つ球体だった。

 球体はシグたちが体勢を立て直す前に粉雪の第二波をかける。

『相手が雪で来るならこっちの炎で溶かしてやろう!』

「そうだね」

 シグはメンバーの誰にも気づかれないように頷くと、槍を使ったジャンプで球体の後ろに回りこんだ。

「うまい!」

 アリルが歓喜の声をあげる。後ろに回りこんだシグはそのまま球体に右手を添えて、ローナから教えられた言葉を紡ぐ。

「フレインブラスター!」

 まるでドラゴンが放つブレスのような炎が球体全部をまんべんなく炎で焼き尽くした。球体を覆っていた雪が溶け、辺りは一瞬にして蒸気に包み込まれる。

「やったか!?」

 蒸気に包まれながら敵の存在を確認する。

「いえ、まだです!」

 一瞬の判断だった。ノアは杖をその方向に向けると呪文を早口で唱えてシグと同じように炎の魔法を放った。ローナの炎と違ってこちらは火球弾のようにスピードが速いが、方向変換はできない直球だ。しかし、ノアが感じたとおりならば……

「あっつ〜い!!」

 しかし返ってきたのは魔物の悲鳴ではなく女の子の悲鳴だった。

「!?」

「女の子の声?」

 悲鳴から判断してさっきまで戦っていた相手ではないことは確かだが、蒸気が一向に晴れないため油断はできない。シグたちは武器を構えたまま蒸気が晴れてその正体が見えるのを待った。

 あれだけの雪を溶かしてできた蒸気がようやく晴れ、声の正体がゆっくりと姿を現した。

「え?」

「うそ…」

「ありえねぇって…」

 円を描いたような三人の隊列の中心には女の子が一人ちょこんとしゃがみこんでいるだけだった。

「ふぅ〜、助かったぁ。でも、もう少し優しく助けてほしかったなぁ…」

 少女は三人の存在を確認するなりそんなことをつぶやいた。

「おいおいどういうこったい!?魔物が突然、お、女の子になったぞ!?」

 アリルは何度も目をこすったり、頬を叩いたりしている。ノアもアリルほど驚いてはいないようだが、初めて見たためかやはり言葉が出ない。

『スゥちゃん!』

 シグの意識の中にいるセラが叫んだ。

(セラ、やっぱりこの娘は…)

『冬の精霊です。ココルちゃんのお友達なんですよ』

(やっぱり)

「シグさん、この子はもしかして…」

 ノアがひそひそと耳打ちをする。

「ああ、この子はどうやら冬の精霊の子供らしい」

「こんなところにも迷い込んだ子がいたんですね」

 少し呆れるものの偶然にもラ・ジェラーデの住人を助けたのはファナには吉報だろう。

「よし、この子は連れて帰ろう」

「そうですね」

「おいお〜い、ちょっと待てぃ!」

 アリルが素っ頓狂な声をあげた。

「見ず知らずの子を連れて帰ってどうするつもりだよ?お前ら、旅の途中だろ?根無し草にこんな小さな子をつきあわせるつもりか?」

「失礼ねぇ!あたしは旅するくらいなんてことないわ!だって飛んでるだけだもん」

「はぁ?」

 事情を知らないアリルは顔をしかめる。

(しまった。また墓穴掘っちゃった。でも、ここで連れて帰らないなんて言うことはできなかったし…)

 流石に堂々と空を飛ぶなんて言われてしまってはフォローの仕様がなかった。少女の言うことは否定することはできたが、そうすればこの少女は絶対に反論するに決まっている。余計に混乱を招くだけである。

(あぁもう、何が何だかわからなくなってきちゃったな…)

 すっかりとお手上げとばかりにシグは後頭部を掻きながら意識の中にいる四人の少女たちに必死に言い訳を考えてもらっていた。

「取り込み中のところを悪いが――」

 言い争いをしている四人の後ろから低い声が冷たく当たる。振り返ってみればルミネと彼女の部下達が険悪な雰囲気をかもし出しながら立っていた。

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