第七章
ファナの思いがけぬ弱い部分にシグは共感を覚えつつも自分と同じ過ちを繰り返してしまうのではないかと危惧してしまう。そして同時に自分の身に起こった過去を思い出してしまう。
〜罪悪感〜
「ちょいと助けてほしいことがあるんだよ」
ある日、いつものように雑貨を買いにオールゼットを訪れるとそう言われた。
「どうしたんだい?君が助けてほしいっていうなんて珍しいな」
アリルは「そうか?」と言うがシグたちがピンチになると必ず駆けつけてくれたのはいつも彼だった。
「お前って普段はどこを拠点にしているかもわからないのに、やっていることだけはド派手だからな。五人の女の子と旅をしたり、変な女に追われていたりさ」
同情するアリルにシグはただただ苦笑するだけだった。
「それで助けてほしいことっていうのは?」
シグが話を元に戻す。「そうそう」とアリルもすぐに本題を切り出した。
「実はな、今俺が受けているクエスト、冒険で少し行き詰っていて、力を貸してもらえないかなと思ってさ。あれはおそらく魔法が必要だ。お前だけじゃなくてこの前の女の子達にも来てもらったほうが心強い」
「そういうことか」
「協力してくれるか?」
「ああ、もちろん。アリルにはいつも世話になっているからな」
「よっしゃあ!さすがシグだぜ」
アリルはパチンと指を鳴らした。
「一度、彼女たちを呼びに行ってくるから君はここで待っていてくれないか?」
「…俺も一緒に行っちゃ駄目なのか?」
「え?」
きびすをかえそうとしていたシグの動きがピタリと止まる。
「俺が頼んだ依頼だから俺が彼女たちにもお願いしに行くのが普通だろ?」
確かに常識的に考えればそうだろうが――
「大丈夫だよ、彼女たちのことは。きっと、いや絶対来てくれるよ」
「しかし、常識を考えればだな――」
まずい、とシグは思った。このまま話し合いを続けていれば自分が打ち負けてしまうことは目に見えてわかっている。彼はお人好しな人間なのだ。反射的に自分よりも
他人を優先してしまう癖がついていた。格なる上は――
「あ、アリル!すぐに戻ってくるから準備をして待っていてくれ!それじゃ!」
シグはアリルが次の言葉を言う前に全速力でその場を走り去っていった。時間帯が悪く買い物客が多いため、シグの姿はすぐに雑踏に紛れて消えてしまった。
「何だって言うんだ、いったい…」
アリルは後頭部を掻きながら小さなため息をついた。
いつものようにテイルをケサパの丘まで走らせていたシグは不意にその手綱を軽く引いた。
「キュ?」
ゆっくりと足を止めたテイルが怪訝そうな顔つきで主人を見つめた。
「なぁ、テイル。このまま隠し通すのもどうかと思うよな?」
テイルはシグの言いたいことを察したのか深刻そうな顔をしたままシグの次の言葉を待った。
「アリルには今までこの地方の案内を初めとしていろんな場面で世話になってきたのに、このまま彼女たちのことを隠し通すのは果たして良いことなんだろうか…」
「キュ、キュキュ〜」
テイルはシグに何かを訴えるように鳴いた。
「確かに、僕もついこの間まで冒険家は自分の善悪で考える輩が多いと聞いてきたからアリルにも黙っていた。けど、ルミネが現れたことで彼女が僕やノアを狙ってくる可能性が高くなってきた。もし、彼女に僕らがラ・ジェラーデにいることがばれたら大変なことになると思う。そして、もしものときに一番の助けとなるのは……彼なんだ」
テイルは黙ったまま俯いた。
シグも再び手綱を引っ張りラ・ジェラーデへの道が開かれるケサパの丘へと急いだ。
ラ・ジェラーデに戻ったシグは早速主要メンバーたちを神殿区に集めてアリルの依頼のことを話した。幸い、精霊四人もノアも快く了承してくれた。
「はぁ…」
いつも穏やかで笑顔を絶やさないファナが珍しくため息をついた。
「どうしたの、ファナちゃん?」
「え?ううん、なんでもないよ。皆、行ってらっしゃい」
「?」
気遣うセラに無理して笑ったファナは、シグたちが部屋から出て行った後もやはり同じようにやりきれないため息をつくのだった。