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ラムネット  作者: ラムネ
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6話 朱に交われば赤くなる

朱に交われば赤くなる

人は交際する人や環境によって、良くも悪くもなるということ。

事故があった。

緩んだ地盤に雨が降ったことで大きな土砂崩れが起きた。

生き埋めになり8人が亡くなった。


以前から大規模な対策工事の計画があったが、着工には至らなかった。

莫大な予算・補てんのための計画案・利権が絡んだ一大事業だった。

私利私欲の絡んだ工事には、根強い反対があった。

その反対派の代表が 美玖の父 立花敬一 だった。


工事推進派は事故の悲劇を巧みに誘導し、反対派を悪者に仕立て上げた。

被害者や家族は、工事反対派を責め立て深く恨んだ。


「工事さえしていれば誰も死ななかった」


反対派は激昂した。

推進派の汚いやり口に。今まで見方だと思っていたものの裏切りに。

自分達は、対策工事にかこつけた不要な河川工事や道路建設を反対するものだった。

不用意に自然を切り崩し、税金を使い、体裁だけ整えようとする、それが許せなかった。

もちろん、土砂崩れの別の対策案も提案していたが、そこには一切触れず

ただ推進派の利権のみを狙ってるように吹聴された。


反他派の釈明は、町の人間や被害者の感情を逆なでするだけだった。

感情的になった被害者達と反対派の口論で悲劇は起こった。

喧嘩の仲裁に入った敬一だったが、混乱のさなか一人が階段から落ち死んだ。


敬一は事故だと言った。

しかし、突き落として殺したと証言した。

高ぶっていた感情は更に凶悪なものになり、敬一に集中した。

係わりを恐れ、一人、また一人と敬一の仲間は去って行った。


誰にも流れを止めることはできなかった・・・


【6話 朱に交われば赤くなる】


こつこつ、と時計の音が響く。

柳の胸には、美玖の顔がうずくまっていた。

美玖の三つ編みが所々ほつれて悲しげに見えた。


「・・・学校行けなかったの」


ポツリと呟くと涙を軽く拭った。


「みんなが私のこと、知ってるような気がして・・・恐くて・・・人が沢山いると

 ダメなの・・・だから、近くまで行ったけど・・・それ以上進めなくなった・・・

 自分でも、バカだって思うの、こんなの・・・でも、進めなくなって・・・

 君孝さんも、ルイねぇも、隼くんも、柳くんも、みんな頑張れって言ってくれたのに

 恐いの・・・沢山の人がいると・・・どうすればいいか分からないの・・・」

次々と言葉が溢れてきた。

今日一日、家に帰るまでの間考えていたことだった。

それでも、何も答えが見つからなかった。

焦りと戸惑い、罪悪感に飲み込まれそうだった。


「お前・・・ほんと、バカだな・・・」

柳は恐怖の正体は、学校ではなく【人】自身なんだと理解した。

だが実際、この家では上手く生活できている。

美玖自身に問題があるとはあまり想像できなかった。

だとしたら過去のトラウマか何かが原因だろうか。

考えてもそんな事は分からない。


「俺は、お前の気持ちなんて少しも分からない。

 何でそういう風に過剰に人を恐がるのかも分からない。

 それが普通だ。

 それとな、お前のことなんて、誰も知らねーよ、知ってたら何だって言うんだ。

 お前が何したって言うんだ。人でも殺したのかよ。」

ビクッと美玖が驚いて顔を見上げた。

冗談で言った一言だったが思わぬ反応に柳も困惑した。


「・・・違うの・・・お父さんが殺したんじゃないの・・・違うの・・・」

「分かった・・・悪かった・・・冗談のつもりだったんだ・・・」

美玖はハッと口に手を当てた。

そんなつもりは無かったのに思わず弁解をしてしまった。

それは事故のあと、町の人や先生、学校の友達、遺族に・・・

何回も言ったセリフだった。

その後の呆れや怒りに満ちた表情、容赦ない暴言を思い出し震えた。


柳は首を傾けると軽く息を吐いた。

何となく理由が分かってきた。

故意か他意か分からないが、殺人の容疑が父親にかかっている。

その家族が、周りの人間から迫害を受けるのはよくあることだと思った。

学校のような狭い場所で、それが伝わらないハズはない。

いじめの対象になったかもしれない。

それで、こんな時期に伯父に頼って引っ越してきた。

成程・・・な。


「悪かった。こんなこと言わせるつもりなかったけどな・・・聞いた以上、俺は言うぞ。

 俺の親父は銀行屋だ。分かるか? 銀行ってのはな、金貸しだ。

 金が絡むと人間は醜くなる。貸し渋ったら会社は潰れて無理心中なんてよくある話だ。

 よぼよぼの老人に大量の保険や証券を売って損して恨まれるのは行員。

 汚いことなんて、日常茶飯事だ。直接手は下してないが死んだ人間は沢山いるだろうよ。

 その儲けた金で潤うのは一部の人間なんだ。

 親父や・・・俺もだな・・・・・・

 俺だって人殺しの息子じゃないか。だがな、周りの人間は俺に媚びへつらってた。

 気持ち悪いよな、そういうの・・・結局は金が力なのかよって」

皮肉交じりの柳の横顔は、薄い笑みを浮かべていた。

半ば大げさに、半ば本心で語った。


「人間なんて反吐が出る、汚い生き物だ・・・違うか?」

「・・・・・分からないけど・・・・・・それだけじゃないと思うの・・・」

呆れや怒り、暴言でもない柳の態度に美玖は驚いた。

「そうだな。俺はお前をそんな風に思ったことはない」

よく分からなかったが、美玖は涙が溢れてきた。

俯くとぽろぽろと滴になって落ちて行った。


「お前・・・すぐ泣くなよ。卑怯だぞ」

柳は自分から美玖を抱き寄せると軽く頬に口づけた。

美玖は驚いて柳の顔を見ると、恥ずかしさのあまり真っ赤になった。


「無理に学校行けなんて思ってない。気追うなよ。じゃあな」

「・・・・あ・・・えと・・・」

言い終わらぬうちに柳は部屋を出た。

もう限界だと思った。

ただ話していただけなのに心臓の鼓動が速かった。

自分が何を話したかほとんど覚えていなかった。

どうして自分はこんなに緊張していたんだ。

乱暴に髪をかきむしると、階段からいつもの笑顔で隼が登ってきた。


「柳、声が大きい。話終わった?」


隼の一言に柳は驚愕した。

何だか無性に自分が恥ずかしい事を言ったような気がして顔が引きつった。

ただニコニコと隼は柳の顔を見ていた。



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