表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラムネット  作者: ラムネ
39/39

39話 肌に粟を生ず

肌にあわを生ず


恐怖のために、血の気がひいて鳥肌が立つことのたとえ。


☆簡単人物紹介☆ 分かんなくなったら、確認したって


花立はなたて 美玖みく(中2) 引きこもり美少女。対人恐怖症。

花立はなたて 君孝きみたか(35) 美玖の伯父。温和な画家。影が薄いのなんの。

おうぎ しゅん(高1) 花立家の下宿人。さわやか腹黒少年。

おうぎ りゅう(高1) 隼の従兄弟。同じく下宿人。俺さま純情少年。

ルイ(21) 同じく下宿人。大学生。

吾妻あがつま 月桂げっけい(34) ヤクザなお手伝いさん。ロリコンじゃないって。


信家しんや りん(高2) モデル。外出時は男装がセオリー。

おうぎ すばる(28) 隼の兄で月桂の友人。天才肌で遊び人。



【39話 肌に粟を生ず】


 白くて細い手がそっと頬に触れ、すべるように耳元に流れた。ひんやりした感触に、柳は思わず「冷たい」と声を出した。ベッドの上で体がビクリと反応した。


「あたためてくれる?」


 耳元で、甘えたように囁かれ目を開けると、すぐ近くに美玖の顔が見えた。とろんとした目つきで頬と唇が赤く印象的だった。そのまま腕を伸ばし抱き寄せ口づけた。

 抱き寄せた美玖を、ベッドに寝かせ柳が上になるともう一度口づけ、首筋に下を這わせながら制服のボタンを外した。


「柳くん・・・」


 美玖は目をぎゅっと閉じ、たまに控えめな声を出しながら、されるがままになっていた。嫌がっている風でも無かったので、柳はそのままスカートの中に手を入れ、下着をゆっくりと脱がせた。


「美玖・・・美玖っ・・・」


 あ、これはマズイな・・・と、思いながらも体が自然と反応していた。

 分かってる、夢だ・・・ということは。だが、分かった時には遅いものですでに発射オーライ状態だった。


 余韻を楽しむような暇もなく、柳は現実に引き戻された。

 ベッドの上で、ゆっくりとまぶたを開けると、深いため息をつく。


 何とも言えない不快感を解消するため、1階の風呂場に向かった。


「あっ柳くん、おはようございますっ」


 1階に降りると、机にうつ伏せで寝ているルイと朝食の準備をしていた美玖がいた。ルイはいつものごとく二日酔いだろうとすぐに分かった。

 あんな夢を見て後で、柳は美玖に対して気まずい罪悪感のようなものを感じていたのでギクリとした。


「あ・・・ああ・・・」

「あの、柳くん・・・」

「悪い、ちょっとシャワー浴びてくる。後にしてくれ」


 まともに顔を合わすことが出来なくて、逃げるように風呂場に向かった。美玖は、そんなことは当然知らず避けられたような気分になり少し不安になってしまった。


 シャワーを浴び、ようやく不快感から解放されるとリビングに向かった。ルイが、疲れた顔でコーヒーを飲んでいた。


「あ、柳おはよ・・・ね、隼帰ってきてないって? 珍しいわねぇ」

「そうなのか? 知らねーけど、女のとこ行くって言ってたから・・・まぁ、心配ないだろ」


 何気なく言った柳の一言に、ルイはピクリと反応した。いつもさわやかな隼だが、彼女がいるとかそういう浮いた話は一度も聞いたことが無かった。なので、隼が女性と一晩過ごすなんて興味津津だった。


「まぁ、唄子さんって人? 彼女なの? ねぇ、教えなさいよ」

「彼女じゃ・・・ないだろうな」

「柳は唄子さん知ってるの? どんな人? 彼女じゃないのに、そういう関係? まぁ・・・ええぇ!?」

「うるさいな、朝っぱらから。いつもお茶会や歌会で一緒だった人だ。隼が・・・ああ、こういうのは本人から聞けよ」

「うあー気になる! じゃあこれだけ、美人?」

「あ? あー・・・まぁ、そこそこじゃねーの」


 柳は、流すような目線でいつも隼を翻弄していた唄子を思い出した。あんな女にべた惚れだった隼をいつも複雑な思いで見ていた。


「あの、柳くん・・・」

「おわっ・・・何だよっ! 急に話しかけんなっ!」

「えっ・・・あ・・・ごめんなさい・・・」


 美玖に話しかけられ、思わず声を荒げてしまった。真っ赤になって目をそらす柳を見てルイはにやにやする。


「ちょっとぉ、声かけた位で何赤くなってんのよぉ。もっと優しくしなきゃだめよ? 女の子にはね」

「はぁ? 何言ってるんだよ」

「あの・・・私・・・昨日やっぱり迷惑でしたか?」


 しまったと思い、美玖を見ると案の定ショックを受けたような顔で涙目になっていた。


「あ、いや・・・迷惑っていうか・・・原因の一つとは思うけど」

「原因・・・? 何かあったのですか?」

「え・・・いや、別に・・・事故みたいなもんだし」

「事故・・・? あの、やっぱり私ご迷惑おかけしたんですね・・・」


 不安そうな美玖と、すぐに目をそらす柳が、何だか微笑ましくてルイは笑ってしまった。


「何よ~どうしたの、何かあったの? お姉さんに話してみなさいよぉ」

「あの・・・私が・・・柳くんにお願いして・・・その、触らせてもらったんです」

「お前っ! 変な言い方すんなよ、ちゃんと何を触ったのかハッキリ言わないとルイねえが誤解すんだろ」

「えと、ごめんなさい・・・その・・・柳くんの・・・キーボードで・・・」


 慌てて言い直す美玖が可愛くて、ルイはくすくすと笑いながら聞いていた。


「はいはい、分かってるわよ。柳のキーボードを触らせてもらったのね~で、それだけ?」

「そ・・・それだけに決まってるだろ」

「ふ~ん・・・せっかく二人っきりだったのに進展なしか。柳って奥手よね~」

「おい、ふざけんなよ」

「美玖ちゃん、心配しなくても大した事じゃないわよ~。思春期の男の子なんだから色々あるのよ」

「え・・・と?」

「美玖ちゃんには言えないような、そうね、オカズにしたとか?」

「・・・おいっ・・・ルイねえ!」

「え・・・どういう意味ですか?」


 あははと声を出しながら爆笑するルイにいらいらしながら、柳は携帯をチェックした。

 ちらと美玖を見ると、制服を着ていた。今日は学校へ行くのだと分かった。

 朝食を終え、美玖が学校へ登校するのを見計らい、柳も一緒に家を出た。


「えと、柳くんは今日振替で学校お休みなんですよね?」

「そうだけど。何だ?」

「いえ・・・あの・・・お出掛けですか?」

「ああ、学校のやつと会ってくる」

「そうですか・・・」


 少しムッとしたような顔で、早足で柳が歩く。美玖も同じ方向だったので、何となく歩くスピードを合わせて小走りになった。それに気づいて、柳が少しゆっくり歩くと、美玖はほっとした。月桂と一緒に登校する時は、いつも月桂が後方から離れてついてきたので、今のように話せる距離で歩くのが美玖には嬉しかった。

 こんな風に月桂さんと歩けたら良かったな、と心の中で呟いた。


「え、お前なんでそっち行くんだよ。学校こっちだろ?」

「あの、いつも裏門から入ってるので・・・」

「はぁ? 遠回りだろ?」

「はい・・・あの、月桂さんと一緒に来てた時のくせで・・・つい」


 美玖に言われて、柳は舌打ちしそうになった。月桂が送り迎えをしていたのは、何カ月も前の話だ。確かに、目立たないよう離れて登校していたと聞いた。裏門から入るのも目立たないように、という配慮だろう。それはいいとして、未だに裏門を使う美玖に複雑な気分になった。


「別に、もう月桂が送り迎えする訳じゃないんだから、正門でいいだろ」


 意地悪な言い方だと思った。だが、それでいいと思った。美玖にとって、月桂の存在は大きい。こんな小さな思い出の一つも大切にしてるのだと分かった。だが、いつまでも月桂を拠り所にしていては成長しない。それを分からせたかった。

 そのまま、美玖と一緒に正門に向かった。多くの生徒が明るく話を弾ませていたが、美玖は少し暗い表情になった。


「おい、うつむくなよ」

「え、あ、ごめんなさい。あの・・・送ってくれてありがとうございます」

「別に、通りがかっただけだ。ああ、帰ったらまたピアノ弾こうぜ」

「はいっ。じゃあ行ってきます」


 自然と笑顔になった。ピアノに誘ってくれたのも嬉しかったが、それ以上に柳の優しさが嬉しかった。通りがかっただけと言っていたが、わざわざ学校まで送ってくれた柳はなんて優しいんだろうと、ただ胸がいっぱいだった。

 手を振ると、柳も少し笑って軽く手を振ってくれた。




 ルイが家に帰ると、玄関前に制服姿の凛がいた。少しぼんやりした顔で、玄関のドアを見つめていた。相変わらずキレイな顔立ちに、ルイはついつい嬉しくなってしまった。


「りーんちゃん♪ 遊びに来たんだ~どうしたの? 誰も家いない?」

「ううん・・・ルイ、ちょっと聞きたいんだけど・・・扇のやつ落ち込んでた?」

「え、隼が? ああ、帰ってきたときは元気無かったけど・・・なんで?」

「昨日、扇のクラスの女の子に聞いたんだ、打ち上げにも来なかったし落ち込んでるかもしれないって・・・」

「ああ、女装のことね。でも大丈夫そうよ、だって・・・」


 昨日、出かける時すごく嬉しそうだったから・・・と言うより早く、車のクラクションが鳴った。振り向くと、白色の高級外車から出てくる隼と目があった。車の運転席はよく見えないが、20代後半くらいの女優のように大きなサングラスをした女性がいた。


「唄子さん、ありがとう。また会える?」

「うふふ、可愛いわね隼。貴方が会いたかったら、いつでも会えるわ。じゃあまたね」


 二人して嬉しそうに笑ったあと、唄子の車は去って行った。窓から見えた唄子は、セレブという言葉が似合う美しい女性だった。 

 隼はルイと凛に気が付くと、笑顔で「ただいま」と言った。


「おかえり~隼ってば、あんな美人と・・・え、どういう関係なのよ!?」

「唄子さんとは古い付き合いなんだ。あれ信屋、今日は制服なんだ。珍しいね」

「・・・・・・ああ。別にちょっと寄っただけだ。じゃあな」

「え、凛ちゃん帰るの? 美玖ちゃんに会っていかないの?」

「今日はあんまり時間ないんだ。また来るよ」


 今日の凛は、美玖ではなく隼に会いに来たはずだった。元気が無いと聞いて、昨日はやり過ぎたかと一抹の不安を抱いていた。また女装してもらうために、なんとかしなくては、と色々考えていた。

 それが、目の前で嬉しそうな年上美人といちゃついていたので、急にバカらしくなってしまった。後ろを振り向かず早足で帰る。どこか、前みたいに途中で隼が来てくれるかも・・・と期待している自分がいて腹が立った。




  数日後、朝から小雨が降っていた。美玖は学校へ行こうと思ったが、どうしても玄関から出ることが出来ず玄関で立ちつくしていた。どうしてなのか、自分でもよく分からなかった。

 立ちつくしてる間に、時間はどんどん過ぎて行く。送れるて教室に入ると、先生やクラスメートの視線を浴びることになる。あの感覚は苦手だったので早く行かなくては・・・と焦れば、どんどん気が重くなる。

 ただ扉を開けて外に行くだけ、それだけの簡単なことが出来なかった。昨日は出来たのに、なぜか扉の外が恐ろしい気がして進むことが出来なかった。そんな自分がたまらなく嫌だった。


「お嬢さん、どうかされましたか?」


 とっくに学校へ向かっていると思われた美玖が、まだ玄関にいたので月桂は不審に思い声をかけた。美玖は少し驚いたような顔で月桂を見ると、目線を下げ小さな声で話した。


「いえ・・・行ってきます・・・」


 慌ててカギを開け、扉を開けると少し冷たい風が頬をかすめた。冬になると、東京も寒くなるだろうなと考えてしまった。冬になると嫌でも実家でのことを思い出す。雪に包まれた町。暗い部屋で母の最期を見た・・・寒い雪の夜。

 胸がきゅうっと苦しくなったが、すぐに月桂の声が聞こえ発作には至らなかった。


「お嬢さん、送ります」


 嬉しかったのに、涙が出そうで頷くだけで精一杯だった。

 月桂は身支度を整えるといつも通り後ろから離れて歩いた。しかし、すぐに違和感を感じた。しばらく歩くと美玖は学校とは別の方角に進み始めた。


「お嬢さん、どちらへ向かうつもりですか?」

「あの、髪が伸びてきて・・・えとヘアピンを買いに行きたいんです。ダメですか?」

「・・・・・・いえ、自分は構いませんが」


 学校は?と聞こうと思ったが、月桂は口にするのを止めた。そんなことを気にするのは自分の役目ではない。しかし、平日の昼間に制服姿の美玖と一緒に歩くのは少し目立つなと思った。

 いつも通り、後ろから月桂はついてきた。美玖が振り返ると、じっとこちらを見てくる。言葉は無かったが、なぜか安心感のようなものを感じて美玖は小さくほほ笑んだ。


 駅前のショッピングセンターは再開発のため、規模も大きく土日はいつも混みあっていた。今日は平日のため、あまり混んでいなかった。以前、ルイと凛と一緒に立ち寄ったことのあるアクセサリーショップについた。

 きらきらと光る可愛い物に囲まれて、普段あまり外出しない美玖は夢中になって見ていた。色々気になるものがいくつかありどれにしよか迷ってしまった。

 

「それ可愛いですよね~新作なんですよ~」

「え・・・と」


 急に話し掛けられ、ビクリとして顔を上げると若い女性の店員が満面の笑顔で話しかけてきた。こういうのが苦手な美玖は、緊張して適当な返事をしてしまった。


「これね~すっごく人気なんですよ~。お客さん若いから、こういう大きなリボンタイプも似合いますよ~」

「あの・・・はい」

「中学生さん? 今日お休みなんですか~?」

「え・・・えと・・・」


 学校の話をされ、たまらず商品を置いて月桂の元に戻った。少し離れた場所にいたが、目立つのですぐに分かった。小走りで歩み寄り声をかけると、電話中だったようで美玖はハッとした。


「どうかされましたか?」

「あっ・・・えと、ごめんなさいっ。電話中なの知らなくて・・・」

「・・・・・・はい、そうです。分かりました。お嬢さん、電話を変わって頂けますか?」

「・・・え・・・私ですか?」


 月桂が通話相手と何か話した後、美玖に電話を渡してきた。もしかして、学校か君孝さんに学校に行かなかったことを報告されたのかと不安に思った。戸惑っていたが、恐る恐る電話を受け取った。


「・・・はい・・・もしもし」

「久しぶり! 昴だけど、覚えてる?」

「昴さん、もちろんです。あの、お久しぶりですっ」


 昴とは、夏休みに隼と昴の実家で会って以来だった。東京にいるので一緒にランチしようと強引に誘われ、ランチの場所で待ち合わせることになった。車で向かう途中、やはり月桂は無口だった。


「お、美玖ちゃん今日は制服なんだ、キュートじゃん。月桂もそう思うだろ?」

「・・・・・・昴さん、何か用があったのでは?」

「日本に帰って来たから月桂と飯でも行こうかな~って思っただけさ。せっかく美玖ちゃんも居るんだから三人で仲良く語らおうじゃないか。ついでに、相談したいこともあってさ~」


 久しぶりに会った昴は、やはり細身のスーツにキレイな金髪、華やかな顔立ちで歩いているだけで皆の視線を奪っていた。おしゃれなレストランに入ると、個室に案内された。ただでさえ目立つ昴と月桂、それに女子中学生という不思議な3人組は席に着いた。

 さっきまで何をしていたのか聞かれ、美玖がアクセサリー屋でのことを喋ると昴は笑って月桂を見た。


「じゃあ何? 結局買えなかったんだ? 月桂は何してたんだよ?」

「昴さんからの電話応答です」

「美玖ちゃん一人にして~? どーせ遠くで見てたんだろ、一緒に見てやればいいのに」

「あのっ・・・えと、大丈夫です・・・月桂さんはもともと・・・送迎についてきてくれただけで・・・」

「そうだ、一緒に買い物行こうか。旅行準備もしなくちゃね~」

「え・・・旅行?」

「そうそう、あいつらもう少しで誕生日だから隼と柳連れてさ、どっか行こうかと思って。もちろん美玖ちゃんも行くよね!」

「え・・・と・・・」


 突然の旅行話、しかも自分達も人数に含まれており美玖は、何と返答して良いか分からなくなってしまった。月桂を見ると、運ばれた料理の魚をナイフで切るとじっと見つめていた。


「本当は、サプライズでいきなり拉致って無人島に二人を置いてこようとか思ったんだけどさ、いい無人島が見つからなくて」

「昴さん、それはただの嫌がらせです」

「でもな、月桂。あいつらってどーも真面目なんだよな、だから俺がこう、記憶にねじ込むようような体験をさせてやりたいんだよ。その時は辛くて不満をもらすかも知れないが、忘れられない体験になるぞ!」

「ただ昴さんが楽しんでいるように見えますが?」

「それもある。何、その魚じっと見てるけど?」

「・・・・・・このさわら少し炙る位がいいのに焼き過ぎですね。あと味付けが濃い」

「お前ってほんと、料理バカだよな~美玖ちゃんもそう思うよね?」


 眉をしかめながら、料理を食べる月桂が珍しくてつい美玖は見とれてしまった。


「えっ・・・えと、何て言うか・・・うん、月桂さんお料理作る時すごく真剣なんです。でも私、それを見るのが好きなんです」

「俺も好きー月桂の料理が一番ホッとする」

「なんですか、気持ち悪い」

「ハハハ、照れやがってー」


 昴が少年のように笑うと、月桂がまた眉をひそめて視線を返す。月桂とこんな風に一緒に食事するのも珍しかったが、月桂がこんなに話したり表情を変えるのも珍しかった。いつも眉一つ動かさないので、美玖は月桂の表情ばかり見てしまった。


「それで、相談っていうのはサプライズの件でさ・・・」


 昴は足を組むと肘をテーブルに付け、いたずらっぽくほほ笑んだ。昴がこういう顔をする時は、面倒になるなと月桂は小さくため息をついた。


 


 柳と隼が帰宅すると、珍しく誰も居なかったので家の中はしんと静まり返っていた。しばらくすると、ルイが帰ってきて、珍しく君孝も早く帰宅した。

 君孝から、美玖たちは帰りが遅くなると聞いて柳は何か釈然としない感じがした。もやもやしたまま帰りを待ってると、陽気な声が聞こえてきた。


「たっだいま~柳も隼も元気だったかい?」

「え・・・何で兄さんがいるの?」

「久しぶりに日本に帰って来たから、可愛い弟たちの顔を見に来たのさ」

「それは別に構わないけど・・・こんな時間まで美玖ちゃんを連れまわすのはどうかと思うよ?」


 もうすぐ、12時を回ろうとしている。昴は相変わらず上機嫌でまわりをきょろきょろ見ていた。その後ろで美玖と月桂はじっと立っていた。


「まー堅い事言うなよ。ちゃんとキミの了承もとった訳だし」

「キミ?」

「あれ? 知らないんだ、君孝さんのペンネームKIMIキミって言うんだよ。だから俺もキミって呼んでる」

「ペンネーム・・・知らなかった」


 感心してる隼を見て、柳は苛立ち思わず口を出した。


「話すり替えられてるぞ、隼? それからお前、もちろん学校はちゃんと行ったんだよな?」

「え・・・っと・・・あの・・・」


 美玖の困った態度で、学校は行ってないのだとすぐに分かった。柳はだんだんと腹が立ってきた。


「まーいいじゃないか。ちょっとくらいサボっても」

「昴さん、こいつちょっとじゃなくて、かなりサボってるんですよ。最近割と通えるようになったのに、遊びに誘ってサボらせるような真似はやめてください」

「でもさ~美玖ちゃん楽しかっただろ? 月桂と買い物できてー?」

「えっ・・・あの・・・はい・・・」


 聞かれた美玖は、照れたように頬を赤く染め、柳と目が合うと気まずそうに目をそらした。それが更に気に食わず柳は声を少し荒げた。


「そういう問題じゃないんです。来年はこいつだって受験だし、ただでさえ遅れてる勉強が更に遅れたら取り返しのつかないことになるんですよ」

「へー美玖ちゃん受験するの?」

「いや、知らないけど。ともかく、今後はこういうのやめて下さいよ。月桂さんも、君孝さんも状況分かってるはずですよね? 大人なんだから、しっかりしてもらえますか?」

「ハハハ、柳の今のセリフお父さんにそっくりだなー」

「昴さん、俺真面目に話してるんですけど? 昴さんだって、学生の時は真面目に学校行ってたんでしょう?」


 柳の何気ない一言だったが、隼は何かを言いかけ口を閉ざし、月桂は静かに目をそらした。


「どうかなー? 中高は半分くらいは行ったと思うけど」

「え・・・半分? だって成績は在学中いつもトップだって聞いたけど?」

「ああ、テストはね一番以外とったことないね。でもよくサボってたな~月桂とバイク乗りまわしたり、旅行行ったり、な?」

「・・・・・・」


 月桂は無言のままだったが、実際そうなのかもしれないなと柳は思った。昴の理解力と記憶力は別次元の感覚で、小さい頃よりテストなどは完璧な結果を残していた。

 荷物を置いてきますと言い、月桂と美玖は二階に向かった。


「柳、兄さんは変だからさ、学校に行く大切さとか分からないんだよ。勉強するためじゃなく、遊ぶために通ってたような人だから」

「何だよ隼、よく分かってるじゃないか、俺のこと。月桂なんてさー親父のコネで入学した高校、すぐ辞めたしな。つまり柳は、月桂みたいに不真面目な人間になって欲しくないんだな。分かる分かる」

「いや、別にそうじゃなくて・・・月桂さんだって中学は卒業したんだろ?」

「月桂の場合、中学っていうか初等少年院に入ってたから・・・」

「あー昴さんいいです、もうっ! せめて君孝さんは、ちゃんと言った方がいいですよ。いつも甘いんですよ」

「そうだね、甘いかもしれないね。でも、私もあまり中学は通って無かったんだ・・・」

「ええ、君孝さんまで!?」


 君孝は真面目で優しい印象なのに、彼までも学校にあまり行ってないと聞き、柳は軽くショックを受けた。

 幼稚園から私立の有名校に通っていたため「学校は行って当たり前、進学は常に上を目指せ」という刷り込みが柳にはあった。しかしそれが、彼らには常識ではないと、考えの違いに気が付かされた。


「私はね、地元では変わり者だって言われててね。友人と遊ぶことや、勉強、部活、テレビの話題とか一切興味が無くてね、絵ばかりを書いていた。何とか中学は卒業して、夜学に通って浪人してこっちの美大に入ったんだ。そんな私だからね、偉そうに美玖に学校に行きなさいなんて言えないだよ」

「それは分かりました。でも、こいつの話とは別でしょう。サボるのを容認する訳にはいかないし、きちんと言う事は言っておかないと・・・」


 柳は何でこんなにイライラするのか自分でもよく分からなかった。せっかく美玖が一人で学校に通えるようになったのに、こんな風にサボってだいなしにして欲しくなかった。これまでの小さな積み重ねを壊された気がしてつい口を挟んでしまった。

 美玖と月桂が2階から降りてきて、不機嫌そうな柳を見て美玖は少し困った顔をした。


「柳、どうしたのさ、そんなに食ってかかって。兄さんと月桂には、僕から言っておくから。二人とも、美玖ちゃんが学校へ行くの邪魔しちゃだめだよ。サボらせるなんて、論外だからね」

「あっ・・・あの、昴さんや月桂さんのせいじゃなくて・・・私、買いたいものがあって・・・自分で学校行くのやめちゃったんです。本当は、月桂さん学校まで送ってくれようとしてたのに・・・だから・・・えと、ごめんなさい」

「は? じゃあお前・・・自発的にサボったのかよ! わざわざ制服着て!? バカみたいじゃねぇか・・・俺はお前が、学校に行く気はあるのかと思ってたのに・・・余計なお世話だったみたいだなっ!!」


 キッと美玖を睨むと、柳は2階に上がって行った。ひどく腹立たしい気分だった。どうにでもなれと投げやりな気持ちで、部屋に戻った。隼が呼びかけに来たが、聞く気にはとてもなれなかった。


 1階で、君孝と昴、月桂、美玖は4人になった。心配そうに美玖は昴を見つめた。


「・・・これで良かったんですか?」

「うん、上出来。本当は、サボって何してたのか聞かせて怒らせるつもりだったけど、簡単に怒ってくれたね。本当に柳って真っ直ぐだな」

「昴くん、あまり柳くんをいじめないでくださいよ」

「キミまで~大丈夫だって。全部予定通りなんだからさ、フフフ」


 昴の言うサプライズまで、柳は躍らせ続けることになってしまった。




 11月になると、早朝の冷え込みも厳しくなる。ランニングを日課としている柳と隼は、ただ黙々と秋の堤防を走っていた。

 二人で続けているこの習慣は、すでに10年近くなっている。何か相談したい時や、話がある時はよくこの時間を使っていた。


「隼、昨日は悪かったな。ちょっと頭に血が上ってた」

「いいよ。僕は慣れてるから」


 柳は土手で立ち止まると、その場に座り込んだ。その横で隼はストレッチをはじめ、柳の話をゆっくり聞いていた。


「俺の自分の考えが間違ってるとは思わない。学校は行った方がいい。だから、あいつが学校に行くのを・・・俺はすすめて来たし・・・何だ、勉強だって遅れると厄介だから教えたりしてたけど。そう思ってたのは俺だけで・・・あいつには迷惑だったのかもしれないな」

「・・・・・・それで?」

「お前にいつも言われてたよな。過干渉するな、心配のし過ぎって。隼の言うとおりかもな。誰かが学校へ行くように促したり、意識づける事が大事だと思ってた。現状に甘えるような奴になって欲しく無かったんだ。本当は君孝さんが言うべきだと思うんだけど、あの人・・・甘いっていうか伯父っていう立場からなのか滅多に怒ったりしないもんな」

「そうだね。月桂だって美玖ちゃん甘やかしっぱなしだしね」

「月桂さんの話はいいんだよ。あの人は他人だから」

「僕たちだって他人だよ」

「・・・そ・・・そうだけど。・・・・・・そうなんだよな・・・」


 しばらく考えたのち、柳は顔を上げ帰ることにした。もう干渉はしないと心に決めて。



 ここ数日、ルイは不思議だった。美玖は真面目に学校に通っていたが、帰るとずっと部屋にこもって勉強をしていた。夜になると、月桂と一緒に勉強しているようでその光景が不思議だった。

 少し前まで、勉強といえば美玖と柳が一緒にしていた筈なのに、いつの間にか変わってしまった。柳も隼もそれに関して何も言わないが、何かぎくしゃくとした物を感じていた。


「How can I use this? でいいと思います」

「え~月桂さん英語できるんだ~? なんか意外~」


 キレイな英語の発音だったので、勉強中の美玖たちに思わずルイは声をかけてしまった。美玖はにこっと笑うと嬉しそうに教えてくれた。


「月桂さん、昴さんと一緒によく海外行ってたんですって。それで自然と覚えたって」

「え~嘘~そんなに長くいたの~? すごいのね~あたし全然ダメ~」

「私も全然ダメだから、最低限覚えておこうと思って・・・」


 2階から柳が降りて来ると、慌てて美玖が教科書やテキストをまとめた。その際に、「旅行英会話」と書かれた本がチラリと見えた。ルイは何だろうと思ったが、深く追求はしなかった。

 美玖はルイと月桂に戻って勉強すると伝えると、荷物を持って2階に上がって行った。途中柳とすれ違ったが二人とも目を合わせようとせず無言だった。

 やっぱり二人とも変だ、とルイは不思議に思った。




 テスト期間が終わり、生徒達はみな解放感に包まれうきうきしていた。友人の浅葉と向井から遊びに行こうと声をかけられ柳と隼は了承した。 

 テストの出来などを話しながら玄関に向かうと、柳はボディーガードの藤原に出かけると伝えようと思い姿を探したが見当たらなかった。おかしいなと思ったが柳はそのまま歩き出した。

 しばらく歩いいると、目の前にスーツ姿の男が急に現れ驚いたが、見覚えのある黒塗りの高級車が2台見え柳と隼はギクリとした。


「お疲れ様です、車でお送ります」


 隼の家でよく見た家紋がキラリと光っていた。思わず柳は隼を見ると、隼は小さく頷き「うちの専用車だ」と呟いた。浅葉と向井は物々しい雰囲気に凍りついてしまった。

 隼は車に近づき、男に話しかけた。


「何? 別に送迎とか頼んでないけど? 誰の命令?」

「詳細は車の中でお話します。時間がありませんので、乗ってください」

「誰の命令かも分からないのに乗れな・・・」


 声が途切れ、ガクンと倒れこむように隼の体が車の中に消えた。すぐに男も乗り込み、扉を閉めエンジンがかかった。


「おいっ! 何してんだっ!!」


 柳は叫んだが、逃げるように車は去って行った。携帯を取り出し、藤原か月桂に電話をかけようとしたが強い力で肩を引かれ倒れ込みそうになった。


「なにしやがるっ! って、月桂さん居たのかよ。どういう事だよっ!?」

「柳さん、乗車してください」

「はぁ!? 何の話だよ!? おいっ・・・何すっ・・・」


 抵抗も失せる程の強い力で、柳は車に押し込まれた。唖然としてると、横に月桂も乗り込み扉を閉めようとした。

 その瞬間、扉に手がかかり大声が聞こえた。


「貴様っ・・・何のつもりだっ! 柳さんをっ・・・どこに連れて行くつもりだっ!!」

「・・・藤原っ・・・」

 

 ボディーガードの藤原が、疾走してきたからか息も絶え絶え、髪も振り乱し血相を変えて抗議した。


「お前か、案外早かったな、いいから乗れ」

「さっきのは時間稼ぎって訳か。どういうつもりだ! こんな誘拐みたいな真似してっ!」

「ご託はいいから、さっさと乗れ。それとも大事な坊ちゃんを連れてかれていいのか?」

「なっ・・・吾妻さん、あんたね・・・」


 藤原は車の奥にいる柳を見た。この距離では手が届かないし、間に月桂がいる。車を回り込んでいたら、その隙に出発されてしまう。仕方なく車に乗り込んだ。


「あ・・・え・・・柳?」

「・・・わりぃ、急用できた。また明日」


 ポカンとする友人に向かい、なるべく冷静に柳は話しかけた。返事を聞く前に車の扉が閉まり、慌ただしく出発した。


「どういう事か説明してもらいましょうか?」

「・・・・・・・・・」

「ふん、答える気がないならそれで構いませんけどね。この事は本家に連絡させてもらいますよ」


 藤原が携帯を取り出すと、月桂がそれを奪い、当然のように二つに折り曲げた。パキンとキレイな音がして割れた携帯を、そのまま足元に落とした。


「なっ・・・なっ・・・何をするんだっ! 貴様は~~!」

「黙れ」

「黙れだと、貴様いい加減にしろっ! 柳さんがいるから大人しく乗車したが、あまりに無礼だろう! 今すぐ柳さんと私を降ろしてもらおうか」


 月桂は黙ったまま、内ポケットに手を入れた。銃を出されるような錯覚を感じて、柳と藤原はビクリとするが出て来たのは煙草で、思わずホッとしてしまった。助手席に乗っていた男が、すかさずライターで火を点けるとともに、窓を全開にした。

 月桂は煙草を吸いながら、表情一つ変えず低い声で呟いた。


「停車する時間は無い。どうしても帰りたかったら、飛び降りろ」


 いつもと同じ口調だが、抗い難い威圧感と恐怖を感じる雰囲気だった。いつも家でご飯を作ってる月桂じゃない、ヤクザの月桂がここにいた。

 それきり何も言うことが出来ず、藤原と柳は黙って目的地まで乗車した。



 

 車が地下駐車場に着くと、ホテルの個室に通された。荷物は預かるということで、車に強制的に置いてきた。逃げ出そうにも男たちに囲まれなすすべが無かった。部屋で大人しくしてるようにと言われた。


「何なんだ一体・・・」

「・・・・・・柳さん、今のうちに逃げましょう。何か危ない事に巻き込まれてる気がします」

「・・・・・・そう・・・だな」


 とにかく不安だった。隼の行方も心配だったが、月桂が隼に危害を加えるとは思えなかった。しかし、万が一ということもある。早く家かどこかに連絡しなければと思った。携帯を探したが、カバンの中に入れっぱなしで置いてきてしまった。部屋の中に本来あるはずの電話機は見当たらなかった。

 藤原がそっと外の様子を伺うと、見張りの男と目があった。悠長に話してる時間は無いと思い、男にタックルした。男のうめき声が聞こえ、慌てて柳も廊下に出ると、藤原と男が掴み合っていた。


「柳さん、今の内にフロントかどこか安全な所へ! 警察でもいいからすぐ連絡をっ!」

「藤原っ・・・だってお前・・・」

「早くっ!!!」


 一人逃げるようで後ろめたかったが、これが彼の仕事なのだと思いこみ柳はエレベーターまで走った。なかなかエレベーターが到着しないので、イライラして無駄だと分かっていても何度もボタンを押してしまった。

 エレベーターに乗り込むとフロントの階を押した。途中の階で止まって誰か乗り込んできたら終わりだなと思ったが、ノンストップでフロントまで着いた。とりあえずフロントに向かおうと思ったが、ロビーに月桂たちの姿が見えて思わず立ち止った。

 この距離なら大声を出せば、ホテル側に異常を知らせることが出来るだろう。しかし、そんな大騒ぎする程のことなのかと冷静に考えてみた。突然の拉致に、事情は一切聞いていない。これで何も疑うなという方が無理なのだ。

 月桂たちはパッと見た感じ5人程いた。みな月桂と同じヤクザなのかもしれない。だとしたら捕まる訳にはいかない。いくら知り合いでも恐怖を感じずにはいられなかった。他のルートで何とか、家に連絡できる手段はないかと思考していると急に「見つけた」と声をかけられた。

 まったく後ろに注意していなかったので、飛び上るほど驚いた。


「良かった・・・柳くん・・・ごめんなさい、遅くなって・・・」

「えっ・・・お前・・・何でここに!?」


 息を切らしながら佇む美玖がいた。まったく意味が分からず柳は茫然としていたが、美玖に手を取られ「こっちです」と走り始めた。ホテルを抜けると、大きな建物に入った。


「おい・・・ストップ・・・ここ、空港だよな? ちょっと連絡を・・・」

「だ・・・ダメです・・・時間が無いのっ! 急いでくださいっ!」

「だから何なんだよっ・・・せめて隼に連絡を・・・」


 辛そうにハァハァと息を切らしながら、美玖は何か考え込むようにあたりを見渡した。


「隼くんは・・・ダメだったから・・・柳くんは絶対に・・・私・・・」

「ダメって・・・何がだよっ!? 頼むから説明してくれ」

「お願いですっ! 私を信じてついて来てください」

「・・・・・・お前・・・ああもう分かったよ」


 珍しくハッキリと物を言う美玖に面食らいながら、どうにでもなれと一緒に走った。が、セキュリティチェックを受け、出国審査を受け、搭乗ゲートに向かうと流石に不安になってきた。チケットもパスポートもなぜか美玖に手渡され本物だった。


「お・・・おい、このまま行くと飛行機乗ることになるじゃねえかっ!?」

「あのっ・・・どうかついて来てください」


 ぎゅっと手を握られ、仕方なく機内に付いて行った。機内に入った瞬間抱きつかれ、反動で床に倒れ込んだ。


「柳ー! ハッピーバースデー! お前ならちゃんと来てくれると思ったぜー!!」

「え・・・え・・・? ええっ・・・!? 昴さん・・・え?」

「いやー美玖ちゃんありがとー。時間ぎりぎりーもう少しでフライトだったよ。間に合って良かったー」


 柳は床に倒れ込んだまま、まったく状況が飲み込めずにいた。客室乗務員や乗客の生暖かい目線に晒され、ようやく我に帰った。美玖と昴を交互に見つめ説明を求めた。


「で、どういう事?」

「あれ、まだ分かんないかな? サプライズで旅行! どう? 驚いた~?」

「は? いや・・・え・・・? 驚いてますけど・・・冗談でしょう?」

「何が?」

「いやだって・・・これ国際便ですよね?」

「そうだよ。パスポートもチケットもちゃんと揃えておいたじゃないか」

「いやいやいや、無理ですよ。俺、明日も学校ですし・・・」

「いいじゃん、テスト終わったんだろ?」

「・・・・・・・・・帰ります」

「まーまーこっち来いよ、走って疲れただろ、ドリンクでも飲め」


 ファーストクラスの座席まで行くと、客室乗務員にドリンクを頼み柳を座らせた。確かに緊張と疲れで喉が渇いてた。何よりこの状態を把握しよう一旦落ち着こうと思った。いざとなればギリギリに飛行機を降りればいいと高をくくっていた。

 ドリンクを受け取り飲み干すと、少し落ち着いてきた。


「じゃあ今日の一連の謎の事態は、全部昴さんが仕組んだってこと?」

「そうそう。隼も誘ったんだけど、あっさりと見抜かれて断られた。やっぱり二人は別々のルートにして良かった」

「ああ・・・何となくわかって来た・・・月桂さんも・・・こいつもグルだったのか・・・畜生。あ、じゃあ藤原もか・・・」

「藤原? ああ隼たちの護衛の? いや、あの人は知らないよ。だって柳にバラしたりしそうじゃん」

「何だって・・・じゃあホテルで・・・ああ、ケガしてないといいな。ったく・・・勘弁・・・して・・・く・・・れ・・・」

「あれ? 柳のやつ、安心したら眠たくなったのかな? まーいーや、美玖ちゃん寝かしておいてやろうぜ」


 急に強い眠気で、ブツンと柳の意識が途切れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ