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ラムネット  作者: ラムネ
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3話 善悪は水波の如し

善悪は水波の如し(ぜんあくはすいはのごとし)


善と悪は全くかけ離れたものでなく、水と波の関係のように、わずかな差しかないということ。

ココに閉じ込められてどれ位経ったのだろう。

光が僅かに差し込み朝が来たのだと分かった。


叫び声が枯れ、扉を叩く手も感覚を失っていた。

それでもか細い声で助けを呼んだ。

空腹と喉の渇きでそれも長く続かなかった。


・・・なぜ誰も助けに来てくれないの?


ただ悲しくて虚しかった。

自分がなぜこんな目に遭っているのか分からない。

ここで死ぬのかもしれない・・・

助かっても、誰もその事実を喜ばないかもしれない。


それでも震える足を叩いて脱出する方法を探した。


「助けて・・・たす・・・」


また暗闇に呑まれた。


【第3話 善悪は水波の如し】


「いつも食事の支度ありがとう」

君孝きみたか美玖みくにやんわりと話しかけた。

「うん。いいの。」

美玖もやんわりと返事した。

美玖が来る以前は、君孝が食事の支度をしていたが仕事やプライベートで

多忙になりすっかり任せっぱなしになっていた。

「来週からお手伝いさんに来てもらうから」

え・・・と短く美玖は呟いた。


「うっそ、やだぁ~美玖ちゃんのご飯がいいよー」

後ろからぎゅっと美玖を抱きしめルイが叫んだ。

そう言ってもらって、美玖は少し救われた気がした。

引っ越してきてから、食事の支度や家事は美玖の仕事だった。

誰に言われた訳でもないが、学校に行っていない美玖には丁度よかった。

その【仕事】が無くなってしまうのは正直寂しかった。

というより、昼間何をしていいのか分からなかった。


「美玖もこれから学校あるしね」

もう、とっくに編入手続きは済んでいる。

新しい制服もカバンも新調してある。

それでもまだ行かないのは美玖自身が行こうとしないからだ。


「そー・・・だよね。ごめんね。・・・制服似合うだろうなぁ」

ルイは気を使いながらも、つい本音を口にしてしまった。

そんな浅はかな自分にがっかりしてしまった。





りゅうが家に帰るとしんと静まりかえっていた。

いつもなら真っ先に飛んでくる「おかえりなさい」がなくて

静かな半面少し寂しかった。

家の構造上、2階の自分の部屋に入るにはリビングダイニングを通らなければならないので

いつも通りリビングの扉を開けようとした時、妙な音が聞こえた。


「・・・誰かいるのか?」

微かに聞こえる何かの音。

うめき声のような声。

ハッとして勢いよく扉をあけると、ソファーの上に上体を投げかけてうつ伏せに

なっている美玖の姿が見えた。

慌てて近寄ると青白い美玖の顔が見えた。

呼吸が荒くひどく苦しそうな表情だった。

額には汗をかいて何かつぶやいていた。


「どうした・・・おいっ!」

「・・・け・・・て・・・たすけて・・・」

「助けて? 何かあったのか?」

状況が飲み込めなかったが、美玖の体を両手で抱き寄せた。

落ち着いたのか美玖はしばらく柳にもたれて黙っていた。

静かな部屋に美玖の鼓動と息遣いだけが聞こえる。


「・・・・・・大丈夫か?」

「・・・・・・はい・・・あの、ごめんなさい・・・」

消え入りそうな小さな声で美玖は返事をした。

震える美玖を優しく抱き寄せてただじっとしていた。


「ごめんなさい、ちょっと嫌な夢見ちゃって・・・」

「・・・なんだ、それだけかよ」

それで、こんな反応になるものだろうか?

何かのトラウマ・・・PTSDの一種だろうか。

考えながらふと、自分の状況を思い出し慌てて美玖をソファーに突き飛ばした。


「も・・・もう大丈夫だろ。お前びっくりさせるなよ!」

照れ隠しの為か大きい声で怒鳴っていた。

急に大きい声を出されて美玖はびくっと体を震わせた。

「ごめ・・・なさ・・・」

「いちいち謝るなっ!」

恐がらせるつもりも怒鳴るつもりもなかった。

ただ柳はこんな時なんて言えばいいのか分からなかった。

しゅんがいたらきっと、目の前の少女を安心させてあげられただろうに・・・

そう思うと焦げるようなむかむかとした気持ちが広がっていった。


「柳くん・・・さっきは・・・ありがとです」

「あ?」

「・・・助けてくれて・・・」

「・・・別に・・・それくらい・・・」

さっきより顔色がよくなった美玖に少し安堵した。


「・・・よくあるのか? こういうこと」

「・・・たまに・・・こっち来てからは無かったです」

「そうか・・・」

柳はカバンを拾うと2階に上がりはじめた。

どうしていいか分からなかった。

無我夢中だった。

それでも【助けてくれた】と感謝されてしまった。

もっと、話ぐらい聞いてやればよかったと後悔したが戻ることはできなかった。


それでも十分、美玖は救われたのだった。


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