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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
最初から雲行きが……?

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9

「え? 部屋は空いているけど使用許可が出せない?」


 入寮の手続きをしようとしていたエルフリートは目を丸くした。部屋が空いていないのならば分かる。だが、部屋が空いていると言われれば、どうしてなのかと聞きたくなる。

 エルフリートの問いに、事務員が困った様子を隠さずに笑みを浮かべた。


「流感のせいですよ。フリーデ嬢。空いている部屋の近くで感染者が出ているんです。

 なので、少なくとも感染から逃れたいという意図での入寮希望は断らざるを得ない……というわけです」

「そっか……そうだよね」


 避難先で感染したら意味がない。許可が下りないのも当然だ。エルフリートはそれなら、と前もって決めていた案を出した。


「それなら、ロスの部屋を貸し出したいんだけど……それなら、入寮許可証を用意してもらえる?」


 事務員は視線を泳がせ、小さく「できたっけか……?」と呟いた。


「ちょっと確認してきますので少々お待ちを」

「はぁい」


 彼は足早に事務所の奥へと消えていく。エルフリートはその様子を見送ってから耳飾りに触れた。

 あまり使用頻度が多くはないそれは、特注品の魔法具だった。


『ロス、結局ロスの部屋を貸す事になりそうなんだけど、少し時間がかかりそう』

『そうか。こちらの事は気にせず、手続きを頼む』

『うん。任せて』


 エルフリートはロスヴィータとの短い会話を終えると周囲を見回した。事務室はもともと静かな場所であるが、普段以上に静まり返っている。

 そもそも、人の数が少ない。エルフリートの他に数人がいるだけで、職員の方も同じだ。普段と比べ、職員の数は半数にも満たない。


「……ここにも流感の気配、かぁ」


 エルフリートが周囲の雰囲気から、流行り病がまだ流行中である事を実感する。そんな風に待っていると、ようやく事務員が戻ってきた。


「お待たせしました!」

「あ、うん。早かったね」


 事務員の表情は明るく、おそらく良い結果が聞けるのだろうと見ているだけで分かる。彼は窓口に着席すると、すぐに書類を差し出してきた。


「部屋の一時貸出に関する書類になります。本来であれば、貸出するご本人に記入していただくところなのですが……」


 言いにくそうにする彼に、エルフリートは一枚の紙を提出した。これはロスヴィータから預かっていて、普段懐に忍ばせている特別なチケット――委任状――である。


「あ、委任状はあるよ。これが駄目なら私の部屋を貸す事にするけど……」

「いえ。あの、この書類があれば大丈夫です」


 明らかにほっとした様子で委任状を確認するのを見て、委任状を出しておけば話が早かったなと反省する。

 許可を出す側である事が多いせいか、気が回っていなかった。

 事務員の指示される通りに書類を記入していく。貸し出す期間はとりあえず十日間にした。新人騎士がそれくらいで復帰していたからだ。

 バルティルデと共に傭兵として戦場を駆け抜けていた彼である。新人の彼女たちよりも早く快癒するに違いない。


「はい、お願いします」

「ありがとうございます。受領しました。こちらが許可証です。顔の知られているバルティルデさんは所持していなくても大丈夫ですが、お子さんには必ず手放さずにお持ちくださいとお伝えください」


 紐のついた許可証を渡されたエルフリートは大きく頷いてみせる。


「任せて!」

「何かお困りの事がありましたら、いつものようにこの事務局か寮管理室の方へお越しください」

「うん。伝えるね」


 これで話が終わりだと思ったエルフリートは立ち上がる。すると、慌てた声が追いかけてくる。


「あ、大変申し訳ないのですが、寮生活のルールについての説明もお願いします!」

「うんうん。私が代理で全部処理したんだもん。それくらいの事は責任を持ってやるよぉ」


 エルフリートは快諾した。寮の規則は難しいものではない為、簡単にかみ砕いて説明する事くらい造作ない。


「今回のようなご家族の入寮は、かなり特殊な対応なので、何か言われる事があるかもしれません。そういう場合はこちらにご報告ください」

「了解。親身になってくれてありがとう」


 エルフリートはしっかりと彼に向き合い、微笑んだ。彼は小さく首を横に振り、照れくさそうに笑う。


「いえ。これくらい当然の事です。それに、実は私の娘が女性騎士団に憧れていまして。いつかは自分も、なんて言い出したんですよ」

「そうなの? 将来が楽しみだね」


 彼はエルフリートの相槌に笑みを深めた。娘が危険な職業に興味を持っているというのに、それを受け入れ応援しようとしている姿を眩しく感じる。目を細めたエルフリートは、彼のその気持ちをしっかりと己の胸に刻み込む。


「はい。いつの日か、そうなる時が来たら甘やかさずに指導してやってください」

「ちゃんと申し送りしておくよ」


 彼の娘の年齢は分からないが、少なくとも彼女が女性騎士になる時にエルフリートはいない。惜しい気持ちを隠し、エルフリートは胸に手を当てて礼を取った。


「今日は手続き、ありがとう」

「お力になれて何よりです」


 笑顔で手を上げて挨拶をする事務員に同じように挨拶を返したエルフリートは、思っていたよりも時間がかかってしまったなと思いながら執務室へと戻るのだった。

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