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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
最初から雲行きが……?

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5

 延期になっていた歓迎会は、罹患した新人騎士たちの体力回復を待ってから行われる事になった。新人の面倒を見ていたドロテアは持ち前の体力のおかげか、流行病には感染らずに健康体を維持している。

 エルフリートとロスヴィータはその事にほっとしていた。


「新人の体力を確認したりするいつものあれが可能になるのは何日後だろうな」

「うぅん……どうだろう? みんながどれくらい病気で消耗したかによるもんねぇ」


 お互い目の前の書類を処理しながら、二人は会話を続ける。ロスヴィータの方には騎士学校関連の書類が、エルフリートの方には女性騎士団の運営に関する書類が、それぞれ束になっていた。

 エルフリートは書類に目を走らせて棄却の文字を書き込むと、それを再提出用の箱に入れる。


「高熱が続く病だと聞いている。多かれ少なかれ、体力の消耗は避けられないだろう」

「持久力を確認するものもあるから、休みは少し長めに設定しておいた方が良いかもしれないね」


 万全の状態で取り組んでもらい、現時点での能力を最大限出し切ってもらわないと意味がない。入団試験の時にある程度は確認しているとはいえ、それはあくまでも最低ラインの能力を有しているかどうかの確認という意味合いが強い。

 入団後の体力測定を含めた初期の訓練は、彼女たちがそれぞれ何が得意なのか、苦手なのか、自覚の有無に関わらず全てを把握するのがロスヴィータやエルフリートたちの仕事であった。


「そうだな。彼女たちを消耗品扱いするつもりはない。大切に育てるべき人材だ」

「うん。今後の女性騎士団の為にも、しっかり育てないとね」


 女性騎士団は少しずつではあるが、人数も増えてきて、今や三十八人になった。七年目にしてこの人数というのは少ない。だが、女性でありながら騎士を目指すという選択肢の存在を知ってから努力し、その努力が実った人数だと考えれば少なくはないと言える。

 女性が騎士になる。その選択肢は今まで存在しなかった。傭兵の子供として生まれれば、剣を握って戦う機会はある。だが、傭兵の子は傭兵になるのが常だ。

 騎士になりたいと思う人間は少ない。実際、元傭兵だったり傭兵一家の子で入団した人間は数人だけだ。


 傭兵は不確定な要素は多いものの、実力次第で一攫千金という職業でもある。命の危険を伴う可能性があるとはいえ、給金という意味では安定した職業でもある騎士を選ぶのは、傭兵の思考を持つ人間からすれば平坦でつまらないものなのかもしれない。


 傭兵が騎士を目指さないのであれば、残るはマロリーやルッカのような魔法などの研究をしていて能力を発揮する機会を待っていた貴族か、安定した衣食住の為に努力を重ねた平民か、身を立てる為の手段として騎士という職を選んだ行き場のない孤児か。

 可能性のある人間を上げてみれば、意外と少なくはない。だが、訓練をしていなかった女性が一朝一夕で騎士になれるだけの体力や筋力、魔法の能力を習得するのは難しい。


 ロスヴィータが力を入れている騎士学校だって、女性は増えてきているが、卒業して女性騎士団に入団する人間は少ない。それは単純に騎士になる為の土台を用意されていなかった女性にとって、そもそも騎士学校を卒業する事自体が難しいからだった。


「あと数年したら、一気に増えそうな気がしてるんだ。騎士学校の子たちが結構実力つけていていて、楽しみ!

 孤児に騎士の道を提示するイベントも最近は積極的に行うようになったし、騎士学校側で間諜対策ができるようにもなったから、今までと違って門人が広がったし」


 エルフリートは書類のあちこちに赤いインクで訂正や指摘を書き込み、再提出用の箱に入れた。再提出が多いから箱に蓋ができないかもしれないなと思いながら、別の書類に目を落とす。

 今回バルティルデが作った書類は、惜しいところで間違いが頻発していた。おそらく、書類を書いている時に集中力を欠くような出来事が舞い込んできたのだろう。

 忙しいのはロスヴィータやエルフリートだけではない。


「あぁ……私も楽しみだ。その時に、あなたが隣にいてくれないのは寂しい事だが」

「ふふ。別のところからロスを支えられるように頑張るから、寂しがらなくて良いよ」

「……そうだな」


 ロスヴィータがふ、と笑う気配がした。エルフリートはもうすぐこの席に座る事はできなくなる。この席はバルティルデのものになるのだ。

 エルフリートはバルティルデが真剣に作った書類を丁寧に添削しながら、話を切り出すなら今だと確信した。


「ロス。結婚関連で何か不安な事とか、考えがまとまらない事とか、今後の生活に対する要望とか相談とか、ない?」

「どうした急に」

「急じゃないよ。私がロスを支えたいって話を有言実行しようかと思って。本当に些細な事で良いんだ。

 何か、気になる事とかあったら話をしてほしいなって」


 エルフリートはロスヴィータを盗み見る。彼女は視線をさまよわせ、逡巡していた。


「私がロスの代わりに解決する、とか、要望を全て無条件で叶えるとか、そういう事じゃなくて……ただ、話を聞いて一緒に考える事ができたら良いなって」


 エルフリートは彼女の思考の邪魔にならないように付け足した。ロスはゆっくりと頭を横に振るとエルフリートに顔を向ける。

 その表情は、いつになく柔らかかった。

2026.2.21 誤字修正

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