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しばらくロジェとレオンハルトの姿を観察していたロスヴィータたちであるが、ここでぼうっと立っているのは他の騎士の迷惑になる。
ロスヴィータがエルフリートに目配せすると、彼は目で頷いた。
「私たちも合流しちゃおうか。ところでロスはご飯食べてから帰るの?」
エルフリートが話を切り替えつつさり気なく聞いてくる。すぐに帰るつもりだったロスヴィータはつま先の向きを変えた。
「ああ、そうだな……せっかくだから、食べてからにしよう」
「やった! じゃあ、ロスは先に二人に合流しててよ。夜勤明けで疲れてるでしょ?」
エルフリートはロスヴィータの背中を押してレオンハルトとロジェのいる方へ誘導する。ロスヴィータは軽く振り返りながら笑い、提案通りに歩き出す。
「私の分は普通で良いからな」
「はぁい!」
ロスヴィータの背中を押す力がなくなり、機嫌の良さそうな足音が遠ざかっていく。ロスヴィータは彼の後ろ姿を横目で確認してからレオンハルトたちのいるテーブルに向かうのだった。
「おはよう、二人とも。楽しそうだな。私たちも混ぜてくれるか?」
「ロス」
「王子様、おはよう!」
ロスヴィータはロジェの隣、レオンハルトの斜め向かいに腰かける。
「バティとフリーデはもう少ししたら来る。私は先触れだ」
ロジェがロスヴィータの登場に興奮しているのか、そわそわとして体を揺らしている。
その年相応な姿に、思わず笑みがこぼれた。
「ロジェ、今日は私の膝で良いか?」
「おひざ!」
ロジェの反応からして、大丈夫そうだ。ロスヴィータはロジェを抱えて自分の膝の上に乗せた。食堂には四人がけと六人がけのテーブルがある。
ロジェの保護者であるバルティルデの他に、日勤でおるエルフリートが一緒だとは分かっていたのだろう。
だが、さすがに夜勤明けのロスヴィータが現れると想像していなかったレオンハルトは、四人がけのテーブルを選んでいた。
テーブルを移動しても良いが、そう毎回うまくいくとも限らない。かと言って混雑する時間に他のテーブルから椅子を拝借するのも好ましくない。となれば、誰かが少年を膝の上に乗せるしかない。
幸いにしてロジェはまだ小さく、膝に乗せるのは苦ではなかった。いつの間にか、四人がけのテーブルに座る時は誰かがロジェを膝の上に座らせるというルールが生まれていた。
ロジェも慣れた様子でロスヴィータの膝の上に納まっている。ロスヴィータを見た時にそわそわしていたのは、きっとこうなる予感がしたからなのだろう。
「ロジェの朝ごはんはレオンハルトが選んでくれたのか?」
「うん。でもぼくもえらんだよ!」
ロスヴィータがトレイを手前に引きながらロジェに聞けば、彼は得意げにする。胸を張ったロジェの頭がロスヴィータの首に当たった。
髪の毛に首をくすぐられたロスヴィータは笑いながらその頭を撫でた。
「そうか。しっかり食べて大きくなりなさい」
「はーい!」
ロスヴィータがロジェの面倒を見ている間に、レオンハルトが普段よりも早く食事を進めている。夜勤明けであるロスヴィータの負担を減らす為に、食べ終わったら交代を申し出てるつもりなのだろう。
ロスヴィータはその心遣いを嬉しく思いながら、ロジェの食事を見守った。
「おまたせーって、ロスが抱っこしてるの!?」
「ありがとう、フリーデ。でも心配はいらない」
「そうそう。これから俺がロジェを抱っこするから」
エルフリートが慌てた姿を見せながらトレイを揺らす。皿の上に乗ったウィンナーがふらふらと踊っていた。
「ほらロジェ。今度は俺の膝の上だ。ロスはこれから朝ごはんを食べる番だ」
「分かった。王子様ありがとう!」
「どういたしまして」
食べている途中で席を移動させるのはあまりマナーの良い行為ではないが、少しくらいは目を瞑ってもらおう。ロスヴィータはロジェを膝から下ろし、トレイをレオンハルトのものと交換した。
レオンハルトのトレイはそのまま回収する場所に持っていく。その間にロジェはレオンハルトの上で落ち着いていた。
レオンハルトの隣にはバルティルデが、その正面にはエルフリートが座っている。ロスヴィータは元々座っていた椅子に座り直した。
「レオ、ありがとう」
「ロス、量は大丈夫? 少なかったらあげるし、多かったら私の方によけちゃって良いからね」
「フリーデもありがとう」
エルフリートがロスヴィータの為に用意してくれた食事は、夜勤明けを意識してかスープとポテトサラダだった。そこにスクランブルエッグが添えられている。
スープからは胃がほっとするような香りが漂ってくる。帰宅してから食事をしようと考えていたロスヴィータだったが、この香りを嗅いで心底ここで食べる事にして良かったと思う。
「では、いただこうか」
ロスヴィータは簡単に挨拶をし、スープにスプーンを向けた。ごろっとした具材を取って口に含む。口の中で熱が落ち着くまで転がし、咀嚼する。
ほどよく染み込んだ塩味が仕事を終わらせた体に沁みる。
ロスヴィータは感嘆の息を吐き出した。




