グレムリンが あらわれた!
“コカトリス”騒動から約二週間後。
土曜日の午前中、スーツ姿の男女が鉄野津家を訪問した。
「あ、お休みのところ恐れ入ります。斑多警察署・生活安全課魔物対策係の郡宮と申します〜」
インターホンに爽やかな青年が笑顔で映っている。
インターホン越しに応対したルミの母・鉄野津メイコは“警察”という肩書きに少しギョッとしたが、いつもとかわらぬ返事をする。
「はあ。どういったご用件でしょうか?」
「このところ近辺で連続して起きている魔物騒動について調査を行なっておりまして。二、三お話を聞かせていただけるとありがたいのですが」
「はあ…少しお待ち下さい」
と、インターホンを切った。
メイコはソファに寝そべりスマホをいじる夫のテツオに相談する。
「ねえ、警察だって。パパどうする?」
インターホン越しのやりとりを聞いていたテツオはしばし考え、
「んー…最近色々続いてるからなぁ。オレも一緒に話すわ」
ソファから起き上がり夫婦で玄関を開けた。
「あ、どーもー。お疲れ様でーす」
テツオは愛想の良さそうな顔をして訪問してきた警察官に挨拶する。
「あ、どうもご主人。お休みのところ恐れ入ります。斑多警察署・生活安全課魔物対策係の郡宮と申します」
と郡宮は警察手帳を見せながら鉄野津夫妻にあらためて挨拶した。
続いて、後ろに控えていた女性も一歩前に出て警察手帳を提示し自己紹介する。
「失礼します。私、警視庁捜査一課有害生物対策係・江楠賀リナと申します」
それを聞きテツオは驚いたような顔で返答する。
「え警視庁?あの警視庁捜査一課?はぇ〜どういった調査を?」
どの“警視庁捜査一課”なのかはその場にいた全員よくわからなかったが、まあ刑事ドラマとかによく出てくる、といったニュアンスだろうなという雰囲気でながした。
「この辺りで頻発している魔物の出現について、斑多警察だけでなく私ども本庁の方でも気がかりにしておりまして。鉄野津様のお宅で、魔物の続発前になにか変わったことなどはありませんでしたか?」
江楠賀はハキハキと聞きとりやすい口調で鉄野津夫妻に訪問の経緯を説明する。
「うーん、どうだろう。僕は特に。母さんなんかある?」
とテツオはメイコに話をふる。
「私も特に…」
「もしよろしければ、スライムが現れたというお庭など拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
江楠賀は庭の調査も行いたい旨を丁寧に伺った。
「ああ、全然かまいませんよ。どうぞどうぞ」
とテツオは庭へ案内しようと玄関を出た。
その時、よそ行きのルミが自室から降りてきた。
「んじゃ遊び行ってくるー…ん?あ、どーもー」
訪問者に気づいたルミはとりあえず挨拶をした。
「どうも。あ、スライムの時は協力いただきありがとうございました」
郡宮は挨拶を返す。郡宮はスライム騒動の時にルミとアコに口頭注意をしたあの警察官だった。
「あ、はい」
ルミは郡宮をチラ見し、特に興味なさそうに靴を履きながら返事をした。
「あールミ。最近モンスターがよく出るだろ。その事について調査されてるみたいなんだけど、なんか気になる事ある?」
と、テツオはルミにもついでに質問する。
「んー、無いかな」
明らかに面倒くさそうな態度で答えるルミ。面倒、というよりも若干警察に反感を持っているような感じであった。
というのも、先日の“コカトリス騒動”できつく注意をされた事を根に持っているようだった。
騒動のあと、警察に怒られたことをルミからめちゃくちゃ愚痴られたテツオは察してそれ以上は聞かずに送り出そうとする。
「そっか。原宿行くんだっけ。気をつけてな」
玄関を出ようとするルミを遮るように江楠賀が前に出る。
「あールミさん!ごめんなさい、私ルミさんに会いたかったの!ちょっとだけお話いいかなあ?」
申し訳なさそうな笑顔と手を合わせる仕草でルミにお願いする江楠賀。
ルミは露骨に嫌そうな顔をした。
「あのー、出かけたいんで。ごめんなさい」
「ほんとごめん!少しだけ!お願い!ね?」
頭を下げる江楠賀にうんざりするように
「えぇー…いやほんとヤなんだけど」
ともはや敬語すら使わなかった。
「あ、協力してくれたらさ、これ。ね?だから」
と、カバンからキャッシュレス決済サービス・PoyPoyの一万円分のギフトカードを手渡す。
それを見て途端に目の色が変わるルミ。
「え?マジでー?くれんの?やった」
「うん、マジマジ」
と、江楠賀もルミに合わせるように答えた。
後ろから見ていたメイコは怪訝な顔でルミに注意する。
「ルミ!ちょっと!」
江楠賀はすかさずメイコを制し、
「あーいいんですお母さん。ルミさんが一番魔物と対峙していますし、ご協力いただくとこちらも大変ありがたいです。ご夫妻にも少しですが謝礼をご用意してますので」
と説明した。
「じゃちょっとルミさんも一緒に庭まで来てもらっていい?ごめんね。ご主人、よろしくお願いします」
と言うとテツオの後ろについて行く江楠賀と郡宮。
「…江楠賀さん、あんなん渡していいんすか?あんま謝礼とか聞いた事ないっすけど」
「あー大丈夫よ。こっちで責任もつから」
と小声で話す二人。
庭にやって来た一同。
江楠賀は周囲を細かく見ながら鉄野津家の人々に質問をする。
「ルミさん、スライムが現れた時の状況覚えてる?」
「んー、帰って来たらみりんがめっちゃ吠えてるから何かなーと思って見たら庭の真ん中にいて…」
リビングの方に目を向けるとガラス越しに柴犬がこちらをじーっと見つめている。
「ああ、みりんってあの柴犬ちゃんね。可愛い〜。私も柴犬大好きで」
と笑顔でいいながら江楠賀は庭を歩いて回る。
だが江楠賀は庭の隅の方まで来ると突如立ち止まり、表情を変えた。
「…なんか、変だわ」
次の瞬間、庭の隅に置いてある物置の後ろから何かが飛び出した。
「ぎゃっ!なに?!」
ルミが悲鳴をあげる。
飛び出した何かは庭の周りをすごい速さで飛び回る。
江楠賀はすぐさま手で印を切る。それはとてもスムーズな手話のようだった。
すると何らかの術が発動し、飛び回る何かにバチンッ!と電撃が走る。
「ギャァッ!」
魔物は声をあげ空中で一瞬動きが停止した後、ポトリ庭の隅に落下。
痩せ細った全身青黒い赤ん坊のような身体に角と蝙蝠の様な羽が生えた魔物だった。
「…グレムリンか」
江楠賀は慣れた様子でそれを確認する。
「すごい…魔法なんて初めて見ました」
話に聞いたことはあったが初めて見る“魔法”に、郡宮は素直に感心し驚いている。
鉄野津家は突然の出来事に寄り添ってビクビクしている。テツオは驚きつつも呆れて口走る。
「ま、またかよ…」
「ご主人、すみませんがこの物置を開けても?」
江楠賀は物置を指差しテツオに確認する。
テツオはキョトンとした顔をしながら、
「え?あ、ああ構いませんよ。もう随分開けてませんけど」
と答えた。
躊躇なく物置をガラッと開ける江楠賀。
「これは…」
物置のすみに人の上腕くらいの大きさの木彫りの像が置いてあった。像には不思議な石が埋め込まれており、それが不気味な光を放っていた。
ルミはその像をみて思い出したように呟く。
「あ、それ何年か前におじいちゃんがヨーロッパ旅行のお土産でくれた気持ち悪い人形…」




