コカトリスが あらわれた!
ブーッ、ブーッ、ブーッ…というスマホのバイブ音で目を覚ましたルミ。
スマホを掴み、開きかけの目でホーム画面を見たルミは時刻を見て青ざめた。
「えぇ?!7時50分?!やっば!!」
大急ぎで寝巻きのスウェットを脱いで制服に着替える。すると、スマホが再度ブーッブーッと鳴り出す。
画面を見ると“アコちゃん”と表示されている。
ルミが姉のように慕う隣の大学生だ。
ん?アコちゃん?なんでこんな朝に…。と思いながら電話をとった。
「どーしたんアコちゃ…」
と言いかけたルミに被せるようにアコが電話口で捲し立てた。
「ルミちゃん?!よかったぁ!まだ家?!絶対に外でちゃダメ!!」
アコの様子に驚くルミ。
「え?え?なになに?」
事態が飲み込めないルミにアコはさらに続ける。
「窓開けないで!外も絶っっ対見ちゃダメ!石にされるよ!」
「いしぃ?!」
ピコン、とルミのスマホのメッセージアプリにアコから画像が送信された。
「それさっき窓からスマホだけ出してとったんだけど、ルミちゃんちの隣の大沢さんちの屋根の上!デッカいニワトリがいんの!そいつが目から出すビームにあたると石にされるから!」
画像には尻尾が蛇の、人間とさほど変わらないくらいの大きさのニワトリが風見鶏のごとく屋根の先端に鎮座している。
そしてもう一枚の画像には、玄関を出たところで石像になっているアコの母が映っている。
「ええ?!おばさん!」
驚くルミに、
「警察には連絡してるから!マジで家から出ちゃダメだから!」
と注意するアコ。
「う、うん…。でもお母さん大丈夫かな」
ルミはアコと通話したまま恐る恐る一階に降りた。
「おかあさ〜ん…」
階段からそろりと顔を出し、リビングの様子を窺う。
リビングの掃き出し窓が全開になっており、カーテンが風で揺れている。
カーテンがめくれて庭が見えた。
そこには石になったルミの母と柴犬みりんの姿があった。
恐らくニワトリを見て庭に飛び出したみりんを母は捕まえようとしたのだろう。空に向かって吠える姿のみりんとそれを捕まえようとする姿で石になっている。
頭を抱えて階段に座り込むルミ。
「ウチもやられてるよ〜…。あーもぉーなんでウチばっかり…?!アコちゃん、これ元に戻るんだよね?」
泣きそうな声で聞くルミにアコは
「さっきネットで調べたらあのニワトリ、コカトリスってモンスターなんだって。で、あの石ビーム、ニワトリのノロイ技?らしくて、石から戻すにはニワトリを殺すしかないってさ」
と説明した。
「ノロイ技かぁ…」
呪いがなんなのかいまいちよくわからないが、ネットにかいてあるならそうなんだろうと、わかったように相槌をうつルミ。
「あのさー、ビームって光じゃん?光って鏡とかで跳ね返らない?」
ルミはふと思いついたことを口にした。
「鏡でガードしながら家から脱出する?手鏡とかでいけるかな」
ルミの言葉にあまり現実的ではなさそうな返しをするアコ。ルミは続ける。
「ビームさ、跳ね返してニワトリを石にしちゃうとかムリ?」
ルミの提案にアコは驚く。
「ええー、うまくいく?」
「いやわかんないけど」
完全に思いつきで言ったことなのでうまくいくかどうかわからないという心持ちをルミはそのまま吐き出した。
「ちょっとやってみるわ」
「いやいやいやルミちゃん待って待って」
SNSで見かけた収納術を試してみる…くらいのノリでモンスターに相対そうとするルミに焦って止めるアコ。
だがすでにルミは通話中のスマホをベッドに放り投げ部屋の姿見を持ち上げた。
窓をほんの少し開けて姿見をコカトリスに向けて出した。
「おーいニワトリー、こっち見てー」
ルミは窓の隙間から大きい声でコカトリスに呼びかける。
コカトリスは反応して顔をむけるも、石化光線を放ってくることはなかった。
「こらー、ニワトリー!聞いてんのかー!ビーム出せー!」
ハンガーでガンガンと窓枠を叩くが、コカトリスは完全無視だ。もしかしたら同じ方法で退治しようとしてきた人間が何人もおり、光線を放てば返り討ちにされることを本能的にわかっているのかもしれない。
「うーん、ダメだ」
スマホをとってアコに状況を端的に説明した。
「いやほんと危ないから!よしなって!」
この間のスライムと違い、光線で母が瞬時に石化したのを目の当たりにしたアコは流石に今回はまずいと考えているようだった。
「なんかジッとして動かないし、警察来るまでまとう。銃とかで狙撃してもらったら一発で終わ…」
と言いかけたアコにルミは
「あ!いいの見つけた!ちょっと一旦切るね」
と言い通話を切った。
ネットを検索しルミが見つけたのは一本の動画だった。
タイトル・“鶏を興奮させる発情期の鳴き声”。
再度姿見を窓の隙間から出す。
そして、動画を最大音量で再生した。
「クワァーーーーーーーッ!!!」
朝の町内に動画のニワトリの鳴き声が響き渡る。
それを聞くやいなやコカトリスは激しく羽をばたつかせた。
と同時に音の鳴る方向に向かって石化光線を放射。
「わっ!」
窓に出した姿見にパンッ!と軽く衝撃が走った。
そーっと窓の隙間をのぞくルミ。
羽を大きく広げて石像と化したコカトリスが屋根の上に立っている。
次の瞬間グラリと傾くとそのまま大沢家の玄関付近に落下。粉々に砕け散った。
「…ワン!ワンワン!」
「こらみりん!出ちゃだめ!…あら?」
庭からみりんの吠える声と母の声が聞こえてくる。
「やったぁ!」
ルミはガッツポーズをしながらスマホを操作してアコに電話をかけ直す。
「アコちゃん見て!やっつけたよ!みんな元に戻った!」
「もぉ〜うまくいったからいいけどさ…知らないよー?またお巡りさんに怒られても」
アコは呆れながら電話口でため息をついた。
警察はすでに到着して現場を包囲していたようで、一斉に数人の特殊部隊のような人間がコカトリスの残骸を取り囲む。
石化の被害にあった住民はかなりの数いたようで、警察と同時に到着していた救急車にて順番に簡単な診断と事情聴取が行われた。
その際、ルミがこっぴどく怒られたのは言うまでもない。




