フェアリーが あらわれた!
夜8時ごろ、ルミの弟・マサムネが学校から帰宅。
玄関前の廊下で、夕食を済ませ2階の自室に戻ろうとしたルミと鉢合わせた。
「おー、お帰り」
声をかけたルミにもくれず、マサムネはなにやらブツブツと呟きながら2階に上がっていった。
無視されイラッときたルミは強い口調で
「ただいまくらい言えよオイ」
と呼びかけるも、マサムネは無反応で部屋に入って行った。
リビングから母・メイコが顔を出し
「あら、マサムネ帰ったの?マー、ご飯出来てるから食べなさーい」
と呼びかける。
だが、部屋に入ったマサムネから反応はない。
「何なんアイツ。かんじワル…」
ルミが不快な表情でメイコに言うと、
「部活で疲れたのかしらね」
と、少し心配そうに答えた。
だが何時間たっても部屋から出てくる気配はなく、家族みんなもう寝ようかという時間になっても部屋に入ったっきり音沙汰がないマサムネ。
心配になった両親はドアをノックし呼びかける。
「マー、大丈夫?どっか具合悪い?」
というメイコの呼びかけに、しばし間をおいて
「あー、大丈夫だからー」
と、いつも通りの調子で返事をするマサムネ。
「反抗期きた?」
と皮肉るルミに父テツオは
「ま、こういう日もある。本当にただ疲れてるだけかもしれないし、とりあえず今日の所はそっとしとこう」
と言い、一旦様子見ということで全員自室へと戻った。
またしばらく時が経ち、午前1時すぎ。
自室で、タブレット端末ではドラマを流し、スマホではSNSをチェックしつつPCでゲームをプレイするルミ。
明日も学校かー面倒くせーなーと思いつつ、ルミはタブレット端末とPCの電源を落としスマホを持ったままベッドにダイブする。
──カチャンッ…。
…一階?物音?
寝転んだまま、全神経を物音に集中する。
…気のせいかな。
──ガサッ、ガササッ…。
うわっ、やっぱなんか音する…!
静かにドアを開け廊下を覗くと…。
マサムネの部屋のドアが開け放たれ、部屋から光が漏れている。自室を出て静かにマサムネの部屋を見ると、誰もいない。
ああ、あのバカお腹空いて出てきたんだな。
ほっと胸を撫で下ろすルミ。
「なんだよ、びっくりさせんなよ」
ちょっと様子を見ておこうと、ルミは静かに階段を降りた。
しかし、ガサゴソと音はするがリビングや廊下は明かりもつけず真っ暗だ。
階段、廊下と順番に照明をつけていく。
リビングの奥、キッチンの方から音はする。
ふと見ると、柴犬みりんがリビングの入り口から何かを凝視している。
「あ、みりん」
みりんを抱きつつ、みりんの見ている方をルミもそっと覗いた。
マサムネが、冷蔵庫やキッチンの戸棚を全て開けて食べ物をやたらめったらほうばりながら何かを乱暴に探している。
「うっわ、何してんのアンタ!」
酷い有様に思わず声を上げるルミ。
その声に気付いたマサムネがクッチャクッチャと咀嚼しながらルミの方を見て呟いた。
「いい匂いする。いい匂いの、どこ?」
虚な目でフラリフラリとこちらに近づいてくるマサムネ。
「ちょ、マジで大丈夫…」
と言いかけた時、ぼんやりと青白く光る何かがマサムネの肩から顔をのぞかせた。
子どものころに遊んだ“ ミカちゃん人形”くらいの大きさの、羽が生えた人間がマサムネの肩に乗ってクスクスと笑っている。
フェアリーだ。
ルミは少し前に流し見したモンスター関連のネット動画を思い出した。
取り憑かれたら、薬物中毒者のような状態となってフェアリーの命令通りに動く操り人形になるぞ、注意!…とか、そんなような内容の動画だ。
ルミは手を前に出し
「うわ、ちょっと、近づくな!」
と後ずさりする。
マサムネが一歩一歩ゆっくり前に進んだその時。
みりんがぴょーん!とジャンプし、フェアリーの尻に噛みついて床に叩きつけた。
「Ow!Ouch!!」
さらに床に落ちたフェアリーの頭と足を前足で押さえてフンフンフンフンと匂いを嗅ぐ。虫か何かを捕まえた時と似た様なはしゃぎようで尻尾をブンブン振っている。
マサムネはぼんやりとした表情のまま、だるまさんが転んだ、の時のように静止している。
「みりんナイス!」
ルミはマサムネを突き飛ばしてキッチンへ走り、隅にあったバケツを掴んでフェアリーに被せた。
バケツの中からババババと羽を羽ばたかせる音と必死でバケツにぶつかる音が響く。そして英語圏のモンスターらしく英語でなにか叫んでいる。
ファックだのビッチだの何か口汚く罵っているのだけは英語が苦手なルミにもわかった。
「おい、何事だ一体!」
慌てて降りてきた父テツオに、ルミは両手で必死にバケツを押さえながら
「通報!早く!」
と必死の形相で伝えた。
みりんは、何か楽しいことが始まったと言わんばかりにバケツを押さえるルミの周りを飛び跳ねている。




