19:新たなる旅立ち
宿屋に戻ると、リリィが昨日は予習勉強していた机の上で……うな垂れる様にしていた。
「リリィ、ただいま」
「あ……おかえりなさい」
一瞬だけ俺を見たものの、再び元に戻った。
ユリナが言っていた『学校で起こした問題』を気にしているのだろう。
だからといって、俺にとってはリリィが何をしたかは気にする問題では無いし、注意する気もない。
俺のやった事に比べるのもなんだが……。
「明日の朝一には街を出るから、今晩は夜ふかしをしない様にな」
「へぇ?? 今なんと?」
リリィは起き上がり、顔には机の跡がついている。
そんな彼女には……あれを見せるのが一番だろう。
「じゃじゃーん。許可証ゲットしました~~」
「なんとーー! では本当に学校には行かなくていいのですね!」
「そういう事っ!」
はたから見れば、おかしな状況だろうが人間の出来てない俺たち二人にとっては……これが普通なのだった。
「ちなみにお師匠……交流戦もまだなのに、どうやってそれを?」
「そうだな……リリィの学校での一日を教えてくれたら、教えてもいいぞ」
「ぐぬぬ……遠慮しとくのです」
「まぁ、俺もそんなところだ」
「相変わらずお師匠は……期待以上なのです。私は年甲斐もなく、可愛い制服を着れなくなるのは少し残念ですが」
そうして俺らは、早めの夕飯を食べに出かけた。
~~
「あぁ~クソみたいな学園でしたね」
城門を出るや否やリリィは言った。
街に入る前は俺に釘刺すように言ってたことも、街を出ればチャラにしてしまう彼女に俺は内心ホッとする。
「まぁ、合わないことはするもんじゃないな」
「ほんとですよ。私は気づいたのです! 魔法筆使いにろくな人間は居ないという事にッ!」
力強く握ったこぶしは今にも『魔法筆を破壊して周ろう』と言い出しそうだ……。
ここはやはり、こう言うべきだろう。
「次は魔法と無縁な所だと良いな」
「それがですねお師匠! これから向かう所は、グラディエーターという魔法を使わない剣闘士の街らしいのです!」
「マジかっ! 闘技場での試合、あれは興奮するんだよなぁ」
俺は胸躍るのだった。
「そうなのです! 男たるもの拳と拳、剣と剣で闘うべきなのです。そんな魔法筆に頼るだなんて…………」
そう言うリリィは徐々に声が小さくなった。そして……。
「とにかくッ! 私たちはマンガや小説のような王道の生き方は無理ということです――――ッ」
力強く挙げた彼女のこぶしが頼もしく見える俺なのだった。