16:ブルーアンバーの着溶樹脂
その晩――――。
宿屋に戻った俺は亜空間から売り物にならなかった魔法筆をいくつか取り出し、実験することにした。
売り物にならなかったものとはいえ――。
「分解したくねぇ――――ッ」
作ることは好きだが、完成したものに手を加えることが嫌いな俺はイヤイヤその作業を行うのだった。
魔法筆の基本的な構造は――『持ち手となる軸』『口金』『ペン先』の三構造となっている。
軸は主に魔法を発動するための魔力の吸収と蓄積を行い、口金はその魔力を発動する魔術に変換――――。
そして、ペン先が術式の発動の役割となる。
いうなれば現在は物理的には触れることのできないものを使っていると言えよう。
それを『インク』という液と一体化させ、空中のマナと反応させる……。
考えることが苦手な俺の頭はすでにオーバーヒート寸前だ。
そして、インクの原料となる素材は俺も初めて聞いた『ブルーアンバーの着溶樹脂』……。
そもそも、どこに樹勢しているかも知らん……こればかりは学園長のユリナのブレインを使って見つけてもらうしかない。
最悪の場合、似たようなものを自分で調合せねば……。
今になって余計な一言を口走ってしまった自分に嫌気がさす。
だからこそ――――ッ!
「寝よう!」
リリィに夜ふかしはダメだと言われたことを思い出した俺は眠りにつくのだった。
~~
翌朝、朝食をしに宿屋の食堂に降りるとすでにリリィが制服に着替えて待っていた。
「おはようリリィ。制服似合うじゃないか」
「当たり前なのです! それよりも約束の時間より五分遅いのです。早く食べるのです」
時計を見ると、まだ十分に学校には間に合う時間だったが彼女なりの照れ隠しなのだろう。
「へいへい」
新鮮な朝のひと時にしばし、昨日の夜の事を忘れたままの俺だった。
一緒にやってきた校門の前にて。
「じゃあ、またあとで。ほどほどにな」
「わかっているのです! リリィはお姉さんとして、お子様たちを可愛がってやるのです」
「そうだったな」
見た目は子供とはいえ、中身は成人女性のリリィ――――。
どうも、話し方が子供のときはそれを忘れてしまう。
そんなことを考えながら、俺は一人……学園長室に向かうのだった。