1:躍らずにはいられない
リリィとふたりで漫喫に通い詰めて二週間……。
ふと、リリィが注文して届いたミルクティーを口にして俺に言い放った。
「お師匠……。いつまで漫画喫茶に通い続けるんですか?」と。
異世界とは言えど、ここ最近の日常は……。元居た『日本』でいう所の宝くじを若くして当ててしまったがために、特にすることが無くなってしまった『人生のニート状態』。
もっと言えば、頑張って生き過ぎた奴らが経験する”ただただ刺激がない一日”に不安を感じてしまう……バグった人間のバグ状態と言った方が解りやすいかもしれない。
だからそんなバグった俺はリリィにこう返すしかない。
「そうだよな」
「えっ!? じゃあ、気が向いたら次の街にでも行ってみましょうかぁ」
リリィはそんな俺に一瞬驚きはするが、別に責めたりはしない。リリィがそうしないだけなのかは不明だが、ここで責めるのは単なる愛のない押し付けでしかないと俺は思っている。
だからか、油断しまくりの俺はポロっと何気ない一言をこぼすのかもしれない。
「攻略し終わった異世界の余生ってどう過ごせば良いんだろな?」
「ん~~そうですねぇ。そもそも、今の私たちには『このマンガ』のような明確な目的や目標があるわけではありませんし……だからと言って、これといって熱中してドハマりしてる事もないですし……」
「リリィは推し活やコスプレ関係が好きなんじゃないのか?」
「そうですねぇ~~私の場合は生粋な”そういう類い”の人種ではないんで、ムラがあるんですよね~~」
そういうリリィは見た目と中身のギャップが微妙に馴染んで来ているように見える。
「そっかぁ。俺も似たようなもんだな。今となっては魔法筆を新たに作ろうという気がこれっぽちもない。むしろ、なぜあんなに熱中して作っていたのかも今では謎だ」
「確かにお師匠が最近、魔法筆を作る姿やどんな物が出来上がったという話は聞かなくなりましたもんね」
「そうそう。むしろ、辿り着いてはいけない境地に来てしまったのかもしれないなこれは」
「反省してないくせに」
クスッと笑いながらそう言ったリリィは、自分も製作に関与していることが少し誇らしげに見える。
そして、彼女は新たな提案を俺にくれるのだ。
「お師匠、これからの旅は『大切に』魔法筆を使っている人たちの魔法筆の調子を見て周るというのはどうでしょう??」
一応だが、俺の作った魔法筆にはメンテナンスや調整は不要だと思っている。けれども、これは単なる俺個人としての解釈であり、万人が右にならえ出来るものでもない。
だからこそ、リリィの提案は『ぐだるだけで過ぎ行く』異世界生活にメリハリを与えてくれるものではないかと……静まった俺の心が少しだけ躍り始めた。