5.攻略開始
「タリさん、三秒後に光魔法を使います。右に避けて下さい」
「了解。カウント頼む」
「あーしがやるよ。三、二、一、今」
「ストライクレイ!」
ダイモンから光の筋が放たれ、ブービーフロッグの腹を貫いた。その衝撃でフロッグが硬直する。今だ!
「両手突き!」
「斜め斬り!」
俺とタリ氏のアビリティ技を受けて、フロッグがのたうち回っていた。いらないダメージを受けては面白くないので後ろに後退する。
「最後はあーしが決めるし!巻き添え食らいたくなかったら伏せててちょ」
ぽぷらがそう言いながら、導火線のついた爆弾のような物を投げる。咄嗟にしゃがむとブービーフロッグの前で大爆発を起こした。爆風が晴れてフロッグがポリゴンになったのを確認し、息を吐く。
「凄い威力だな」
「職業補正マシマシだからね。いいっしょ」
ピースをしながら、歯を見せて笑うぽぷら。ダウナー系ギャルだが、表情は豊かだ。彼女のジョブはアイテム師だ。珍しいジョブで、特殊クエストをこなさないと出てこないらしい。そのジョブのスキルにアイテム効果二割増という破格のスキルがあり、アイテムで攻撃したり、回復したりとかなり融通の効くジョブだ。ただし、非常に金食い虫でもある。そこは、クラン資金である程度はカバー出来ればと思っている。
【ボス:ブービーフロッグを倒しました】
【レベルが上がりました】
らっきょ Lv 9
メインジョブ 槍使い
サブジョブ 商人
筋力 14→18
頑強 13→15
知恵 9→11
器用さ 12→16
敏捷 12→14
魔法抵抗 9→11
運 4→5
スキル
槍術Lv 3 互換性 重心移動Lv1
天柱落Lv1
身体能力向上Lv3 健康Lv1
頑強Lv2 健脚Lv2 体力増強Lv2
棒術Lv4 挑発Lv2 鑑定Lv1
アビリティ
両手突き 打ち払い 投槍 上段突き←new
槍術と健脚のレベルが上がり、アビリティに上段突きが追加された。ちなみにメインジョブは上級職もあるらしく、狙いの職とスキルを育てる必要があるらしい。
「これで第二エリアですね。ここからはスキルを育てないと通用しませんので、積極的にクエストをこなしつつ、ボスを狩っていきましょう」
ダイモンの話ではスキルの素は三種類あるのだそうだ。α、β、Ωの三種類。後になるにつれてレア度が上がる。戦闘の主力になっていくようなレアスキルはβの素じゃなきゃ手に入らないらしい。Ωに関しては、素の入手報告はあるものの、スキルストアで必要になるようなプレイヤーはまだ現れていないとか。しかし、そのアイテムがあるということは、それに値するスキルがあるはずだ。それを探すのがトップギルド、ひいては全プレイヤーの目的になるだろう。
「それにしてもダイモンの魔法、凄い威力があったな」
「一応レベル二十を超えてますからね。メインは支援ですが、光魔法も取得しました」
「魔法キャラがダイモンだけだしな、助かるよ」
「任せて下さい」
俺はダイモンと友人になれたと思ったから、敬語をやめた。彼女にもそうして欲しいと話したが、これは素だから、難しいとの返答。まぁ、そうゆうRPなのだろうと深くは聞かなかった。
「さて第二エリアですが、どちらに向かいましょうか」
ダイモンがマップを開きながら、そう問うて来た。現在分かっているところだと、エリアが進むにつれて、探索範囲が広くなっていくのだと言う。それにつれてエリアボスも数を増していく為、ルートを考えなければいけないそうな。一応、複数のエリアボスを倒すのも可能らしいが、マップやクエストの関係上、あまり効率の良い攻略ではないらしい。
「ここから、砂漠と沼地に分かれます。砂漠はアシュタル人の街へ。沼地はリザードマンの街に分かれています。ちなみに私は砂漠のルートで攻略しました」
そう言って、砂漠踏破用のローブを見せてくれた。灰色の分厚いやつだ。背の高いダイモンが被ると迫力がある。
「あーし、砂漠はパス」
「どうせなら行ってない方が面白いだろ、沼地だな」
「タリさんは?」
「そうだな。砂漠の敵は硬そうだから。沼地に一票」
「じゃあ決まりですね。沼地経由でリザードマンの街、ダバラを目指しましょう」
そういう事になった。
大陸の北西部に存在するアシハラの沼地。この広大な沼地の半分を地領とするのがリザードマンだ。外見は二足歩行する蜥蜴だが、人に近い種族で人間の街とも交流がある。
「お前達、ダバラへ行くのか?」
沼地の入り口で行商人らしきリザードマンに声を掛けられた。蜥蜴だが、どこか愛嬌のある顔で表情も豊かだ。
「ああ、そのつもりだよ」
「そうかそうか、じゃあ沼地を抜ける訳だ。となるとこいつが必須だな」
リザードマンの商人はかんじきのような脚装備を見せてくる。
「こいつには沼に沈まないように仕掛けがしてあってな、ほら、こんな具合に」
商人が沼へと一歩踏み出すが、沈みもせずそのまま数歩歩いてみせる。
「砂漠でのローブみたいなものでしょうね。あれが無いと熱さでバッドダメージをくらいますから」
「沼地必須アイテムか。あんた、四人分買うよ」
「まいど!」
ほくほく顔の商人を傍目に、全員で沼かんじきを装備してみる。なんというか、シュールな絵面になった。
「これはここを抜けるまでは外せないのだろうな……」
「あーしは結構好き」
「まぁ底無し沼にハマってデスてのを防げるなら、我慢は出来る」
「はい、じゃあ準備も出来ましたし、電脳軍(仮)出発ですよ」
沼地と一重に言っても、陸地の続く場所と全て浸水した沼の中洲のような場所がある。それぞれ、フロッグ系の魔物や肺魚の魔物等、結構バリエーションが豊富な敵が出現するので、その都度フォーメーションを変えて戦闘を行う。こういったところは探索者の杵柄で素早い編成替えが可能だ。ストレスが少ないので、非常に楽しい狩りである。
「らっきょさんもそうですけど、タリさんも対応が早くて素晴らしいですね。実はかなり上位の探索者ですか?」
「ダイモンは結構遠慮しないよな」
「聞きたいことや確かめたいことを我慢出来ないたちでして」
男の照れ笑いは気持ち悪いだけだから、やめてくれ……。
「私は……まぁそうだな、否定はしないが。刀があればもっと貢献出来るのだがな」
「へぇ珍しい。刀術タイプなのか。こっちでも刀を使う予定なのか?」
「見つかればな。刀の無い私は一般の剣士と何ら変わらん」
「タリっちはじゅーぶん強いっての。自信持つ!」
「ありがとうぽぷら」
何だかんだ言って、随分打ち解けてきた。最初はどうなる事かと思ったが、杞憂だったようだ。
「半分くらい来たか?」
周りを見渡すとちらほら釣りをしているプレイヤーを見かける。沼の魚ってどんなのが釣れるんだろうな。
「噂によると、アイテムも釣れるらしいですよ」
「へぇ、攻略が落ち着いたら、釣りスポットを廻ってみるのもいいかもな」
そんな話をしていると、中洲に掛けられた橋の上にNPCのおじいさんが立ちすくんでいるのが見えた。むむ、これはクエストの予感。
「どうかしましたか?」
「おお、邪魔になってすまない。いやなに、大事な帽子を盗られてしまってな」
そう言いながら、ツルピカの頭を撫ぜるおじいさん。
「魔物にですか?」
「ああ、葦の生えたあたりがあるじゃろ。あのあたりに全身が泥で出来た魔物が出るんじゃよ。そいつに驚いて逃げたら、大切な麦わら帽子を落としてしまっての。どうやらそやつが持っていってしまったようなんじゃ」
クエスト、麦わら帽子を奪還せよ!麦わら帽子を無傷で奪い返すとボーナス。
早速、そちらに出向いてみる。可能な限りクエストはこなさなきゃね。
「ここいらのはずなんだが」
「あ、あれっしょ」
ぽぷらの指す先を見ると、葦の葉の間に麦わら帽子がひょこっと出ている。先制のチャンスだが、麦わら帽子に当てる訳にいかないのでどうするか考える。
「取り敢えず、橋の上に誘導しましょう。沼の中では明らかにあちらに有利ですから」
「よし、それなら丁度良いスキルがある。うちはタンクがいないから、一応取っておいたんだ」
我ながらセコいが、こう言っておけば挑発を持っていても怪しまれないだろう。
「おい!麦わら帽子を返しやがれ!」
俺の声が聞こえたのか、葦の間から人型の魔物が立ち上がった。ボス表記がある。こいつで間違い無いようだ。泥の体にちょこんとのった麦わら帽子。名前はストローマン。いや、麦わらありきじゃないか、ちょっとそれはどうなんだ?戸惑う俺を置いて、タリ氏が先に仕掛けた。
「斬り抜け!」
鋭い斬撃で、ストローマンの左脇腹を斬り裂く。しかし、たちまち傷口が塞がり、何事も無かったかのようにこちらに攻撃を仕掛けてきた。動き自体は速いわけでは無く、主に泥を飛ばして攻撃してくるようだ。
「む、手応えが薄い」
「物理に強いタイプかもしれません。私がやってみます」
挑発の効果がまだ残っているのか、ストローマンは執拗に俺を狙って来る。連続攻撃を躱しきれず、被弾してしまった。これは……
「気を付けろ!泥に当たると鈍足が付くぞ!」
「鈍足了解。デバフの時間計っておいて下さい。光魔法いきます!ストライクレイ!」
光の筋がストローマンの脚に当たるが、ストローマンは大したリアクションもせず、そのまま攻撃体勢に入った。ストローマンの全身から四方八方に泥が撒かれる。威力は大したことないが、デバフを撒き散らす凶悪な範囲攻撃だ。俺とタリ氏は被弾したので、一旦下がる。ぽぷらが煙幕弾を投げてくれて、ストローマンはこちらを見失ってる。
「光魔法は相性が悪いみたいです」
「泥だからな、しょうがない。ダイモンは回復に専念してくれ。ちなみに鈍足は解除する事が出来ないんだよな?」
「駄目みたいです。キュアの対象に有りません」
「分かった」
「ちょいあーし試したいことあるかも」
そう言って、ぽぷらが水色の瓶を取り出す。
「最近作れるようになった、にゅーアイテム」
「よし、試してみるか。タリ、左右に分かれて牽制しよう、鈍足の間は攻撃は最小限で」
「了解した」
煙幕が晴れて、ストローマンがこちらを補足する、鈍足はまだ解除されていないが、ストローマン自体の素早さが無いお陰でで何とか初撃を躱す事が出来た。
「あーしのにゅーアイテムの威力。とくと見れ!」
放物線を描いて放られた瓶がストローマンに着弾すると、中身が右半身を覆い尽くし、凍結させる。
「ひっさつ!とうけつびん!どうよ!」
「ナイスだ!畳み掛けるぞ!」
残った左半身を振って、泥を放って来るが、お構い無しにひたすら突く。どうせ鈍足のままだ。ダメージはダイモンが回復してくれる。
「上段突き!」
「斜め斬り!」
斬り裂いた箇所が……再生しない。よし。
「試作品だかんね。これ一個しかないよ!」
「分かった!」
ならば、大技しかないだろう。
「タリ、俺を上に放れるか?」
「あれか。分かった。こい!」
両手を組んで敵に背を向けるタリ氏。肝が座ってるな。俺は助走をつけるとその組んだ手を足場に上空へと踊り出た。重心移動を発動し、足先から上半身へと弓なりに力点を移動させていく。やがてそれは右手に収束し、槍の先端へと力を余すこと無く伝える。
「じいさんの麦わら帽子、返しやがれ!」
槍が放たれた。
「天柱落!」
轟音と共に飛来した槍は見事に帽子を避けて右半身に着弾。丸ごと消し飛ばす事に成功する。
「らっきょさん!」
またもや不様に着地かと思えば、ダイモンが上手いことキャッチしてくれた。しかしこの体勢、お姫様抱っこである。ストローマンを見ると、ポリゴンに変わっている。どうやら倒せたようだ。
【ボス:ストローマンを倒しました】
【レベルが上がりました】
らっきょ Lv 10
メインジョブ 槍使い
サブジョブ 商人
筋力 18→20
頑強 15→16
知恵 11→12
器用さ 16→18
敏捷 14→15
魔法抵抗 11→12
運 5
スキル
槍術Lv 3 互換性 重心移動Lv2
天柱落Lv1
身体能力向上Lv3 健康Lv1
頑強Lv2 健脚Lv2 体力増強Lv2
棒術Lv4 挑発Lv2 鑑定Lv1
アビリティ
両手突き 打ち払い 投槍 上段突き
嬉しい事に重心移動のレベルが上がった。長年付き合ってきたスキルだけに感慨がある。ぽぷらが麦わら帽子を拾って被る。
「どう?似合う?」
「やめときなさい。泥ついちゃうよ」
「それはかんべん。てゆーか、ダイモンいつまで抱っこしてるの?」
それを聞いて、はっとしてお姫様抱っこを解除する。ステータス確認に夢中で腕の中で考えてしまっていた。
「おお!儂の麦わら帽子!妻が作ってくれた思い出の帽子なんじゃ。ありがとうな若いの!」
それは無くせないよな。おじいさんに報告してクエスト完了だ。ちゃんとボーナスが付いている。
「やばっ、スキルの素βじゃん!始めて見たし」
「やっぱりこういった特殊クエストとかの報酬にあるんですね」
「そろそろスキルストア使うか、結構貯まってるし」
「ダバラに着いたら、一旦解散しましょう。各々やりたい事もあるでしょうし、そろそろ防具も買わなきゃですね」
少し歩くと、沼地の真ん中に水上都市のような形の街が見えてきた。沈まないような工夫なのか、木が主な建材として使われている。あれがリザードマンの街、ダバラか。何故か所々焼けたような跡がある。不思議に思ったが、到着し、定時連絡組と就寝組が発生した為、今日のところはここまでとなった。
「じゃあまた明日」
「はい」
「ばいびー」
「お疲れ」
ログアウト。白い天井。
端末を見れば、連絡有りを示す点滅がある。
三日後、一◯◯◯、完全装備の上、集合。攻略開始。受諾の旨、返答されたし。