48.積み上げたモノ
「なん、だ?」
「力が……!」
「なんだ?皆どうした?」
俺だけでは無く、後方支援のメンバーまでもが体に違和感を感じたようだ。この感じは……。
「鑑定……駄目か」
鑑定が発動しない。これはまさか。
「スキルが、スキルが発動しない!」
大川の叫びに皆それぞれ自分のスキルを確認する。
「灼熱の太陽球」
保奈美の魔法は発動した。しかし、明らかに小さい。女王に飛んでいったが、速度も遅ければ、狙いも甘かった。
「ライトアーム」
柏原副隊長が右手に機械の腕を装備した。しかし、自重に耐えられず、すぐに解除する。
「成る程、これはレジェンダリースキル以外を封じられたな」
「なんやそれ!?」
「体が重いはずです。撤退を提言します」
「え、え?」
梶谷さんの言う通り、事態を把握するまで攻略は諦めた方が無難だろう。何故だかテルは一人困惑している。俺は上村さんを振り返った。バックパックから八九式を取り出し、組み立てている。頭にはインカム。腰に無線機が見える。
「こちら北狐。作戦通り、石を割った」
その言葉が終わると同時に女王に向けて射撃を開始する。
〘了解。鳶を放つ。トビウオ到着まで百八十秒〙
〘鳶の情報より位置測定中〙
無線機から聞こえる応答から何らかの作戦なのだろうと推測出来るが、意図が見えない。上村さんのフルオート射撃は女王の体表に何ら傷を作ってはいない。それでも、やはりスキルを封じられたのはこちらだけでは無いらしく、女王の動きが明らかに鈍っていた。
「上村!説明しろ!」
柏原副隊長の怒号に上村さんが射撃を止めて振り向いた。
「スキルを封じました」
「そんな事は見れば分かる!理由を聞いているんだ!」
「それは……」
〘位置測定完了。穴熊から警告。十秒後弾着、退避されたし〙
俺は空を仰ぎ見る。海側の上空に小さな飛行物体が見えた。あれは、観測用ドローン。あれで、位置を測っているのか、だとすると……。
背後から発射音が響いた。街の外に陣取っている一◯式戦車の四十四口径百二十ミリ滑腔砲が火を吹いた音だ。
「ジェイソン!」
「スターチブロック!」
俺達の前に水飴の壁が現れる。ジェイソンが操作するとそれが、左右に伸びていく。間に合え!上村さんは……大丈夫だ。範囲に入ってる。
〘弾着、今〙
女王が爆発した。少なくとも俺達の目にはそう見えた。だが徹甲榴弾にしては爆発が大きすぎる。三発の砲弾は確かに着弾した。しかし、爆発の威力を上方向のベクトルに変換されている。やはり、レジェンダリースキルだったか!もう一度発射音が響く。
〘第二射、着弾まで五秒〙
これはまずいぞ、弾速を見切った女王が取る手は一つだ。女王のステッキがこちらを向く。
「ジェイソン!ブライアン!」
どちらでも良い。何か!
「あの威力には耐えられないぞ!」
「ニハツケス!」
仕方無い、後一発は俺が。ブライアンがジェイソンのスターチブロックを圧縮して硬くする。弾がベクトル変換に従って、跳ね返るのが見えた。常人では目視も不可能だろうその弾速に何とか食いつく。だが、これは間に合わないか!その瞬間、誰かが俺の横に出る。弾は彼に当たり、信管が起爆した。
「テル!」
胡桃の言葉に、今のがテルだったのだと悟る。だが、彼は無傷だった。腕を交差して立ち、何でも無いように腕を振るってみせる。
「何ともないぜ」
「驚かせるな!」
「上村、射撃を止めさせろ!こちらに被害が出るばかりだぞ!」
もうこうなると上村さんの狙いも分かって来た。スキルを封じた事により脆くなるであろう女王本体を近代兵器で制圧する。これが、上村さんと自衛隊の作戦。まさに博打のような一か八かの考えだ。
「まだだ!まだ俺達はやれる!あいつは俺達が倒す!」
「冷静になれ!利用されてるのが分からんのか!」
柏原副隊長の制止を振り切り、上村さんが前進を開始した。その手に持つ八九式が再び火を吹く。
「この国は俺達が護って来た!厳しい訓練に耐えて、家族と離れていようとも、命を懸けて国を護る為に働いて来たんだ!それがなんだ!後方支援?探索者の援護?」
弾倉が尽きて、八九式は沈黙する。
「巫山戯るな!主役は俺達だ!いつだってこの国を救うのは自衛隊だ!過去も未来も俺達が日本を護る!」
〘こちらトビウオ。標的を確認した。制圧射撃に入る〙
南の空にバタバタという音が響く。
「アパッチだと!?なんてものまで持ち出してるんだ!」
AH-64Dアパッチ。自衛隊でも屈指の戦闘力を誇るヘリだ。その下方に配置された三十ミリ機関砲から射撃が開始される。あまりの発射レートにより重低音にしか聞こえないその射撃も女王のステッキにより反射し、アパッチに跳ね返る。しかし、操縦士はそれを予想していたのか、射線を避けながら撃ち続ける。流石に戦闘ヘリのパイロットだ。リスクマネジメントがしっかりしている。十秒程撃ち続けたところで、射撃は止んだ。
〘三十ミリ効果無し。プラン変更。特式兵装を起動〙
アパッチの武装と言えば、三十ミリ機関砲とヘルファイア対戦車ミサイルだ。ところが、今回のアパッチには細長いコンテナのような物体が配備されている。
〘四二式サテライト発射〙
コンテナから五角形の物体が多数飛び出して来た。
多数の飛行体は下部に搭載したノズルから青白い光を出しながらアパッチの周囲を旋回している。
〘照射!〙
その多数の物体から一斉にレーザーが照射された。照射時間は僅かなものだったが、女王の胸元に確かに焦げた跡がつく。
「レーザー兵器か。中東の技術だと思ってたが、自衛隊にもあったんだな」
その後も細かいレーザー照射を繰り返し、少なくないダメージが女王に蓄積していく。流石のベクトル変換も、光の速さには対応出来ていない。
「いいぞ!玉木!」
上村さんが腕を振り上げて歓声を上げている。確かに有効な手だ。敵の視認出来ない速度の攻撃を繰り返して消耗を狙う。理にかなっている。しかし、決定打には程遠いだろう。上村さんには悪いが消耗した女王を叩く準備を始める。
「あ?抵抗を諦めた?」
女王が防御を止め、口を開いて停止した。予想外の行動にアパッチもレーザーを停止する。
「よし、チャンスだ!穴熊!もう一度攻撃を……」
「上村さん!!」
無線機で指示を出していた上村さんを押し倒す。その頭上を何かが通過した。
「おいおいおい。攻撃手段持ってるじゃねぇか」
柏原副隊長のボヤキにそれを見上げる。
小さなスペードの集合体。それが巨大な矢印となり、仲間を襲っていた。
「撤退だ!上村!ヘリを下がらせろ!」
「オレが囮になる!皆下がって!」
テルの叫びも虚しく、最初に餌食になったのは、アパッチだった。余程鬱陶しかったのだろう。ローターが折れるまで執拗に攻撃を加えていた。浮力を失ったアパッチは地面に急降下し、墜落すると思われた瞬間、何かの力によって停止する。
「早く!降り、て!」
テルが機体を支えていた。その超人の力は彼の膂力を強化し、それを可能にする。直ちに隊員達は機体を飛び降り、テルは彼方にそれを放り投げる。爆発こそしなかったが、機体はペシャンコだ。
女王の矢印は今度はこちらを向いた。
「そんな、こんな筈じゃ……」
上村さんが呟いた。茫然自失となった彼を後方に投げる。ジェイソンがネットを作ってキャッチしてくれた。投げる際に上村さんの腰から取り上げた無線機を握る。
〘聞こえますか。探索者協会の倉松です〙
矢印は俺の目の前。棍を地面に突き立て、真正面からその力に反発する。矢印と俺の力が拮抗し、それが止まった。
「作戦は失敗です。女王は健在。アパッチは堕ちました」
〘……〙
返信があったが、ボタンを押しただけで、誰も喋らない。矢印の力が増す。しかし、俺もさらに力を込める。
「ここからは俺達探索者の仕事です。仲間の避難を援護して下さい」
〘……我々は、まだやれる。こんな中途半端な結果で終わっていい訳がない〙
「いいえ、終わりです」
〘君に何が分かる。この十年。我々が何を思って、君達の闘いを見ていたか!我々はまだ終わらない!〙
「違います!」
女王自身が前進して来た。手のステッキをこちらに押し込もうとしている。だが、俺の右手は負けない。例え、スキルが封じられようとも、俺には積み立てたステータスがある。
「俺は十年前、魔境の中にいました。両親を失い、たった一人、途方に暮れながら歩いていた俺を救ってくれたのは自衛隊の皆さんです。あの時どれだけ嬉しかったか。その時助けてくれた事を俺は一生忘れないでしょう」
〘それは……〙
「あの時助けてくれたから今の俺がここにいます。貴方達の十年は無駄じゃない!何も出来なかったなんて嘘だ!その事は皆が知ってる!誰も貴方達を脇役だなんて思っていない!だから!」
俺は源槍を十個出現させる。地に突き立つ棍と十の槍が融合する。それは白く輝く槍。
「こいつを俺が倒して証明します。貴方達が救った命はこの為だったんだと。その献身がこの国を救うのだと!」
女王が飛んだ。矢印に乗り、こちらに急接近する。そんな手段あるのかよ!
「らあ!ハーフスイング!」
スキルは封じられたが、アビリティは健在だ。源槍は元々アビリティだから使える。女王はハーフスイングをベクトル変換で弾き返す。しかし、見えた。今、一瞬だが、矢印の操作が疎かになった。同時には使えないのだろう。
「テル注意を引いてくれ!」
「分かった!きょうにぃ!」
この中で唯一、レジェンダリースキルしか持たないテルは弱体化を受けていない。まあ闘気は消えてるが、それは女王も一緒だ。
「こっち向けー!」
テルが上空から身を晒し、女王に殴りかかる、女王がそのベクトルを逸らし、テルが地面に叩きつけられる。しかし、女王は俺を見失った。それはそうだろう。俺は今、彼女の矢印の裏にいる。ベクトル制御が再び矢印に戻った。そのベクトルは上昇、つまり俺から見て、女王の体に向いている。ここだ。如意棒の先端に集まる源槍を回転させる。それはまるでドリルのように目にも留まらぬ速さで回転し、眩いばかりの光を放ち始めた。気づかれる前に穿つ!
「螺旋穿孔槍」
矢印を突き破り、先端が本体を穿った。ベクトルを変換しようとしてももう襲い。その豊満な体積を真ん中から突き破り、顔に到達する。
女王が弾けた。
【柏崎魔境の主を倒しました】
【レベルが上がりました】
▶倉松 匡太郎 Lv32
ジョブ 探索者
筋力 66→67
頑強 58→60
知恵 43→44
器用さ 66→68
敏捷 53→54
魔法抵抗 54→55
運 25→26
スキル
互換性Ⅲ グランダムラ
空歩Lv3 真・覚醒Lv3 番天印Lv2 龍気
重心移動Lv3 天柱落Lv3 身体能力大向上Lv1←new
健康Lv4 雷装Lv3
頑強Lv5 健脚Lv4 体力増強Lv5 体捌きLv4
槍術Lv6 棒術Lv5 挑発Lv4 交渉術Lv1
鑑定Lv4
アビリティ
両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 発勁
下段突き ハーフスイング 三連突き 牙突
源槍
身体能力向上が進化したようだ。空歩や番天印も上がっている。何より嬉しいのは互換性のグレードが上がらなかった事。紋芽に心配を掛けないで済む。
俺は上村さんの元に歩いて行く。彼は腰を地に付け、項垂れている。
「倉松、俺は……」
「貴方は仲間を危険に晒しました。それは許されない事です」
「そう、だな」
「上村さん。この十年はそんなに苦しかったですか?」
「……?どういう意味だ?」
彼が顔を上げた。自慢の角刈りも気持ちヘタっている。
「俺は十年前、両親を失いました。そして貴方達に助けられ、周りの人にお世話になりました。それはもう沢山の人に助けられました」
彼の隣に正座する。
「そして沢山の人を助けました。魔境で、普段の生活で、知り合いから、そうじゃない他人にも」
言葉を切って、上村さんの顔を見る。
「貴方だってそうだった筈だ。自衛隊の仲間を助け、助けられ、それは、探索者の仲間にだってそうでしょう?」
上村さんが深呼吸する。
「人に助けられて、その恩を返したい!って思うのは皆一緒です。だから、人を救う事に優劣なんて無いんです。皆等しく感謝があり、それに報いたいと思う。俺もそうです」
正座のまま、姿勢を正し、彼の心に語り掛ける。どうかありのままに伝わって欲しい。
こんなにも感謝しているのだと。
「それじゃ駄目ですか?」
上村さんは足を組み替え、正座する。バベルの無くなった丘の上で、男が二人、正座で向き合っていた。辺りは街が姿を消していき、平地だけが残るばかり。
「ありがとう、御座いました」
上村さんは腰を折って、そう言った。俺はお辞儀をして返す。
「こちらこそ。ありがとう御座いました」




