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3.互換性



「何も……変わらない?」

 

 あの後、俺は悩みに悩んだ。悩んだが……結局使用した。市場に出れば十億は下らないレジェンダリーメダル。一生遊んで暮らせる金額だ。しかし、俺には夢があった。いつか故郷を救う英雄になる事。故郷だった横浜魔境は難攻不落だ。エリアボスですら一筋縄ではいかない。しかし、いつかこの手で主を倒す。魔境に呑まれた父さんや母さんの為にもいつの日か成し遂げる。たが、最近ではこの想いにも翳りが見えていた。十八で探索者になり早五年。自分の実力も理解出来る歳になった。このまま中堅の探索者として生きていくのも悪くないか、そう思っていた。そんな時に手に入れた概念スキル。使わない選択肢は無いだろう。


「重心移動……うーん違うな」


 スキルを使ったり、跳ねたり、色々体を動かしてみたが、違いが分からない。


「互換性というくらいなんだから、何かと何かの互換をしてくれるんだよな?」


 そう考えたはいいが皆目見当がつかない。


「参ったなー」


 場所は我が家。山北攻略は途中だが、一旦は落ち着いた。主の捜索が始まっており、決着には数週間程度かかる見込みだ。その間、パトロール担当の分隊が交代で巡回する事になっている。エリアボスは一定時間で復活してしまうので、そういった巡回が必要になってくるのだ。三十六分隊の仕事は進軍時の遊撃。つまり仕事は終わっている。主討伐の際は呼び出しがあるだろうが、それまでは休日になる。その間に新スキルの調査をしようと思ったのだが手詰まりになってしまった。


「……ゲームするか」


 こういう時は気分転換。開始前に少し攻略サイトを調べる。俺はネタバレは踏んでいくタイプだ。新作映画でもネタバレを踏みまくって、面白いと確信が持てたものしか観ない。それで十分楽しめる。だから、ゲーム攻略も有利な情報は率先して取り込む。


「なるほどね。金策優先すべしか」


 どうやら金策をしてさっさと武器を買うのがいいらしい。それでエリア2は楽勝と書いてあった。推奨クエストは……


「商人ね」



 フルダイブ。ログイン画面で、キャラクターを選択する。藍色の髪をポニーテールにした女の子。うん、なんか恥ずかしくなってきたな、そのうち男にするか。確か課金で変更出来たはず。


 おかえりなさい、らっきょ様。


 街に降り立ち、まずはフレンド画面を開く。フレンド欄は灰色。ダイモンさんはいないようだ。

 マップを見ながら商工会議所を目指す。石造りの立派な建物が見えてきた。あれがそうかな。


「すいません」


 受付でクエストの確認を行う。内容は隣街までの隊商の護衛。何とこのクエスト、鑑定スキルが手に入るらしいのだ。それを使い、下町のフリーマーケットで掘り出し物を探して高値で商人に売り捌くのが最短ルートだと書いてあった。


「こちらで間違いありませんね?」

「はい、お願いします」


 すぐさまその場で護衛依頼が始まる。


「今日はよろしく頼むよ」


 商人のマックさんと握手を交わし、積荷の満載した馬車の護衛依頼が始まった。どうやらこのクエスト、初心者救済の側面もあるらしく、エンカウントする魔物はそこまで強くない。


「せい!」


 律儀に順番を守って襲って来るキーウルフを倒す。同時に来ないのなら楽勝である。五体目を倒した所で、襲撃が止む。よし、防ぎきったな。


「いやぁ助かったよ、らっきょさん。ところで君は商人に興味は無いかな」


 唐突に商人に誘われる。


 商人になりますか?

 はい ←

 いいえ


 はいを選択。


 サブジョブが解放されました。

 サブジョブに商人が適用されました。

 鑑定Lv1を手に入れました。


 アナウンスが流れ、サブジョブが商人になる。サブジョブの解放と鑑定スキルを手に入れる事が出来るとてつもなく有用なクエストだ。よし、これで後は隣街でクエスト報酬のスキルの素を貰って終わりだな。そう思っていた時期が俺にもありました。


「おや?街道が騒がしいね」

「え?」


 街道に馬車が横倒しになっていた。なんだ?こんなイベント、攻略サイトには書いてなかったぞ?

 何人かプレイヤーと思われる人が集まっていたので近付いて行く。


「やあ、君も鑑定クエスト受けた人?」

「はい。皆さんも?」

「そうだ。色々調べたら、突発で起きるクエストで、ワンタイムボスがもうすぐ湧くらしい」


 眼鏡をした男性プレイヤーが仏頂面でそう答える。最初に声をかけてきた女性は苦笑しながら腕を組んでいる。多分だが、この人は男だな。もう一人は如何にも初心者といった出で立ちの剣士。いやそれは自分もか。


「取り敢えず、皆パーティー組もう。結構強いみたいだよ、ワンタイムボス」


 是非もなし。パーティー申請を受ける。

 それぞれのジョブと立ち回りを伝え合う。探索者の即席パーティーを思い出すな。

 眼鏡の彼はヤマト。風属性の魔法使い。ネカマの女性?はダイナナ。格闘家だそうだ。最後の彼はサルバドール=タリ。見た通りの剣士らしい。いや、その名前、どうなんだ……


「ダリじゃなくて、タリって、くくっ」


 ダイナナの琴線に触れたらしく、ウケてる。


「笑ってるのはいいが、どうやら時間みたいだ」


 タリ氏が思いもよらぬ渋い声で警告する。前方を見ると森の木々を押し倒しながら巨大な猪が現れた。


「クラッシュボアか」

「表皮が硬いので刃が通りにくいのと、突進はスタン属性らしい、ダメージ如何に関わらず、回避を推奨する」

「となると、自分の出番だな!」


 ヤマトの情報を聞いて、ダイナナが前に出る。クラッシュボアの突進を華麗に躱し、横っ面にフックを入れた。クラッシュボアが少しふらつく。


「効いてるみたいだな」

「らっきょさん。我々は後ろ脚を狙おう。らっきょさんは右、私は左を」

「後ろ脚。了解」


 タリ氏が慣れた動作で突進後のターンの隙に後ろ脚を斬りつける。俺も負けじと地団駄を踏み始めたボアに合わせて槍を突き入れる。しかし、これは……


「全く切れる気がしない」

「同感だな。どうするか」

「三人とも離れてくれ!」


 後方のヤマトからの指示に従い、一旦距離を取る。


「ダウンバースト!」


 強烈な風がボアの側面から叩きつけられた。風に煽られたボアが悲鳴にも似た咆哮を上げながら横倒しになる。


「今だ!」

「ナイス!インテリ君!」

「腹を狙うぞ」

「おっけー」


 物理組でボアの腹に総攻撃を加える。よし、刃が通る。やはり背中より柔らかいようだ。


「効いてるぞ!」


 ボアが体勢を立て直すのに合わせて、俺達も一歩下がる。


「よし、この流れをもう一度やる、詠唱の間、ヘイトを稼いでくれ!」

「りょーかい!」


 即席パーティーだが、連携が上手くいっている。三人共他ゲーの経験値がありそうだ。そんな事を考えながら、ボアにちょっかいをかけていると、ヤマトの詠唱が終わる。すかさず離れ、待機。


「ダウンバースト!」


 これでボアが倒れ……ない。何と風上に向かって急ターンし、耐えきった。読まれた!ターンで向いた先にはクールタイム中のヤマト。


「避けろ!」

「くそっ」


 必死の形相で横跳びするヤマト。しかし、突進に巻き込まれ、跳ね飛ばされる。デスはしてないようだが、あの様子、スタン状態か。


「もう一度来るぞ!」

「こなくそ!」


 咄嗟にボアの突進に合わせて、近場の木を蹴り、三角跳びの要領でその背中に取り付く。とても届くような距離では無かったが、何故だか届いてしまった。


「らっきょ!?」

「どうするつもりだ!」


 そう言われても何も考えていなかった。取り敢えずヤマトがデスするのは防げたようだが、ボアは背中から振り落とそうと暴れまくる。そうはさせるかと、必死にしがみつきながら、俺は考えを巡らせた。顔まで張っていって目を突くか?一度離脱して体勢を立て直すか?いや、駄目だ。張っていくなんて現実的じゃないし、今飛び降りたら確実に踏み潰される。どうする!考えろ!リアルの俺ならどうする。そうだ、現実世界なら、アレを使う。だが、今はそんなスキルは無い。


「ちくしょう!重心移動さえあれば!」


 その時、使い慣れた感覚に襲われ戸惑う。自分の重心を意識して移動出来る。その感覚に従い、両足の先に重心を移動する。すると先程のふらつきが嘘のように安定し、振り落とされる心配が無くなった。どういう事だ?知らずに新スキルを取得していたのか?しかし、これは紛うことなき俺の十八番(おはこ)スキル、重心移動だ。システムがパーソナルデータを反映したのか?いや、そんな訳は無い。探索者のスキルは極秘中の極秘だ。情報を抜き取れば、殺されたって文句は言えない。そもそもそんなこと不可能だ。じゃあこれはなんだ?


「まさか……」

「おーい!大丈夫なの?」

「気をつけろ!立ち上がるぞ!」


 足元でボア後ろ脚を軸に立ち上がる気配を見せた。完全に振り落とす気なのだろう。しかし、これはチャンスだ。腹を自ら晒すのだから。


「重心移動」


 背中に槍を突き刺す、浅くしか入らない。でもそれでいい。両手で槍を掴み、そこに重心を移動する。重さの無くなった体を両手の力で跳ね上げ、その瞬間に跳ね上げて逆さになった脚に重心を移す。すると天地が逆さまのまま上空に跳ね上げられた。槍も掴んだままだ。


「互換性てのがそういうことならよ。アレも持って来たんだろうなぁ!さぁ猪野郎!覚悟しろよ!死に晒せ!」

 

 それは俺の持つ、切り札。もう一つのレアスキル。


「天柱落!」


 空中で弓のように体を反らし、回転の反動で投げ下ろす。槍は軌跡を残して直進し、ボアの腹を貫通した。それだけでは飽き足らず、さらにその下の地面を陥没させる。


「ぶっ」


 不様に頭から着地し、ふらつきながら上体を起こして振り向くと、クラッシュボアがポリゴンとなって消えていくところだった。


【ボス:クラッシュボアを倒しました】

【レベルが上がりました】


らっきょ Lv 7


メインジョブ 槍使い


サブジョブ 商人


筋力   10→14


頑強   9→13


知恵   7→9


器用さ  10→12


敏捷   10→12


魔法抵抗 7→9


運    3→4


スキル 


槍術Lv 2 互換性←new 重心移動Lv1←new 


天柱落Lv1←new


身体能力向上Lv3←new 健康Lv1←new 


頑強Lv2←new 健脚Lv1←new 体力増強Lv2←new


棒術Lv4←new 挑発Lv2←new 鑑定Lv1←new


アビリティ 


両手突き 打ち払い 投槍←new


 俺はこの画面を見ながら、スキルはステータスの数値に反映されないんだなと、変に冷静になっていた。


「おい、凄いじゃんか、最後のなんだよあれ!」

「驚いたな。多少削っていたとはいえ、ボスをほぼ一撃とは」


 ダイナナがへたり込んだ俺の背中を叩き、ヤマトが眼鏡を光らせる。凄い、これがクイックイッてやつか。まぁ、全員無事なら何より。宝箱から報酬を改修してクエストを続ける。ちなみにこの報酬に新しい槍が入っていた。初心者の槍を卒業出来る!よっしゃ!

 無事到着し、隣街でパーティーを解散する。その際、三人とはフレンド登録をした。何だかんだ言って、上手い立ち回りの出来る人達だった。また一緒にパーティーを組んでもいいと思うくらいには。


「それじゃあ」

「またね」


 ヤマトとダイナナは次の予定があるのか、さっさと去っていった。俺もそろそろログアウトするかと、ログアウト画面を開いて、


「らっきょ。あんたは探索者か?」


 そう聞いてきたタリ氏の顔は険しいものだった。



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