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2.山北魔境



 

 西暦二◯三八年。人類は未曾有の災害に見舞われた。世界の各所に魔境が現れ、その生存圏が脅かされたのである。魔境はその版図を少しずつ広げていき、人々の頭に滅亡の文字が浮かぶ中、英雄達が現れた。銃火器では傷一つつかないモンスターを一刀両断に斬り伏せるその勇姿。探索者。魔境でスキルを得た彼らは一躍、人類の希望となった。




 ブリーフィングルームには十名程が集まっていた。ほとんどが見知った顔だが、初見さんもちらほら。俺はこの山北軍では新顔だ、挨拶はしっかりせねば。


「おはようございます」

「ああ」

「おはよう」

「遅いぞー」

「すいません。何か、今日は集まり早くないですか?」


 近くに座っていた山城さんに声をかける。いつもなら、まだ集まり始める頃合いだ。


「ニュース見てないのか?郡山が攻略されたらしいぞ」

「え、てことは……」

「ああ、福島は完全攻略だな」


 魔境は攻略されると人類に返却される。不思議な言い回しだが、攻略者達は口々にそう言うのだ。


「あそこは強い人揃ってますけど、それにしても……」

「ああ、攻略速度が異常だよな。で、その攻略組がそのうち首都圏奪還に加わるって話だぜ」

「へー、東北方面じゃないんですね」

「お偉いさんの考える事は分からないけど、なんか意図がありそうだよな」

「それで皆さん早く集まってるんですか?」

「それに関連して、うちでも攻略の糸口を見つけ出したいみたいでな、作戦の発表があるんだとさ」

「お偉いさん特有の無茶なやつじゃなきゃいいですね」

「そんときゃ逃げ出すまでよ。俺らはあくまで個人事業主。隊と心中する気は無いぜ」

「その通り!」

「そうだ!」


 周りから賛成の声が上がる。我々は軍属だが、あくまで雇われ傭兵なのだ。これは探索者の間口を広く取る為の施策だが、その御蔭で休みも比較的多い。それだけ自由が無ければ俺も続けてはいなかっただろうな。


「悪い待たせたな」


 入り口の扉を開けて隊長が入室してくる。その瞬間、全隊員が起立する。


「総員敬礼!」

「よし、休め」

「着席!」


 腐っても軍隊。上官への敬礼は絶対だ。隊長と一緒に若い女性が入室してきた。うちの隊にも女性は何人か在籍しているが見たことの無い顔だ。


「今日のアタック目標を伝える。だが、その前に彼女を紹介しよう。中央分析室から出向して来た渡井三位だ。このアタック目標が討伐されるまで、共に行動する事になる。他にも中央からの増援が来るが、それは後ほど紹介しよう。まず彼女の分析を聞いてもらう」


 隊長が一歩下がり、渡井氏が前に出てくる。ショートカットの気の強そうな女性だ。


「渡井です。皆さんに中央分析室が解析した情報をお伝えに来ました。こちらをご覧下さい」


 モニターに山北魔境のマップが表示される。丹沢全体を覆うエリアマップ、その中程に赤いマーカーが表示されていた。


「とある情報筋より、山北魔境の主に関連する存在が示唆されました。山北軍では丹沢湖付近を重点的に探索しておりましたが、その情報筋によると、この地点、かつて箒杉と言われる巨大な杉の木があった箒沢のあたりに出没する可能性が高いとの結果が出ております」

「質問」


 山城さんが手を上げる。


「どうぞ」

「とある情報筋てのは?信じていい情報なのか?」

「禁則事項となる為、詳細はお伝え出来ませんが、我々は確度が高いと考えております」

「禁則事項ねぇ。それに振り回されるこっちの身になってくれってんだ」

「そこまでだ。山城八位。不平不満は私に言え。彼女は関係無い」

「そうですね。失礼しました」


 木田隊長に釘を刺され、山城さんは両手を上げて引き下がる。


「三十六分隊の仕事はあくまで露払いだ。文句は仕舞っておけ」

「了解です」

「よろしいですか?」

「ああ、続けてくれ」

「それでは作戦概要をご説明します。十五分隊、十八分隊、二十一分隊、三十六分隊は合同で右エリアボスの排除です。旧県道七十六号線を北に進軍、斥候隊からのボス発見報告があり次第、排除に動いて頂きます。その後箒沢南にベースキャンプを設営。主の捜索を行います」

「主の討伐は一分隊と増援組が行う。我々はそこまでの露払いと、ベースキャンプ設営後の安地確保だ。何か質問は?」


 木田隊長が見渡すが、誰からも発言は無かった。


「では、解散。一二◯◯に再集合」

「了解しました!」


 三々五々散っていく隊員達。俺も戻ろうとした所を隊長に呼び止められる。


「山城と倉松はちょっと来てくれ」


 山城さんと顔を見合わせる。一体なんだろうか。


「お前達の班に彼女を任せたい」


 そう言って、木田隊長は渡井さんを指す。


「真面目に言ってますか?」

「ああ、大真面目だ」

「あの、すいません。発言いいですか?」

「許可する」

「そもそも彼女が同行する理由はなんでしょうか?」

「ここだけの話だが、渡井三位のスキルに関する事が理由らしい」

「でしたら、本隊に同行すればよいのでは?」

「私もそう言ったんだがな、どうやら実地研修も兼ねているらしい。全く、上の考えている事は分からん」

「命懸けの実地研修ね。何ともきな臭い」

「どちらにせよ、これは上からの命令だ。拒否は出来ん。それに山城班には優秀なタンクがいるしな、危険はそこまで無いと思っている。なぁ倉松?」

「信頼を頂いているなら幸いです」


 当たり障りの無い返答をする。結局、渡井さんはうちの班で面倒を見ることになった。うちの班には女性もいるし、そういった意味では適任なのかもしれない。

 部屋に戻り、装備を整え、再集合する。ベースキャンプを張るのなら、バックパックは最小限。これは補給班が整備されるからだ。そしてカーボン素材の上下のアーマー、視界が遮られるのは嫌いなので、ヘッドギアはつけない。最後に愛器。ケースから棍を持ち出し、背中に装備する。


「いくか」




 集合場所には山城班のメンバーが既に集まっていた。


「来たな。我らがタンク様」


 糸目の男性は春日さん。階級は五位。弓師だ。索敵がメイン。


「若いのは先に来とくもんだぞ」


 白髪交じりの初老の男性は大八さん。本名は知らない。階級は七位。若い頃はマタギをやっていたらしいが、今は斧を振り回す我が班のメインアタッカーだ。


「早けりゃいいってもんじゃないよ。特に男はね!」


 ナチュラルに下ネタをぶち込んでくるのは、秋さん。本名はまたもや知らない。階級は四位。年齢は……四十……おっとこれ以上はいけない。俺も命は惜しい。魔法使いで得意なのは土。


「よし、全員揃ったな」


 そして班長の山城八位。茶髪の軟派な見た目だが、戦闘の腕は確か。曲刀使いだ。

 山城班はこの五人による遊撃主体の班である。


「今日はよろしくお願いします」


 例の渡井三位も挨拶をする。


「渡井さん。よろしく」


 皆口々に声をかける。山で闘うチームだからか、この隊は比較的優しい人が多い。諍いを起こして山中に置いていかれたら、命は無い。そこの所をよく分かってるんだろう。まぁ一部口の悪いのはいるが。

 三十六分隊は簡易装甲車両に分乗し、丹沢湖の北まで移動する。このあたりまでは常に探索者が巡回するコースだ。ただ、この先は徒歩。危険地帯となる。


「出発する前に、渡井さんの得意スキルを聞いてもいいかな」


 山城班長はそういう調整が苦手なタイプだ。代わりに俺が聞いておく必要がある。


「えっと、防御魔法です」

「防御魔法?それはまた特異なスキルだね」


 秋さんの言葉に、渡井さんは苦笑しながら掌の上に三角錐を展開させてみせた。


「形式方陣というスキルなんです。形によって防御できる攻撃が違うんですけど、一度に出せるのは一つだけで、扱いが難しいんです」

「へー面白いけど、自分が使ったら頭がこんがらがりそうだ」


 春日さんは興味深そうに三角錐を眺める。


「これ、あまり人のスキルをまじまじと見るもんじゃない」


 案の定、大八さんに頭を叩かれている。


「よし、山城班出るぞ」


 山城班長号令の元、旧県道七十六号線の跡と思われる道を北上する。あたりには同じように行軍する班がいくつも見えた。出発して間もなく、無線から次々にエリアボス発見の報、それとともに振り分けの指示が飛び始めた。


「山城班、谷口班は合同で右の尾根まで上がれ、爬虫類系のボスだ。やれるな?」

「山城班了解」

「うへー、あれ登るのかー」

「若いもんが何言っとる、ほれ登るぞ!」


 五百mはあるだろう。側面の山を見上げながら、春日さんがボヤく。しかし、他の隊員達は既に登り始めていた。常人ならば、確かに何時間も掛かるような登山だが、俺達は探索者だ。駆け足で急な傾斜を踏破していく。


「中腹から、俺が先に出ます!」

「分かった。倉松、大八、山城、渡井、秋、春日の順になれ、斜列登攀!」

「「了解!」」


 エリアボス。これこそが、俺達一般の探索者の討伐目標だ。探索者が常人とは懸け離れた身体能力を持つ秘密はスキルにある。この世界には世間一般のRPGで言うステータスなんてものは無い。レベルも無い。その代わり、スキルがある。エリアボスに会敵すると、奴らはエリア結界を張る。戦闘中はこの結界から出ることは出来ない。ボスを倒すとエリア結界の中にいた人全員にスキルメダルが配られる。このシステム自体、意味不明なのだが、人類は甘んじて受ける事になる。それほどにスキルは魅力的だった。何とこのメダル、本人でなくとも使用が可能なのだ。有名なのは健康のスキルメダルだ。病人に健康を取得させたところ、たちまち病気が治った等、様々な恩恵を人類にもたらした。それだけにメダルは高値で売買される。かく言う俺もそれなりには稼いでいる。協会はその特性上、売買を禁止出来ないからだ。


「あれか」


 どうやら出遅れたようだ。尾根まで上がると、後方に谷口班が待機しているのが見えた。よくよく見ると、ヤモリにも似た、三mはあるだろうひょろ長いモンスターが前方の尾根に跨るようにして眠っている。山城班長が谷口班長に合図を送り戦闘が開始される。谷口班は全員が遠距離攻撃を得意とする班で、先制攻撃に特化している。ヤモリはその矢と魔法の雨を食らって、絶叫と共に起き上がる。そしてエリア結界の発動。


「倉松!」

「行きます!」


 初手は相手の属性も得意攻撃も分からない。そんな時に重宝するのが、タンクだ。硬質や頑強のスキルを集めて使用している探索者の総称である。ヤモリの目の前まで移動し、棍を構える。


「重心移動」


 そして俺の肝とも言えるスキルを発動する。ヤモリの爪が俺を叩き潰そうとした瞬間に、身体の重心を左に寄せる。それにより爪は右に大きく弾かれ、ヤモリがバランスを崩した。


「今だ!叩き込め!」


 山城班長と大八さん、春日さんの攻撃が炸裂する。先程の先制攻撃でダメージを食らっていた所に総攻撃をされたらたまったものでは無いだろう。やったか!と思った矢先、ヤモリは体勢を立て直し、後方の秋、渡井コンビに襲いかかった。まずい!


「アースウォール!」


 間一髪、秋さんのアースウォールが間に合い。ヤモリの爪が防がれる。だが、ヤモリは四足を地面に着け、口をパカッと開けた。なんだ?


「渡井!火だ!」

「っ!はい!八方陣!」


 ヤモリの口から火線が放たれ、アースウォールが融解する。しかし、その先に展開された渡井さんの形式方陣に弾かれる。凄いスキルじゃないか。


「谷口ー!」


 山城班長が後方に向かって叫ぶと、その意図を正確に理解したのか、再び矢と魔法の雨が振る。ヤモリはしばらくのたうっていたが、やがて沈黙し、スーと消えていった。それと同時に手の中にメダルが数枚現れる。


「え?」

「どうした?」

「あ、いえ何でも無いです」


 俺は素早くメダルを仕舞うと、秋さん達に駆けよって行く。


「大丈夫ですか?」

「ええ、ええ大丈夫。渡井ちゃんのおかげね」

「え、私ですか?」

「当たり前だ。お前がいなきゃ、秋さんは今頃蒸発してた。いい仕事だ。渡井三位」

「そうだぜ!しっかしまさかブレスを吐くとはな、あのヤモリ」

「わしも腰が抜けるかと思ったぞ」

「ともかくお二人とも無事で何よりです」


 その後、旧県道に戻り、再び行軍。無事ベースキャンプに辿り着く事が出来た。班が解散すると、俺はそそくさと配布された個人用テントを設営し、就寝の準備をする。皆に夕食に誘われたが、体調が悪いと辞してきた。誰も近くにいないのを確認してテントのファスナーを下ろす。

 早速、先程手に入れた三枚のスキルメダルを取り出す。スキルメダルにはレア度がある。黒のコモン。白のアンコモン。青のレア。赤のエピック。そして金のレジェンダリーだ。主の討伐でも参加しなければ、基本手に入るのは黒か白。コモン、運が良くてもアンコモンが精々だ。本当に稀に青も出る。重心移動は青だった。そして今日手に入れたスキルメダル。


 黒のメダル 筋力増加

 白のメダル 水魔法


 そして……


 金のメダル 互換性


「概念スキルだ……」


 最強の探索者への近道と言われる、概念を示したスキル、今それが確かに手元にあった。


 

階級制度は 位 階 段 の3つあり、それぞれ十段階に分かれています。つまり三十階級です。段ともなれば、超一流の探索者です。

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