18.英雄騙り
「集まりましたね」
翌日、夕方頃にログインすると、丁度皆集まったタイミングだった。ヨーンの森攻略再開である。
「出た選択肢は三つです。兎人族の村。妖精の里。ケンタウロスの集落ですね」
「幽界十将軍て名前だから、どれ選んでも数は決まってそうだな」
「はい。ですから好みの問題かと」
「オレはケンタウロス!」
「あーしは兎ちゃん」
即決組は選ぶのが早い。俺はそうだな……。
「俺は妖精の里で」
「私も妖精だな」
「珍しく意見が合うな」
「そういう事もある」
タリと意見が合ったのは初めてかもしれない。
「では妖精の里にしましょうか。正面のルートですね」
俺達は妖精の里へ向かう事になった。
道中に出てくるのは植物系の魔物が大半になった。トレントや花の魔物等のオーソドックスなのから、茄子馬なんて魔物もいた。盆はもう過ぎたぞ。植物にはタリとぽぷらのコンビが効果抜群だった。火と爆発はあっと言う間に敵を一掃する。
「そう言えば、皆は三十まで後どれくらいだ?」
「まだまだー」
「後五レベルですね」
「オレは二十二だ」
「私はクラスチェンジクエストで稼いだ分があるな。二十六だ」
「タリとダイモンが高いのか。二人はヨーンの森抜けたら三次職いけるかもな」
「タリさんは分かりませんが、私は行かなければいけない場所があるみたいです」
「お、じゃあ次の目的地はそこじゃん?」
「だな」
「いいんですか?」
「ダイモンが言った言葉そのまま返そう。このクランのヒーラーは最高のヒーラーじゃなければいけない」
タリの発言に皆頷く。
「そうですね。分かりました。ただ、リアルの攻略が始まるようなので、五日程空いてしまうかもしれません」
「あーしもー。てかテルも」
「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
と言う事は俺もだな。ぽぷらが目配せして来た。分かってるよ。
「俺もだ」
「皆忙しいのだな。ならば、私も本業を優先しよう」
そんな話をしていると、開けた盆地に出る。小川が流れ、花々が咲き誇っている。
「ほお綺麗なところだな」
「マジお花畑」
中程にゲートがあった。残り時間三十二分か。結構あるな。ゲート前にはプレイヤー達が待ちぼうけしている。しかし、何か様子が変だ。険悪な雰囲気を感じる。
「ちっ、追加が来たか」
「まぁまぁ雑魚湧き対処してもらえばいいでしょ」
「俺らからしたら他は経験値泥棒だけどな」
「実際余裕だしな」
態度が悪いのは中央に陣取ってる四人だ。周りのプレイヤーは明らかに距離を取っている。
「なぁあんたら、ヒーラーいる?」
赤毛の剣士がこちらに声を掛けて来た。
「私がそうですね」
ダイモンが律儀に手を上げる。
「うわ、でっか巨人じゃん」
「じゃああんたこっちのパーティー入って」
「どうしてでしょうか?」
「その方が効率が良いからに決まってんじゃん」
「俺達は一般プレイヤーとは訳が違うからよ」
相談する訳でも無く、命令のようにダイモンを引き抜こうとする。こうも傍若無人な態度を取れるのは逆に感心してしまうな。
「お断りします。私にはパーティーメンバーが既にいますので」
「はぁ?いやそういうのいいからさ、ここで揉めんのマジトロールだからさ、やめてくんない?」
「全体の利益を考えてくれって話」
おうおう凄いな。自分を正義だと思ってるタイプだ。
「お前らやめとけ。うちはうちでやるから、そっちはそっちで戦う。それでいいだろ」
思わず声に出した。
「いやいや違くてさ、お宅ら俺ら知らない?」
「知らないな」
「新進気鋭の最強クラン。ヴァリアントよ」
「最近攻略掲示板で騒がれてますね。スキルの素を乱獲してるって噂です」
ダイモンがこそっと耳打ちしてくれた。なるほど周回勢か。
「俺らはさ、他のルートも攻略済みな訳よ。でこのレイドもサクッとクリアすっから、でその為にはヒーラー貸してくれんのが、最適解な訳。お分かり?」
「知らん。攻略したいなら他人に迷惑掛けるな。協力してもらいたいなら頭を下げろ。それが現実でも幻想でも筋ってもんだろ」
「なんだこいつ。説教始めやがった」
「リアルでもとか言うけどよ。知らないだろ。ここにいるフレドはリアル探索者なんだぜ?」
赤毛の剣士が奥にいたシーフのような格好をした男の肩を叩く。
「ほお?」
「何と今話題の山北攻略の功労者なんだぜ。な、フレド」
「ああ」
功労者、ねぇ?思わずぽぷらと顔を見合わせる。あ、こいつ笑ってやがる。
「それは凄いな。なぁあんた所属はどこだったんだ?」
「しょ、所属?」
「そんな英雄様なら知っておこうと思って」
「よ、四十二分隊だ。俺は魔法専門だからな。主にも攻撃を当てたぞ」
「へぇ、興味あるな。主はどんな姿だったんだ?」
「す、あ、熊だ。熊のモンスターだった」
「へぇ……」
俺は槍を取り出す。
「雷装」
雷が俺の体を覆う。
「な、なんだ!?」
シーフの男に詰め寄り、セーフティに弾かれる寸前まで接近する。
「お前ら、どんだけゲームの中で迷惑掛けようが、俺には何の関係もありゃしねぇが、現実の命を掛けた英雄達を騙るのは許せねぇな」
「お、俺がいつ嘘を言った」
「耳かっぽじってよく聞け。山北には三十六分隊までしかねぇんだよ。そんでもって主は犬だ。もし今度同じ騙りをしてみろ。英雄達に代わって、俺が沙汰を下す」
槍を地面に突き刺す。
「ひぃ」
「な、なんだよ。凄みやがって」
「おい、もう始まるぞ、ヒーラーなんていらねぇよ」
「そうだな。俺達だけでやろうぜ」
四人組は端の方へ去っていった。
「ふぅ」
「なんだよらっきょ、言うじゃねぇか」
「見直したぞ。その胆力」
男共が俺の肩を叩いてくる。
「すっきりしましたね」
「カッケーじゃんかよ」
俺も途中で大人気無いとは思ったが、英雄を騙るのだけはどうしても許せなかった。そんなこんなで時間になり、レイドの始まる時間だ。あの四人組を含めて四パーティー。まぁ、クリアは可能だろう。
レイドボスが現れる。
「鑑定」
▶幽界の将軍 アヒレヒド
幽界十将軍の一人。幻惑魔法の申し子。本体がどのような姿をしているか、誰も知らない。
幽鬼のような姿だ。白い肌に長いローブ。足は見えない。浮いている?
「幻惑魔法を使って来る。今見えてるのも多分幻惑魔法だ」
「了解!」
「ギミック系のボスですね。何かしら倒すギミックがあるはずです」
別パーティーの魔法使いが魔法を放つが、アヒレヒドには当たらず、奥へ突き抜ける。
「あ、あいつら!」
テルが指差す方を見ると、例の四人組が撤退するところだった。レイドをキャンセルして範囲外に出て行く。
「嫌がらせだな。三パーティーではクリア出来ないだろうと踏んでわざとキャンセルしたんだ」
「ゲーマーの片隅にも置けねぇな」
「絶対クリアするし!」
「はい!」
逆に気合が入った。絶対にクリアしてやる。
「ケケケケッ」
アヒレヒドが笑い声を上げると、分身する。
「右から叩いて下さい!」
「おう」
分身は実体があった。しかし、分身体を倒しても、本体にダメージが入らない。攻撃を向けるべき対象が無い為、皆混乱している。分身体が全て倒されると、再びアヒレヒドが声を上げる。この繰り返しになっていた。分身体は大した強さじゃないが、これではジリ貧だ。
「来るぞ!」
「範囲から出て下さい!ファーニーお願い!」
分身体が半分になると、本体が混乱魔法を使って来る。これに当たると、数秒間身動きが取れなくなる。最初の混乱魔法で瓦解しそうになった為、ファーニーがヘイトを取って敢えて受ける役をかって出てくれた。すぐにダイモンのキャアが飛んでくる。
「もうまどろっこしいっしょ。ボムデスパレード!」
業を煮やしたぽぷらが適当に周囲にボムをばら撒く。危ねえ!こっち飛んできたぞ!
「あ、ボスにダメージが入ってます!」
「え?」
確かにボスのHPゲージが削れている。これは……。
「本体がどこかに隠れてるんだ。見えないだけだ」
「しかしだからと言ってどうする。闇雲に攻撃するか?」
そんな事を言っている間に分身体を倒し切る。そうか、ここだ。
「空歩!」
俺は宙を蹴って空中に躍り出る。すると分身体が湧き出すところだった。その中心は……ここ!
「天柱落!」
高さが無いのでそこまでの威力は無いが……。
「ギアアアア」
当たった!
「今だ攻撃を集中!」
皆の大技で集中攻撃する。HPが半分程削れたところでまた姿が消える。
「分身体を出す時、本体から円状に出てるみたいだ。次も空から確認するから、タイミング教えてくれ!」
「分かった!」
この手順は嵌り。三手目で奴を倒す事が出来た。これはぽぷらの癇癪が役に立ったな。
【メインクエストボス:アヒレヒドを倒しました】
【レベルが上がりました】
らっきょ Lv24
ジョブ 覚醒者(槍)
サブジョブ 商人
筋力 44→45
頑強 40→41
知恵 25→26
器用さ 40→43
敏捷 35→36
魔法抵抗 32→33
運 12
スキル
互換性Ⅱ
空歩Lv1 覚醒Lv2
重心移動Lv3 天柱落Lv3 身体能力向上Lv5 健康Lv2
雷装Lv1←new
頑強Lv4 健脚Lv3 体力増強Lv4 体捌きLv2
槍術Lv4 棒術Lv4 挑発Lv4 交渉術Lv1
鑑定Lv3
アビリティ
両手突き 打ち払い 投槍 上段突き
下段突き←new ハーフスイング 三連突き 牙突
天柱落のレベルが上がった。さらに雷装が追加されている。覚醒中限定の技は表示されないみたいだ。新しいアビリティも追加された。そう言えば牙突も使ってないな。
「よし」
「倒せたな。思ったよりもあっけなかった」
「ぽぷらファインプレーだ」
「へへへ」
「あの四人組もういませんね」
「もういいよ。正直あまり関わりたく無い」
四人組は既にログアウトしたのか、元のルートに戻ったのか、いなくなっていた。しかし、探索者を騙る奴がいるとは、遣る瀬無い。
「ね、ラッキー」
「ん?」
「あーしは知ってるからね」
「ん、ああ。ありがとうな、ぽぷら」
「むひっ」
金髪のギャルは歯を見せて笑うと、親指を立てた。俺も思わず親指を立て返す。
何か気持ちが落ち込んでいたが、少し救われた。これが仲間ってやつか。そう思いながら、歩き出す。
「次はどっち行きます?」
「多数決で」
それが俺達のスタイルだ。