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17.修行

短めです。




「なるほど。レジェンダリースキルだったのね」

「あの、本当に他の人には……」

「話さないわよ。メリットが無いもの」


 最早俺は首を掴まれた猫だった。生殺与奪は保奈美さんに委ねられ、洗いざらい話してしまった。


「貴方に取ってもプラスだと思うけどな。これからはゲーム内でも助けて上げられるわ」

「う、うーん。あ、そうだ。あの実は互換性がグレードアップするとですね……」

「え、イベントリ繋がってるの!?それを早く言ってよ。あたしにとって一番重要じゃない」


 ぽぷらは錬金術師だ。ゲーム内の受け渡し機能を使えば、作ったポーション類を現実(リアル)に持ち込める。ちなみにスキルの素は元々譲渡不可のアイテムだ。


「今は見つかってないけど、蘇生薬とか完全回復薬とか夢があるわね」

「絶対人に話しちゃうでしょ」

「しないしない、多分」

「多分じゃ困るんだよ!」

「分かったわ。じゃあこうしましょう。もし、この事を口外したら、あたしがゲーム内でギャルやってる事をマスコミにバラしていいわ」

「マスコミ?」

「あたし、モデルとかもやってるから、社会的に初鹿野保奈美が死ぬことになるわね」

「モデル、ねぇ」


 保奈美さんのスタイルは確かに一級品だ。特にその豊かなお胸とか。視線に気付いた保奈美さんがさっと胸を隠す。


「あ、今厭らしい目で見たでしょ」

「……ふぅ。分かった。もう話してしまったし、俺としては信じるしかない。一蓮托生だ」

「よろしい。連絡先交換しましょう。それと保奈美でいいわ。ゲームと比べちゃってむず痒くなるから」

「それは……いや分かった。よろしく保奈美」

「ええ、よろしくね、ラッキー」

「絶対その呼び方するなよ!?」


 保奈美はケラケラ笑いながら、部屋に戻っていった。ちくしょう、揶揄われっ放しだ。温くなったブラックコーヒーを飲み干す。まぁ、相談出来る仲間が増えたと考えるか。そうポジティブな発想で気持ちを落ち着かせる。部屋に戻ってゲームだな、こういう時は。



 おかえりなさい、らっきょ様。


 ログインする。今日は団体行動は無い。ダイモンがイン出来ない為だ。やりたい事があるので今日は一人である。マップを開き、ダバラを選択する。この時間はまだ街が戦争状態に入っていないはず。俺はファストトラベルでダバラに戻った。街を歩き、目的の場所を目指す。路地裏の寂れた家屋。


「こんちは」

「ん?お主らっきょか」


 訪れたのはリザードマンのヤハハリ様の家。


「槍を教えて下さい」

「ふむ……覚醒者となったのだな。よかろうついてきなさい」


 ヤハハリ様は俺を郊外へと連れ出した。街の外、竹林だ。如何にも槍の修行場って感じだ。テンションが上がる。


「良いか、今から二つの技をお主に教えよう。まず槍と最も相性の良い属性から教えよう。雷装」


 ヤハハリ様のオーラが輝き、雷のようなものが体を覆う。


「槍は雷よ。雷の力で真の覚醒を促す」


 ヤハハリ様が体を振ると、雷が撒き散らされた。さらに右に左にと、目で追えない程の速さで移動する。


「さらに、真・覚醒」


 ヤハハリ様の体が白く輝き始めた。


「この状態でのみ放てる技がいくつかある。今日はそのうちの一つを覚えてもらう」


 ヤハハリ様が徐に槍を地面に突き指した。


「迅雷樹」


 槍から四方に稲妻が放たれ周囲の竹林が灰と化した。ヤハハリ様の覚醒が終わる。


「ふぅ。老体に覚醒は堪えるのう。さて見ていた通り、雷装と迅雷樹は強力な技じゃ。その分習得も難しい。お主に出来るかな?」


【クエスト:槍の極意その壱を始めますか?】

 はい←

 いいえ


 勿論選択はイエスだ。さぁ槍の極意教えてもらうぞ!



「ひぃひぃ」

「駄目じゃな。もう一度」

「は、はい!」


 息が切れる。バーチャルでそんな事無いはずなのに。技の習得は難航していた。雷装に関してはすんなり覚えられたのだ。しかし、問題は迅雷樹だった。


「か、覚醒!」


 再び全能感が体を支配する。覚醒は本来一日一回しか使えない。しかし、このクエスト中に限り繰り返し使用が出来る仕様になっていた。


「迅雷樹!」


 スキルを発動するが、迅雷は明後日の方向に飛んでいき、コントロールが出来ない。必死に方向を指定しようとすると、束になって荒れ狂う。


「うわぁ!」


 迅雷を避けている間に覚醒が終わり、虚脱感が襲って来る。しかし、それはすぐに回復し、もう一度覚醒を行う。このサイクルが先程から繰り返されていた。


「違う!稲妻を制御するのでは無い!彼方に向かって解き放つのじゃ、雷等所詮人の制御出来るものではないのだ」


 ヤハハリ様は何か言っているが、俺にはさっぱり分からない。解き放つって何だ。いや、待てよ、天柱落も投げ放つ技だ。あの時どうしてる。そうだ。


「重心移動」


 自らの中心に重心を意識する。その中心から円状に解き放つ。心が凪いだ。


「迅雷樹」


 顔を上げると、周囲の竹林が円状に灰となっていた。ヤハハリ様の満足そうな顔に安堵する。


「成ったな。よくやった」

「あの、ありがとう御座います」


 俺は礼をした。こんな凄い技を教えてもらえるなんて。


「ああ、礼には及ばん。また成長したら訪ねなさい。さらなる高みを見せようぞ」

「はい!」


 ヤハハリ様にもう一度礼をして、竹林を後にする。気付けば三時間程経っていた。

 フレンド欄に目をやると、ぽぷらからメールが届いていた。呼び出しだ。先程の保奈美の姿が浮かぶ。あまり良い内容じゃない気がするな……。しかし、行かない選択肢は無い。何せ急所を握られているのだ。



「これ持ってろし」


 ぽぷらは会って早々にいくつかのアイテムを渡してきた。中級ポーションにキュアポーション。燃焼石や毒ポーション等だ。


「これどうした?」

「今日作った分。向こうで使うかもじゃん」

「ぽぷらお前……」

「その顔やめろ?後あーしの事、本名で呼んだら絞め殺すから」


 照れ隠しなのか、脅して来るが、本心で心配してくれている事が分かる。ギャルのRPするちょっとヤバイ人とか思っててすまん。


「とりまそれとは別のハナシ。ラッキーステータス見してくんない?ゲームの中ならスクショ送れるっしょ」

「あー出来るけど。いや、もう隠す事も無いのか」


 遠慮しようかと思ったが、もうここまで共有したんだ。別にいいかの精神になっていた。ステータスをスクショして、ぽぷらに送る。


「わお、すっごい数のスキル。はーん。なるほどね」

「何がなるほどなんだよ」

「ラッキーは闘気持って無いね」

「闘気?」


 ぽぷらの説明によると、上位探索者の必須スキルに闘気と言うスキルがあるらしい。簡単に言えば、某狩猟漫画の◯能力、某海賊漫画の◯気のようなもので、そのスキルレベル如何で探索者の強さを表す指標のようなものらしい。


「闘気の無い探索者の攻撃なんてのは、中身の無い福袋みたいなもんちゅーことよ」


 それを俺は持っていない。え?


「ヤバくね?」

「うん。マジヤバ」


 ヤバイらしかった。


「でも俺は主倒したよ?」

「そこはマジ謎。もしかしたら覚醒とか言うスキルに秘密がありおりはべり」

「ぽぷら。どうしたら覚えられるんだ。闘気」


 かなり切実にお願いをする。大見得を切ってテルに先輩面してしまった。これで実戦で何の役にも立たなかったらダサい事この上ない。


「一応売ってる。一億円」

「無理」


 即答する。一億なんて大金あるわけない。


「じゃあ来週修行場にテル連れてくから一緒に行くっしょ」

「う、分かった。背に腹は代えられない」


 テルにダサいとこ見られるが、実戦で役立たずよりは良い。


「じゃそういう事で。詳細はメルする」


 そういう事になった。





 同日。群馬県榛名神社。鞍望一族の道場。


「また乙種だ。猿渡、頼めるか」

「はっ。三名程お借りします」

「いいだろう。山喜、代田、名波」

「承りました」


 慌ただしく男達が出て行く。それをただ見送るしか出来ないのが、胡桃にはもどかしい。


「父上。最近は乙種が増えておりますね」

「そうだな。榛名山の山体も震えておるようだ。主の目覚めが近いのやもしれん」


 兄の太一郎は冷静な男だ。こういった事態を何度も収めて来た実績もある。胡桃の自慢の兄だ。


「あの、父上。私は出なくてよろしいのでしょうか」

「くどいぞ胡桃。お前は我が一族最大の秘密なのだ。おいそれと戦場に出す訳にはいかん」

「胡桃。気持ちは分かるけどね。乙種程度は任せてくれよ。その為に僕らはいるんだ」

「……はい」


 それきり三人でただ刀を振るう。素振りの音だけが道場に響く。素振りが終われば、型稽古、打ち合いとなり、今日も一日が終わる。何事も無い平和な一日が。


「父上。今年も闘気訓練の申し込みが来ております」

「ふん。協会の若造共に教えるのは気に食わぬが、この榛名の山を管理する事を黙認させている事も事実。受け入れざるおえんな」

「私が担当致します」

「そうだな。ふむ。胡桃」

「はい、父上」

「お前も手伝え」

「父上、それは……」

「太一郎、心配は分かるが良い機会だ。外の探索者の程度を己で計ってみよ」

「は、はい」

「よいか胡桃。お前の剣は神殺しの剣。それが振るわれるのはダイダラボッチを斬り伏せる刻。分かっておろうな?」

「はい。心得ています父上」


 父は満足そうに頷くと、兄を従えて風呂場に向かっていった。二人がいなくなったのを確認し胡桃は手元の木刀を再び振るう。これも違う。違う。違う。理想の一振りは出来ない。いつか神を殺す一太刀を夢見て、彼女はひたすらに刀を振るう。

 

 その姿を見つめる者はいない。

 彼女の静かな努力を知る者はいない。

 今は未だ。


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