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14.森の運河




 現在プレイヤーが主に活動する大陸を東バシレキス大陸と言う。バシレキスとは世界の中心にある大海の名で、東バシレキス大陸は名前の通り、バシレキス海の東に位置する大陸だ。その東バシレキス大陸の南半分を領有するのがクライフ王国である。ちなみにこれは最初の関所に書かれていた文言だ。広大なクライフ王国は各関所によって領域が分かれており、それぞれ代官が置かれ、統治する。つまり全ての土地が王領な訳だ。


「はい。では作戦会議です。関所で情報と地図を買ってきました。クライフ王国は簡単に分けると、こうなります」


 まず、東側。こちらは縦に伸びた森が広がる森林地帯。クライフ王国領と言っているが、ほとんどが未開の土地で、様々な部族が暮らすヨーンの森が大半を占めている。

 続いて中央部。キラマ山脈から王都ヨハまでの王国の支配権が強い地域。比較的安全で行程も楽だが、関所が多く、通行料が非常に多くかかる。

 そして、最後にバシレキス海に面する西側。こちらは現在危険地帯になっている。大海を渡って攻撃を仕掛けてきた帝国の侵略に遭っているのだ。まさに戦争をしている地域。


「三つのルートがあるみたいですね。森林は魔物やボスが多め、中央は忙しい人向け、湾岸地帯はちょっと想像がつきませんが……ここからは私も初見ですので、一緒に選びます」

「海一択!」

「オレは森!経験値欲しい!」

「私は海だな。人型との戦闘経験が欲しい」

「らっきょさんは?」


 ダイモンに聞かれて、少し悩む。海は波乱がありそうだが、今は少しでも経験値が欲しいところ。


「森かな。第四エリアが終わるまでに出来るだけスキルの素を集めたいな」

「森二、海二ですね」

「となると、ダイモンの選択次第だな」

「そうですね。今回は森ルートで行きましょうか」

「よし!」


 テルがガッツポーズをしている。俺達はヨーンの森へと進む事になった。


 ヨーンの森は連続ダンジョン形式で進行する。森全体が巨大なダンジョンフィールドになっており、各部族の村がチェックポイント。そこで次の村への情報を収集しながら、消耗品を買い足すという行動を繰り返すような仕組みだ。


「ファーニー!ストッピング!」

「スウェー!」


 ファーニーが敵のトラブルラットを踏み潰す。これだけで半分のラットが消滅する。後は各個撃破し、ラットの群れを倒し切った。


「ファーニー強いな」

「ああ、タンクとしても優秀だ」

「ファーニーは最高の相棒だから、当然!」


 ファーニーが前に出てくれるので、被ダメが抑えられる。しかも攻撃力もある。


「それにしては、テイマーはあまりいないんだな」

「育成ガチャのようなものですからね。ファーニーぐらい優秀なら、皆さん選ぶ事も多いでしょうが」


 ファーニーもかなり特殊な進化らしい。普通は飛んで戦う方へシフトするみたいだ。


「テルの持ってるそれはコンポジットボウか?」

「そう。ファーニーの上からでも撃てるように、小型のやつ。どうしてもステータスが低いから」


 テイマーはステータスの三割をテイムした魔物に共有しており、通常のプレイヤーよりも絶対値が低い。その為、固定ダメージの武器を使うのが定石らしい。


「中々難儀な仕様だな」

「チッチッチッ。タリさん、それが愛ってやつだぜ」


 テルが敬語をやめた。ダイモンは渋い顔をしていたが、まぁ俺は不満は無い。元々こいつはこういった軽いノリが特徴のヤンチャ坊主だしな。


 最初の村に着いた。ここはクライフ王国の開拓村らしい。人と人では無い者達との交易の場でもある。村の中にはオークやハーピィと言った、魔物に近い種族や、妖精族、エルフ族等の珍しい種族の者達もいた。


「森の守り神ですか?」

「そうだよ。このヨーンの森には神様がいらっしゃってね、そのお住いが森の中心にあるグランドロックさ」


 街の素材屋でぽぷらが薬草類を見たいと言うので、俺とタリで付き合っていると、NPCが話しかけて来た。頭の上には物知りムックと書かれている。これも何かのクエストか?


「そのグランドロックにはどう行けばいいか、分かるか?」

「ラーマンと言う種族がいてな。彼らが森に運河を造ったんだが、そいつを辿っていけば、着けるぞ」

「ラーマンの運河か、それはここから近いんですか?」

「東に行くと渓谷がある。橋が掛かっているんだが、橋を渡らずに渓谷の底に降りる道がある。そこを下るとラーマンの村がある。彼らと仲良くなれば、運んでくれるかもな」


 買い物が終わって出発となった段階で、この事を皆に話した。面白そうだと行ってみる事になった。


「しかし森の中に運河か」

「運河は帆船や動力船が無いと機能しないと思うんですが」

「どなんだろうな」

「とにかく行ってみるべー」

「うすっ」


 少し傾斜のきつい丘を登りきると、谷が見えてくる。そんなに大きくは無いが、飛び越える事は不可能だろう。道の先には橋が一つ掛かっていた。今にも落ちそうな橋だ。


「知らないと絶対これ渡るよな」

「落ちそうで落ちない橋。RPGの定番ですね」


 よくよく見れば、人一人通れる程度の道が谷底へと伸びている。俺達は迷わずそちらを選択。


「わーマジたけー」

「蟹を思い出しますね」

「同じ事思ってた」


 暫く行くと谷の終わりが見えてくる。


「あれが、ラーマンの村」

「あ、何かいる!」


 テルの指差す方に奇妙な人型の生物がいた。頭は魚と人を足したような造形で、手足には水掻きを持ち、尾は鰭が付いている。


「なんだ、おめたち。こがな村に何の用か?」


 訛ってる!俺がその出会いに衝撃を受けていると、川から次々とラーマン達が姿を現した。


「なんだなんだ」

「べっぴんさんもいるべ」

「デッケー鳥だなー」

「あの、運河を造った素晴らしい種族がいると聞いて来ました。あなた方がラーマンですか?」


 俺が聞くと、ラーマン達は顔を合わせて頷いた。


「んだ。おれっち達はラーマンだ。だけんども、そがな褒められると照れるべ」


 揃って照れ笑いをしている。


「あの、運河を渡る術をお持ちと聞きましたが」


 続いてダイモンの質問に、今度は頭を掻いて、困ったと言い出した。


「あちゃあ、お客さんだったか。運んでやりたいのは山々だけんども困った事があってなぁ」

「困った事?」

「ここ二、三日、川にカワウソ共が住み着いてな。中々凶暴で船が出せねぇ」

「カワウソ?」

「ああ、こんくらいの体でよ。すーぐ噛みついてくんのよ」


 ラーマンが両手を広げてみせる。明らかにカワウソの大きさじゃない。


「倒してくれたら、船も出せんだけどなぁ」


【クエスト:カワウソを撃退しろ!】


 と言う訳で、カワウソ退治をする事になった。


 ラーマン達の話ではカワウソ達の巣が川の中洲にあるらしい。俺達は川沿いを下り、例の中洲を発見する。


「ワラワラいるな」

「名前は……カワウソ。そのままですね」

「でっかい。マジ可愛くない」


 巨大なカワウソは中々に迫力がある。一メートルくらいはあるんじゃないか。それらが巣を出たり入ったりしている。地下に掘り込んだ形だな。


「あそこから渡れそうですね」


 ダイモンが示した先に中洲へと続く岩場があった。


「さて、攻撃を始めますが、問題は巣の中のカワウソですね。逃げ込まれたら厄介です」

「それはあーしに任せろし」


 ぽぷらが懐から、瓶を一つ取り出す。ピンクの液体で満たされた瓶だ。


「ぽぷらさん、それなんすか?」

「ふっふ。誘引液ダゼ」


 ぽぷらの説明では、魔物を誘い出す効果があるらしい、それを巣の前に投げ入れるとの事。テルは何故かぽぷらにだけ敬語だ。


「じゃあ、それでいきましょう。タリさんは巣から出て来たカワウソの撃退をお願いします。てっちゃんとらっきょさんと私で表のカワウソを狩る形で」

「了解」


 作戦開始。先ず表組が中洲へ渡る。気付いたカワウソ達がワラワラと寄ってくる。


「こっちだ!」


 挑発を掛けながら、巣から離していく。後は頼むぞぽぷら。中洲の真ん中を目指して駆ける。


「ファーニー!ブレス!」


 テルが進行方向に向けて指示を出すと、ファーニーがブレスを放った。ファーニーの属性は風なので、ウインドウブレスだ。数匹のカワウソ達が吹き飛ばされ、道が開く。よし、場所を確保。川に近いと不利すぎるので、開けた場所で戦う。


「前頼む」

「分かった」


 俺だけくるりと反転し、槍を構えた。


「クワトロスイング!」


 追って来ていたカワウソを薙ぎ払った。勢いも相まって、二匹程がポリゴンとなる。


「サン・レイ!」


 後方からダイモンの光魔法が炸裂する。ストライクレイと違って、拡散型で、幾筋もの光が発射された。運悪く光に刺さったカワウソのHPバーが半分程削れた。


「そこまで威力はありませんので、削れたのから処理お願いします」

「了解」


 少し振り向けば、ファーニーがカワウソを次々と蹴り倒している場面だった。ファーニーは格下の敵にはめっぽう強いな。俺も頑張らねば。ダイモンのレイに貫かれたカワウソを重点的に狙う。

 そんなこんなで数が減ってきた頃、ぽぷらの誘引液が巣前に投げ込まれた。すると中から競うようにカワウソが飛び出して来る。


「残念。そこはハズレー」


 右に飛び出したカワウソ達が地面ごと爆発した。ぽぷらの爆発トラップが仕掛けられていたのだ。それだけで三分の一程が消滅する。 


「流石だ。後は私がやる」


 既に太刀に紫焔を纏ったタリが、カワウソをバッタバッタと斬り倒す。あの太刀強すぎるよな。


 俺達の方もほとんどを倒し切って、合流しようとしたあたりで、巣からさらに巨大なカワウソが姿を現した。頭に角が生えている。


「ボスです!ぽぷら煙幕!」

「よいしょー」


 ダイモンの指示に即座にぽぷらが反応し、パーティーがすっと合流する。こういうところは本当に探索者らしい動きだ。


「鑑定」


▶クエストボス ドン・カワウソ

 可愛い見た目に反して支配欲の強い魔物。自らの縄張りに入った者には容赦しない。主な攻撃は爪。水中からの突撃等。


「水に入れないように戦おう。入ってしまったら、防御陣形」

「分かりました!」

「ファーニー前に出す!」


 ドン・カワウソが早速、水に入ろうと川辺に向かってダッシュしたのをファーニーが飛び蹴りで止めた。


「ファーニマジファンタジスタ」


 ファーニーは本当に優秀だ。判断があまりに速い。そういうスキルを持ってるのかもな。


「グローインプラント!」


 ぽぷらが小さな粒と青色の瓶を投げると植物が生えだし、ドン・カワウソの進行方向を塞ぐ。新しい技だな。


「タリ行くぞ」

「ああ」


 俺とタリが接近し、張り付くように戦い始めると、ドン・カワウソも対応せざる得なくなる。

 二人の連携で、ドン・カワウソにダメージが入り始めた。少しでも隙が出来るとファーニーのブレスやテルのボウ。ダイモンのストライクレイが飛んでくる。あまりに見事な後衛で惚れ惚れする。


 ドン・カワウソのHPバーがレッドゾーンに入った。もう少しで倒しきれるというところでドン・カワウソが咆哮を上げる。すると、川の中から、カワウソ達が現れた。さっきのが全部じゃなかったのか!


「てっちゃん!暫くドン・カワウソを一人で捌ける?」

「任せろ姉貴!倒しちまってもいいんだろ?」


 ダイモンの指示に従い、ファーニーとテルがドン・カワウソに対峙し、俺達は雑魚カワウソの対処に回った。雑魚カワウソの処理をしながら、テルの様子を見たが、危なげなく対処していた。テルの持つコンポジットボウが的確にファーニーの隙を消している。


 やがて、雑魚カワウソの処理が終わったので、テルに合流しようとすると、勝敗が決する瞬間だった。


「ファーニー!あれやるぞ!」

「スウゥェー!」

 

 ファーニーがドン・カワウソを蹴り上げる。ドン・カワウソが空中にボールのように舞った。そこへ、ファーニーが走り込みシュートするような体勢になる。


「バードゴラッソ!」


 ドン・カワウソはボールのようにファーニーのシュートによって巣へと吸い込まれる。


「ゴール!」


 テルはかなりハイテンションのようだ。


【クエストボス:ドン・カワウソを倒しました】

【レベルが上がりました】


らっきょ Lv22


ジョブ 覚醒者(槍)


サブジョブ 商人


筋力   42→43


頑強   38→39


知恵   23→24


器用さ  38→39


敏捷   33→34


魔法抵抗 26→29


運    11


スキル 


互換性Ⅱ


空歩Lv1 覚醒Lv1


重心移動Lv3 天柱落Lv2 身体能力向上Lv5 健康Lv2


頑強Lv4 健脚Lv3 体力増強Lv4 体捌きLv2


槍術Lv4 棒術Lv4 挑発Lv4 交渉術Lv1


鑑定Lv3


アビリティ


両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 


ハーフスイング←new 三連突き 牙突


 嬉しい事に身体能力向上が五に上がった。これで俺も一流探索者の仲間入りだ。後はクワトロスイングがハーフスイングに進化したな。何故か挑発も上がった。もしかしたら、上がりやすいスキルなのかもしれない。


「本当に倒してしまったな」

「やるな、テル」

「へっへー。オレとファーニーの強さ、どうよ!」


 ファーニーから降りたテルがダイモンにイイコイイコされていた。テルは巨人で男アバターのダイモンにそうされるのが嫌らしく、必死に逃げていたが。


「あんた方、カワウソ倒してくれたんべか!」


 ラーマンに報告すると、村人総出で喜んでくれた。クエスト報酬もスキルの素βだったので、ウハウハである。


 結果的にラーマンが船を出してくれる事になった。


「出航ー!」


 さぁ目指すは神様が居ると言うグランドロックだ。

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