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12.紫焔




「陰陽師って、魔法職か?」

「いや、魔法剣士に近いと思ってもらっていい」

「知恵ステ足りてるんですか?」

「足りてる、とは言い切れないが、こいつの効果に期待してる」


 タリは腰の柄頭を叩く。


「完成したんだな。それは……刀、なのか?」


 鞘に仕舞われているのではっきりと形が分からないが、刀とは少し違うイメージだ。何より反りを下にして佩いている。


「正確には太刀だ。日本刀よりも反りが深く、尺が長い」


 タリは勿体ぶって刀身を見せてくれなかった。

 三回目は四人で攻略する事になった。役割の変わったタリとのフォーメーションの確認もあるし、慣れた四人が一番楽だろうとの判断だ。


「二時方向虎。七時方向蛙。多分リンクしてますね」

「各個撃破でいこう。どっちがいい?」

「虎をやる」

「じゃあ俺は蛙で」

「ストックリカバリ」


 ダイモンが何も言わずに待機回復魔法を掛けてくれる。これはダメージを食らうと自動で二回まで回復してくれる魔法だ。


「三連突き」


 急接近し蛙の目と口を突く。毒を吐く前に仕留め切る。舌を伸ばして来たが、巻き取られる形でさらに攻める。一回目のリカバリが発動する。同時に毒になるが無視して槍を突き入れる。二回目のリカバリが発動する頃には、蛙はポリゴンと化していた。強引に攻めすぎたな、まぁ、タリの戦いを見たかったのもあるが。そちらを見れば、丁度スキルを使うのが見えた。


「火行の太刀」


 タリの斬撃が虎の片脚を切り飛ばした。よく見れば切り口が赤熱化している。火の太刀ってところか。そのまま太刀を返すと胸を斬りつける。虎は呆気なくポリゴンとなった。


「タリっち凄ーい。マジ強者ー」

「リーチが長いから、斬れ味がモロに攻撃力に転化されてるな」

「天将刀と言う。こいつの本領を発揮するには役不足だったな」

「それは是非ボス戦で見たいですね」


 密林を進む中で、俺達が本気になるような敵はいなかった。そろほどにクラスチェンジの力は大きく、クラン自体が一つ前に進んだ感がある。


 そんなこんなで見つけた遺跡には、前二回とはかなり違ったギミックが配置されていた。


「これはパズルか?」

「うへー目がチカチカするー」


 数百のピースに分断された石像を組み立てるギミックのようだ。ヒントの完成図はレリーフに刻まれているが、何分三次元のパズルだけに難易度が高い。


「地道にやるしかなさそうですね」


 四人で手分けして、組み立てる事になった。なんか学生の文化祭みたいだな、と懐かしくなりながら、せっせとピースを探す。


「そう言えば、山北魔境が攻略されたらしいですね」


 ピースに目をやりながら、ダイモンが世間話のつもりだろう、話題を振って来た。思わず、少し固まってしまう。


「そうらしいな。神奈川はあまり奪還が進んでいなかったから、朗報だな」

「そ、そうだな。このまま他も進めばいいけどな」


 少し声が上擦ってしまう。互換性の事がバレるのは死活問題である。俺の今後を考えれば今そのことが世間に知られる訳にはいかない。それは、例えクランメンバーであっても、だ。


「あれあれ、ラッキーどうしたん?もしかして当事者とかー」


 俺の動揺を嗅ぎ付けたのか、ぽぷらが至近距離から顔を覗いてくる。何を言い出すのか、こやつは。


「こら、ぽぷら。リアルの事は詮索無しですよ」

「はいはいー」


 ダイモンに窘められ、すぐに引き下がる。


「攻略と言えば、奪還屋について皆は知っているか?」


 タリの何気ない質問に、今度はダイモンとぽぷらが固まった。なんだ?知り合いにでも奪還屋がいるのか?


「福島攻略の主力だったという話は聞いた」

「そうか、実はとある噂があるんだ」

「噂?」

「奪還屋は現在五人が在籍するチームだ。有名なのは、玉手箱(ランダム)とか要塞(ビッグコンボイ)等だが……この度、全国から優秀な探索者を集めて予備軍を作るらしい」


 玉手箱(ランダム)の名前が出た瞬間、ダイモンがピクッ動いた。お、どうやら知り合いはそいつのようだな。


「二軍みたいなものか?」

「どうだろうな、六人目を探してるのかもしれない」

「ふーん。しかし、なんでそんな事知ってるんだ?」

「それは……父が情報通でな」

「親父さんも探索者なのか?」

「ああ、尊敬出来る、素晴らしい父だ」


 タリは誇らしげに言った。余程良い親なんだろうな。少し羨ましくなる。親父が死んで十年になる。声はしっかり覚えているし、頭を撫でてくれた手の感覚も覚えている。しかし、顔を思い出そうとすると、朧げになる。写真も残っていないし、このまま忘れてしまうのかと悲しくなる。そんな俺の表情から察したのか、ダイモンが話を変えた。


「あのー、話が変わって申し訳無いのですが、実は一人クランに入りたいと言う方がいまして」

「え、初耳。どんなやつー?」

「それがですね、そのー」

「何だ、珍しく歯切れが悪いな」

「このクランに入りたいと言うからには探索者なのか?」

「えーまぁそうですね。探索者、と言うか、これからなると言うか」

「アカデミー生か。となると、知り合いか?」

「端的に言えば、弟です」

「弟!?」

「え、テルテル?」

「テルテル?」


 ぽぷらは知り合いらしい。テルテル君?は探索者のアカデミー在籍らしい。俺自身もアカデミー出身だ。探索者になる為の学校のような物で二年間の課程がある。ゲームやる時間あるのか?


「私の弟は優秀でして、課程は既に終わっておりまして、卒業までゲーム三昧らしいです」

「それは……姉として良いのか?」

「一昨日始めて、もう第二エリアらしいです。凄いですよね」


 タリの問い掛けを華麗にスルーし、自分の弟を絶賛するダイモン。これはまさかブラコンシスター!?空想の中でしか存在しないものだと思っていた。


「ま、まぁゲーム上手い弟君の加入は有りだと思うぞ」

「右に同じ」

「うーん。まぁあーしもいいけど……テルテルはおバカだからなぁ」


 優秀なのに、馬鹿?どういう事だ?

 そんな他愛無い話をしてる間に、パズルが完成し地下への階段が現れる。戦闘準備を整えて魔法陣の前に立った。


「では、この天将刀の本懐をお見せしよう」

「俺も全力でやるよ」

「これはRTAのよっかーん」

「ストックリカバリ」


 ダイモンの有無を言わさぬ待機回復魔法を貰い、二人で並び立つ。


「来たぞ」


 出て来たのは人型。すかさず鑑定。


▶イベントボス バトルオートマタAE-k

 古代の人型兵器。k型は近接戦闘仕様。主な武器は大鎌。


 灰色の人を象ったスタイル、両手に大きな鎌を携えている。


「先手は頂く」


 タリは天将刀を引き抜くとスキルを展開した。


「天将回現:騰蛇(とうだ)


 タリの背後から紫の蛇が現れ、天将刀へと巻き付いていく。紫の炎に変化した。


「紫焔斬刀」


 オートマタが鎌を薙ぎ払うのに合わせ、太刀で弾く、弾く、弾く。全く攻撃が通る隙が無い。これが太刀を持ったタリの実力か。オートマタが後退し、鎌を大きく回し始める。鎌の軌道に重なるように幾重もの斬撃波が発生し、タリに襲い掛かった。


「ぬるい!」


 タリは斬撃を次々に切り裂き、オートマタに肉薄する。アビリティを切れるのか、破格の性能だな。


「紫焔滅却」


 太刀の焔が延長し、タリが振るったそれは、背後の壁までも切り裂き、紫のフレアラインがくっきりと残った。オートマタの左腕が切り飛ばされ、オートマタは再び後退する。


「お見事。じゃあ次は俺の番だ。覚醒」


 黄金色のオーラが俺を包み込む。一撃で決めてやる。万能感を感じる間もなく、オートマタに接近し、スキルを発動した。


「コーモラント」


 黄金色のオーラが鳥の嘴を形取り、オートマタへと突き刺さった。リアルでは押し出す技に留まったが、実際は違う。獲物を突き、抉り取る。

 突進をやめた俺が振り返ると、胸に大きな穴が空いたオートマタがポリゴンへと変わるところだった。


【イベントボス:オートマタAE-kを倒しました】

【レベルが上がりました】


らっきょ Lv21 


ジョブ 覚醒者(槍)


サブジョブ 商人


筋力   41→42


頑強   37→38


知恵   22→23


器用さ  37→38


敏捷   32→33


魔法抵抗 23→26


運    10→11


スキル 


互換性Ⅱ


空歩Lv1 覚醒Lv1


重心移動Lv3 天柱落Lv2 身体能力向上Lv4 健康Lv2


頑強Lv4 健脚Lv3 体力増強Lv4 体捌きLv2


槍術Lv4 棒術Lv4 挑発Lv3 交渉術Lv1


鑑定Lv3


アビリティ


両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 


クワトロスイング 三連突き 牙突←new


 二回目のイベントボスでは上がらなかったが今回は上がった。やはり経験値が多めに設定されているんだろう。新しいアビリティの牙突は気になるな。後で試すか。


「二人とも素晴らしいですね。それでこそ、我がクランの両翼です」


 ダイモンが拍手をしながら、手放しで褒めてくれる。ぽぷらもはらしょーはらしょーと喜んでいた。

 イベントも消化したし、時間も遅くなったので、今日は解散となった。弟君に関しては、次のログインの時に紹介してくれるらしい。


 ログアウトし、白い天井を眺める。この天井とももうすぐおさらばだ。山北の攻略の為に借りていたアパートだ。次の魔境が決まれば、そちらに移る事になるだろう。メッセージの点滅を確認し、端末を開く。


 

 伝 辞令

 倉松 匡太郎一階は十一日付を以て、recaptureへの転属を命ずる。受諾の旨、返答されたし。



 メッセージを何度も確認する。間違いじゃない。送り先もしっかり人事部からだ。思わず保奈美さんの顔が浮かんだ。あの人だ。それしか考えられない。

 俺はベッドに寝転んだまま、両親の顔を思い浮かべてみた。眼鏡を片時も外さなかった親父。丸顔で怒ったところ等見たことも無かったお袋。そうだな。きっと故郷を取り戻した時、二人とも褒めてくれるだろう。だから、やらなきゃな。端末を手に取り、短文を打ち込んだ。


 謹んでお受け致します。 倉松

 

 

 

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