11.初めてのイベント
おかえりなさい。らっきょ様。
目の前に巨大な地下天井が広がった。ここは鉱山都市クリカラだ。大陸中央部に位置するキラマ山脈の地下深く。ドワーフが見つけた巨大な地下洞穴である。ドワーフ達はこの天然の要害を利用し都市を建設した。都市上空には人工太陽の魔導具が設置され、昼でも夜でも明かりを絶やさない、所謂、眠らない街だ。
辺りの工房からハンマーを振り下ろす音が聞こえてくる。ふと、右上にポップアップが出ている事に気付いた。
「第一回イベント?」
運営からのイベントの告知だ。内容を見るに、闘技大会等のPVPでは無く、魔物を狩るPVE形式のようだ。初回イベント限定の武器を作ろう!と題され、運営が用意したインスタンスフィールドに最大六人のパーティーで参加し、フィールドボスを狩るイベントのようだ。最大一人三回まで参加可能で、ドロップアイテムはランダム。特設会場で物々交換で必要なアイテムを手に入れよう!か。なるほど、交流を通じてフレンドを増やしましょうってやつかな。武器種は多彩で必要なアイテムは各武器固定。救済措置として、最終日に課金により、アイテムの購入が可能、と。珍しいな、このゲームは課金要素はアバター関連だけだったのに。
ん?クランチャットが点滅してる。集合の呼び掛けだ。
「お久しぶりです」
「おひさー」
「久しぶり。あれ?タリは?」
集合場所にはダイモンとぽぷらが既に待機していた。タリもログインしてた筈だが、姿が無い。
「刀を作るクエスト中らしいんですが、かなり難航してるみたいで、イベントは不参加と連絡が来ました」
それは残念だが、タリも妥協したくないのだろう。
「タリっち、マジだから、応援するっしょ」
「そうだな。よしじゃあ三人でイベント参加だな」
「頑張りましょう!噂ですが、今回のイベントで作成した武器は耐久が無限らしいですよ」
「破壊不能武器か!」
「運営マジ神」
まてよ?破壊不能武器か……ふむ。
フィールドボスはかなり耐久があるらしい、そこでフルパーティーになるよう三人組の募集をする事にした。イベント用の募集フォームでこちらの構成を書き込む。DPSサブタンク可、汎用支援、ヒーラー。うん。予想通り、一瞬でマッチングした。必要な職は揃ってるから、こうなるだろうとは思ったが。なるべく同レベル帯で募集したから、下手な構成にはならない筈だ。待機ラウンジに飛んで、三人と顔合わせする。
「よろしくお願いします」
「よろぴくー」
「よろしく」
相手方、キャラクリが若いな。これは学生仲良し三人組とかかな。双剣を装備した剣士に、杖を抱えた魔法使い。最後の子はマイペースな感じの大弓を背負った女の子だ。ちなみに前二人は男の子だ。彼ら彼女らは我々の風貌に驚いていた。
「で、デカ。あ、よろしくお願いします」
「ギャル……え?ギャル?」
「最後の人は普通なんだね。よろしくー」
すまんな少女よ。多分俺が一番普通じゃないんだ。
自己紹介も兼ねて、それぞれの職と立ち回りを確認する。
「俺達、三人ともDPSでパーティー組めなくて困ってたんです。助かりました」
「いつも三人で狩りしてるのか?」
「はい。いつもは火力ゴリ押しです」
素直そうな双剣の彼はピピル。やはり学生らしい。
「ユーティリティ?そう言う職があるの?」
「はっはっー。特殊ジョブってやーつ」
「へぇー僕もそういうの憧れたけど、結局ソーサラーにしちゃった」
ぽぷらはクラスチェンジして、ユーティリティになった、アイテム師の正ルートらしい。ちなみに彼女と話しているのはソーサラーの士郎。得意魔法は氷らしい。
「あのーダイモンさんて、あのダイモンさんですか?」
「私を知ってるんですか?」
「ジンシャ坑道を最初に攻略したパーティーの動画で見ました。なんか話題になってましたよ。ヒールが正確すぎて怖いって」
「ふふ、それは嬉しいですね」
やはりダイモンは有名なヒーラーなんだな。しかも攻略組だった。何故俺達と行動を共にしているのか分からないが、心強いことは確かだ。大弓を背負った彼女はヤマモト。本名じゃないだろうな?
早速パーティーを結成し、インスタンスフィールドに転移する。今回のイベントフィールドは密林だ。申し訳程度に道と分かる探索路を奥に進み、隠された遺跡を探し出せ、という内容らしい。
「先程の打ち合わせ通り、タンクをらっきょさん、DPSをピピルさん達三人。支援、回復兼雑魚の釣り担当をぽぷら、私がヒーラー兼IGL(司令塔)を担当します。サブIGLはヤマモトさんにお願いします」
「了解」
「「分かりました」」
「ういー」
「頑張りまーす」
密林に出てくる魔物はかなりドギツい見た目の敵が多かった。真っ赤なカエルや、巨大な蜻蛉。真っ黒な虎等、初見のイベントでこれをやるか?と思ったが、ダイモンによれば、見た目はフィルターを掛けられるのだそうだ。ダイモンも掛けているのか問うたら、軽く首を傾げられた。なるほど、そんなもの必要無いらしい。
これらの魔物はイベントの雑魚敵らしく、結構経験値が美味い。イベントに参加する価値がありますよーというアピールなのだろう。
さて、学生三人組はと言うと、かなりやらかしていた。タンクより前に出てしまったり、撃ちすぎてヘイトを貰ってしまったり、談笑して敵に襲われたり。昔は自分もこうだったなと思い懐かしくなる。失敗から学ぶのだ。ここは現実じゃないんだ。いくつ失敗したっていい。そんな生暖かい目で三人を見ていたら、ぽぷらに気持ち悪いと言われてしまった。失敬な。
「あ、あれじゃないですか!」
一時間程探索をしたあたりで遺跡らしき物を発見した。蔦の絡まった立像のその奥に広間があり、意味有りげなレリーフが飾られている。
「もしかして謎解きか?」
「うへ、僕苦手だ」
「俺も」
人は眼と指先と体面でそれを表す
「どういう意味だ?」
「うーん。シロー、アイスピラーをここに出して」
ヤマモトが入り口の立像の前で足元を指差す。
「え?まぁいいけど。アイスピラー」
ヤマモトがアイスピラーに押し上げられて立像と同じくらいの高さまで上昇する。暫く、何かをキョロキョロしていたが、目的の物を見つけたのか飛び降りてきた。
「あそこの石壁に窪みがあって、ボタンみたいなのがあるね」
彼女の指差す先に確かに窪みのような物があった。
「目の先、指の先、体の正面、なるほど」
「手分けして探しましょう、ダイモンさん」
ダイモンとヤマモトの二人はお互い頷き合うと、分かれて動き出す。先程の窪み、入り口のアーチの上、階段の脇。あっと言う間に三つ全て探し出した。
「あれだけのヒントでよく分かるな」
「ヤマモトは謎解き大好きなんですよ。リアル脱出ゲーム一人で行くくらいには」
「それはマジもんだな」
「ラッキーはアホだもんねー」
「お前も人の事言えないだろ、ぽぷら」
三つのボタンが押されると、立像が台座ごと横に動き出した。すると、地下への階段が現れる。
「ギミックが簡単で助かりましたね。この先はボスだと思いますので、注意して下さい」
パーティーが一列になって地下へと降りる。地下は部屋が一つだけ、灯りに照らされた場所に魔法陣が描かれている。
「これは?」
「あ、見て!」
魔法陣が光り魔物の形を取る。すかさず鑑定を飛ばした。
▶イベントボス クレッセントライガ
遺跡の守り手。白の眼と首元の三日月模様が特徴的な魔物。魔法攻撃を得意とする。
「魔法系のボスだ!注意しろ!」
そう言う俺自身も魔法抵抗は低い、あまり被弾出来ないな。クレッセントライガは一つ吠えると、横に走り出した。思ったよりも速くないが通った軌道に白い線が残り、その線から魔法の矢が飛んでくる。
「残したラインに魔法陣が刻んであります。ピピルさんとヤマモトさんで追跡しながら魔法陣を消して下さい」
「分かりました!」
「やってみます」
「士郎さんは行動先を予測して、適当に魔法を放って下さい。動きが制限出来たら儲けものです」
「よし!いきます!」
ダイモンが俺達にアイコンタクトを送って来た。つまり俺達で削れって事だな。
「クワトロスイング!」
「三連ボム!」
暫くヘイトを取りながら、アビリティを放ち、適時削っていくと、ライガの動きが止まり、また一吠え。今度は魔法陣を消していたピピル達に襲い掛かかった。これは吠えたらヘイトを無効にする効果がありそうだ。
「役を変わりましょう。今度はらっきょさんとぽぷらが魔法陣を消す係。ピピルさんとヤマモトさんで削って下さい。出来ますか?」
「勿論いけます!」
「いっきまーす」
その交換が何回か行われた後、ヘイトが突如、ダイモンに向いた。まずいな。ヒールのヘイトが思ったよりも大きかったか。
「ぽぷら!」
「がってんしょーち!トラップ発動!」
しかし、これもダイモンの読み通りだ。ダイモンの立ち位置の前にぽぷらのトラップを置いておいたのだ。
「必殺痺れ罠ー」
飛び込んだライガが痺れて動けなくなる。
「全員攻撃!」
ダイモンの号令の元、全員の火力がライガに集中する。流石DPSがこれだけ集まっただけあって、さしものイベントボスもポリゴンとなって消えていった。
【イベントボス:クレッセントライガを倒しました】
【レベルが上がりました】
らっきょ Lv20
ジョブ 覚醒者(槍)
サブジョブ 商人
筋力 40→41
頑強 36→37
知恵 21→22
器用さ 36→37
敏捷 31→32
魔法抵抗 21→23
運 10
スキル
互換性Ⅱ
空歩Lv1 覚醒Lv1
重心移動Lv3 天柱落Lv2 身体能力向上Lv4 健康Lv2
頑強Lv4 健脚Lv2 体力増強Lv4 体捌きLv2
槍術Lv4 棒術Lv4 挑発Lv3 交渉術Lv1←new
鑑定Lv3
アビリティ
両手突き 打ち払い 投槍 上段突き
クワトロスイング 三連突き←new
今回は魔法抵抗にSPを振った。タンクもやるのなら、少し上げておいた方がいいだろう。交渉術は商人のスキルで、スキルストアで購入しておいたやつだ。NPCとの売買にボーナスが付く中々侮れないスキルである。三連突きの方は今度試してみよう。
「やった!」
「倒した!」
「良かったねー」
三人の歓喜の声が響く。時間的にもう一周出来るという事で、六人でもう一度挑戦した。結果は成功。三人はホクホク顔で喜んでいた。
「ありがとう御座いました!」
「また機会があったら」
「さよならー」
別れ際にフレンド登録をしてラウンジから去っていく。若さ溢れるパーティーだったな。
「仲の良い三人でしたね」
「そだねー、でもって最後どうすんの?」
「お、タリからチャット来たぞ」
チャットには何とか完成したので、合流したいとの旨。ラウンジで暫く待つと、タリが現れた。その姿は白の貫頭衣と袴を身に着けたスタイル。腰には紫の鞘。
「え?陰陽師?」
「如何にも」
我がクランの火力担当は陰陽師になったみたいだ。