1.Futures Online
Futures Online へようこそ!
この世界では、あなたの望む新たな人生を過ごす事が出来ます。戦うも良し、造るも良し、我々の創り出した世界を旅するのも良し。どうか、その生に幸多からんことを……
視界が暗転し、キャラクタークリエイトの画面が映し出された。最近のフルダイブゲームにしては比較的簡素なオープニングだったが、クリエイトの選択肢は非常に豊富である。性別から顔や体型まで細かく設定出来るようになっている。残念ながら種族はあくまで人に限られるようだ。
「そうだな……たまには趣向を変えてみるか」
性別のカーソルを女性に合わせる。髪は藍色で、髪形はポニーテール。切れ長の瞳に、小さな唇。胸は程よく。うむ。俺の好きなクール系の女性が出来上がった。フルダイブも進化が進み、自分と違った骨格のキャラクターも違和感無く操作出来るようになった。昔はパーソナルスキャンを基準にしたものだが時代は変わったのである。
俺、倉松 匡太郎は久々のフルダイブゲームをプレイしていた。最近は本業が忙しかったので、時間を取って遊べるような事も無かったが、このビッグタイトル、Futures Onlineの発表を受けて、一念発起。比較的忙しくない職場への転属を願い出て遊べる時間を作った。流石に長期休暇は取れなかったが、退勤も早く、休日もある。そんなこんなで晴れて異世界の住人となったのである。
キャラクタークリエイトの決定ボタンを押し、再び視界が暗転する。すると、目の前に門が現れた。すわ異世界への門かと身構えたが、どうやら違うらしい。周りを見渡すと同じように戸惑っている人で溢れていた。
「ようこそ、森の国、ガラルドヘイムへ」
声を掛けられた方を見ると、石造りの巨大な門に接続するように設置されたカウンターに制服を着た女性が立っていた。
「私はハンターギルドの受付をしております、ヤナイと言います。早速ではありますが、皆様にはこれよりチュートリアルを受けて頂きます」
目の前に透明のボードが現れ、受諾の選択肢がはい、いいえで表示される。チュートリアルのスキップも出来るみたいだ。半数の人はいいえを選択したのだろう、その場から駆け足で去っていった。
「皆様にチュートリアルクエストの内容をご説明致します」
彼女によれば、マーラットと呼ばれる魔物を五体狩るのがチュートリアルクエストの内容なのだそうだ。
一通りの説明を受けて、はじまりの森へと向かう。マーラットは所謂、兎と鼠の中間のような魔物で初心者にも比較的狩りやすいとの談。
「せいっ」
すばしっこいのかと思えば、流石にチュートリアルの魔物である為か、人が早歩きになる程度のスピードでしか移動しない。初心者の槍を構えて一突きにした。マーラットはポリゴンとなって消えていく。
【レベルが上がりました】
簡素な表示と共にファンファーレが鳴り響く。
らっきょ Lv 3
メインジョブ 槍使い
筋力 5→6
頑強 5→6
知恵 4→5
器用さ 4→7
魔法抵抗 4→5
運 2
スキル 槍術Lv 1←new
アビリティ 両手突き←new
どうやらこのゲームは熟練度システムにより、経験値を得た行動如何で、レベルアップ時に付与されるスキルやアビリティが決まるようだ。今回俺は槍を使う事に決めた。レベルアップ時に貰えるSPは器用に振る。これからは筋力、頑強、器用さに振り分けていくつもりだ。
「さて、こんなもんか」
チュートリアルの要求は5匹だったが、10匹も狩ってしまった。街に戻り、受付さんに結果を報告する。報酬の100ゴールドとスキルの素αを受け取ったと表示が出た。
「スキルの素?」
「はい。こちらはスキルストアで使えるアイテムとなります。プレイヤー様各人の行動を加味し、ストアに並ぶスキルが変化致します。スキルの素はボスモンスターの討伐や、クエストの報酬。公式イベント等で手に入れる事が出来ます。尚、譲渡は出来ないアイテムとなっておりますのでご注意下さい」
なるほど、このスキルの素を集めるのがこのゲームの肝となるのだろう。チュートリアルクエストをスキップしなかったのは正解だった。
「スキルストア」
音声認識がされ、スキルストアが目の前に開かれる。表示されているスキルは、刺突、マーモットキラーの2つだけだ。
「それでは、これでチュートリアルの終了です」
「どうも、ありがとう御座いました」
受付さんに礼を言って、その場を離れる。さて、どうするか、初日とあって人は多い。そこらへんにいる人をパーティーに誘ってガンガン奥へ進むのが常套手段なのだろうが、俺はそういうのが苦手だ。いつも家にいて誘ってもらうのを待ってるタイプ。まぁ、つまりコミュ障である。なので、まず簡単なクエストを受けてみる事にした。街の中心地にある巨大なクエストボード。近づくと、今受けられるクエスト一覧が目の前に表示される。
「うん。これにするか」
選択して、決定。クエスト薬草三種を手に入れろ!
比較的簡単で、森の浅いところで済むようだ。提出先は街の薬師とある。そういった出会いから、始まるクエストもありそうだし、これにしよう。
はじまりの森の群生地まではマーモットと狼の魔物であるキーウルフが出てくる。道すがら狩りをしながら群生地を目指した。HPは自然回復しないので、なるべく攻撃を食らわないよう気を付けながらの行軍である。
「ここか」
群生地は招霊の水辺と呼ばれる大きめの泉のほとりにあった。水際を移動するとクエストマーカーのついた草が生えている。最初のターゲット、イーライ草だ。辺りには誰もいない、取り放題だ。マーカーには詳細も書いてあった。
「ポーションの材料か。てことは調薬とかもありそうだな」
早速採取を始める。草を掴むと自動的に採取されイベントリの中へ。こりゃ便利だ。手当たり次第に抜いていく。小一時間作業に没頭し、十分な数を揃えた。お次のマーカーを探すと、少し泉から離れたところに表示が出る。向かってみれば、小さな洞穴があった。これは戦闘の予感。警戒しながら侵入する。マーカーを辿ると広い場所に出た。何と規模は小さいが地底湖だ。その水際に人がいた。どうやらプレイヤーのようである。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
彼がこちらに気付き挨拶をしてきた。近くに行くとその背の高さに驚く。2m近くあるだろう。こんなキャラクリにするとは、さてはリアルでコンプレックスでもあるのか?
「貴女もシルマ草の採取ですか?」
「ええ、クエスト受けました」
「ふふ、一緒ですね。そういうことならちょっと相談があります」
そう言うと、彼は上を指差した。俺がその先を見上げると、丁度そのあたりにクエストマーカーが見える。高さは…3mくらいか?
「何故か採れない場所にあって、どうしようかと思ってたんですよ」
「なるほど。工夫して採取しなさいって事かな」
俺は槍を取り出して突っついてみたが、ひょっこり落ちてくる事も無い。
「クライミングとか、念動力みたいなスキルが必要なのかな」
「それも思ったんですが、初っ端からそんな事要求するかなって、だから試してみませんか?」
そう言う彼は自分の肩をぽんぽんと叩いていた。
え、俺が?乗るの?
「上手くいきましたね」
「協力しなさいってメッセージな訳ね」
肩車作戦は功を制し無事に採取は完了。俺が、採取した半分を彼に渡した。
「私はダイモンです」
そう言いながら、笑顔で握手を求めてくる。
「お、あー私は……」
「無理しなくて大丈夫ですよ。男性?ですよね」
「流石に分かるか、ネカマのらっきょです。よろしく」
「ふふ、かくいう私も女ですから。性別なんて気にしないで下さい」
「え……」
「らっきょさんは薬草三種のクエストですか?」
「あ、ええ、そうです」
「じゃあ、最後の林鐘花の採取一緒に行きませんか?」
「あーまぁ、お邪魔でなければ」
動揺して受け答えがおかしくなっている。ダイモンはそれが可笑しかったのか、笑いながらじゃあ行きましょうとパーティー申請を送って来た。このゲームで組んだ初めてのパーティーは、巨人でふんわりしていて、掴みどころの無い。そんな人との出会いだった。
「これは……」
「確かに、薬草、とは表記されていますね」
洞穴を出て、丘を少し登ったところでマーカーの反応があった。しかし、問題はそれが動いていることだ。
「薬草、採取?」
「どっちかと言うと、討伐ですね」
目の前には黄色の花を頭部につけた魔物の姿。根を脚にして自由に歩き回っている。
「ちなみに武器は槍ですか?」
「そうですね。槍一本でいくつもりです」
「そうなると、ちょっと相性が悪いかもしれませんね。実は私はヒーラーでして」
「あー、だから、薬草採取から」
「そうなんですよ。まぁものは試し、これで殴ってみましょうか」
そう言って、彼女?彼?は持っている本を掲げる。それなんて五体投地さん……。
「一応武器だろうから、ダメージは入る、のかな?」
「えいっ」
ダイモンは手近にいた林鐘花に本を叩きつけ、もう一度叩きつけ。さらに叩きつけ。
「えいっえいっ」
林鐘花はポリゴンになって消えた。どうやら本で殴るが有効らしい。俺も負けじと槍で突き刺す。林鐘花自体は紙装甲らしく、攻撃も遅い。これは楽勝かな、と思った矢先。残った林鐘花達が一斉に鳴き出した。それはまるで鐘の音のように音が低くなっていく。
「だから林鐘花って名前なのか」
「感心しているところ申し訳無いですが、何か出てきますよ」
ダイモンが指差す先、地中を割って根の先が飛び出してくる。それは巨大な球根だった。先端が黄色に染まった球根で申し訳程度に口と目がある。
「まさかのボス戦……」
「イエローバルブ。そのままの名前ですね」
「取り敢えず、前に出ます」
「分かりました。回復は任せて下さい。まだ低レベルで申し訳無いですが」
「いえ、回復してもらえるだけで助かりますよ」
これはちょっと本気を出さないとダメだろう。自然といつもの構えをしてしまう。槍の柄を両端に近い場所で持ち、重心を縦に置く。イエローバルブは根を鞭のように撓らせて打ち込んで来た。
「はっ」
それを柄で受け、往なす。次も同じように往なす。一歩ずつ近づいていく。四撃を往なしたところで、イエローバルブの口がパカッと開いた。中から紫色の液体が飛び出して、俺にかかる。まずい、咄嗟には避けられ無かった。これは……毒か。
「キュア」
すかさず背後から魔法が飛んでくる。毒が消えた!
「ナイス!」
「大技の後なので、今がチャンスです!」
「了解。両手突き!」
開けっ放しの口へと穂先を突き入れる。アビリティのエフェクトが迸り、思ったよりも強力な突きがイエローバルブを貫いた。
【ボス:イエローバルブを倒しました】
【レベルが上がりました】
らっきょ Lv 5
筋力 6→10
頑強 6→9
知恵 5→7
器用さ 7→10
敏捷 8→10
魔法抵抗 5→7
運 2→3
スキル 槍術Lv 2
アビリティ 両手突き 打ち払い←new
流石ボス。一気にレベルが上がった。アビリティに打ち払いが出てきた。根を往なしたのが反映されたのかな。すかさずSPを振り分ける。
「お見事です」
「ダイモンさんもナイスキャア」
「あそこで間に合わなかったら、支援の名が泣きますからね」
「じゃあドロップアイテムを見ますか」
イエローバルブが倒された時に宝箱がドロップしていた。今の所、モンスターからのドロップはかなりレアで数回しか見たことが無い。しかし今回は一発で出たという事は、ボスはドロップ確定なのかな?
宝箱を開けると、イベントリにアイテムが入る。林鐘花の花弁×5とスキルの素αだ。
「やっぱりボスから出るか」
「スキルの素ですか?」
「はい。この感じだと確定ドロップかもしれないですね、周回出来るのかな?」
「どうなんでしょうね。取り敢えず、クエストはこれで完了ですね」
「ですね。自分は街に戻りますが、ダイモンさんはどうしますか?」
「ご一緒します」
俺達は道すがら魔物を狩りながら街へと帰還する。
「らっきょさんは……」
街が見えてきた頃、ダイモンさんが躊躇うようにこちらを伺って来た。
「なんです?」
「こんな事聞くのは失礼かもしれませんが……本職の方ですか?」
「あー、まぁそうですね。どうしてそう思われました?」
「こう、いきなりのボス戦なのに、堂に入っていたと言うか、覚悟が早かったなと思って」
なるほど、彼女にはそう見えたのか。確かにいきなりのボス戦ならもっと慌てたり撤退を真っ先に考えるのがゲーマーかもしれない。あの時俺はあくまでゲームだし、試してなんぼと考えていた。
「すいませんね。もしかして、無理してました?」
「いえ、私は大丈夫ですよ。何せ同業ですから」
「ほう。言っちゃ悪いですが、VRの中でまで戦闘するのは自分くらいだと思ってました」
「私もです」
そう言ってお互い笑い合う。そうしているとフレンド依頼が届いた。ダイモンさんが微笑みながら首を傾げる。
「よかったら」
「はい、よろしくお願いします。またパーティー組みましょう」
「ええ」
ダイモンさんとフレンドになり、受付でクエスト完了を報告。やはり報酬はスキルの素だ。そこで解散となった。もう少しやりたいところだが、定期連絡が入る時間帯だ。
「それじゃあ、また」
「はい。お疲れ様でした」
ログアウトする。目を開けると簡素な部屋。白い天井。部屋の中にはあまり物が無い。ミニマリストを気取っているわけでは無く、転属が多い為あまり物を持たないようにしているのだ。壁掛けの電子モニターには新着メッセージの文字。
「明日か」
明朝◯九◯◯。第14ブリーフィングルームへ集合。後、一二◯◯より、アタックを開始。受諾の旨、返答されたし。
「よし、準備準備」
受諾の返信をし、クローゼットを開ける。申し訳程度に並んだ衣服の奥から、ケースに入った愛器を取り出す。1.5m程の棍だ。ひび割れが無いか確認し、ウェスで磨き上げる。丁寧に拭き上げた後、慎重にケースに納める。
「また帰って来たら、やるか。結構面白いよな、FOLN」
そう呟きながら、寝所に戻った。明日は仕事だ。早く寝て、備えねば。ベッドに入り、目を閉じる。
俺は
国営探索者協会 山北方面軍 三十六分隊
倉松 匡太郎 四位
この国を取り戻す為、魔境を攻略する探索者の一人である。
ちょっと思いついて書いてみました。不定期更新です。