[EP1-4] セントラム橋の損傷
屋敷へ戻ったレイヴンを迎えたのは昼の会議開始を告げる鐘の音だった。
会議室の扉を開けると、すでに船長と数名のスタッフが席に着いている。
船長は例によって肩をいからせ、腕を組み、報告の準備を整えていた。
「お待たせしました」
レイヴンは軽く頭を下げながら主の席へと歩み、手元の資料を開く。
そのタイミングを見計らったように、船長が口を開いた。
「会議招集時に通知した二件の議題について、順に報告させていただきます。
まずはアリア港の船舶修理に関する設備投資の件です」
レイヴンは頷きつつ耳を傾ける。
船長が資料を指さしながら、やや身を乗り出して続けた。
「現在、修理を要する船舶は数隻ありますが、とりわけ深刻なのが五番船と八番船です。
どちらも長期間の運用で船体に細かい亀裂が出ておりまして、
このまま放っておくといずれ大きな事故につながりかねません」
「それで、提案というのは?」
「必要な資材を一括で購入し、効率よく修理を進めるための設備投資を申請したいというものです。
予算はおおよそ5000Gを見込んでおります」
「5000Gか……」
レイヴンは資料から目を離さず、低く呟いた。
「確かに安くはないな。
だが、今それを惜しんで後からどうにもならなくなれば、損失はそれ以上になる。
船はこの町の命綱だ。……予算案、承認しよう」
「ありがとうございます」
船長は安堵の表情を見せるが、レイヴンはすぐに問いを返す。
「……ところで、そもそも不具合の兆候を見落としたのはなぜだ?
五番船も八番船も、定期点検の対象だったはずだが」
船長は一瞬言葉を失ったが、すぐに背筋を伸ばし、誠実に答えた。
「おっしゃる通りです。点検は実施していましたが、
今回は船体外板の裏側――通常の目視では確認が難しい箇所に亀裂が生じていました。
点検方法の見直しと再整備体制の強化も、含めて検討を進めております」
「……わかった。今後、同じことが起きないよう徹底してくれ。
設備に金を出す以上、それを活かす責任も忘れないでくれ」
「はい、承知いたしました」
船長が次の資料をめくり話題を切り替える。
「続いて二点目、アリアと神都エンデを結ぶ《セントラム橋》についての報告です」
「橋に何かあったのか?」
レイヴンが眉をひそめる。
「はい。建設課の所管ではありますが、中央島の係留所が港の管理区域内にあるため、
日常的に橋脚の様子が目に入ります。
先月、補給物資を運んでいた部下が、橋脚の根元に目視で確認できるほどのひび割れを発見しました」
そう言って船長は、簡易スケッチを机に広げた。
「先月、部下が補給物資を運ぶ際に、橋脚の根元に肉眼で確認できるほどのひび割れを発見しました。
現在のところ通行に支障はありませんが、
橋の建設から五十年が経過しており、浸食と劣化が進行している可能性があります」
「今のところ、通行には支障ないんだな?」
「ええ。ただ、橋は建設からすでに200年程経っており、浸食や劣化が進んでいる可能性は高いです。
特にあの中央の小島の地形上、水流が橋脚の中央に集中しやすく、
長年の波と風が基礎を削ってきたようです。加えて近年は往来も増えており、
輸送隊や巡回部隊の負荷も無視できません」
レイヴンはしばし考え込み、やがてゆっくりと口を開いた。
「……つまり、すぐに手を入れる必要はないが、放っておけば危ういということだな」
「その通りです。早期に点検計画を立て、補修のための予算も準備しておくべきかと」
「明日、私がエンデへ向かうついでに、その橋脚のひびを見ておこう。
報告は後日で構わないからまとめておいてくれ。遠征から戻り次第、具体的な対応を詰めよう」
「かしこまりました」
こうして一連の報告が終わり、会議は滞りなく閉じられた。
窓の外では、昼下がりの陽光が静かな港の海面を優しく照らしていた。
おそらく30分程度で終わるような議題でしたね。
書きすぎても冗長になると思い、町における不具合対応をさらりと描いてみました。
決断力が羨ましいですね。
次回は、場面を夜へと移します。
レイヴンの内に秘めている精霊との邂逅、そしてレイヴンの出自について垣間見れます。
どうぞ、よろしくお願いします。