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烙印の子  作者: あねむん
《第三章》
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[EP.3-8]天哭の大蛇

天井の岩肌がかすかにきしみ、空気が震えた。

地の底から響いてくるのは、ただの地鳴りではない。

それは確かに「何か」が這い出てくる音だった。


「ガルメロスが地上に現れたぞー!! アンカー展開準備、急げーッ!!」


怒号のような叫びが街の隅々へと響き渡る。

瞬く間に、クレイアイドルたちが武器を手に駆け出し金属の足音が路地を埋めた。

街全体の空気が、音を立てて戦場へと変わっていく。


ギーグが鋭く叫ぶ。

「ガルメロスが地上に……? 本当かッ!?」


タルの瞳がかすかに震え、顔から血の気が引いていく。

「なんじゃと?! なぜあやつが……まさか、契約の余波か?!」


セレンが立ち上がり、震える声で問いかけた。

「ガルメロスって……一体、何なんですか……!?」


シレイはすでに槍を手に、足を止めることなく答えた。

「名前だけなら聞いたことがある……確か、大昔の何でも食う大蛇だ!

 なんで今さらそんな骨董品が現れるんだよッ!?」


怒声と金属音が交錯するなか、クレイアイドルたちの表情に浮かぶのは恐怖ではなかった。

怒り、決意、畏怖──

それらすべてを混ぜ合わせ、焔のような目で前を見据えていた。


「タル爺! そいつの弱点は!? どうすればいい!」

「……正直、人手は足りん、手を貸してくれ。簡潔に言うぞ!」


タルの声が研ぎ澄まされ、戦場のように緊迫した空気を裂く。

「奴は“不死”の怪物じゃ。今回の契約……恐らくその時に発生した強い魔力の衝突、

 つまり魔力干渉によって、長い眠りから目を覚ましたんだろう。

 普通に戦ってもすぐに自動修復して動き出す。消耗戦では勝てん!」


「奴の弱点はただ一つ。頭部の背面――“可動コア”だ。そこを破壊すれば数百年は再起不能じゃ!」


「致命を与えても復活するんだろ? やってらんねぇな」

シレイが苦々しく吐き捨てた。


「ワシに策がある。クレイアイドルだからこそ成せる技じゃ。お主らは陽動を頼みたい!」


「……分かった。 セレンとギーグは門を出てすぐの高台にクレイアイドル達と支援を頼む!

 俺とシレイでそいつの注意を反らす!」


「上等だ! やってやろうじゃねぇか!」

シレイがにやりと笑い、槍を構えた。


やがて地上口が視界に現れた。その先から――

金属と獣が交じり合ったような異音が、風に乗って押し寄せてくる。


ズズ……ッ、ガァア……ギィッ……!


巨大な胴体が地表を抉りながら進むたび、岩が裂け、砂が巻き上がる。

焦げた金属の匂いが鼻を突き、地を這うような重低音が鼓膜を打つ。


全長20メートルはあろうかという異形の蛇。

鋼鉄と鱗のような装甲が身体を覆い、そこから煙のような魔力の瘴気が滲み出していた。


焼けた喉で唸る大蛇のごとき、異形の鳴き声が大地を揺るがす。


「――セレン、ギーグ! 援護頼む! ……場合によっては逃げてくれ!」

「領主サマを置いていっては、ワシの沽券に傷がつくわ! お嬢ちゃん、行くぞ!」


ギーグがセレンを引っ張り、崖のような岩地へ駆けていく。

「はいっ!」


シレイは槍を構え、ガルメロスの巨体に目を細めた。


「……おいおい、規格外にも程があるだろ。 だが――戦場に立った以上、退く理由はねぇ!

 坊、こいつの頭、ぶっ潰すぞ!」


「戦闘開始ッ! 全部隊、配置につけ!」

クレイアイドルのリーダー:アルマが声を張り上げると、部隊が迅速に動き出す。

制圧部隊が左右に展開し、肩部から射出されたワイヤーアームが甲高い音を立てて空を裂く。


「アンカー接続ッ! 牽引準備!」


鋼の腕がガルメロスの胴体に食い込み、複数の拘束線が一瞬で身体の自由を奪う。

その瞬間、脚部から散布される濃い灰色の煙幕が周囲を包み、視界を遮った。


「今だ――近接部隊、前進!」


煙の中から、鋼の脚音が地を打つ。

近接戦型のクレイアイドルたちが突撃を開始。

腕に装備したパイルバンカーが唸りを上げ、躍り出るように巨体へ斬撃と打撃を叩き込む。


「おらぁああああッ!!」 「押し込めぇッ!!」


だが――

「――ギィィイイ……グゥ……ルル……ッ」


ガルメロスが咆哮を上げた。

その声は、獣のうなりと機械の軋みが混ざり合った異音。

鋼の鱗が赤く発光し、一部の拘束線が焼けるように崩れ落ちる。


「くっ……拘束が……! 再接続を急げッ、早すぎる……ッ!」


巨体が天を仰ぎ、背部器官が展開された。

次の瞬間、灼熱の瘴気が地を焼き辺りに吹き荒れる。


「離れろ――来るぞッ!!」 


――ドオォォンッ!

爆風のような衝撃が煙幕を吹き飛ばし、数体のクレイアイドルが宙を舞う。

火花と破片が弾け散り、転倒した機体が地面を引き裂きながら滑っていった。


「ぐ……うああッ! あ、足が……動か、な──」


その声を最後に、転倒した一体のクレイアイドルへとガルメロスの首が素早くしなる。

巨大な顎が開き、焼け爛れた鉄の口腔が機体を丸ごと咥えた。


「やめろぉーッ!!」


シレイの叫びが虚しく響く中――ギチギチ、と骨を砕くような機械音が走る。

僅かに漏れた赤黒い泥の様なものが、血のように地面に滴り落ちた。


「……食ってやがる……あいつ……!」


仲間たちの目の前で、ガルメロスの喉が生き物のように蠢き、ごくり、と音を立てた。

そして、地を這うような唸り声が再び響き渡る――。


「気を抜くな! 体勢を立て直せ!」

レイヴンが叫び、詠唱に入る。

魔力が風を巻き、空気が軋む。


「俺たちで奴の意識を引きつけるんだ!」


《奴の目を狙え。いくら不死の化け物だろうと、死角をつくれば反撃の隙が生まれるはずだ》

シャドウの冷静な思念が脳裏に走る。


「分かってる……!」


レイヴンの左腕から黒炎が渦巻く球体が現れる。

それはただの火炎ではなく、魂を焦がすような冷たく禍々しい黒い炎だった。

詠唱の終わりとともに、それは鋭い音を立てて発射され――黒き魔弾は、ガルメロスの左眼に直撃する。


巨体がぐらりと揺れ、耳障りな機械音と共に蛇頭がのけ反った。


その瞬間を見逃さず、アルマの怒声が響いた。

「蛇がひるんだ! 今だ、アンカー再接続! あの蛇を地に縫い止めろォッ!!」


クレイアイドルたちが一斉に動き出す。

火花を散らしながら、巨大な拘束具が次々と射出された。

鋼の爪が空を裂き、装甲と地面を貫いていく。

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