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もふっと! 犬系少女です!

 現代、日本――――

 人々は進化の過程で機械(テクノロジー)の発展を捨て、更なる自然との共生を求めた。

 動物たちは知識を備え、体も人間らしい進化を辿ったのだ。

 これは、犬、猫、狐や狸、ひいては狼――ふわふわの耳やもふもふのしっぽをもって生まれてきた、とっても可愛らしい女の子たちのお話である。


 都会から少し離れた、うす寂れた田舎――――

 の、中心部に位置する小鳩町に青年・立川雛翔(たちかわひなと)は住んでいた。


「おう雛翔! 父さんな、コツコツ貯めてきた大金をはたいて、新たにカフェを経営することにしたんだ」

「……カフェ? そりゃあまたご勝手なことで」


 彼の父親は長身で細身の雛翔とは違い、角顔の筋肉質な男である。いや、"(オトコ)"である。

 雛翔は思い立ったが吉の行き当たりばったりな漢の言葉に一瞬手を止めたが、すぐにペンを持ち直し、勉強机へと向かった。

 コツコツ稼げる大人になるために、少しでも多くの知識を取り入れておこうとする彼なりの努力だ。


「まあそうつんけんするなよ。経営はお前にも手伝って貰うんだからよ」

「あーはいはい……って、は!? 俺はやらねーよ? だいたいこんなド田舎でカフェなんて今時流行らないから」

「はぁ……お前もまだまだ子供だな。一流の経営者ってのは、流行る流行らないじゃなくて"流行りを起こす"ってもんだ」


 得意気に語ってはいるが、ちょっと何言っているのかわからない。雛翔は参考書とペンを放り出した。


「訳わかんねえ。ちょっと手伝ったらすぐやめるからな!」


 こちらは流されやすいタチである。

 少しだけわくわくしている自分がいることに恥ずかしくなる雛翔であった。

 かくして二人は、二月ほどで開店に必要な道具を揃え、町にカフェを立ち上げた――――


「――――って! やっぱり全然客足伸びてねえじゃねえか!」

「落ち着け雛翔。どんな店だって最初は小さいもんだ」

「小さすぎだろ! コンセプトも決めていないし、何よりマッチョとガリが経営するカフェに入ろうとは思わねぇよ!」


 とんでもない偏見である。しかし、雛翔の通う高校からそう遠くない位置にあれど若年層の客はおらず、ちらほら座っているのは父親が普段仲良くしているお年寄りたち。


「向かいの野菜直売所の方が儲けてるじゃねえか」

「うーん、うちには何が足りないんだろうな。道具は一通り揃えたつもりだし、店の外観や大きさも申し分ない。イケおじにホスト紛いの二人が店員までやっているのになあ」


 雛翔は言葉も出ず、ただ頭を抱えた。

 実際は、ゴリラ似のマッチョと自宅警備員寸前のもやし男の二人である。


「なあ雛翔。明日学校で市場調査をしてきてくれ。こういうときはやっぱり、世論の意見が参考になると思う」

「……まあ。任せといて」


 ここにきて、至極真っ当な意見。雛翔は得意気ににやけて見せた。しかし、彼にはそうしたくてもできない理由が隠されている。


(俺、友達いないんだよな……)


 高校二年間、勉強ばかりしてきた弊害がここに。

 最初は軽い気持ちで進学校を選んだが、父親の突飛な行動から自分がなんとかしなければと思い、良い大学を目指しての勉強生活だったのだが。

 今は引くに引けない状態に。

 雛翔は反省しつつ、自室に戻り勉強机に向かった。完全に習慣化している。


 翌日、登校して間もない頃。


「おはよう! 今日もいい朝だね!」


 長い前髪を左右に分け、精一杯爽やかなスマイルを教室内に向ける。……返事はない。


「あれれ、声が聞こえないよ? みんな」


 髪をかきあげ、壁についた手のひらに体重を乗せ、見下すように顎をしゃくってみせる。……やはり返事はない。

 それもそうだ。今は始業一時間前。そもそも彼以外誰一人として登校していないのである。


「ははっ、照れ屋さんだなみん――」

「何してるの?」


 びくーん。背後からの声に、雛翔は背筋を真っ直ぐに強ばらせた。

 彼が恐る恐る振り向くとそこには、制服の上からベージュのチェック柄をしたトレンチコートを着こなし、ハンチング帽を被って虫眼鏡越しに雛翔を覗く女の子の姿があった。

 完全にお互い不審者である。


「えっと今のはなんでもなくてただ教室に誰もいなかったからちょっとふざけてみたというかなんというかってこんなこと聞いていないよねごめんあーもう本当になんでもないから忘れてほしいというか」

「事件の匂いは君……じゃなさそうだねえ。ふむふむ」


 女の子は雛翔の延々と続く弁明など聞こえていないかのように教室を見回した。

 カーテンの隙間から射し込む木漏れ日。消し残し一つ無く光沢を見せる黒板。床にこぼれた食べかけのパン。掃除道具入れからはみ出したモップ。


「……ここには異常がないみたい。演説の邪魔して悪かったね、では私はこれにて!」


 彼女の基準は不明だが、一般的には明らかに異常ではあるだろう。

 コートを風に靡かせて去っていく彼女の背中を見つめ、雛翔はため息をついた。


「はあ……なんだったんだよ、変なやつだな」


 他人のことなど言えないだろう。

 誰もいない教室で格好つけている男など、端から見れば変なやつ以外の何者でもない。

 ただ、彼はクラスメイトと話すことが全くないため、今のは予行練習なのだが。

 雛翔はまだ早まった鼓動が収まらず、教室を徘徊した挙げ句落ちている食べかけのパンを見つめた。


「昨日の掃除当番のやつら、サボったのか? いやでも黒板は綺麗だし、でもモップは飛び出ているし……」


 そう言って少しだけはみ出しているモップに視線を向けたその時。

 くるん。淡い桃色のモップが回る。

 ふりふり。右、左と毛並みが揺れている。

 ひょこ。三角耳が隙間からこんにちは。


「え、はっ何!?」


 驚いて雛翔は腰を抜かし、机にもたれ掛かっている。すると掃除道具入れの中から、薄汚れた淡い桃色の毛並みをした犬のような少女がつぶらな瞳で姿を現した。


「獣人……か?」

「ひゃうっ!?」

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