第2話 家族と会ってみます!!
病院で目覚めた僕は、およそこの世界の事を把握するのだった。
1:500の男女比という大きな違いを、看護師の琴葉さんとの会話からも深く実感するに至る。
自分のやりたい事、成したい事などを叶えるために生きていこうと、改めて思った僕は、これからの事を考えながら微睡に落ちていくのだった。
(ここは……夢かな?)
暗い部屋で一つのモニターから漏れる光を見ている。
そんな僕の視界には、モニターの中の小さな記憶が見える。
公園にポツリと佇む3歳程の幼い自分がいる。
困った顔を浮かべているのだが、そこに近寄る影があった。
まだ顔にしわも無いその人は、微笑みながら、僕の背中に手を添えるのだった。
孤独な僕は、モニターの中の温もりに手を伸ばす。
(あたたかいなぁ……これはどっちの記憶だろう?
何だか見たことがあるような気がする……あぁ、間違いない……
これは俺の記憶だ。)
(だとすると、手を伸ばしているのは僕なのだろうか?)
あまりにも抽象的な光景だが、何となく俺は理解する。
まるで概念的な話だが、きっと俺たちは1つだったんだろう。
だが俺は旅に出たんだと思う。
そこで見つけた温かいものを持って、また1つに戻ったんだ。
何一つ具体性は無いが、そんな気がする。
(寂しかったよな……俺がいなくなったお前は、ずっと欠けていた。
だから孤独で冷たかったんだ。俺は空虚だったが、あたたかかった。
これからは1つだ、足りないものは何もないよ。)
不思議な夢をみながら、だんだんと僕らの意識は覚醒を迎える。
頭に温もりを感じる。
徐々に自分の体温を自覚した頃、1人の女性が見える。
「……母さん?」
そこにいたのは、しわ一つ無い綺麗な人だった。
温かい手で僕の頭をなでている。
だけど、分かる。この人は僕たちの母親で、あたたかい人なんだと。
(世界が違えど、やっぱり母さんは母さんなんだな……
ビックリするくらい綺麗ではあるが、前の世界でも見覚えのあるような顔だ。
女手一つで僕を育ててきた苦労を写すしわは無いが、ここは何も知らない世界ではない、やはりパラレルワールドなんだ。)
何てことを思っていると、酷く心配そうな顔をした母さんから僕の言葉への返事があった。
「とおる!!大丈夫なの……?」
「うん……心配かけてごめんなさい。
ちょっと記憶が不安定みたいだけど、体は大丈夫だよ」
「それに、暇だったから少し寝ていただけだよ」
俺としての意識が交わっているからか、少しだけどんな風に接すればいいのか、分からない。
だけど、自然に身を任せた言葉で紡ぐ。
「良かった……」
少し寝ていただけという言葉を聞いたからか、安心したような顔を浮かべている。
窓の外を眺めると、時間的には夕方に差し掛かっている時間だった。
「いつもありがとう。」
僕の事を心配してくれた事もあるし、俺という記憶や意識が混在しているのもあって、ちゃんと伝えられるうちに、感謝を伝えないとなと思った僕はありがとうの言葉を口にした。
「えっ?あ……」
突然の言葉に驚いたのか、母さんは少しビックリしていた。
そして一筋の涙をこぼして答える。
「ごめんね……久しぶりにとおるが、ありがとうって言うものだから、母さんビックリしちゃった。
母さんはとおるが元気でいてくれたら、それだけで嬉しいのに……
なんだか、嬉しいが飽和しちゃった……とおるこそ、ありがとね。」
何とも言えない言葉が返ってきた。
「そ、そんなに言ってなかったっけ?」
「うん……とおるの5歳の誕生日が最後だったよ……」
(おい、僕何やってんだよ!ありがとうが久し振りってどういう状況だよ!
お前、たった1人の母親くらい大切にしろよ……ありがとうも言えない奴は碌な人間になんねーぞ!)
僕は母親の言葉を聞いて絶句した。
どうやら前の僕は5歳以降、ありがとうも言えないような、とんでもないボーイだったらしい……
親のありがたみを実感するのは、やはり一人暮らしをした俺の経験からだろう……
僕はちゃんと周りに感謝をしていこうと心に決めた。
「ご、ごめんね……多分今までが当たり前に感じすぎて、大事な事を忘れていたのかも……」
「いいのよ、とおるは男の子何だから、成長過程でそうなるのは、普通の事だと聞いたわ。寂しいけど、ちゃんと成長しているんだって実感もあったから、とおるが謝るような事じゃないのよ」
どうやら、僕の人格の問題ではなく、男子は総じてありがとうが言えないクズらしい……
僕はそういう人間にはなりたくないし、気を付けようと思った。
「そういえば、とおるが寝てる間に、もうMRIとかの検査は済んだと看護師の方から伺ったわ。
後は採血と精液検査だけって聞いたけど……とおるは大丈夫?
まだ14歳だし、体の負担も大きいと思うのだけど……?」
「そうだったんだ、全然気づかなかったよ。
そんなに難しい事でも無いから、大丈夫だと思うよ」
「そうかしら?それならいいのだけど……そう言えば、水姫も学校帰りに病院に寄るって言ってたわ」
「み、水姫?」
「そうよ。」
(いや、誰やねん!思わず関西弁が出てくるわ!
水姫かぁ……どこかで聞いたことがあるような……)
僕は一生懸命記憶を探ると、1人の少女が思い浮かんだ。
それは俺の世界にはいなかった存在だ。
「妹……」
「えぇ……もしかして記憶が不安定って言ってたけど……水姫の事は分かる?」
「頑張って思い起こせば分かるかも……でもあんまりパッとは出てこないや……」
「そっか……それは残念だね……あの子もショックだろうけど、こればっかりは仕方ないか……」
「申し訳ない……」
「とおるのせいじゃないわ、そもそも普段から顔を合わせる事も少なかったし、仕方ないわよね……」
母さんの話から察するに、家族である妹と、前の僕はあまり顔を合わせるような環境では無かったらしい。
「え?別居でもしてたっけ?」
「ええ?とおるは普段、人といると疲れるから自室に籠っていたでしょ?
水姫も気を使っていたみたいだし……いつも寂しそうにしていたわよ」
その言葉を受けて、僕は衝撃を受けた。
どうやら前の僕は極度の引きこもりだったらしい……
(家族にも会わないほどって……学校とかどうしてたんだ?)
僕は自分に疑問を抱えながらも、一人っ子だった俺の意識は、兄妹のいる家族に憧れていた事もあり、嬉しく思う。
ただ……
「いや、マジで申し訳ない……」
「まぁ……ねぇ、あはは……」
そんな僕の言葉に、母も苦笑いを浮かべている。
(そりゃそうだろうな……家族なのに顔を合わせない極度の引きこもりだったら寂しいだろうし、ましてや今は忘れられているようなもんだからなぁ……本当に申し訳ない……)
「こ、これからはちゃんと顔も出すし、家族の事は大切にするよ……母さんも、心配かけてごめんね……」
「いいのよ!それに、とおるが前向きになってくれたら母さん達も嬉しいわ。」
「急に倒れてから、色々思う事もあったし……これからは、何事も積極的に生きて行こうと思ったんだ。だから母さんも、そんな僕を見守っていて欲しい。ダメかな?」
「ダメなんて事は無いのよ~。
寧ろ母さんも、とおるがやりたい事を出来るように応援するし、必要だったら手助けもするわよ。
家族なんだから、何でも甘えていいのよ」
これからは一生懸命に生きると決めたし、色々と突飛な事もすると思い、前もって母さんにその事を伝えようと思った。
それに、前の世界の意識が混ざっていて違和感とか出るだろうし、積極的に生きると言っておけば、何かを疑われるような事も無くなるかなという打算も少しあったが、母さんの言葉にじんわりと温かくなる。
「ありがとう。色々と落ち着いたら、皆で旅行とかも行きたいね!」
「ええ、そうね!ぜひ行きましょう!」
そんな談笑を少し続けていると、病室の扉が急に開き勢い良く飛び込んで来る少女がいた。
「お、お兄ちゃん!大丈夫なの!?」
先ほどの話に出ていた、妹その人であった。
「こら、水姫!ここは病院なんだから、もう少し落ち着きなさい……
気持ちは分かるけど、その様子だと、ずっと走ってきたんでしょ?」
「うっ……ごめんなさい……」
そう言って僕の妹は、とぼとぼと近寄って来る
「それより大丈夫なの?お兄ちゃん……」
「ははは、大丈夫だよ~心配してくれてありがとう……少し記憶が不安定だけど、それ以外は何も問題ないよ。検査結果も後で聞けるだろうし。」
それを聞いた妹は、思わずといった顔で口にする。
「お、お母さん!お兄ちゃんが、ありがとうって!!」
「ええ、そうねぇ……良かったわね」
またか……と思いつつも、もう一度ちゃんと感謝を伝える。
「水姫、いつもありがとう。
兄ちゃん、普段はぶっきらぼうだったかもしれないけど、倒れてから改めて思ったんだ。
いつも家族に支えられていたし、これからは家族の事も大切にしながら自分のやりたい事とかを一生懸命に叶えて行こうって思ったんだ」
「お、お兄ちゃん……ふ、ふぇぇぇぇん」
俺の気持ちを伝えると、妹は突然に泣き出した。
「だ、大丈夫!?」
「ふふふ……」
俺は慌てて水姫に声をかける。
そんな様子を見て、母さんは微笑ましそうに笑っていた。
「だ、だって……お兄ちゃんが元気になって、嬉しくて……」
そう言いながら涙をこぼす妹を、僕は思わず抱き寄せる。
こんなにも優しい妹がいるのに、今まで顔も会わせていなかったと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「今までありがとう……心配かけたと思うし、水姫にも冷たくあたっていたとも思う。
だけど、これからはちゃんと大切にするし、楽しい思い出も増やしていこうな」
水姫を何とかなだめようと思い、僕の胸で泣いている妹に言葉をかける。
「ふ、ふへへへ、ふへへ……」
何だか聞いてはいけないような言葉が、僕の胸で泣いている小さな存在からこぼれているような気がしないでもないが、僕は気にしない事にする。
「あらあら、羨ましいわねぇ……」
(か、母さん……まぁいっか)
今まで冷たく当たっていたであろうと考えると、家族とのスキンシップくらいは、必要だと思った。
「さっき母さんとも話していたんだけど、色々と落ち着いたら家族で旅行にでも行きたいねって話してんいたんだけど、水姫はどうかな?」
「え?旅行……?行きたい!絶対に行く!もう決定!」
さっきまで涙をこぼしていたとは思えない程の笑顔で、妹は顔を上げて答える。
ぱぁ〜!っと花が開いたような笑顔に思わず引き込まれる。
(か、かわいい……僕の妹が尊いんだが……)
「母さんも忙しいと思うけど、大丈夫かな?」
「ええ、問題無いわよ~、また皆で行きたい所とか決めましょうね!」
この世界での家族との対面に、内心不安を抱えていた僕だったが、家族との関係も何とか上手くいきそうだなと思った僕は少し安心する。
それと同時に、これからの生活を思いワクワクしている自分を感じる。
(というか、妹がとうとかわいぃ……)
1人暮らしで家族の愛に飢えていた僕は、思わず尊いと可愛いのミックス感情で幸せを感じるのだった。
閲覧頂き、ありがとうございます。
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余談ですが、自分で見返しながらも何となく話のテンポが良くないと思い
もう少し、サクサクと読み進められるように、頑張って考えようと思ってます。
お茶の間や移動中にもサクッと読めるような感じにしたいと思っています。
どうかこれからも宜しくお願い致します!!(*‘ω‘ *)
 




