【クリスマス特別編】サンタはやはりサンタのようです!!
話は少し戻って、逆転世界に来たばかりの春、高校入学までの空いた時間に、特にする事も無い僕は情報収集がてら夕食後に家族との親交を深めていた。
「そういえばクリスマスとかってどうなんだろう……?」
僕のポツリと呟いた言葉に水姫が反応する。
「どうしたのお兄ちゃん?クリスマス?」
「えっと、まだ記憶が曖昧だけどクリスマスとかってどういう感じで過ごしていたかな?と疑問に思ってね」
「ああ~、確かに大きくなってからは特にパーティーとかもしていなかったっけ?」
「あれ?逆に小さい頃はしてたのか?」
「お兄ちゃんはその辺りの記憶も曖昧な感じかな?確かお兄ちゃんが10歳になる頃くらいまではやってたと思うよ!」
「そうだったのか……というか、逆にどうして10歳からはしなくなったの?母さんが忙しかったからとか?」
「それは……」
そういって水姫は顔を横に反らす。
何やら少し気まずそうだ……
そんな僕らの会話が耳に入ったのか、母さんが理由を教えてくれる。
「それはね、とおるが10歳になった時以降クリスマスになると機嫌を悪くして部屋に籠っちゃったのよ~」
「ほへ~、なしてそうなったん?」
「それは水姫に聞いたらどうかしら?」
母さんはニヤニヤとしながら言う。
それに対して水姫は頬を膨らませ、すこしバツが悪そうに答える。
「も~お母さんの意地悪……私が純粋なお兄ちゃんについ出来心でサンタさんの正体を教えたら、ショックで拗ねちゃったの……」
「そ、そんな事があったんだ……」
(何その可愛い僕……とんでもないボーイの僕にも可愛い時期はあったんだなぁ~)
そんな事を思っていると母さんが言葉を補足する。
「それ以降、クリスマスの度に当時の事を思い返してはとおるの機嫌が悪くなるから、我が家ではある意味緊張感の高まるイベントよね~」
(やっぱり可愛いは訂正だ、執念深すぎだろ⁉何そのネチネチボイーイ、誰だよ!?……って僕か)
「それは……何というか記憶が曖昧とは言え、毎年迷惑をかけて申し訳ない……」
僕が少し申し訳なさそうにいうと、母さんは笑いながら答える。
「いいのよ!それに元々は水姫の出来心が悪いのだから、とおるが謝る事じゃないわよ」
「お、お兄ちゃんごめんね……」
今度は水姫が申し訳無さそうに謝る。
「良いよ、それにいつまでも根に持つ僕も悪いよ~、これからのクリスマスは皆で楽しくお祝いしようね!」
「それがいいわね~」
「うん!そうする!」
先ほどまで申し訳無さそうな顔をしていた水姫も、僕の言葉を聞いてか急にパァッと花が開くような笑顔になる。
その情緒豊かな表情の変化を見ていると、ふりふりと振るしっぽが見えそうな勢いだった。
(水姫はあれだな……犬系って奴だな、犬系妹かぁ……ありだな)
また下らない事を考えているとおるであったが、今日も我が家は平和である。
「そういえば、結局サンタさんは誰だったんだ?」
僕がその言葉を投げかけると、一瞬にして場が凍る。
少しの静粛があってからお母さんが重い口を開く。
「そ、そうねぇ~、また水姫が教えてあげたらどうかしら?」
「お、お母さん!?そう言って、もしお兄ちゃんが拗ねちゃったら私に責任投げるつもりでしょ!」
「あら、嫌だわ、可愛い娘にそんな事するはずが無いじゃない~オホホホホ……」
「も〜、絶対にそのつもりじゃん!流石に同じ轍を踏むのは嫌だよ!」
そんな2人の攻防をしばらく眺めていた僕は、小さく笑いながら安心させるための言葉をかける。
「ふふっ……大丈夫だよ、今更それくらいの事で拗ねたり何かしないよ~」
「本当に?」
「ああ、本当さ」
「本当に本当?」
「疑い深いなぁ~、何かにかけたっていいよ?」
「じゃぁ何かかけて!」
「別に良いけど、何か欲しい物でもあるの?」
僕は用心深い水姫に向かって問いかける。
それに対して水姫は頬を少し赤らめながら上目遣いで答える。
「ほ、欲しいものは特に無いけど……して欲しい事ならあるかな?」
突然の可愛い仕草に、思わぬダイレクトアタックを心にくらうが、何とか持ちこたえ言葉を返す。
「うっ!……な、何かな?」
「その……ほっぺにチュー……とか?」
水姫は顔全体を真っ赤にして答える。
そのあまりの可愛さに僕は放心する。
(ああ、神様、いやサンタさんか?僕にこんな素敵な妹をプレゼントしてくれてありがとうございます……生まれて来て良かった!いや?死んで良かった?……どっちでも良いけど、とにかく有り難うございます!!)
しかしその様子を見た水姫は慌てて腕を交差しながら言葉を紡ぐ。
「や、やっぱり無し!今のは無し!急に変な事言ってごめんね!お兄ちゃんビックリしちゃうよね……アハハハ、何言ってるんだろう私?何だか変になってたよ……」
そんな言葉を聞いて現実に戻ってきた僕は、少しシュンとなっている水姫にさっきの要望の答えを返す。
「……いいよ」
「っへ?」
「約束破ったら、ほっぺにチューしてもいいよ?」
それを聞いた水姫はまた顔を赤く染め上げ、今度は別の意味で慌てふためく
「えっ?あ……ええ!?、ほ……本当に?」
「もちろんだよ」
「じょ、冗談とか?」
「まさか!可愛い妹に嘘をつく訳無いじゃん!」
「か、かわいいって……じゃぁ本当なの?」
「ああ、約束破ったらね」
「そっか、約束……約束やぶったらだもんね!」
そう勢いよく言い放つ水姫は急に頭を抱えぽつぽつと独り言をいう。
「……約束が守られたらお兄ちゃんは拗ねないからクリスマスを楽しめるけど、約束破られたらほっぺにチューして貰える……どっちが正解なのぉぉぉ……」
(いや、まぁ聞こえてるんだけどさ……とにかく水姫がブラコンなのはよく分かる……かく言う僕もこの世界に来てからはシスコンを自認するくらいには水姫の事を良く思っているけどね)
そんな僕らの姿を見ている母さんは、安堵したような顔をしている。
「よかったわ、この感じなら大丈夫そうね……」
そんな母さんの言葉を聞いて僕は改まって水姫に質問する。
「それで、結局サンタさんは誰だったの?」
(とは言ってもこの手の質問は大体の返事が予測できるし、驚く事はないだろう……)
そう高を括っていたのだが、水姫の答えを聞いて僕は衝撃を覚えた。
「じ、実はね……サンタさんは……サンタさん役の業者の人が、決まった時間に指定のプレゼントを用意してクリスマスツリーの下に置きにきてくれるの!」
(いや、ええええええええ!?どゆこと!?普通親とかじゃなくて?業者……ナンノコト?)
僕の予想した回答とは大きく外れていたため、僕はまたもや放心する。
「あれ?お兄ちゃん?……お〜い!やっぱりマズかったかな……」
水姫の心配そうな声に僕はトリップ状態から現実へ戻る。
「ああ、大丈夫だよ……少し予想していたのとは違ったから思わず驚いただけだよ」
「そっか、大丈夫ならいいのだけど……」
「本当に大丈夫だから気にしないで~」
「分かったよ~、それよりお兄ちゃんが予想していたのってどういうサンタさんなの?」
水姫は少し安心してから、疑問に思った事を尋ねてくる。
「ああ、ありがちな話かも知れないけど、お母さんがサンタさんになってプレゼントを置いているのかなって」
「??ありがちって……そんな事聞いたこと無いけど?」
「そうね~、お母さんも聞いた事ないわ」
「え?そうなの?」
どうやら何かの常識が元の世界とはズレているようだ。
そんな僕を心配してかお母さんが詳しく教えてくれる。
「そもそも、サンタさんって男の人だし……勿論旦那さんとかがいる家庭ならお父さんが代役をする事もあるのかも知れないけど、一般的な家庭だと流石にバレて子どもの夢を壊しちゃって難しいから、サンタサービスに登録しているスタッフさんにお願いするのが普通よ~」
どうやら、この世界でもサンタクロースは男性なのだという。
確かに一般的に幼い子を産んだ若いママさん達が年老いた男性のコスプレをしようにも限界というものがあるのだろう。
そのためこの世界ではサンタサービスという人材派遣会社に渋めの男装を得意としている女性か、年老いた男性がお小遣い稼ぎで登録しているため、それらの人員をサンタ役として派遣してもらうのが一般的らしい。
男装女性ではなく、年老いた男性が選ばれ派遣された年は当たり年とも言われ、俗にはエンジェルクリスマスとも言われ、とても幸運な事だという。
「それにね、サンタさんは男性の人気職業ランキング堂々の一位なのよ!」
「そ、そうだったんだ」
何だか釈然としないがそういう物なのだろうと思い僕はあまり考えない事にした。
「そろそろ夜も遅くなって来たし部屋に戻るよ」
「そっか、了解!お兄ちゃんが拗ねなくて良かったよ~」
水姫は安心した表情だった。
特に拗ねる程の事では無いのだが、思わぬ回答には衝撃的だったので何だかしてやられた感が残る。
釈然としない思いの僕は良い事を思いついたとばかりに、少し水姫に仕返しをする事にした。
「水姫~、すこしこっちに来て~」
「ん?どうしたのお兄ちゃん?」
水姫は素直にちょこちょこと近寄ってくる。
そんな油断している水姫に僕は思い切ってハグをする。
「え!?お兄ちゃん!?」
水姫はまた顔を赤らめ「あわわわわ」と今にも煙が出そうだ。
そんな水姫の耳元で僕はささやく。
「水姫は悪い子だ」
そういって無防備なほっぺにチュッとキスをする。
「じゃ、お休み」
そんな僕らの様子を見ていた母さんは「あらあら~」と微笑ましそうに見ていた。
水姫はというとポケ~っと放心状態だが、直ぐに頭を抱えだす。
「ええ!?確か約束を破ったらほっぺに……ってお兄ちゃん拗ねちゃったって事!?……で、でもこれはこれで、デヘヘヘェェ……ってそうじゃなくて!どうしよう!?」
頬を緩ませたり引き打締めたりを繰り返す水姫に母さんが助け舟を出す
「水姫はお兄ちゃんにからかわれたのよ~、最後にやられたわね~」
母さんの言葉で落ち着きを取り戻した水姫が今度は可愛いほっぺを膨らませハムスターのようになる。
「も、もぉぉぉぉぉ!お兄ちゃんったら!」
「ハハハ、じゃ今度こそお休み~」
そう言い残して表情豊かで可愛い妹を見て和んだ僕は、笑いながら自室へ戻る。
自室に戻った僕は少し冷静になる
「ってキザすぎんだろうよ……僕そんな奴だっけ!?」
思い返すと逆に恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
そんな事は忘れようとばかりに僕はベッドに飛び込む。
「クリスマスかぁ……」
ふと目を閉じると前の世界にいた時の幼い頃の記憶が蘇る。
「お母さん!サンタにお手紙届くかな!」
「ええ、届くと思うわ~、サンタさんもきっと喜ぶわよ」
思い返したのは、まだ若い母さんと一緒にサンタさんへのお手紙を書いている所だった。
「とおるはサンタさんに何をお願いするの?」
「えっとね!えっとね!……沢山のお菓子でしょ!それからね、カッコいい筆箱に、ゲームのカセットでしょ、あとねお金も欲しい!」
「まぁ、沢山あるのね~お金まで欲しいの?」
「うん!だってね!お金があったらお母さんとお出かけできるでしょ!お母さん、お仕事休んでも大丈夫になるもん!」
「……ふふふ、そういう理由だったのね。お金は分からないけどお母さんとの時間ならサンタさんもプレゼントしてくれるかも知れないわね」
「本当!?」
「ええ、だからサンタさんに一生懸命お手紙書きましょうね~」
「うん!!」
そんな素直な僕を母さんは微笑ましそうに見ながら一緒にお手紙を書いている。
胸が温かくなるような、そんな時間だった。
「ねぇ、お母さん……」
「どうしたの~?」
幼い僕は少しもじもじとしている。
だけどその先を知っている僕は思わず心の中で呟く。
(やめろ……)
「実はね、一番欲しい物は他にあるの……」
(黙れ……)
「そうなの?じゃぁ、とおるの一番は何かな~?」
母さんの言葉に、幼い僕は無邪気に返す。
「それはね……」
(頼むからやめてくれ……)
そんな僕の願いは叶わず、無慈悲にも満面な笑顔で幼い僕は告げる。
「……お父さんだよ!」
それを聞いた母さんは、少し困ったように眉を下げて答える。
「え、ええ……そうね~、おとうさんがプレゼントされたら素敵ね~」
母さんはそう言いながらそっと幼い僕の背中を撫でる。
それはまるで泣きわめく子どもを宥めるようだった。
「だけど……」
そう口を開いた母さんにかぶせるように幼い僕は言葉を吐く。
「分かってるよ……サンタさんのプレゼントでもお父さんは無理なんでしょう?」
「そう……みたいね……」
母さんは申し訳無さそうな、それでいて少し悲しそうな顔をしている。
そんな様子も知らない幼い僕は、頬を膨らませ拗ねたように答える。
「だって、いつもお手紙に書いているのに一度もくれた事がないもん……」
そんな見ていられない光景に、僕まで悲しくなる。
(母さんを悲しませるなよ……)
「とおるは……どうしてお父さんが欲しいの?」
「だって、学校でお父さんと遊んだ事が無いって言ったら馬鹿にされるんだもん」
「……そっか……ごめんね、とおる」
母さんは少し涙を滲ませながら答える。
「お母さんは悪くないよ!悪いのは意地悪なサンタさんと、帰って来ないお父さんだよ!」
「……ごめんね……ごめんね」
そのままごめんねと言い続け、お母さんは泣き崩れてしまった。
どうしてそうなったのかは分からなかったが、幼い僕は困ったような顔を浮かべながら、今度はお母さんの背中を撫でるのだった。
これは大きくなってから知った事だが、僕の父さんは死別したらしい。
まだ僕の記憶も儘ならない幼い時の事だったが、結婚記念日を忘れて怒った母さんを宥めるために、母さんのお気に入りだったというケーキを買いに、飛び出すように出て行った父さんは、交通事故に合ってしまい、それっきり帰って来る事は無かったそうだ。
そのため母さんは我が儘を行って父さんを死なせてしまったと、責任を感じるようになって、我が儘を言う事はなくなり、父さんの話題が出るといつも悲しそうな顔をするのだった。
幼い時の僕は父さんは遠くでお仕事をしているから帰ってこれないのだと聞いており、そんな哀しい出来事があったとは知らなかった。
結局この年のクリスマスには、寝ている枕元に綺麗にラッピングされた袋詰めのお菓子達と、新しい筆箱に、流行りのゲームカセット、僅かばかりのお小遣いが置かれていた上に、母さんは有給をとって遊園地にもつれて行ってくれた。
お父さんが届くような事は無かったが、この年以降は母さんのように細く綺麗な字で綴られた『お父さんより』と書かれた手紙が届くようになった。
手紙を読んではしゃいでいる僕を見て、母さんはいつも複雑そうな顔をして見守っていたのを覚えている。
そんな母さんの愛情溢れるせめてもの気遣いに、僕は胸が温かくなるのと同時にとても悲しくなるのだった。
(もっと、母さんを支えてあげたかったな……)
そんな事も思っても過ぎた事はどうにも出来ないため、今いる新しい逆転世界の母さんの事は大事にしようと心に決める。
それがせめてもの贖罪になると思ったし、何故かは分からないが今の母さんを大事にする事は元の世界の母さんを大事にする事にも繋がっているように感じたのだ。
そのクリスマスの日の大阪には珍しく雪が降り積もった。
しんしんと街に降る白い雪はまるで、母さんの悲しみも優しさも、僕の嬉しさや戸惑いも、その全てを覆い隠すかのようで、綺麗でふわふわとして、まるで温もりを感じそうな雪は、誰かの家を温めては、外の世界を冷たく包み込んでゆくのだった。
そんな記憶を胸に抱いたまま、僕は意識を深く落とした。
ご閲覧頂きありがとうございます!
本当はメインストーリーが少し重めの内容の所なので、明るくポップな内容にしようと努力しましたが、気付いたら眉を顰め、悲しい気持ちになりながら執筆していました……
お母さん……幸せになってね!
という事で皆様も良いクリスマスをお過ごしください!
毎度くれくれ行為?は煩わしいかもしれませんが、
気が向けば(´-ω-`)bや★★★★★してやって下さい。
感想やブクマも励みになりますので、お気軽にお願い致します(*´▽`*)
余談ですが、悲しきかな作者のクリスマスは、予定していたクリスマスパーティーの日にインフルでリスケとなり、体調が戻り始めたクリスマス本チャンはバイトが在宅なため病み上がりで労働です( ノД`)
物理的にクルシミマスなクリスマスでした。
皆様は作者の分も楽しんで頂けると幸いです(●´ω`●)
話の内容が重くなったのは決して病み上がりで気分が沈んでいるからとか、そういう作者の私情的な事じゃないんだからね!という事でクリスマスぶち上げていきましょう♥




