電気事業安全協会のおねえさんが『タコ足配線は危険です』とPRするためにたこ焼きを食べながら考えた企画『コンセン島のタコ足パイセン』がいかにして役員会議に提出されたかについて
「電気事業安全協会のおねえさんが『タコ足配線は危険です』とPRするためにたこ焼きを食べながら考えた企画『コンセン島のタコ足パイセン』がいかにして役員会議に提出されたかについて」
◆
電気事業安全協会のおねえさんはうーんうーんとなやんでいました。
『タコ足配線は危険です』
ということを世間のみなさんに知ってもらうためにはどうしたらいいのでしょう。
そういうおシゴトをまかされているのです。
これがまたむずかしいことに『タコ足配線は危険です! 気をつけて!』とだけ言ってもみなさんおぼえてくれないのです。あたりまえのことだけを言ってもキオクにのこらないのです。
ユニークさ。
インパクト。
ちらっとでも見てくれた人がちゃんとおぼえてくれるほうほうがひつようです。
電気事業安全協会のおねえさんはアイディアぶそくになやんでいます。
しょくばのつくえでうーんうーん。
おうちにかえってもうーんうーん。
電子レンジのまえでうーんうーん。
チンッ、とできあがりましたのは冷凍たこ焼きです。
たかが冷凍とあなどるなかれ、かつおぶしをぱらぱらとふりかけてみるとさぁどうでしょう。
できたての白い湯気がほわほわたちのぼるのにつられて、かつおぶしもふわふわおどります。
たこ焼きソースとマヨネーズをぴゃーっとぶっかけまして。
ふーふーぱくり。
はふはふもぐもぐ。
あまじょっぱいソースとクリーミーなマヨネーズの濃いあじわいにかつおぶしの風味。
こうばしいたこ焼きの皮目にとろっとした中身、そしてなんといっても、そう。
たこです。
コクとうまみとはごたえのぜつみょうなたこさんあっての、たこ焼きです。
「ああ、タコ足配線じゃなくてたこ焼きならいくらでもネタが思いつくのに」
電気事業安全協会のおねえさんはなやみがつきません。
あちあちふーふー。
はふはふぱくり。
ごちそうさまでした。
そうして食べ終わったところでふと考えつきます。
「そうだ、タコ足配線をいっそタコのキャラクターにしたらどうかしら」
こうしておねえさんは深夜のテンションで一気に企画をねりあげました。
題して――。
『コンセン島のタコ足パイセン』です。
それでは少々、この物語にどうかおつきあいください。
◇
あるところに家電アニマルたちのくらすコンセン島がありました。
コンセン島はいつも平和でとても快適です。
コンセン島には不思議なことにいくつも天然のコンセントがあります。
コンセントとは、配線用差込接続器という電気配線のなかまです。
ふたつの細長い穴が空いている独特なカタチはあなたのおうちにもいっぱいあるはずです。
あのコンセントが森や川や草や岩にあったりなかったりするのがコンセン島です。
ちなみに「コンセントを挿す」とよくいいますが、コンセントは挿れられる側の穴のことです。
では、あのコンセントに挿れるものはなに?
あれこそが「プラグ」という差し込み接続機器なのです。
コンセン島の家電アニマルたちはみんなしっぽが「プラグ」になっているのです。
コンセン島のコンセントにしっぽのプラグを差し込み、電気のちからをもらっていろんな便利なことをできるのが家電アニマルたちのとくいわざです。
冷蔵庫のレイゾウさんはおっきなカラダにたっぷりと食料をひんやり冷たくたくわえます。
冷蔵庫のおかげでアニマルたちは夏でも冷たいフルーツがたべられます。
掃除機のソウジキリンさんはきれいずき、ながーい首をのばしてゴミをかたづけます。
ドライヤーのドライヤギさんはびしょぬれの髪や服をねっぷうでかわかしてくれます。
こうやって家電アニマルはおたがいに助け合い、快適な暮らしをしているのです。
でも、コンセントの数には限りがあります。
しっぽプラグの長さだってどこまでも伸びるわけではありません。
便利な便利な電気のちから。
とってもすてきなコンセント。
家電アニマルたちはコンセントの奪い合いでケンカするようなことはありません。
けれどやっぱりこまりごとには変わりません。
どうぶつさんたちはうーんうーん。
コンセン島のみんなうーんうーん。
とってもなやんでいると冷凍たこ焼きをあっためていた電子レンジカがひらめきます。
「そうだ! ネットの海からタコ足パイセンを呼んでこよう」
「タコ足パイセン?」
「テーブルタップのタコさんが海にいるんだよ。コンセントをもっと便利に使えるんだって」
「それは名案だね! さっそくこのたこ焼きをたべおわったらタコさんを呼ぼう!」
あちあちふーふー。
はふはふぱくり。
家電アニマルたちはたこ焼きをたらふく食べるとネットの海に注文しにいきました。
「この一番安いのにしよう!」
「そうだね、安いもんね」
家電アニマルたちははじめに一番安くてあやしいタコさんにおねがいしました。
しかしコンセン島に届いたのは説明通りのテーブルタップのタコさんではありませんでした。
なんと、スマートフォンを手ぇぶるぶるでタップする夕子おばあちゃんでした。
『業者さん! 説明とちがうタコが! いえ夕子おばあちゃんが届いたんですが!』
『ワタシニホンゴワカラナイネ』
「おやまぁ、不思議などうぶつさんたちだこと」
これはこまりました。
家電アニマルたちは見知らぬおばあちゃんをどうするか悩みます。
どうぶつさんたちはうーんうーん。
夕子おばあちゃんもうーんうーん。
とってもなやみましたが結局夕子おばあちゃんはにぎやかな島で快適な暮らしを楽しみました。
めでたし、めでたし。
◆
「できた!!」
電気事業安全協会のおねえさんはわれながら名作だとおおよろこびです。
そしてえらいおじさんに見せてみます。
「どうです、すてきなおはなしでしょう!」
おじさんはタコ入道みたいなまんまるい頭です。
そしてゆでたタコみたいにあざやかに真っ赤なかおになります。
「タコはどこいった!?」
「夕子おばあちゃんになりました! もういいじゃないですか、このキャラで!!」
これはこまりました。
電気事業安全協会のおじさんは見知らぬおばあちゃんをどするか悩みます。
えらいおじさんたちはうーんうーん。
やくいんかいぎの場でうーんうーん。
とってもなやみましたが結局夕子おばあちゃんはコンセン島の代表キャラになっちゃいました。
めでたし、めでたし。
それにしても本物のタコ足パイセンはどこにいってしまったのでしょう?
もしかしたら冷凍たこ焼きの具として電気事業安全協会のおねえさんが食べちゃった?
いやいや、コンセン島のどうぶつさんたちが食べちゃったかも?
それとも、あなたがこの間おいしそうに食べていたたこ料理になっていたりして。
もし、そうだとしたら気をつけてくださいね。
『タコ足配線』は危険です。
おもいがけない火事になるかもしれません。
あちあちふーふーでは消えません。
ひとつのコンセントにテーブルタップをつないで、無理やり電気のちからをいっぱいいっぱい使おうとするとトラブルの原因になってしまうのです。
コンセン島の家電アニマルたち、そしてみなさんもどうかおぼえておいてください。
タコのうらみにお心当たりがあるひとはなおさら、くれぐれもお気をつけて。
本作をお読みいただきありがとうございました。
本作品は「ひだまり童話館」のお題企画「びりびりな話」に参加させていただいた代物です。
当作以外にもいろんな方の作品が同タグにて見れますので、よろしければそちらもぜひご覧あれ。
電気というのは私達の生活に欠かせないものでコンセントはいつもそばにあります。
でも、あれってよく考えたらなんだろう?
どうしてタコ足配線は危ないとよく言うの? と日頃の疑問から着想を得て書き上げました。
ちょっと補足をしますと、タコ足配線が危ないのは「定格電流」(電流を流す能力)を越えて無理をさせてしまうからです。
通常15Aという目安があり、20Aを越えるとブレイカーが働くのですが、15A以上で無理をさせてしまってもブレイカーが働かないのだそうです。
そうして無理をさせると加熱して、プラグやコードが発火するというトラブルに見舞われる可能性があるのです。
コードを束ねたり、まとめたり、また傷んだもの、古いもの、不良品や粗悪品は発火の原因になりますのでどうかご家庭でも気をつけてくださいね。
幸い、コンセン島に届いたのは夕子さんだったのでよかったものの、もしあやしい業者さんから届いていたのが不良タコだったらどうなっていたことか。
「我コラタココラ」とオラつくだけでは済まなかったかもしれませんね。
こんがり焼けるのはたこ焼きだけで十分というものです。
それではごきげんよう。
お気に召しましたら、ぜひ感想、評価(☆)やブックマーク等をよろしくおねがいします。