起きるとそこは知らない世界だった
名前とか固有名詞は変更の可能性があります。作品タイトルもまだ仮題です。
「ここは……」
意識が混濁し、何も思い出せない。
倦怠感を感じる体を無理やり起こすと、そこには、
「お、にいちゃん起きたか。おはろー」
俺の妹、黙っていれば美少女と言っても過言ではないその妹が、まるで普段の朝の挨拶のように、俺に声をかけた。
「あ、ほんとに起きた」
そして、もう一人女性がいた。ん? 一人でいいのか?
「妹よ」
「なんだ、あんちゃん」
芝居がたった言い方をすると、普段言わないような言い方で応える妹。
その悪戯が成功したかのような笑い方は、どこか猫を彷彿とさせる。この笑顔を見ると、怒る気が起きなくなるから困る。美少女は得だなと思う一方、この妹だからこそなのかなと思ったりする。いかん、そんなことを考えている場合じゃないと頭を振り、目の前の見覚えない女性を見る。顔の整い具合は芸能人やアイドルと言っても信じられそうなほど整っている。整っているのだが……。
「なによ」
ジッと見られるのが、不満だったのか。唇を突き出し少女は言う。
確かに女性に対して、不躾だったかな。
「はじめまして」
「はじめまして」
とりあえず、挨拶をして頭を下げると、相手が返してきた。
よし、ファーストコンタクトは取れた。
これで一安心とばかりに、返す刀で妹の方を向く。
「これって現実?」
「あたぼうよ」
「相手の女性20センチくらいしかないし。羽が生えているんだけど」
「妖精って言うみたいだぞ、にいちゃん」
「もう一回聞いていい? これって現実なの?」
「おう。二回聞いても同じだぞ、にいちゃん。ここは現実で目の前にいるのはあたしのにいちゃんだ」
もう一度、件の女性を見る。
体長が20センチで、羽が生えていることを除けば服装が独特というか、ファンタジーと言うかゲームような衣装を身に着けている以外普通である。
「美少女だ。小さいけど」
「だな。あたしに負けてないぞ」
「なぜ張り合う」
「あの、一斉に見られると照れるんだけど」
失礼と謝りながら、辺りを見渡すと、この場所も見たことない場所だ。
今横になっているベッドに、机や椅子。収納棚に壁には絵画が掛かっっている。ホテルの部屋といえばわかりやすいが、ホテルと違い電化製品がない。勿論、照明もだ。
なんとなく状況は理解してきたが、なんでという理由が全くわからない。
「全然理解できないんだが、俺はどうして今の状況になっているんだ?」
藁にもすがる思いで妹に聞いてみる。ちゃんとした答えが返ってくるはずないなと思ってしまうのが、悲しいながらも俺の妹なのだ。
「むしろ、にいちゃんはどこまで覚えているんだ?」
首をコテンと横に曲げ、妹が聞いてくる。
どこまでって……って痛っ。
軽い頭痛が走った。大丈夫と聞いてくる二人に手で大丈夫と返事をし、頭を働かせる。
覚えている最後は、確か……。
「死にそうになって……? どうしたんだ」
確か俺ら二人は事故に遭った。これは死ぬわと覚悟を決め、せめて妹だけでもと、妹の体を抱きしめたところでプツリと記憶がなくなっている。
いや、断片的に思い出ることあるような? 誰かに会ったような? そこで何かを話をした? 額にコツンと誰かの指が当たり、そして……
。
「それ神様だぞ、にいちゃん」
「え、神?」
思わず横の妖精さんを見ると、彼女も神妙な顔で頷いた。
なぜ話が通じるのだろうかと喉から言葉が出かかったが、話が横道に出そうだったので飲み込む。この場所で聞くべきことと聞かないほうがいいことがある。聞くべき言葉は選ばないと。
「神様が言うには、なんか異世界に送り込む人材探してたらしくて、ちょうどそこによさそうな人材があったから拾ってみたとかなんとか」
「適当すぎるだろ、それ……」
助かった身で言うのはなんだが、ありがたみが薄れてくる。というか、ぶっちゃけすぎないだろうか。
妖精さんもそのことは知らなかったらしく、驚きで口が半開きになっている。その愛くるしい仕草に見とれていたら、
「さすがにいちゃんだと神様と色々話をしてたら、にいちゃんを……おっとこれ言っちゃダメだった」
何か危険な香りのする言葉が妹の口から出てきた。
「おい待て! すげー気になること聞いたんだが」
妹の発言が時々支離滅裂になるのはいつものことだが、聞き逃すことができない言葉が出てきた。俺が何かをしたのか? 記憶はないのがそのせいなのか。問いただしたい言葉がいくつもでてくる。
だが、妹は話をするつもりはないようで聞く耳を持たず、話を続ける。
「んで、言っちゃダメなことがあった後、にいちゃんと神様が話し合ってこの世界のこの場所に送ってくれたんだ」
「何もわからねぇ」
情報が神様が現れたしかない気がする。
とりあえず、今生きているのは神様のお陰というわけか。
「ところで、妖精さんがいるのはどういうわけだ?」
「イナミよ。妖精さんって言われるのもむずかゆいのでそう呼んで」
現状を理解するので手一杯で自己紹介の機会を逃していた。確かに、妖精さんって言い続けるのも失礼だ。自分になおせば、この人間さんはって言ってるようなものだからな。
「失礼した。俺は、御影忠之。で、知っているとは思うがこちらにいるのは俺の妹で御影紫苑だ」
なぜかファイティングポーズというか、上段に構えている妹を紹介する。誰と戦うつもりなのだ、妹よ。
知っていると言いながら、妖精さんは、
「私はナビゲーター役で貴方達の味方。ついでに、この世界の住人出身よ」
ふわりと俺の目の前まで浮かんでそう説明した。
ナビゲーター……。
「貴方達にこの世界に生きるために知識を伝えるが主な目的。あとメッセンジャーも託されているわね」
誰からなのだろうと思ったが、この場所に視線を巡らすと自ずとわかった。
ここが異世界でここは誰かの家の部屋である以上、提供者がいるはずだ。妖精さんの家ということも可能性はあるが、ベッドの大きさや調度品的にその可能性は薄い。
俺の視線に妖精さんは違うと首を振って、
「神様よ。貴方の妹だけじゃ、誤解される恐れがあるからって私から説明するようにとおっしゃったわ」
神様からも信頼されてないのか、妹よ。
妹に視線を向けると、ふふんと自慢気に鼻を膨らませた。
威張る場面じゃない。
「忘れないうちに大事なこと言っておくと、にいちゃんの性欲はなくなってるぞ」
「はぁぁぁ!!!???」
なにそれ!?
誤解とか関係なく、恐ろしいこと言いやがった。
性欲が必要云々とかその働きとか難しいことは置いておいて、人間に必要な要素じゃないか。性欲って。いつ使うかわからないし……使う予定だし、いつか。
それを捨てるなんてとんでもない。
「にいちゃんがそう決めたぞ。神様に懇願してた」
「はぁぁぁぁ!!!???」
記憶がないからって適当なことを言いやがって(現実逃避)。
救いを求めように妖精さんを見ると、鎮痛そうな表情で首を横に振った。
「事情はあんまりよくわからないけど、本当みたいよ」
神はいなかった。
いや、いるみたいだけど。俺に対して優しくなかった。なんで俺は記憶がないのでしょう。ナビゲーターは嬉しいけれど、俺が記憶があればメッセンジャーの仕事はいらなかったと思うのですけど。
「けど、スイッチのオンオフみたいに性欲をつけたり消したりできるみたいよ。なくなっているというか、限りなく薄くなっているみたいだし」
「そ、そうなのか?」
それならいいのだろうか。オンにする方法はよくわからいが。試しに頭の中で性欲スイッチオンと叫んだが、何も起きた感じがしない。
というか今の状況に性欲が湧くのだろうか。
正面に浮いている妖精は、確かに美少女だし、上乳が見えているが、これで性欲が湧いてきたら危険人物である。俺はノーマルです。
左を見れば、妹が。確かにこちらも美少女だが、妹だ。
目が合うと、にぱーと、笑った。
犬を彷彿とさせるなつき具合に頬が緩みかけるが、性欲は湧いてこない。うん、湧いたら駄目だし。俺はまだノーマルだし。
よくわからないが、これはあとで考えよう。
「ええと、初っ端から話がそれたけど、この世界の重要なことを伝えるわね」
「ああ」
まず大事なことと言って、一番最初に伝えることが俺の性欲についてだし。
神が妹に説明させなかったのは英断だと思う。順序とか順番とか考えずに本能で生きているからな、妹は。
「まずこの世界は貴方達の世界と違い、魔法や技が存在するわ。その力を使ってモンスターと戦うの」
「なるほど」
それは予想できた。
妖精というファンタジー的な存在がいるのだから、その可能性はあるだろうと。なにより、妹のご機嫌な姿を見れば、予感はしていた。
こういうの大好きだろうからなぁ。
「人々はダンジョンに潜り、自分の器を広げ、恩寵を得て生活しているわ」
「器? 恩寵?」
よくわからない言葉がでてきた。
「器は自分の力って思ってくれていいわ。詳細は後で話すけど、とりあえずそれでいいわ。恩寵はダンジョンでモンスターを倒すとアイテムを落としたりするの。あとはダンジョン内で取れるアイテムがあったりするから、それらで人々は生活するの」
要するに魔物を倒して経験値を貰えればレベルアップするらしい。
よくわかった。
「あと、驚くだろうから最初に言っておくと男女比は貴方の世界と違うわよ。大体3:7ぐらいね。女性の方が圧倒的に多いわ」
「そうなのか」
驚くといえば驚くべきことなのだろうか。実感がないので、よくわからない。
とりあえず逆でなくてよかったなと思う。女性が少ないとなると、取り合いとなり、妹に群がる男どもが発生する恐れがある。勝手がわからない世界であるので、付き合うなら慎重にと言いたいが、妹は感性で生きているからなぁ。兄としては心配である。男が少ないとなるとその可能性は低くなると同意であり、兄としては安心できる。
「今いる大陸はファーレン大陸と言って、一つの王と四つの大貴族で構成されているわ。東のアウリース。西のイスファレーン、北のウルスラズラ、南のエスカディス。そして中央のレスティン王家」
ふぁーそうなんですかーと聞いておく。
貴族の家名を言われても、どこか縁遠きものな気がして頭に入ってこないのは仕方ない。いきなり五つ言われてもね。
「で、今この場所はウスルラズラのお屋敷で私達はその貴族に保護されているわ」
「ふぁっ!!」
すごく身近なことだった。
「で、ここからが一番大事なことだけど、この世界の貴族は一般庶民とは隔絶した力を持っているから注意ね。大丈夫だと思うけど、生意気な態度を取ったり、馬鹿にしたりすると消し炭にされるかもしれないので絶対にしないでね」
「いや、保護?してもらってるのにそんな無礼な真似はしないけど……地に伏して相手の言うことに唯々諾々と従っておけばいいのか? 靴を舐めろと言われたら舐める感じなら困るけど」
こちとら庶民である。絶対王者的存在が命を握っているとなると、気分は捕虜である。俺一人ならどうでもいいが、妹と一緒となると困る。いろんな意味で。妹は野生の勘を標準装備しているが、感性で生きているので、意に沿わないことを強要させられると反逆してしまう可能性がある。散り様にも美学もってそうだしなぁ。
「靴をって……そこまでする必要はないわよ、多分」
「多分?」
ちょっと怖いのですが。
「相手も神様から貴方達のことを頼まれているから無下にはしないわ。よほど礼儀を逸脱していなきゃお客様として尊重してくれるわ」
「なんと優しい世界」
権力者の保護。なんて甘美な響きなのだろうか。
虎の威を借る狐ではないが、権力者がバックにいるといないでは雲泥の差である。
「たださっきも言ったとおり貴族は私達とは違い、隔絶した力を持っているわ。会っただけでわかると思う。驚くなとは言わないけれど、変なことはしないでね」
「あの人達はやべぇぞ。会った瞬間、勝てないってわかったからな。異世界すげー」
「紫苑はもう会った後か」
「おう。にいちゃん目覚めるの遅かったからな。お目通りは終わったぜ」
「失礼な態度は取らなかったな?」
「勿論。貴公は愉快な御仁だなって笑ってたぐらいだ。仲良しとまではいかずとも好感触だと思うぜ」
「謝ったほうがいいの、これ?」
「……知らない」
目をそらす妖精さん。
土下座する必要あるかな。開幕土下座すれば、相手もびっくりして許してくれるかもしれない。そんな打算に満ちたことを考える。
「あと聞いておきたいんだが、俺達が異世界に送られた理由って何? 都合がよかったとか言ってたけど」
神が俺達のためにいろいろなフォローをしてくれたり、記憶にはないが俺の頼みを聞いてくれたりしてる。
労働には対価をじゃないが、目的があるからそこまでしてくれたはずだ。役目と言い換えてもいい。
俺達は何をすればいいのだろうか。魔王を倒せとかだったら嫌だが、断れない雰囲気がプンプンするなぁ。妹が選ばれた時点で、そういう空気が発生している。
妖精さんは指を一本立てた。
「一つに、死ぬ間際だったこと。生きている人を転送するより関係各所に苦情が出てこないって言ってたわ。転送される本人達からも苦情が出にくいみたいとかなんとか」
「あたしもにいちゃんも、文句言わなかったもんな」
どこかお役所仕事感がする。関係各所って何?
妖精さんは指を更に一本増やす。
「一つに、貴方達の資質と身寄りの関係? そういうのが都合よかったって言ってたわ。詳しくはおっしゃってなかったから、私にはよくわからないけど」
「なるほど」
これには思うところがあった。
俺と妹の両親は死別しており、親戚の関係も薄く天涯孤独の身と言ってもいいかもしれない。いなくなっても都合のいい存在といえばそうである。
妹は武道を習っており、天性の才能を持っている。武道の先生からはいろんな意味で惜しい存在だと言われるほどに。俺も妹と同じく武道を習っているが、一般人よりは強い程度しかない。
異世界に選ばれた大きな理由はそれかもしれない。俺は妹のおまけで。この妹一人だけだと不安だからと言われたら、大いに納得する。
「理由はわかったけど、じゃあ、俺達は異世界で何をすればいいんだ?」
「何もしなくていいみたいよ?」
「は?」
指を三本目にして、首を傾げる妖精さん。
「この世界に送ることに意味があるみたい。目的は達したからあとはご自由にと言われているわ」
「それは予想できなかった……」
「あ、でも、すぐ死ぬのはまずいから死なないでねって」
「それは俺達も嫌だから死なないけど。神様の目的は聞いてる?」
ええと妖精さんは頷いて四本目の指を出す。
「他の神々がこの世界にちょっかいをかけようとしていたから、先に貴方達を送って邪魔するそうよ。勇者召喚とかうざいよねっておっしゃってたわ」
「なんか返答に困るな」
「そうね」
なんだろうそのいざこざ。俺達を送ったのは尖兵というかここが神の縄張りだぞって示すためのなのだろうか。実効支配とかそんな言葉が脳内に浮かぶ。
先に神の力を使っておけば、それ以上神様達からの介入ができない。そんな理論を妖精さんから説明されるがちんぷんかんぷんだ。
「となると死なないのがマストか。なら、モンスターとかいる世界で、ダンジョンに潜るのが当たり前なのだろ。保護されて暮らしたらいいのか? 俺は別にいいが……」
チラッと妹に視線を向けると腕をバツ印にする姿があった。
「あたしはそんなぬるま湯な生活嫌だぜ。せっかくのダンジョンで私達には力がある。山があったら登るように、ダンジョンがあればそこに向かうのがあたし達だぜ」
「俺を勝手に含めるな。温厚堅実をモットーにして生きているんだ」
「ははっ、すっげー笑える。にいちゃんのジョークの切れは相変わらずすげぇぜ」
この妹は俺を勘違いしている節がある。ひよこが初めて見たものを親と思うような感じだ。俺は妹より先に生まれただけで、戦闘力においても妹のはるか下だ。実力云々を重要視する妹にとっての例外。
一時の反抗期はなんだっていうくらいの慕いようである。
妹はダンジョンを潜る力はありそうだが、果たして俺にその力があるのかわからない。疑問というより、不安だ。
「でも神様にも許可もらったし。力も貰ったぜ。神様のお墨付き」
お墨付きと口ずさむ妹を尻目に本当かと妖精さんに尋ねると、本当よと答えが返ってきた。
「力か。生き抜く力を与えてくれるというなら感謝しかないが……」
地球基準の力ではこの世界に通用するかはわからない。
本当に至れり尽くせりだ。何もしないでいいっていうのが詐欺ではないか心配になるほど。
しかし、力を得て、妹が貴族に喧嘩うらないか兄は心配である。
いや、神様もここまでフォローしてくれているのでその可能性も考慮しているだろう。
大丈夫なはず。
「ついでに神様に一番注文つけてたのはにいちゃんだぞ」
「ふぁっ!!」
「にいちゃん、神様に嫌われているのにすげぇなと妹は思いました」
「ちょっと待て、神様に嫌われているの俺?」
「うん。にいちゃんが神様に会ったときの記憶ないのただの嫌がらせみたいだし」
「何故!?」
「言っちゃダメって言われてるから秘密にするけど、さすがにいちゃんだと妹は思いました」
「説明してくれ!」
「言ったら、与えた力奪うよと言われてるしなぁ。ハードモードになるぞ、にいちゃん」
しょうがないなぁと喋りだしそうになった妹を慌てて静止する。
与えられた力がなんなのかわからないが、有用なものだろう。それを拒否までして、知ろうとは思わない。知的好奇心より実利だ。
「少し脱線しちゃったけど、とりあえず教えておかなきゃいけないことを手短に言うわね」
俺が質問したせいでまた脱線したようだ。
力云々について詳しく聞きたいが、それは後回しということで、最優先になることを教えてもらった。
その後、話が一区切りしたあたりだろうか、部屋をノックする音が聞こえた。