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2 神さま

「異世界、ですか?」


「そうじゃ。新たな命を手に新天地に転生するのだ……なんじゃ、少し喜び方が足りんくないかの」


 そういわれても、いきなり過ぎてピンとこない。

 異世界? もちろん意味は分かる。俺が普段よく読んでる作品の中にも腐るほど出てくる。でもそれは剣と魔法の支配するような世界で、娯楽用のファンタジー世界にすぎない。だいたい主人公に都合のいい展開が起きるようになっている世界なのだ。そんな都合いい世界なんて現実にあるわけないし、期待するだけ無駄……いや、ちょっと期待してなくもないけど、聞くのこわいな……


「因みにお主の故郷地球とは大分根本の異なる世界でな、まぁもちろん人間なんかはおるんだが、それ以外にも獣人やエルフなどという多数の種族が生息しておる。あとは魔力というものが霧散しとる世界での、それを活用した暮らしや、魔法という力を行使することができる」


 え……うそ。それって……ホントに典型的なファンタジー異世界じゃないか? まさかホントにそんな世界があるだなんて、しかも俺がその世界に絡むことになるとは……もしやこれは夢か? 走馬灯的な何かが流れてるだけとか? いや、この現実味は流石に空想のものとは思えない。


「で、どうじゃ、まぁ拒否するというのであれば無理強いはせんが」


「い、いえ。ぜひお願いいたします」


 断る手などあるわけない、この機を逃せばのちのち後悔する気しかしない。


「そうか、分かった」


「でも一つ疑問があるんですけど……どうして俺なんですか?」


 なぜ俺なのか。たしかに若くして死にはしたが、そんな人物この世にいっぱいいるはずだ。もしかしてそれらの人全員を対象に行っていることなのか? こんな手間のかかることを?


「うむ、当然の疑問じゃな。まぁお主は特別なんじゃ」


「特別……というのは?」


「ああ、実はじゃな……ぷ…………お主の死に方にあるのじゃ」


 気のせいかもしれないが、神様が途中で軽く吹き出したように見えた。いや、まさかな、この淡々とした知的な感じの人がそんな放してる途中に笑うとかするわけない。


「死に方ですか?」


「うむ、その、じゃな……お主の死ぬ瞬間というのをたまたま見ておったのじゃが……あれは……何をどうすればああなるのか……ぷぷ……」


 話してる途中で神様は下を向いてしまった。

 あれ? やっぱり何かおかしいぞ。絶対何かある。


「神様?」


「いや、すまない、つい思い出してしまってな……くっ……ぶはっ」


 ついに神様は完璧に吹き出した。

 めちゃくちゃ笑顔だった。


「ど、どうすればあんな死に方ができるのじゃ、人を助けようとして、自分が即効車に敷かれるという、狙ってやってはおらんかの? ぷぷ、それに吹っ飛び方も完璧じゃったぞ。あれはあの状況といい相当芸術点が高いな、くく、ぐ……」


 そう言ってお構いなしに笑いまくる神様。

 なにやらツボに入ってしまったらしい。

 なんだよ、俺の死に方をみて笑ってたのか? ひどすぎだろ、俺だって死にたくて死んだわけじゃないんだぞ。


「ハァ……ハァ……ふぅ、というわけじゃ」


「どういうわけだよ!」


 ついに耐えきれずキレツッコミしてしまった。


「いやぁ、すまんのう。まぁ久しぶりに笑わさせて貰ったから……あの死に方は流石に可愛そうというか、同情するものがあったからのう。ワシからの特別サービスで転生の切符をプレゼントしてやろうということなのじゃ」


 おい、今最初の方に本音が入ってたぞ。ごまかせるとでも思ってるのか? はぁ、なんだよ、死ぬは笑われるわでホント最悪だわ。


「まぁでもお主は運がいいぞ相当。普通はこんなこと中々ありえぬからな」


「……笑うことはないと思うんですけど」


 笑われたのは癪だが、まぁその分転生して貰えるというのならありがたい話ではあるか。笑われるのなんてちょっと我慢すればそれでいい気もするし。


「だからすまんと言うておるじゃろ。その分能力もかなりいいものにしといてやるから」


「能力、ですか?」


「うむ、そうじゃぞ。流石に着の身着のままじゃ不自由も多いじゃろうし、危険じゃからな。即効死んでしまうことにもなりかねん。車に敷かれた時のようにな」


 そう言ってまた下を向いて笑いをごまかす神様。

 はまりすぎだろ。こっちは全然いい気分しないんだが。


「はぁ。で、能力ってどんなのですか」


「ふむ、まずは何と言っても強靭な肉体じゃろうな。多少の危害にはびくともしないくらいのスペシャルな体質にしといてやろう。これで寿命もほとんどないに等しくなるぞ。それと折角の異世界じゃ、魔法は使えるようにしといてやろう。まぁ普通は魔房官というその世界の住人特有の器官で魔力を貯蔵し変換するわけじゃが、当然お主にそんなものはないからの、特別に念じるだけでどんな魔法でも使えるようにしといてやる」


 おお……魔法か。使えるというのならありがたい話だな。俺が使ってるビジョンはイマイチ見えないけどな。


「通常であれば何か一つの属性に絞ったりして授けるものなんじゃがの。出血大サービスじゃ。まぁこんなものかの。全魔法が使える時点でそれなりの万能性はあると思うが、他に要望なんかはあるかの?」


 そう尋ねてきた。要望? そう言われてもな、その世界がどんなものか全くわかんないし検討がつけにくいというか……


「そうですね……その世界の知識とか?」


「知識か。分かった、ただし人の記憶を改造することは神といえ許されてはおらんからの、世界の情報が詰まった書物を与えよう」


「ありがとうございます」


 適当にお礼しておいた。

 いや、なんだかトントン拍子に進んでるけど大丈夫なのかな。ちゃんと過ごせるのかどうかとか不安しかない。


「じゃあまぁそんなとこかの。まぁ順当にいけばお主はその世界でもかなり長寿の部類になると思うからの。気長にやるのがコツじゃよ。これは神としてのアドバイスじゃ」


「はぁ」


 よく分からんが神様もそれなりの年月生きてるからこその知恵なのかな。まぁ生まれて十数年の俺が今考えることでもない気がするけど。


「それじゃあ達者でな、もう会うことはないじゃろうが、お主のことは忘れんでおくぞい」


「あ、はい。いろいろありがとうございました」


 俺がそう言うと、徐々に目の前に輝きが生まれ俺を覆っていく。

 その忘れないというのはどういう意味でなのかと一瞬聞き返したくなったが、なんとか耐えることができた。あーあ、なんか不思議なことが起きちゃったな。これからどうなっちゃうんだろ。まぁ後ろ向きになっても仕方ないか。神様の言う通り気長にやっていくのが吉なのかも。まぁ後のことは転生してからでも考えるとしよう。



 そうして俺の視界は光に覆い尽くされた。

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