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1 はじまり

「うぅ、思ったより寒いな……」


 こんなことならもう少し着てくればよかった。

 俺は自転車で近所の本屋さんへ向かいながらそんなことを思う。

 今月は俺の集めている漫画シリーズの最新刊が発売される予定だ。

 そのシリーズにはとてもハマっていて是が非でも手に入れたく、こうして一生懸命に自転車を漕いでいる。


 月日はもう高校二年の冬に差し掛かろうとしている。

 ホントに年がすぎるのは早いものだ。

 早生まれなのでまだ十六歳だけど、メチャクチャ時がすぎるのが早く感じるんだよな。まだこの前入学式があったばっかじゃないか? ダメだ、このままじゃ一瞬でおじさんになっちゃうぞ。自分でもその姿はちょっと想像できないけど……あぁ、ホントに嫌になるな。


 若いうちに何か挑戦した方がいいとは聞くが、俺は本当に怠けもので、そんな気にはとてもなれない。あくまで自分のペースで、のんびりと毎日を送っていきたいのだ。ダラダラテレビ見たり、ラノベを読んだりアニメを見たり……ああ、ホント一生ダラダラして暮らして生きたいよ。でも時間は有限なんだよなぁ。あいにく俺は田舎の家業を引き継ぐことになってるから、同年代の人とかと比べれば時間のゆとりはある方なんだろうけど……。うーん、願わくば時の流れなんか忘れて、のんびりと好きなことだけして生きていけたらなぁ。そんなの無理なのは分かってるけどさ。


「おっと、そろそろだな」


 考え事をしているうちに、目的地が近づいてきていたようだ。

 俺の住んでる地域はだいぶ田舎なので、一番近くの本屋に行くだけでも小一時間くらいかかってしまう。まぁだからこそゲットのしがいがあるというものだけどな。そう思うことにしてる。



 ――ぷっぷー。



「うん? なんだ」


 割と近くの方でクラクションがなった。

 見てみると、近くの交差点付近で車が軽く渋滞してしまっていた。

 なんなんだ? そんなに渋滞するようなところでもないけどなここ。


 しかしよく観察してみればその原因が分かった。

 信号つきの横断歩道があるのだが、その真ん中で誰かが立ち止まっているのだ。

 え、なんなんだろう、たしかにあれじゃ車が通ろうにも通れないよな。


 そして多少時間が経っても中々その人物は真ん中から進もうとしない。

 ホントにどうしちゃったんだ? まぁ別に俺には関係ないからスルーしていくか。俺にはやるべきミッションが課せられてるからな、余計な時間を使うわけにはいかないのだ。


 そう思い、そっぽを向こうとしたところで……その人物の様子が目に入った。

 その人物はかなり年配のおばあさん? だったのだが、どうにもうなだれてシャキっとしない感じだ。そして次の瞬間、おばあさんはふらっとよろめき、片膝をついた。


 ええっ、これってやばいんじゃないか? 何か絶対体調に異変が生じてるよあれ。はぁ、正直他人だし本当を言えば俺には関係ないどうでもいいことなのかもしれないけど……じゃあこのまま見てみぬフリをする……? まぁありえない。俺がここで困ってるおばあさんも助けられないような冷めた奴なわけないだろ。男が聞いて呆れるわ。俺はいざという時は、本気を出すタイプなんだよ!



 覚悟を決めた俺はおばあさんのいる横断歩道へ向かって駆け出した。


 だが直後、右から来ていた車に思いっきりはねられてしまった。


 き、気づかなかった……。というか歩行者用の信号が赤だから普通に車通ってるわ……なんてアホなんだ俺。こんな最後って……



 俺は全身に物凄い痛みを感じながら、意識を失っていった。















「う、うぅ……あれ?」


 俺は異変を感じ、体を起こす。

 周囲は真っ白な空間だった。

 特段物なんかも置かれていない、殺風景な白い空間に、俺はいた。

 なんだこれ。

 俺は確か……えっと……


「ああ、起きたかの」


 声が聞こえた。

 見てみると、小綺麗な印象を受けるおじいさんがいた。

 あごにヒゲを蓄えていて、けれど不潔感はない、上品な感じの人だ。


「あ、あなたは?」


「ああ、ワシか。ワシはお主の世界でいうところの神じゃよ。あらゆる世界を統べる……とまではいかないが、一定の枠組みを管轄しておる世界の管理者じゃ」


「神……さま?」


 なんの冗談だろうかと、普段なら一笑に付していただろうが、この不思議な現状を見て、とてもおかしいなどと思うことはできなかった。


「そうじゃ。まぁ見るからに困惑しておるといったところじゃのう。まぁあらましを教えてやる。もとよりその予定ではあったがの」


「僕は……俺はどうなっちゃったんですか?」


 なんだか怖くなり、つい素で質問してしまった。


「ふむ、驚くでないぞ? お主は死んだ。履歴をみるにほぼほぼ即死じゃったようじゃから記憶は薄いかもしれんがのう」


「あ」


 思い出した。そうだ、俺はあの時、おばあさんを助けようとして……それで……


「あぁ……おもいだし、ました」


「災難じゃったのう。まぁお主が勝手に自滅したようなものじゃから、まだ割り切れる方の死因じゃとは思うが」


 ああ、なんて間抜けなんだ俺は。あんな死に方するなんて、穴があったら入りたい……ってあれ? 死んでるのになんでこんな風に喋って……


「まぁそう悲観するでない。今回はお主にとって、非常に良い知らせがあるからの」


「良い知らせ……?」


 神様は勿体ぶったように目を伏せたあと、口を開いた。


「お主を、異世界に転生させてやる」



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