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第二十話   精気練武

 俺は興味津々(きょうみしんしん)な目を向けてきたアリシアさんに、下丹田(げたんでん)で練り上げた精気を応用することで使える、〈精気練武(せいきれんぶ)〉の種類と効果について以下のように説明した。


発剄(はっけい)〉――精気を肉体や武器の一部に集中して攻撃力を高める。


化剄(かけい)〉――精気の流れを別方向に()らせて回避力を上げる。


聴剄(ちょうけい)〉――精気を一定の範囲内(はんいない)に広げて察知力を上げる。


硬身功(こうしんこう)〉――全身に(まと)わせた精気を固めて肉体を頑強(がんきょう)にする。


軽身功(けいしんこう)〉――全身に(まと)わせた精気自体に浮力(ふりょく)を持たせる。


保健功(ほけんこう)〉――精気を使って肉体内部の異常状態を把握(はあく)する。


箭疾歩(せんしつほ)〉――精気を両足に均等(きんとう)に集中させて高速移動できる。


気殺(けさつ)〉――精気を完全に消して気配を断つことができる。


周天(しゅうてん)〉――精気を増幅させて普段の数倍から十数倍の力を出せるようになる。


龍眼(りゅうがん)〉――精気を両目に集中させることで、普段は見えない色々なモノが見えるようになる。


 これらの説明を聞き終えたアリシアさんは、


「私の国にも魔力(マナ)を使って超常現象を起こす魔法使いという人間がいましたが、そんなに魔法の力を区分していることはありませんでした」


 と、あまりの驚きに大きく目を見張った。


 俺は「けれども」と両腕を組んで言葉を続ける。


「このすべての〈精気練武(せいきれんぶ)〉を完璧に使える道士(どうし)は少ないと思います。道士(どうし)も普通の人間ですから、どうしても得手不得手(えてふえて)がありますので」


 これは本当のことだ。


 俺は仁翔(じんしょう)さまの紹介で知り合った、中央政府のお(えら)いさん――陳烈膳(ちん・れつぜん)さんのことを思い出す。


 その烈膳(れつぜん)さんが統括(とうかつ)する仙道省(せんどうしょう)仙道士(せんどうし)たちも〈精気練武(せいきれんぶ)〉を使うが、すべての〈精気練武(せいきれんぶ)〉の効果を最大限まで引き出して発揮(はっき)できる人間は1人もいない。


 それこそ仙道士(せんどうし)たちは道家行(どうかこう)に所属する、第1級の道士(どうし)のさらに上の身分と力を持っているにもかかわらず、だ。


 まあ、その仙道士(せんどうし)たちには〈精気練武(せいきれんぶ)〉を超えるあの力――〈宝貝(パオペイ)〉があるので良いのだが。


 俺はちらりと自分の〈無銘剣(むめいけん)〉に視線を落とす。


 まさか、この〈無銘剣(むめいけん)〉も〈宝貝(パオペイ)〉だとは思わなかった。


 どうりで離そうと思っても離れなかったはずだ。


 俺はもう〈無銘剣(むめいけん)〉とは呼べないな、と柄頭(つかがしら)をポンと叩く。


 そして〈無銘剣(むめいけん)〉の本当の名前を思い浮かべたとき、アリシアさんは俺の顔を見て「普通の人間……」と(つぶや)いた。


「では、龍信(りゅうしん)さんはどうなんですか? 確か龍信(りゅうしん)さんは神仙界(しんせんかい)という場所から来た仙人せんにんというものなのでしょう?」


 仙人(せんにん)


 それは現世(うつしよ)とは異なる神仙界(しんせんかい)という場所に住んでいる、人間とは比べ物にならない力を持った存在のことだ。


「ええ……ただし仙人(せんにん)と言っても、今もそうですが自分は半仙(はんせん)という存在でした」


半仙(はんせん)?」


仙人(せんにん)になるための修行をしている、半分人間で半分仙人(せんにん)の者のことです。まあ、どちらかと言えば限りなく自分は人間寄りでしたね」


 これもちょうど良い機会だと思った俺は、アリシアさんに包み隠さず思い出した範囲の記憶を話した。


 自分は子供の頃に妖魔に両親を殺され、天涯孤独(てんがいこどく)の身になってからは極貧(ごくひん)の生活を送っていたことだ。


 やがて俺はとある1人の道士(どうし)に弟子入りし、正式な道符(どうふ)を持っていなかったが師匠と一緒に妖魔討伐(とうばつ)や薬草採取の仕事をしていた。


 しかし、13歳になったときに師匠が病気で亡くなって再び天涯孤独(てんがいこどく)の身になってしまった。


 そんなある日、俺の目の前にとある1人の仙人(せんにん)が現れた。


 仙人(せんにん)(いわ)く、俺には仙人(せんにん)になる見所があるという。


 その後、俺は素質を見込まれた仙人(せんにん)神仙界(しんせんかい)という人間界とは別な世界に連れて行かれた。


 神仙界(しんせんかい)は時の流れが人間界と異なっており、13歳の頃に連れて行かれたときのまま年を取らずに百数十年を過ごして修行に(はげ)んだ。


 そして神仙界(しんせんかい)仙人(せんにん)になるための修行をしている最中、人間界に妖魔が(あふ)れて深刻なことになっていることを知った。


 俺は今の自分の力でも人間界を救えると思い、神仙界(しんせんかい)でも絶大な発言力を持っていた俺の武術と精気練武(せいきれんぶ)の師匠であった太上老君(たいじょうろうくん)さまに人間界に行きたいと頼んで了承(りょうしょう)していただいた。


 それが数年前のことであり、この人間界に来たときから普通の人間と同じく年を取って肉体が成長していったこともすべて話したのである。


「それで龍信(りゅうしん)さんはこの人間界に?」


 はい、と俺は首を縦に振った。


「ですが人間界と神仙界(しんせんかい)は異なる世界なので、そんな簡単に行き来できるものではないんです。それでも神仙界(しんせんかい)には人間界へ行ける特殊な(じん)があったので、俺はその(じん)の力で人間界へ帰って来たのですが……」


「そのときに記憶を失ってしまった、と?」


 俺は「そうです」と答えた。


「ちなみに(じん)とは仙字(せんじ)と呼ばれる特殊な文字を円形の図にしたものなんですが、その(じん)を使って人間界へ行くには使用者の莫大(ばくだい)な精気が必要だったんです。しかし、俺にはまだ上手く人間界へ行けるほどの精気がなかったんでしょう。結果的に俺は人間界へ来れたものの、自分の名前と神仙界(しんせんかい)会得(えとく)した〈精気練武(せいきれんぶ)〉……そして神仙界(しんせんかい)に行くまでの道士(どうし)であったこと以外のことを忘れてしまった」


 こんなところです、と俺は身の上話を終えた。


 へえ、アリシアさんは()に落ちたような顔をする。


 そんなアリシアさんの顔を見て俺はふと思った。


「……アリシアさん、どうして俺が普通の人間じゃないと分かっても冷静でいられるんですか? 俺はこことは違う世界から来た者でもあるんですよ」


「はい、それは理解できました。要するに龍信(りゅうしん)さんが修行されていた世界は、私のいた国で言うところの〝異世界〟だったということでしょう? だったら、そんなに驚くことじゃありません。むしろ最初は私と同じ普通の人間だったということに安心しているほどです」


「どういうことです?」


「近年ではあまり見かけなくなりましたが、私のいた国には以前からわりと異世界からやってくる本物の異世界人が多かったらしいですよ」


「本当に本物の異世界人だったんですか?」


「王宮魔導士が召喚術で呼び寄せていたというのですから、間違いなく本物だと思います。私は会ったことはありませんが、実際に異世界人に会ったことのある古い人間たちが言うには、異世界人は実力のわりには言動(げんどう)や考え方が幼稚(ようち)だったりであまり良い印象はなかったようです……何か話がズレましたね。そう言うわけで龍信(りゅうしん)さんが仙人(せんにん)という存在だったとしても私は気にしませんよ」


 そう言うものなのか、と俺はアリシアさんを見つめた。


 まあ、異世界人のことはさておき。


「どちらにせよ、当面の問題は東安(とうあん)までの路銀(ろぎん)ですね。西方の国を牛耳(ぎゅうじ)っていたほどの巨悪な妖魔なら、おそらく王都である東安(とうあん)に行けば何かしらの有力な情報が(つか)めるはずですから」


 アリシアさんは「う~ん」と困ったように(うな)る。


「でも、路銀(ろぎん)の当てにしていた薬草は没収(ぼっしゅう)されてしまいましたしね。さすがに東安(とうあん)までの手持ちは不安です」


 俺は大きく(うなず)き、そしてアリシアさんに提案する。


「となると、ここは道士(どうし)らしく道家行(どうかこう)で妖魔討伐(とうばつ)の仕事を()けましょうか?」


 異議ありません、とアリシアさんが了承(りょうしょう)してくれたときだ。


「それと龍信(りゅうしん)さん……これは前からも思っていたんですが、私と龍信(りゅうしん)さんは同じ年ですよね。それにこれからも一緒に旅をする仲間でもあることですし、敬語(けいご)で話すのはもうやめませんか? ずっと他人行儀だといつか(つか)れてしまいますよ」


 今度はアリシアさんがそのような提案をしてきた。


 確かにアリシアさんの言うことも一理ある。


 どれぐらいの日数が掛かる旅になるかは分からないが、これから互いに背中を預けることもある人間関係の中で他人行儀なのは気疲(きづか)れしてしまうことだろう。


「そうですね……いや、そうだな。だったら、もう敬語(けいご)を使うのはやめようか」


 俺はアリシアさん改め、()()()()にニコリと笑みを向けた。


「じゃあ、これからもよろしく頼む。アリシア」


 アリシアは同じく笑みを浮かべながら(うなず)いた。


「こちらこそ、龍信(りゅうしん)


 と、俺たちの仲が急激に(ちぢ)まったときだ。


「お待ちどうさま!」


 給仕の女性が俺たちの頼んだ料理を運んできてくれた。


 何もなかった卓子(テーブル)の上に飯物や麺類、野菜炒めが並べられる。


 俺とアリシアはゴクリと生唾(なまつば)を飲み込んだ。


 正直なところ、今日は予想外な出来事があったので俺は腹が減りに減っていた。


 そして、それはアリシアも同じだったのだろう。


 美味そうな料理の数々を見た瞬間、俺とアリシアは食欲に突き動かされて(はし)を手に取った。


 ひとまず、まずは腹ごしらえ。


 俺とアリシアは細かいことは忘れ、ほぼ同時に(はし)を料理に伸ばした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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