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オーレリー  作者: 櫻塚森
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少女③

「姫様~、お茶にしましょう!」

元気な声に振り向く。

「スコーン焼いたよ~、上手に焼けたんだ!」

紅茶と軽食を載せたワゴン。

「あら、良い香りね。紅茶はアルフォンスが?」

「姫様に淹れる紅茶は自分がって譲ってくれない!」

しかし、そのアルフォンスの姿がない。懐中時計を確認してエミリアがカップに紅茶を注ぐ。

「旦那様に呼び出されて出掛けたよ。」

「まぁ、何処に?」

首をかしげるエミリア。

「目的は内緒なのかしらね。」

幸せそうに微笑む姫。それだけで心が穏やかになるエミリア。姫もまた、自分があの子を失ったことに悲しんでいるのを気遣う彼等に心が暖かくなった。



**********



少女の健康は少しばかり回復した。病への抵抗力が弱いのは魔力保有量が少なく魔術が使えないせいだろうと医者は言った。

その医者の言葉を受けた後、少女のもとに義母と義妹がやって来た。

「お前のために高額な治療費を払うなど許さないから、少しだけ、封印を解くわ。」

そう言って義母は腕輪の宝石を一つ取り外した。

外された途端、体に温かいものが流れ出したのを感じた。

「明日からは、また小屋に戻りなさい。ここは、あなたのいる場所じゃないの。」


次の日の朝早く。叩き起こされた少女はいつもの服に着替え固くなったパンと冷めた野菜の煮汁だけを食べて洗濯場へと向かった。

洗濯場には少女と同じ年頃の下女が二人いた。久しぶりに姿を見せた少女に一人が訪ねる。

「あんた、下女の癖に旦那様に贔屓されてんのね、」

憎しみの宿った瞳だった。

語る内容は少女の治療のことだった。

「これ、全部洗ってよ。あんたがいない間、あんたの分もあたしらがしてたんだ。」

もう一人の下女を引っ張るように連れていってしまった。

少女は仕方ないと息を吐くと洗濯作業へと意識を戻した。

そうして、また、いつもの生活に戻った。

貴族令嬢としての知識や振る舞いは不要とされ、義母の言う封印を解かれる前よりはましになったが、慣れない仕事は失敗も多く、父、義母以外にも怒鳴られ、折檻された。

残バラに切られた髪は整えることを許されず、掃除の時に鏡にうつった自分の姿に悲しくなった。

自分で脱ぎ着の出来る服は便利だと思ったが、何せ着古した御下がりしか少女には与えられず、横は余っているが常に丈の足りない状態でいつも踝が丸見えだった。義妹ははしたないと少女を笑い、可愛らしいドレス姿を見せつけた。やっと一番短かった髪が顎の位置まで伸びた頃、幸せだった頃にいた使用人が全て入れ替わっていたことを知った。あの父親と義母はちゃんと退職金を払い紹介状を書いたのだろうかと心配になったが、

自分をお嬢様と呼んでくれていた執事も家政婦長の姿もなかったことも気にならなくなった。

少女のために実母が用意していた家庭教師はいつの間にか義弟妹担当となり、会うことはなくなった。

義妹は、父、義母に右にならえの性格で、無理難題を少女に押し付けては失敗を笑いお気に入りのメイドに命じて鞭打ちにした。

誰も味方のいない中、義弟だけは少女に何もしなかった。父や義母の言動に眉をひそめ、時にため息をついていた。彼らを諌めることもしなかったが、関わりたくないと言う思いが幼いながら顔に現れていた。七歳になった義弟は、父を説得して王立学園の寄宿舎に入り屋敷から消えた。

そんな生活を送る中、少女は婚約者の存在など忘れ去っていた。


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