役人と罪人
使用人の顔が少し明るくなった。
「そ、そうですとも、我々はドラクロア公爵家の命に従い、オーレリーを助けていました。」
直ぐ様言葉を発した。
「他家の令嬢を呼び捨てにするのね、」
ブランカのツッコミに顔を思わず伏せる。
「この二人からの報告は、どんな内容でしたか?」
役人からの質問にリュカは、
「オーレリーは、病気がちで伏せていることが多く、あまり部屋から出てこないと……だから、私はオーレリーが少しでも元気になればいいと手紙に花や菓子、後、幼い頃オーレリーが好きだと言っていた動物の絵画を添えて送りました。」
そして、オーレリーがそれらをとても喜んでいると返事を貰った。
「でも、ある日からオーレリーからの手紙が来なくなり、報告も一辺倒なものばかり。彼女の病状が知りたくて侯爵家掛かり付けの医師を探しましたが、彼は、母君を救えなかったと首になっていました。婚約しているとは言え、魔術契約を結んでいる以上、仮であることは違いなく、父母からもこれ以上、他家の内情を調べるのはよくないことだと言われ、何通もオーレリー宛の手紙を彼らに託しました。けれど、オーレリーからの返事はなく、代わりに異母妹から、おかしな手紙が届くようになり、国に訴えを起こしました。」
リュカは、様子の分からない婚約者のことをデラージュ侯爵当主代理が隠していて、もしかしたら、亡くなっているかもしれないので、探してくれと訴えた。しかし、魔術契約がまだ生きている限り相手は死んでいないこと、訴えは当時未成年であるリュカからのものだったため、保留されていた。しかし、その訴えにドラクロア公爵当主も後を押したことから、まずは、当主代理を王都に呼び出し聞き取りを行ったのだが、曖昧な返答と領地が遠方であるのとから、今回で最後にしてほしいとの逆の訴えを起こされた。ここにきて魔術契約の存在がオーレリーの無事を証明していると法の下認められる結果となった。
しかし、役所は、当主代理とデラージュ領の経営悪化、無届けの税率増加について本格的に調べることになった。その結果、出るわ出るわの犯罪に国王自らが遠方の地こそ目を掛けなければならなかった事実を知った。
「役所は国王からの命でこちらの地に私を始めとした役人と騎士団の派遣を決定しました。デラージュの当主代理は、私邸に籠り、役所である公邸には寄り付いていないこと、当主代理に不都合な政策には頑としてサインをせず、反抗的な役人達を次々に首にして、万年人手不足に陥り、国に優秀な役人の派遣を申請していたので、私達は容易に潜り込めました。ほんと、バカな人です。で、デラージュ家に援助をしているドラクロア公爵家やトレイユ伯爵家にも協力を願い、先々代当主夫妻や前侯爵の死因に疑問が生じることになり、当主代理を拘束することが出来ました。その過程でオーレリー侯爵令嬢の現状を知り、彼らがドラクロア家に正しい報告を怠っていることも判明しました。」
二人は皆の視線を受けて項垂れていた。
「この二人は、ドラクロア公爵家に雇われたことに誇りをお持ちでした。優秀な自分達はきっとラファエル様に仕えることになるのだと。」
ドラクロア公爵家嫡男の名前にリュカが反応する。
「ところが、命じられたのはいずれは公爵家を出ていくリュカ殿の婚約者の実状調査。しかも、公爵家を出て、斜陽と噂のデラージュ侯爵家にいけと言われ、内心憤慨していたのですよ。だから、リュカ殿の命に背き、送られてくる物は、ほぼシェリー嬢に渡した。リュカ殿が本当に望んでいるのはシェリー嬢なのだと言ってね。その結果、オーレリー様の存在は、このデラージュ侯爵家でとても軽いものになり、近年雇われた使用人の中にはオーレリー様が正当な後継者であるなんて、知らない者の方が多くなった。」
何てことだとリュカもシモンも固まってしまった。
「俺のせいで、オーレリーが苦しんだのか………。」
リュカは今にも泣きそうだ。
しかし、オーレリーは笑っていた。彼女自身の魂は愛する母の元へと旅立った。誰を恨むことなく。けれど、自分に体を譲ってくれたオーレリーの当時の苦しみや悲しみ、辛さ。その感情は、彼女の体が覚えていた。
オーレリーは立ち上がり、二人の元へ。見下ろされた使用人は尻餅を付いた。
「バカな人達。だから、私があの女に鞭で打たれてても笑ってたのね。執事と家政婦長は見て見ぬふりをして、後で薬湯をくれたけど、あなた達は率先してあの女達を煽ってたよね。」