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オーレリー  作者: 櫻塚森
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少女

「あっ……。」

小さな声に彼女を姫と慕う者達が集まる。

「今年もダメだったわ……。」

落ち込む姫の肩に置かれた手は、姫の愛する男のもの。

「雪の一族は、根雪のある特殊な結界内か、冬の間しか里で存在出来ないからね。」

吐く息はまだ白いのに冬の色合いは褪せていく。

姫が男に頭を預ける。

「私は、あの子にずっと傍に、微笑んでいてほしいだけですのに……。」



********



痛みに震えた。

吹き付ける雪から身を守る防寒着はない。

積もった雪に抗うように進める足には、ただ痛いと言う思いしかなかった。

どうして、こんな目に……そんな問いは十年も前に棄てた。

棄てるしかなかった。体も心も血の涙を流している。

誰も気付いてくれない、助けてなどくれない。

帰りたくなどない、でも帰らなくては、いけない。帰らなくては今以上に痛いことが身に起こる。

少女は、そう思いながら足を進める。

抱いているのは、自分の命よりも大切だと言われた頼まれもの。丁寧に包装されたそれを受け取りに行った店では、本当に使いの者なのかと疑われ、確認が取れるまで時間を要した。その間に外の天気は悪くなり、店を出る頃には早々に店仕舞いをしたのか、街は閑散としていた。昼間だと言うのに暗く、この雪で人通りも少ない道。冬の季節に薄い七分丈の洋服の少女。違和感に気付く者、気付かない者達が声を掛けることなく少女の横を通り過ぎた。

受け取った頼まれものを抱く胸だけが雪と風から守られていた。けれど少女は分かっていた。帰った先できっと自分は折檻されると。大切な頼まれものを包んだ包装紙は、この雪で濡れてしまっている。きっと中身にも影響はあるだろう。

こんな天気の日に使いを頼むなら、普通は馬車を使う。しかし、少女への命令はその身一つで店に取りに行けと言うものだった。

「家の方からの注文なら、此方から参りましたのに。」

と言われた時、少女はああいつもの“戯れ”かと確信した。

母が生きている頃はよかった。良かった思い出があるから、余計に今の自分が惨めだった。入り婿の父も優しかった。それまで病気一つしていなかった母が倒れてあっという間に亡くなるまでは。

母の葬式から一週間も経たない内に父が、少し派手なドレスの女と一つ年下の双子を連れてきた。喪中である家にやって来た一団に家の執事も家政婦長も目を丸くしていた。 

新しい家族と言われたが、その輪の中に少女は馴染めなかった。双子は父からその色合いを受け継いでいた。濃い金髪に青い目の双子。父は少年の肩に手を置き、跡取りが出来たと喜んでいた。

その発言に対して、少女は父に問うた。

この家の血筋は母からのもので、この家の跡取りは母の子である自分ではないのかと。その時の父の顔を少女は忘れられないものとなった。

瞬間、頬の痛みと頭が揺れる感覚、そして、少女の小さな体は壁にぶつかった。

気を失った少女は寒さで目を覚ました。すきま風の入る小屋の粗末なベッドに寝かされていた。小屋には鍵が掛かっており、どんなに声を上げても誰も来てくれなかった。泣きながら助けを求めた。泣き疲れた時には頬の痛みなど忘れていた。粗末だが少女には頑丈な扉は彼女の手を傷付けた。硬いベッドに腰掛け、日が完全に沈んだ頃、その扉が乱暴に開いた。

入ってきたのは、見たことのない男と女。屋敷の使用人の制服を来ているのを見た。

「立て。」

今まで命令などされたことのなかった少女は戸惑った。戸惑いの中、腕を掴まれて引き摺られるように立たされ、歩かされた。

通された父の執務室に放り込まれた少女は、目の前に立つ父と義母に気付いた。

二人の見下ろす目が怖かった。義母となった女が少女の腕を掴み腕輪を嵌めた。

腕に付けられた腕輪は少女の腕に食い込む程にキュッと締まった。

「あっ!」

呆然としていた少女は髪の毛を引っ張られ後ろに倒れた。

痛いと叫んだら、父親にまた頬を叩かれた。

ジョキッと頭の後ろで音がして、不意に体が自由になり床に銀髪が落ちた。

ゆっくりと手を後頭部に当てる。束ねていた髪がなく、長さもバラバラで短いところは頭皮まで指の第一関節ほどだった。母親譲りの自慢だった髪が切られた。少女は父に叩かれたことよりも悲しくて泣いた。


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