神様2
「なんで私モブキャラなのよ!しかも特別可愛いわけでもないし綺麗でもない!才能もないし全然特別じゃないじゃない!」
自称神こと専属執事となったルークをポカポカと叩くが5歳の攻撃力ではダメージにならない。
「だれがヒロインにするって言ったんだよ。そもそもお前が勝たないといけない相手こそヒロインだぞ。」
ひょいっと抱き上げられると彼から金木犀の香りがした。
(懐かしい匂い)
匂いを確かめるように深呼吸をすると荒ぶった心が少し落ち着いた。
アイリスを抱き上げたルークはそのままどこかへと歩き出す。
「だったらライバルの悪役令嬢でもよかったのに。」
「なんだ、悪役になりたかったのか?」
「そういうわけじゃないわ。ヒロインに立ちはだかる攻略相手の婚約者ってテンプレじゃない。改心した、悪役令嬢が皆から愛されるって流れじゃないの?」
「あいにくそれは定番の流れだからな。それに、名もなきモブ令嬢の方が未知数でおもしろいだろ。」
向かった先は自室だった。
ふかふかのソファに下され、その向かいに彼が座る。
「面白いって…。こんな私じゃ顔面偏差値の高い乙女ゲームの世界で無双するなんてほとんど不可能なんじゃ…。もしかして、私を助けるために来てくれたの⁈」
「いや、違うけど。」
淡い期待をきっぱりと否定されてしまう。
「神はこのゲームに手出しできない。もちろんお前に指示を出して動かすことも禁止だ。それを破ると俺たちは消える決まりになってるから。」
「消えるってどういうこと?」
「そのままの意味さ、無に還る。このゲームは初めからセーブもロードもできない、お前の人生の可能性に賭けたものだ。何を選び、どうあるかはお前次第。」
彼はテーブルに置いていたお菓子を部屋の主人かのように食べ始めた。
(なんなのそれ。つまり人任せってこと?この人願いを叶えるためにこのゲームしてるんだよね。)
「もちろんだ。そのためにはお前に勝ってもらわなきゃ困るからな。」
(声に出してないのに!心を読まれた?)
「神だからな。それくらいできる。そうだな…独り言だけど、もし俺が無双するとしたら、出会いは早ければ早い方がいい。その方がまわりに目が向かないからな。出会いを演出できるのはモブ令嬢の特権だな。」
にやりと楽しそうに笑う。本当にゲームの行く末を楽しんでいるようだ。
「…出会い、か。」
攻略対象はこの国の第一王子、第一王子の近衛騎士、宰相の子息、公爵家の子息だ。
5歳の伯爵令嬢が「会いたいです」と言って簡単に会えるような相手ではない。
……そう思っていた。
「アイリスちゃん、今度コールマン公爵家にお茶会に行くことになっちゃったよ。」
「え‼︎‼︎」
しょんぼりとしたお父様から告げられたのは紛れもなく出会いイベントであった。
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