テンプレどおりに
身体がふわふわと浮いている感覚だ。前後左右の感覚もない。
(あれ、私どうしたんだっけ?)
ぼんやりした頭で考え始める。
(たしか神社にお参りをして・・・それから会社に・・・。
・・・会社?)
「そうだ会社‼︎遅刻じゃん‼︎」
ガバッと焦って起き上がる。急いであたりを見回すとそこは不思議な空間だった。寝起きには眩しいくらいに一面真っ白な空間に机と椅子だけが置かれている。
「・・・え、ここどこ?」
「ようやく起きたか。」
見知らぬ場所に呆然としていると後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはこれまた寝起きには眩しいくらいの金髪美青年がいた。
羨ましいくらいに美しい金髪に緑の瞳、両耳には緑の宝石のイヤリングをつけている。
青年ははすたすたと唯の横を通り過ぎて不自然に置かれている椅子に座ると
「そんなとこに座ってないでこっちに座れ。」
と青年とは反対側の椅子に座るように促される。
(知らない場所に金髪美青年・・・余計わからなくなったな・・・。)
衝撃を受けながらも起き上がり青年と向かい合うように椅子に腰掛ける。
「俺の名前は光だ。単刀直入に言うとな、お前交通事故にあって死んだんだよ。」
「はい?」
(今この人なんて言った?)
「小学生を助けようとして道路に飛び出しただろ。覚えてないか?」
(そういえば・・・。)
思い出そうと思考を巡らせる。
(たしか会社に行く前に参拝に行ったはずだ。そのあと信号待ちをしていたら小学生が道路へ飛び出して・・・。)
「痛っ!」
記憶を辿ろうとするとズキっと頭が痛んだ。
「無理もない。お前は死んでから時間が経ちすぎた。
記憶を保っていられるのも不思議なくらいだ。」
ズズっとどこから持ってきたのか1人だけ紅茶をすすっている。
「時間が経ち過ぎたってあれからどれくらい経ったの?」
「人間の時間感覚で言うと5年だ。」
「5年も・・・。そういえばお母さんはどうしてるの?あの事故に遭いそうになってた男の子は⁈」
前のめりになって問うと彼はパチンっと指を鳴らした。すると私の目の前にも紅茶の入ったカップが現れる。
「まぁこれでも飲んで少し落ち着け。」
しぶしぶ空中にふよふよと浮いているカップを手に取りあやしく思いながらも少し飲んでみる。
「おいしい。」
「お前の母親は元気だよ。お前が死んだ後はしばらく憔悴してたけど今は少しずつ前に進もうとしてる。あとお前が助けた小学生もな。あいつはお前が事故にあった場所で毎年献花してるよ。」
「そう、なの。」
もう一口紅茶を口に含むと椅子の背もたれに寄りかかりため息をつく。
「そうか、私死んだのね。」
「やけに物分かりがいいな。」
「だってこの場所自体異様だし、あなたも人間じゃないみたい。異世界転生の定番だったら神様が異世界に転生させてあげるって言う場面じゃない?」
「当たりだ。感がいいな。」
冗談めかして言うと彼はこともなげに言う。
「まさか、冗談でしょ?ほんとにこんなことってあるものなの?」
「俺は至って真剣だ。ちなみに今回みたいに死んだ後に記憶を保ったまま転生させるケースはほとんどない。今回は特例だ。」
気持ちを落ち着かせるためにまた一口紅茶をすする。
「転生させてやるよ。そのかわりお前には乙女ゲームの世界に転生して無双してもらう。」
彼はいたずらっぽくにやりと笑う。
「ごほっごぼっ‼︎」
飲みかけた紅茶が気管に入り思いっきりむせる。
「俺はこれから神々のゲームに挑戦するところなんだよ。で、その舞台が乙女ゲームの世界ってこと。俺たちはそのゲームに直接干渉することは許されてない。だからそれぞれが選んだ駒を使うんだ。それがお前ってこと。」
「色々わかんないんだけど、とりあえず神様って乙女ゲーム知ってるの⁈」
「そりゃ知ってるだろ神々の間でも最近流行りの娯楽だぞ。」
(神様って乙女ゲームするんだ・・・ってそれもそうだけど大事なこと聞いてない!)
「なんで私が選ばれたの?死んでから時間も立ちすぎてるんだよね?」
「お前、特別になりたいんだろ?」
「なんで知ってるの?」
昔から神社でお参りするたびにしていた願い事だ。
さすがに声に出してお願いしたことはない。
「そりゃ知ってるに決まってるだろ。お前参拝する度にいつもそれを願うし。」
「あなた、まさかあの神社の神様なの?」
転生させられるほどの力のある神なのだろうと思っていたけどまさかいつもお参りする神社の神様だったとは。
「記憶を保ったまま乙女ゲームの世界に転生するなんて特別だろ?・・・っとそろそろ時間がないな。ここは時間の流れは人間界と比べて遅すぎる。」
「え?」
彼はそういうと椅子から立ち上がる。つられて立ち上がると彼はまたパチンっと指を鳴らした。
途端に身体が光り、指先から透けていく。
「ちょっと待って‼︎このあとのことを教えてよ!私はどんな人になるの?登場人物は誰なの?」
「ああっと大事なことだったな。お前の設定はえーっと・・・まぁ適当に考えとく。主要な登場人物は会えばわかる。あとはこれをお前に渡しておく。」
そういうと彼は自分の耳につけていたイヤリングを私の右耳へつける。
「これは餞別だ。気楽に楽しんでこい。」
彼はからりと笑う。それを最後に視界が白く染まった。
「挨拶は済んだかの?」
「あぁ。おかげさまでな。」
1人残された背中に声がかかる。振り返るとそこには白髪の好々爺が杖をついて立っている。だか光はこの老人が見た目通りの人物ではないことを昔から知っている。
「では誓約通りに始めようか。我々神は彼らの世界に直接干渉しないこと。負けた場合はわかってるだろうな。」
「もちろんわかっているさ。だけど俺が勝ったら俺の願いを叶えてもらう。俺の願いは・・・。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。