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命がけの散歩

最近何かと上手くいかないことが多いように感じる。

パチンコに行けば負けるし、行きつけの店は潰れるし、彼女も一向にできない。

そんなことを言っても仕方がないか。

気付いたら日も暮れてから随分と時間が経っててしまっている。

荷台を傾け、運んできたコークスが落ちるのを待っている間、睡魔に襲われる。

これはまずい、どこかで休憩を取るべきだろうか。

明日は折角の休みだ、最近のついてない気分も変えたいし家に帰ってゆっくり休みたい所だ。

ダンプカーのドライバーの男は自らの頬を叩いて気合いを入れ直した。


学生時代から付き合ってきた彼女と最近上手くいっていない。

就職してから生活のリズムが合わなくなったこともあり、会う頻度がかなり減った。

勿論休みを合わせてデートの予定を立てたりなるべく二人の時間を作るようにはしているが、社会人になって早5年、彼女の気持ちも冷めてきてしまっているのをなんとなく感じる。

そして今晩彼女からメッセージが届いた。

会う時間を作って欲しいと。

終わりの予感がした。


馴染みのレストランでディナーを一緒に食べている間も彼女は心ここに在らずというように見える。

お互いのこれといったこともない近況を報告し合い、店を出る時彼女が、少し散歩しない、と言った。


お互いに無言で夜の街を歩く。

彼女が進む方向に着いていくだけだが、段々と目的地の見当がついてきた。

黙々と進み、歩道橋の階段を上る彼女。

そして立ち止まりこちらを見つめる。

ああ、ここは。

俺たちが初めてキスをした場所だ。

しばらくただ見つめ合い、どちらからともなく口を開こうとしたその時、


突然の轟音と共に歩道橋が崩れ落ちた。

宙に放り出される彼女。

無我夢中で手を伸ばし何とか腕を掴む。

何が起こっているんだ。


橋桁の殆どが壊され、下の道路に散らばっている。

近くに荷台を上げたままのダンプが止まっている。

荷台を上げたまま走行して歩道橋にぶつけてしまったようだ。

中から運転手が出てきて項垂れている。警察に事情聴取され、解放された頃にはもう深夜3時を過ぎていた。

流石に彼女の顔にも疲れが滲んでいる。

「送っていくよ」

「部屋に行ってもいい?

あんなことがあった後だし一人でいたくないかも」

「あぁ。」

予想外の答えに少し狼狽える。

「あぁ。勿論。」

俺たちの散歩は案外まだ続くのかもしれない。

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