警備員と有名人
え?人が足りない?
で、俺が出ろ?
嘘でしょ?俺、その日ワクチン打ちに行くって言ってましたよね?
ほら、シフトだって、ワクチン打つ日と次の日休みにしてある・・・
あぁ、はい。わかりました。
仕方ないッスね。キャンセルしますわ。
・・・というのが、一昨日の話。
せっかく取ったワクチンの予約も、仕事のせいでパー。
しかも、これで2回目だ。
他の奴らはみんな2回打ち終わってるのに、俺だけまだゼロ。
もう、どこも大規模接種を終わりにしてきていて、今後予約が取れるかどうかも分からなくなってる。
マジか?
ひょっとしたら、俺、ワクチン打たないで年越すかも・・・?
庶民はこうして会社に振り回されてワクチンを打つことができないでいる一方、某人気女優は感染しても病院のベッドが優先的に用意されて、手厚く看護されたとか言ってたな。
なんだ、この不公平感!
有名人はそんなに偉いのか?
・・・ということで、今回は俺が警備の仕事で出会った有名人について話そうと思う。
とはいえ、警備の職務上、情報はかなりぼかしたものになるかもだが、俺もクビになりたくないのでそこはご承知置きを。
今のデパートでも、これまでの派遣先でも、年イチくらいはそれなりに有名な人を目にすることがあった。
かつてアイドルバンドのボーカルだった、息子がアナウンサーの歌手とか、2時間ドラマの主役を任されるような女優さん、印籠をかざす側もかざしてもらう側も演じた大物俳優なんかが、俺の目の前を通りすぎていったよ。
とりわけ印象に残っている人をいくつか話すと、まずは若手の女優さんかな。
当時、センセーショナルな発言でバッシングを受けていた頃だ。
ドイツの有名な車のツーシーターをひとりで乗ってきて、パーキングをご利用に。
サングラスで表情までは分からなかったが、小さい顔と細身の体つきはさすが女優さんって感じだった。
でも、当時のキャラ設定だったからか、終始ムッとしている感じで、愛想なんて皆無だったな。
今にも「別に・・・」って言いそうだったよ。
ふたりめは大物政治家。
確か、総理大臣の経験もあったような・・・
割とスポーツに造詣の深い人、だな。
失言で何回も迷惑をかけているお騒がせな面もある人。
ビルにある和食屋さんの常連で、いつも超高級な車で乗りつけて、警護の人が何人も周りにいたっけな。
その人が来ることがわかると、俺らもどことなくピリッとする。
何せ大物政治家さまなので、我々のようないち警備員など、風に吹かれる枯れ葉の如く、一瞬で吹き飛ばされかねないからな。
とはいえ、車での送り迎えを目の当たりにするくらいで、お侍に粗相をする町人みたいなことはございませんでした。
他にも、番組の撮影で来ていた、芸人の奥さんになった女優さんや、あの日あの時な歌でミリオンセラーとなった歌手、世界選手権のメダリストになったスプリンターなんかも見たことがあるよ。
そうした中でも、特にインパクトが強かったのは、先ほどの人とは違う政治家たち。
何せ、そのふたりが来てるって話が出回っただけで、ビルの1階が人でごった返してしまったからな。
朝イチでよく来ていた芸人さんとは雲泥の差だ。
彼が来たといっても、気づいたところで誰も寄っていったりしない。
人気商売なのに、ちょっと寂しいよな。
まあ、そのふたりは政治家の中でもとりわけ人気のある人たちだったから、さもありなんったところなんだけど。
といったところで、警備員は勤める場所によっては有名人に出くわすことがあるっていうことだ。
俺らは違うけど、警備の仕事によっては、コンサートやスポーツイベントの最前列で飛び込み防止の壁になったりすることもあるから、そうした奴らに比べたら、遭遇率は低いけどな。
さて、またワクチンの予約か・・・
今度こそ、邪魔されないようにしないとな。