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警備員ともうひとつのお客(さま)

あぁっ、畜生!


また人が辞めちまった!


確かに取り返しのきかないミスだったかもしれないけど、契約先は「今後に期待する」って感じだったぞ。


それなのに、何の努力も誠意も見せないまま、心が折れたから辞めます、だと?


今時だと、三十代でもそんなもんなのかね。


俺自身、仕事が命とか愛社精神という柄でもないけれど、お世話になっている人たちへの感謝や有り難みは忘れないようにしてる。


だからこそ、もしも期待はずれになってしまった場合は、その人たちへの恩に報いるべく、汚名を返上するまでは、かじりついてやろうという執念めいたものを持っているんだ。


個性が大事、自分らしく生きるというのは素晴らしいけど、どうしたって人は他人と関わらなきゃいけない。


だから、周りへの感謝の気持ちをないがしろにして、あまりに自分本意だと、いつか誰からも相手にされないんじゃないかと心配してしまうよ。


・・・って、いなくなってしまった奴のことをいつまでもぐちぐち言っても仕方がないので、本題に入ろう。


前回は警備員のお客さまは2種類あって、そのうちのひとつが契約先だという話をしたんだよな。


で、今回はふたつめのお客さまについてだ。


まあ、勘のいい人ならわかっただろうけど、もうひとつのお客さまは、俺らが警備している建物にやってくる大勢の人たちだ。


俺らが詰めているデパートなら、デパートにやってくるお客さまや、食材や商品を納めにくる業者なんかがそうだし、オフィスビルになれば、契約先の取引先や関連会社の人たちになるかな。


この不特定多数な人たちというのは、本当に厄介だ。


なんせ、いつも来るとは限らないから、どう対応するのがベストなのかが全くわからない。


ましてや、俺らの仕事は、「○○したい」っていう人に対して、「○○してはいけません」ということもある。


前回の枕に書いたおっさんなんかはそのいい例だ。


ルールを無視しているとはいえ、大切なお客さまですから、こちらとしては非常に丁寧に接したつもりだった。


けれど、こちらの言葉じりを捕らえてあれこれ言ってきたり、人の身分証明書はまじまじと見てくるし、挙げ句の果てには、俺が立ち去るまでジーーーーっとにらみつけてくるんだぜ。


ひょっとしたら、俺の対応にどこかまずいところがあったのかもしれないが、文句のある客は絶対そこをついてくる。


俺らの中ではあるあるの「言っていることは納得できるが、態度が気にくわない」ってやつだ。


これさぁ、ハッキリ言って、立つ瀬ないからせめて一矢報いたいっていう、つまらないプライドの表れだって思うよ。


まあ、こちらとしては、そのようにおっしゃるお客さまに対しては、「不愉快な思いをさせて申し訳ございません」って言う他にございませんが。


気分を損ねてしまうことについては申し訳ないとおもうけど、ルールはルールとしてすんなり収めて下さればいいと思うんだよな。


でもなぁ、お客さまによっては、どうにも納得できないと意固地になる人もいるんだ。


そういった奴に出くわした時は、スタッフが気の毒でならない。


店側の決められたルールは到底納得しかねる。


私は○○したいから、何とかならないのか?


でも、店のルールにそぐわないものは、当然NO!だ。


そこからまた堂々巡りの始まり。


できるだけルールに逸脱せず、お客さまが納得するいわゆる「落としどころ」を探すことになる。


それにしても、なんで客ってあんなに偉そうなんだろうね。


昔の演歌歌手が「お客さまは神様」なんて言ったもんだから、何でも言うことが許されると思うのだろうか。


まったく、嫌なことを流布したもんだぜ。


俺の中では、昔のドラマにあった「お客さまは王様」という説を推すね。


きちんと国を治めている王様は尊敬もされるし、民衆の信頼も厚い。


でも、圧政を強いたり、民に喜ばれない王様は、そのうちに駆逐される、というやつだ。


理不尽な客でも客は客、という割り切りはお店側にとってストレスしかないよ。


道端でやられたら、因縁つけられてるとか、煽り運転かまされてるとか、そういう類いのやつだからな。


人のやることなのだから、理不尽なことも出てくるし、時にはミスだってある。


そこを赦せるかどうかって、結構大切なんじゃないかな?


いい接客やいい対応をしてほしければ、よっぽどのことがない限り腹を立てず、いいお客さまでいた方が、出入り禁止になったり、嫌な思いをせずにすむんじゃないかと思う。


どうにも納得できないことがあるなら、怒らずに冷静に理由を伝えてほしいものだ。


ある心理学者の説では、まず悲しみや哀しみの感情が生まれた後に怒りの感情が生まれるという。


自分がなんで腹を立てたのかを怒号混じりに伝えるのではなく、これこれこういうことをされて嫌な気分になったから、腹を立てたのだとい言う方が、受けとる側としても真摯になれるし、怒号混じりの叱責でビクビクすることもない。


怒る奴は、普通に諭したり叱る奴らよりも損をしているから、感情的にならずに冷静に伝えた方が得るものは大きいことを知ってほしい、そう思うよ。


さて、そろそろ店が近くなってきた。


いつものあの酒から始めるとして・・・、つまみは・・・








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